All Chapters of 非モテ大賢者は美少女になりたかった ~わたぐるみに転生した結果、美少女にこねくり回される日々がはじまりました~: Chapter 1 - Chapter 10

71 Chapters

第1話 大賢者、死す

 渾身の封印術式が邪神のおぞましい巨体に無数の魔法陣を刻む。 魂からごっそりと魔力が抜けていき、経絡の末端から細胞が死んでいく。「上手く、いったか……」 肺からせり上がった血を吐いて、その場に膝をつく。 幸い、術式は無事成ったようだ。 顕現しかけていた邪神の姿が徐々に消えていくのが朦朧とする視界に映る。 薄れかける意識に、これまでの冒険と仲間たちの思い出がよぎる。 へっ、走馬灯ってやつか。本当にあるんだな……。 勇者のヒロト。 笑うと白い歯がキラッと光る暑苦しいイケメンだった。暑苦しい正義漢で、事あるごとに正義がなんだと叫ぶ暑苦しい男だった。女にモテるのに、モテていることに気がつかない鈍感で暑苦しいやつだった。正直イラッとした。 戦士のイエロー。 カレーが好きなやつだった。カレーを食べている姿しか思い出せない。つか、あいつカレー食べる以外に何かしてたっけ? だが女には「かわいい~」とか言われてモテていた。照れながらカレーを食べるあいつには正直イラッとした。 錬金術師のミスト。 何を考えているのかよくわからないやつだった。何に使うのかよくわからないものをたくさん集めていた。一回、やつの部屋に勝手に入ったら、床いっぱいに見たことがない生き物の骨が転がっていて怖かった。それでも俺よりモテた。女なんかに興味がないぜって態度があからさまで正直イラッとした。 ……クソみたいな仲間ばっかりだったぜ。 だが、不思議とあいつらとの冒険は楽しかった。 死を目の前にした今でも、後悔はない……ない……ないよな? ないよね? どうなの自分?「って、あるわボケぇっ!」 俺は肺に残った最後の空気を吐き出した。 いったい何年だよ!? 野郎ばかりの4人パーティで旅をして! 暑苦しいんだよバーカ! もっとこうさあ、女の子だらけのパーティでわいわいきゃっきゃと旅をする展開とかなかったの!? いやねぇわ。 考えてみたら、俺って女の子とまともに話せないわ。 俺って非モテだもん。女の子と話すとキョドるもん。反射的に丁寧語になっちゃうもん。 女の子だらけのパーティとか、たぶん緊張からのストレスで禿げ散らかして死ぬ。 セミみたいに1週間でこてっと死ぬ。 その未来が確実にわかる。 いや、もう未来とかないん
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第2話 大賢者、わたぐるみになる

「メリス! メリス! 目を覚ましたのね!」「おお、神よ。我が娘の命を救っていただき感謝します……」 目を覚ますと、知らないおばさんとおじさんの顔がどアップだった。 身体が重い。目玉だけをギョロギョロと動かして状況を確認する。 板張りの壁に天井。寝かされているのは藁敷きのベッドか。 どうやらどこかの農家の一室らしい。 邪神封印で力を使い果たしたと思ったが、どうにか一命をとりとめて最寄りの村に担ぎ込まれたといったところか。 なんか、意識を失う間際に恥ずかしい妄想をしてしまった気がするが、誰にもバレないことだし忘れよう。 とりあえず、看病してくれているらしいおじさんおばさんにお礼を言わなければ。「命を助けていただいたこと、感謝いたします。この礼は必ず。私の仲間も近くにいたと思うのですが、彼らも無事でしょうか?」「な、何を言っているの、メリス?」「3日も意識がなかったんだ。混乱しているんだろう。あまり急かしてはいけないよ」「そ、そうよね。メリス、おなかが空いているでしょう? おかゆを作ってあげるからね」「急に食べると胃が驚いてしまう。水で薄く伸ばすんだよ」「ええ、わかっているわ」 なんだこのやり取りは? 知らないおばさんが部屋から出ていった。 知らないおじさんと二人きりになる。 気まずい。何を話したらいいんだ?「いいかい、メリス。自分の名前が言えるかい?」「申し遅れました、私はセージと申します。僭越ながら《大賢者》の二つ名で通っております」「ああ……メリス……」 知らないおじさんが顔を覆って泣きはじめた。 なにこれ? どういう状況なの? 俺が悪いの?「さあ、メリス。おかゆを持ってきたわよ。お塩もたくさん使ったからね、ごちそうよ」「ありがとうございます。頂戴します」 知らないおばさんが食器を持って戻ってきた。 薄く、糊のような麦粥だ。 塩をたくさん振ったと言うから塩辛いんじゃないかと思ったのだが、かなりの薄味だった。 病人に気遣った、というだけではないだろう。 塩も満足に使えない貧しい家庭なのだ。 おそらく、この家でできる精一杯のもてなしをしてくれているのだ。 俺は黙って温かい麦粥をすする。 ……んんー? おかゆをすくう木さじがですね、いや、木さじを持つ手がで
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第3話 大賢者、美少女を救う

