アーサーがトーマスと向かい合っている頃、代官邸を少し離れた物陰から、その様子を見つめている二つの視線があった。ウルフとアリスだ。 二人の目的はひとつ。 アーサー、ウルフ、アリス、ルーシー。四人の命運をかけて、トーマスとの交渉に使う不正の証拠となる帳簿を、屋敷の中から盗み出すことだった。 はじめに二人は、屋敷の表側から警備の状況を確認した。 正面入口のあたりには、アーサーの馬車を迎えるためか、召使いや下男が複数立っている。門の前では人が出入りし、普段よりも落ち着かない空気が漂っていた。 それを見て、アリスは眉間にしわを寄せた。「案の定、人がいっぱいいるわね」 きっとトーマスは、ミルナー家の署名やアーサーとの対話に横槍が入らないよう、警戒しているのだろう。「こりゃ、お前の親父さんもたまらないな……署名しないならしないで、すぐにでもお前んちを改めて、粉挽きが不埒なことを考えていたとか言う気でいたんだろうよ」「そんなことになったら、私たちはこの村で生きていけないわ。粉挽きをよく思ってない人は少なくないもの……こっち来て」 アリスは小声でそう言うと、ウルフを促し、正面入口から外れた塀沿いへ回った。 そこは屋敷の通用口へ続く道だった。普段なら、下働きや出入りの者が使う場所である。正面から入るよりは、まだ人目を避けられるはずだった。 だが、ウルフはすぐに足を止める。 そして塀の先、通用口のあたり、屋敷の窓へと順に視線を走らせ、低く言った。「駄目だ。ここも人の目が切れない」「でも、正面よりはましでしょ」 一見ひと気の少ないその場所を前に首を横に振るウルフに、アリスはむっとした。「そんなの、人払いしてるからに決まってる。その代わり、見えないところに監視が隠れているんだ。そんな場所を安易にうろつくのは命取りだろ。仮に中に入れても、こんな高い塀じゃ戻る時に逃げ道が悪い。俺一人ならまだしも、お前連れじゃな」「じゃあ、どうするの?」「こっちだ」 言うが早いか、ウルフは屋敷から離れてずれた方面へ歩き出した。「え、どこへ行くの、ウルフ……待って!」 慌てて追いかけるアリスを連れ、ウルフはウィンドル川沿いの茂みへ向かう。 その光景を見て、アリスはすぐに察した。 川の方から屋敷の裏手に忍び込む気なのだと。 途端に、アリスの顔が露骨に曇る。 彼女
Last Updated : 2026-08-23 Read more