「……ロビーで騒いでいる?」 蒼真の言葉に、美月の顔が強張る。 受話器の向こうからは、フロントスタッフが状況を説明しているようだった。「ええ……分かりました。警備の方にお任せしてください」 短く応じ、蒼真は電話を切る。「美月さん」 落ち着いた声が部屋に響く。「フロントで大声を出しているそうです」 美月は思わず立ち上がった。「やっぱり、拓也さん……」「その可能性が高いでしょう」 蒼真は否定も断定もしなかった。「警備が対応していますので、お部屋から出ないでください」「でも……」 店長の店でも迷惑を掛けた。 今度はホテルまで。 自分が出て行けば、騒ぎは収まるのではないか。 そんな考えが頭をよぎる。 すると蒼真が静かに言った。「美月さん」 その声に、美月は足を止める。「会いたくないと、おっしゃいましたよね」「……はい」「でしたら、そのお気持ちを変える必要はありません」 美月はぎゅっと拳を握った。 怖い。 今、拓也と顔を合わせたら、何を言われるか分からない。「すみません……」「謝ることではありません」 蒼真は短く答えた。 その時だった。 廊下の向こうから、エレベーターが到着する音が聞こえた。 続いて、数人が足早に歩く気配。 部屋の前で立ち止まることはなく、そのまま通り過ぎていく。 警備員だろうか。 美月は無意識に息を潜めた。 数分後。 再び部屋の電話が鳴る。 蒼真が受話器を取る。「はい」 相手の話を聞き、静かにうなずいた。「ありがとうございます」 電話を切る。「ロビーからは退出したそうです」 美月は安堵の息をついた。「帰ったんですか……?」「正確には、警備員にホテルの外までお帰りいただいたそうです」 それなら大丈夫。 そう思った矢先、蒼真は続けた。「ただ……」 その一言で、美月の心臓がまた大きく鳴る。「ホテルの前から動こうとしないそうです」「え……?」「正面玄関の向かい側で、こちらを見ていると」 美月の背筋に冷たいものが走る。 思わずカーテンへ目を向ける。「見ないでください」 蒼真が穏やかに制した。「ここから確認する必要はありません」 美月は伸ばしかけた手を止めた。 どうして。 どうして、このホテルが分かったの。 誰にも話していない。 店長にも住所は
Última actualización : 2026-07-20 Leer más