 ヒツジのわたぐるみに憑依した俺は、棚からひょいっと飛び降りて少女の脇に座る。 そして「うむむむむっ」と魂に力を込めて回復魔法を発動する。 魂の安定はできたので、あとは体力を回復させれば快方に向かうはずだ。 体内に魔力を通しながら、様子を探る。 あー、根本的に栄養が足りてないな。 こればっかりは魔法じゃなんともならない。 あとでおばさんにもっと濃い麦粥を作ってもらおう。 砂糖があれば甘い物でも食べさせてあげたいが……そんなものが買えそうな雰囲気じゃないか。 麦芽糖くらいなら作ってるかな? まあ、聞いてみなきゃわからんし、なければ作ればいいな。 そんなことを考えながら、両手から光を発してぽわわわ~んと回復魔法をかけていると、背後でがたんと物音がした。「ま、魔物め! 私の娘に何をしている!! 離れろっ!」「魔物だとッ!? どこにいる!」「とぼけるな! 貴様のことだ!」 回復魔法を中断し、ばっと周辺を警戒した俺に、おじさんが指を突きつけている。「俺が、魔物?」「魔物以外の何だというんだ! 娘が大切にしていた人形に取り憑いていたとは……なんという邪悪!」「あれ、お父さん、何してるの……?」「おお、メリス! 正気を取り戻したんだな! その魔物からすぐに離れなさい!」「ふええ……まだ眠いよう……」 少女は俺の身体をガシッと掴むと、ぎゅっと抱きしめて再び眠りについた。 けっこう図太いな、この子。 それはそうとしてアレだ、誤解を解かなければ。「ええと、ぐえっ、お父さんですか? ぐえっ。私の名は大賢者セージ。先ほどは何かの手違いでこの少女の身体に迷い込んでしまったようなのですが、ぐえっ。娘さんの病気はほぼ治りましたよ、ぐえっ」 少女に時折締め付けられながら、俺は懸命におじさんへ事情を説明した。 * * *「なるほど……いまだに信じがたいですが、あなたが伝説の大賢者セージ様なのですか」「そのようにおだてられると面映ゆいですが、おっしゃるとおりですね」「でもあなた、大賢者様が亡くなられたのはもう百年は昔のことでしょう?」「ええっ!?」 なんとかかんとか誤解を解いた俺は、居間でおじさん、おばさんと話をしていた。 なお、椅子ではなくテーブルの上に直置きだ。 行儀が悪いが、膝ほどの高さもないこの身体では、椅子に座るとテーブルに完
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第4話 大賢者、魔物を狩る

