黒い車は、街中を滑るように走っていく。 拓也は車間距離を空けながら、その後を追っていた。「見失うな……」 信号が赤に変わる。 前の車が止まり、拓也も少し離れた位置でブレーキを踏んだ。 もしここで見失えば、今日一日が無駄になる。 そんな焦りを抱えながらも、前の車は再び走り出した。 十分ほど走ったところで、黒い車が一棟の高級マンションへ入っていく。「ここか」 拓也はすぐには近づかず、道路脇に車を停めた。 ガラス張りのエントランス。 常駐しているらしい警備員。 一般的なマンションとは明らかに雰囲気が違う。「こんなところに住んでるのか……?」 美月が自分の稼ぎで住める場所ではない。 だとすれば、やはりあの男だ。 拓也は苛立たしげに舌打ちをした。「囲い込まれてるってことか」 しばらく様子を見ていると、車寄せに停まった黒い車から蒼真が降りた。 続いて美月も姿を現す。 蒼真はトランクから紙袋を取り出し、何事もないように美月へ渡した。 二人は短く言葉を交わし、そのまま並んでエントランスへ入っていく。 親しげではある。 だが、肩を抱くことも、手をつなぐこともない。 拓也は眉をひそめた。「……どういう関係なんだ」 恋人なのか。 それとも違うのか。 考えても答えは出ない。 だが、一つだけ分かったことがある。「居場所は押さえた」 拓也はマンションを見上げた。 高い塀も、オートロックも、警備員もある。 簡単に入れる場所ではなさそうだ。 それでも、毎日ここへ帰ってくるなら話は別だ。 いつか必ず、一人になる瞬間がある。「そのときを待てばいい
Última actualización : 2026-07-27 Leer más