「……社長?」 美月は思わず足を止めた。 管理人は一瞬だけ驚いたような顔をしたものの、すぐに表情を整える。 蒼真はいつもと変わらない穏やかな様子だった。「あの……九条さん」「はい」「社長さん、だったんですか?」 恐る恐る尋ねると、蒼真は少しだけ首を傾げる。「言っていませんでしたか」「聞いてません!」 思わず声が大きくなり、美月は慌てて口を押さえた。 蒼真は困った様子もなく、小さく頷く。「そうでしたか」(そうでしたか、じゃないよ……) だからホテルをすぐ用意できて、弁護士の先生ともすぐ話が進んで――。 今まで不思議だったことが、一気につながっていく。「ご案内いたします」 管理人に促され、二人はエレベーターへ乗り込んだ。 最上階で扉が開く。 目の前に広がる静かな廊下を歩き、美月は周囲を見回した。「ここです」 管理人が一枚のカードキーをかざすと、重厚な扉が静かに開く。「わぁ……」 思わず声が漏れた。 広々としたリビング。 大きな窓の向こうには都心の景色が一望できる。 家具も家電もすべて揃っていて、今日からでも生活できそうだった。「すごい……」 あまりの広さに、美月は落ち着かない。「ここを、私が使うんですか?」「はい」 蒼真が短く答える。「でも……こんな立派なお部屋……」「サービスアパートメントです」 蒼真は室内へ視線を向けた。「役員や来客が利用する部屋です」「普段は空いています」 美月はほっと
Última actualización : 2026-07-25 Leer más