 俺の見立て通り、メリスちゃんは順調に元気になってきた。 しかし、栄養が足りない。 麦粥だけでなく、もっと滋養があるものを食べさせてやりたいのだが……。「申し訳ありません、大賢者様。じつは数ヶ月前から羊をさらうドラゴンが現れるようになり、街とのやり取りが滞っているのです」 と、おじさんが事情を話してくれた。 ちなみにおじさんはこの辺の農家をまとめる顔役で、教会の神官も兼ねているそうだ。 どうりでただの農夫にしては学がありそうだと思った。「このあたりにドラゴンが? 被害はどの程度ですか?」「月に2頭か3頭、羊がさらわれます。それよりも厄介なのは行商人の荷馬車を襲うことです。そのせいで、行商人たちがめったに寄り付かなくなってしまい……」 田舎の村にとって、行商人の存在は生命線だ。 行商人が来なくては、村では作れない塩などの調味料や、布や鉄製品などの生活必需品を手に入れる手段がなくなってしまう。 街に買い出しに行こうにも、魔物が出るのではいちいち危険を伴うことになる。「直近で羊がさらわれたのはいつですか?」「2週間ほど前になります」 ほう、それならぼちぼちまた現れる頃か。 俺は村人たちが羊を放している牧草地でドラゴンとやらを待ち伏せることにした。 * * *「ヒツジさーん、花かんむりできたよー」「ありがとうぐえー」 俺が出かけると、メリスちゃんまで着いてきてしまった。 まあ、危ないことにはならないだろうからかまわないのだが……俺で遊ぶのはちょっと困る……困る? 俺は困っているのか? 十歳くらいの女児に草で編んだかんむりをかぶされたり、ぎゅっとされたり、腕をつかんでブンブンされたり、高い高いの勢いでそのまま空高くぶん投げられることに対して本当に困っているのか? なんならちょっと楽しいまである。楽しんでしまっている自分が怖くもある。父親になったような気分でもあり、姉か妹ができたような気分でもある。なんだろう、開けてはいけない扉の手前にいるようなスリリングな心持ちだぜ!「ヒツジさん、なにか飛んでるよー?」 俺が複雑な心境を早口で脳内実況していると、いつの間にか遠くの空にでっかい何かが飛んでいた、 魔力で視力を強化し、その何かの正体を探る。 ざっくり全体の形を言えば、馬鹿でかいトカゲ。 前肢が皮翼となっており、尻尾の先にはナイフ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第5話 大賢者、魔法の講義をする

 ワイバーン退治からしばらくが経った。 よく晴れた日の草原で、俺は切り株に立ってメリスちゃんに魔法の講義をしている。「えー、魔法を生み出す源である魔力には三位一体説と言うものがあって、血肉、経絡、魂の3つが相互作用して魔力を循環させており――」「ソウゴサヨウってなあに?」「ええと、お互いに関係し合うってことだね」「ケイラクってなあに?」「うん、それはこれから説明するね。血管みたいに全身に通っている魔力の通り道で、仮説上の存在なんだけれどもこれがあると考えた方が理論上は――」「カセツってなあに?」「ええと、仮に正しいと決めた理論のこと、かな」「リロンってなあに?」「理論っていうのはね……理論っていうのはね……えっ、待って? 理論って何? 何かの現象を筋道立てて説明できるように組み立てられた理論のこと……いや違う。理論被ってるじゃん。循環論法じゃん。理論とは理論ですって言ってるようなものじゃん。理論、理論とは何なんだ……」 俺が思考の迷路にハマっていると、おばさんの声が聞こえてくる。「メリスー! おやつ出来たわよー」「わーい!」 おばさんに呼ばれ、家に向かって走っていくメリスちゃんの後ろ姿を俺は呆然と眺めていた。 ワイバーンの討伐を見たメリスちゃんが自分も魔法ができるようになりたいと言い出したので、俺が教えてあげることにしたのだが……あの、子どもに物を教えるの、難しすぎませんかね? 自分が魔法を教わったときのことを思い出そうとするが、「魔力を感じろ」「魂をさらけ出せ」「意思を世界に押し付けるんだ」みたいな精神論しか言われなかったからなあ。 よくあんな師匠のもとで大賢者になれたよ、俺。俺、すごい。俺、天才。そうか、天才だから人に教えるのがちょっと苦手なんだな。凡人の気持ちがちょっとわからないところがあるからな……。はは、うんうん、逆にさすがだ俺。 ひとしきり自分をなぐさめてから、今後の指導方針について考える。 メリスちゃんはなんというかアホの子……じゃなかった、生徒をそんな風に言うのはよくない。うん、そうだ、彼女はとても純真無垢で素直だ。天真爛漫なのだ。小難しい理屈を先に教えるよりも、実践を優先した方がよいのかもしれない。 奇しくもあの脳筋師匠と同じやり方になってしまうのが腹立たしい
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第6話 大賢者、使命に目覚める

