その日の晩。司祭館を抜け出したアーサーは、昼間のトーマスとのやり取りをウルフに報告した。話を聞き終えたウルフは、みるみるうちに顔を紅潮させ、怒りに任せて声を荒げた。「ふざけるな! 勝手に俺を教会の『慈善の庇護下』に入れるんじゃない! 償いだと? 俺は貴様の教会に施しを受ける筋合いも、頭を下げるいわれもない!」 普段無口なウルフが、怒りのあまり尾を踏まれた狼のように声を上げ、その怒気が夜の森をざわつかせる。アーサーは子犬のように肩を落とすが、それでも目を逸らさなかった。「俺は誰の飼い犬でもないのに、貴様は俺の行動に『教会の公的な必要性』という鎖を掛けた。……おかげで、あの代官の監視を正面から受けることになったんだぞ。これで俺の居場所は、かえって危うくなったんだぞ!」 これまで距離を測られるに過ぎなかったウルフの存在は、アーサーの一言によって、公然と監視の対象へと引き上げられた。静かに暮らしたいという望みからは、最も遠い位置に追いやられたに等しい。「ごめんよウルフ。君が憤るのも当然だと思う。僕も本当は君の自由を勝手に縛るような言葉を使いたくはなかった。でも、あの場は仕方なかったんだ」 アーサーは一度息を整え、言葉を選びながら続ける。「代官殿は、君を『領民の恐怖の源』として攻撃し、そこから僕を追い詰めようとした。だから僕は逆に、『君は教会の慈善の対象であって、私情ではない』と位置付けた。あれが唯一の論理的な盾だったんだ。……君とルーシーを守るためには」 ウルフはすぐには返さず、低く息を吐いた。怒りは消えていないが、ぶつける先を見失ったように背を向ける。 アーサーはその前に回り込み、真っすぐ目を見て言った。「その代わり、犬の件では譲歩を引き出せた。これは時間稼ぎだ。僕たちには、まだやるべきことがあるはずだろ」 胡坐をかくウルフの膝に置かれた大きな手に、アーサーはそっと自分の手を重ねる。「今のうちに体調不良の本当の原因を突き止めよう。流浪人の呪いでも、バートンの警備犬でもないと証明できれば、君への干渉の口実は消える」 ウルフは一瞬その手を見下ろし、わずかに眉をひそめた
Last Updated : 2026-08-10 Read more