 これまででわかったことがある。 メリスの年齢は10歳。 貴族であれば、王都の学校に入っていてもおかしくない年齢だ。 そして、これぐらいの年頃の女の子を、幼女と分類すべきなのか少女と定義するべきなのか、俺はそんな物差しを持っていない……。 って、そういう話じゃないんんだよ。 メリスちゃん、とんでもなく魔法の才能があるっぽいんだけど? 回復してきたからわかったが、この子は魂の器がとにかくデカい。 出力される魔力の量が桁違いだ。 それが未発達の細い経絡を巡っていたせいで概念上の魔石を作って流れを阻害してしまっていたらしい。メリスが死にかけた病気の原因だ。 魔力をドバーっと流してその魔石が流れたおかげで、魂の輪郭がはっきり見えてきた。 魔力は血肉から生み出され、経絡をめぐり、魂に貯められる。 幼い身体では魔力の生成量がわずかであるから、経絡は発達しない。 そのせいで、魂の器に大量の魔力が溜まってしまうと吐き出す量が足りなくなるのだ。 魔力が逆流したりなんだりかんだりして、さまざまな不調を引き起こす。 代謝できない魔力は意識して体外に出さなければならないのだが、それができないまま溜め込んでしまっていたというわけだ。 うむう、メリスちゃんに魔法を教えるの、もはやマストじゃん、これ。 最初は「魔法使いに憧れちゃったか、かわいいなあ。うふふ、初歩的な魔法くらいは教えてあげようかな。がんばれば誰でもおぼえられるし」くらいの気持ちだったが、そういう問題ではなくなっている。自分の意志で適切に体外へ魔力を吐き出せるようにならないと、破裂して死んでしまうのが明白なのだ。 ああー……ここまで考えて、あの神様ボイスが俺の魂をメリスちゃんの身体に移植した理由が理解できた気がした。 放っておいたら破裂する魂の器の出力弁として、俺を利用しようってわけか。 この推測が正しいかどうかは知らない。 利用されているかどうかもわからない。 ま、でもさ。 目の前で美少女が死の運命を辿ろうってのを無視はできねえよ。 美幼女かもしんないけど。 まあその話は一旦置いておくとして。 それにしても神様ってのはつまんねえことをしやがる。 俺を生き返す力があるんなら、回りくどい真似はやめて最初っからメリスを助けてやればいいじゃねえか。 俺は神々への復讐を誓い、どんぐりで
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第7話 大賢者、ご両親と相談する

「そうですか……メリスにそんな才能があったとは……」「メリスは大丈夫なんですか? どうしたらいいんでしょう……」 うーん、それを相談したくてぶっちゃけたんだけどなあ。 しかし、俺は人と話しているうちに考えがまとまっていくタイプの大賢者だ。 とりあえず思いつくことをべらべらしゃべってみよう。「今日明日で問題になるわけではないですが、メリスさんが成長するほどに生成される魔力量は増えていきます。なので、なるべく早いうちに魔力の上手な吐き出し方を身に着け――つまり、魔法を使えるようになる必要があります」「大賢者様が教えてくださるのではないのですか?」「そうしたいのは山々なのですが、私と彼女とでは魔法使いとしてのタイプが異なるというか……私の指導できちんと魔法が使えるようにできるのか自信がありません」「そんな……」 おじさんとおばさんが絶望的な表情になりかけたので、俺は慌てて言葉を紡いだ。「しかし、彼女に適した師も必ずどこかにいるでしょう。百年前のことですが、私も『円環の内側』と呼ばれる場所で学んだことがあります。そのような魔法使いが集まる場はないでしょうか?」「インナーサークル? そういえば、王都の大学院が昔そんな呼び名だったとか……」 んん? なんだ? 名前が変わったのか?「ええ、たしか十年ほど前に、貴族学校や神学校、冒険者学校と統合して『王立大学院』という名に変わったそうです」 冒険者学校? なんだそりゃ? まあ、当面は関係なさそうだし一旦スルーしよう。「なるほど、ならばひとまずそこを訪ねてみるのがよさそうですね。メリスさんも同じく魔法を究めようという仲間ができれば研鑽もしやすいでしょうし」「はい……いや、しかし……」「何か問題でも? 不安があるかもしれませんが、教師ならば私が見極めますので心配ありませんよ」「いえ、恥ずかしながら、学費の工面がとても……」「えっ、金取んの!?」「は?」 あ、やばいやばい、びっくりして思わず素が出てしまった。 俺はこほんと咳払いをして何事もなかったかのように続ける。「失礼。私のころは才能のあるもの、意欲のあるものが手弁当で集まるところでしたから。それで、具体的に学費とはどれくらいかかるものなのでしょうか?」「はあ、私も正確には知らないのですが……」 おじさんが言った
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第8話 大賢者、王都に向かう

 寂しそうに手を振るおじさん、おばさんに背を向けて、俺とメリスは王都へと旅立った。 おじさんもおばさんも涙ぐんでいた。 俺みたいに天涯孤独で旅暮らしが長いとピンと来ない感傷だが……考えてみれば、生まれてから片時も離れず一緒に暮らしてきたのだ。 今生の別れでなくても寂しくなるのは仕方がないことなんだろう。 そんなこんなで旅の空で過ごすこと数日。「先生ー! あそこに見たことない鳥が飛んでるよ!」 寂しそうだったご両親とは対照的に、元気いっぱいなのはメリスちゃんだ。 村から離れて遠出した経験がないので、見るもの聞くものすべてがはじめて尽くしで、俺を抱えたままキャッキャとはしゃいでいる。ぐえー。首が締まる、首が締まってるんだよメリスちゃん。「ぐえー、あの鳥はハーピーさんだねぐえー」「ハーピーさんってなあに?」「人間の女の人の、腕と足が鳥さんみたいになってる魔物だねえ」「へー。あっ、ハーピーさんこっちに飛んできてるよ!」 メリスちゃんは俺の足をむんずと掴み、ハーピーさんに向けてぶんぶん振る。 うーん、目が回る。ちょ、ちょっとメリスちゃん、落ち着こうか。 メリスちゃんは俺の頼みを聞き入れてくれた。 振り回すのをやめて肩車のポジションに変更してくれた。 あー、ほんとにこっちに来てるなあ。 ハーピーは面倒なんだよなあ。 近づいてくる前に無力化しちゃおうか。 でもなあ、魔力もったいないしなあ。 それに人型で一応人語も通じるタイプの魔物を問答無用で攻撃するのは、メリスの情操教育にもよくない気がする。 あっ、悩んでる間に目の前まで来ちゃった。 ボサボサの赤茶けた髪に血走った目。腹の下辺りから羽毛が生えていて、そのまま鳥足がつながっている。 そいつが、ばさばさとホバリングしながら叫んだ。「ゲギャギャギャギャ! タマゴ、カエセ! タマゴ、カエセ!」「タマゴ? あたし、取ってないよ」「タマゴ、カエセ! タマゴ、カエセ!」「メリス、これはハーピーの挨拶みたいなものなんだよ。とりあえず出会い頭にタマゴを返せって因縁をつける習性なんだ」 ハーピーの頬がむっと膨れた。「ちょっとー、人を場末のチンピラみたいに言わないでよ」「ほら、普通にしゃべれるだろう」「ホントだあ。ハーピーさんすごいね!」「しゃ、しゃべれるぐらい当たり前だよ!」 ハー
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第9話 大賢者、学院に侵入する

 7日間の旅を終えて、王都の大学院とやらについた。 立派な校門には全身を金属鎧で包んだ2人の衛兵が立っているが――こりゃゴーレムだな。錬金術によって創られる魔法仕掛けの人形だ。 校門を通り抜けようとすると、衛兵ゴーレムが斧槍をがしゃりと動かして行く手を塞いだ。 ふむ、なるほど、無許可での通行は禁止ってわけかい? 面倒くせえなあ……と思いながら、俺は魔力の触手を伸ばし、ゴーレムの術式ににゅるっと介入する。 なんとなく見覚えのある術式だな。これならどうとでもなるだろう。 俺はゴーレムの頭に侵入させた魔力の触手をにゅるにゅると動かして術式を改竄した。 ゴーレムがハルバードを引き、元の直立不動の姿勢に戻る。「ヒツジ先生ー、いまなにしたの?」「うーんとね、ゴーレムさんにね、私たちは友だちだよって挨拶したんだ」「そうなんだあ。じゃあ、あたしも挨拶するね!」 メリスちゃんがそれぞれのゴーレムにぺこりとお辞儀をして自己紹介をしている。かわいい。 危ないと思われるかもしれないが、俺とメリスは「オトモダチ」だと刷り込んであるので、危険なことは何もないのだ。「部外者か? 無許可での立ち入りは禁止されているぞ」 メリスちゃんに肩車されながら校庭を進んでいると、見知らぬ人に呼び止められた。 浅黒い肌に尖った耳、細身だが出ているところは出ているメリハリの効いたバディ。鼻の頭に小さな眼鏡を載せた、ダークエルフのお姉さんだった。「おお、それは失礼しました。何しろひさしぶりに来たもので最近の流儀を知らず」 俺はメリスちゃんからぴょこたんと飛び降りると、丁寧にお辞儀をした。 この身体だと視線が低いから、自然にお姉さんのスカートの中が見れそうだなとか思って降りたわけではない。そう、狙ったわけでない。これは事故だ。故意ではない。なるほど、白ですか。ありがとうございます。「小型のゴーレム? 可動機構があるようには見えないが……いや、ひとまずそれはいい。どうやって衛兵ゴーレムをごまかした? 入ってくるところを見ていたぞ」「ゴーレムさんとね、お友だちになったからだよっ」「お友だちに? どういうことだ?」 メリスの無邪気な返事に、ダークエルフお姉さんが小首をかしげる。黒い前髪がはらりと揺れた。「ヒツジ先生はね、大賢者だからなんでもできるんだよっ」「
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第10話 大賢者、スーパー幼女を自慢する

 俺たちはダークエルフのお姉さんに連れられるまま、学院内の一室に入った。 室内には薬品の臭いが充満しており、壁いっぱいに用途の分からない器具と、さまざまな生物や魔物の骨格標本が並んでいる。「私の研究室へようこそ、自称 《大賢者》さん」 お姉さんは俺たちにソファに掛けるよう促すと、自分はローテーブルを挟んで反対に座った。 ゆったりと組んだ長い脚が挑発的だ。あの太ももに載せてくれないだろうか。俺、ヒツジさんだし、ワンチャン許されそうじゃない? よし、ここからはヒツジになりきってみよう。俺はかわいいかわいいヒツジさん、もこもこかわいいヒツジさん――「さて、ここからは術者である君自身から話を聞きたいな。メリス君、と言ったかね?」「ジュツシャってなあに?」「とぼけないでもらおう。こんな精巧に動き、流暢に話すゴーレムなど見たことがない。君が魔法で操っているんだろう?」「先生ー、ヒツジ先生は、あたしが操ってるの?」「メェぇぇー」「は?」「え?」 あ、いかん。ヒツジになりきろうとして人間としての意識が飛んでいた。 俺はこほんと咳払いをして、どんぐりの蹄をかちかちと鳴らし、人間モードに返った。「誤解があるようですが、私は操り人形――パペットではありませんし、自律型ゴーレムでもありません。私自身にもわからない点が多いのですが、《神》らしきものの計らいによって百年の時を超えて現世に復活し、この人形に魂を宿したのです」 俺が話している間、お姉さんはその切れ長な瞳を細めてじっとメリスを観察している。魔法による操作を行っているか見極めるつもりなのだろう。 しかし、そんなことはしてないんだから何も読み取れるはずはない。「遠隔の術式か? 手の込んだことをする。こんなことまでして学院に入り込んで、いったい何が狙いだ?」「ははは、まるで信じていただけないのですね。まあ、仕方がありません。用件をお伝えしますと、この娘、メリスには非凡な魔法の才がありまして、導き手にふさわしい師を求めて参ったのです」「ふん、それだけ器用に人形を操れるんだ。貴様が教えればよかろうよ」「それができない事情がありまして」「その小娘に魔法の才があるというのも眉唾ものだ。貴様の言葉だけでは信じるに足りん」 あー、うーん、まあ、そうなるよなあ。 メリスちゃんは超絶かわいい美少女だが、アホの
last updateLast Updated : 2026-07-13
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