All Chapters of 非モテ大賢者は美少女になりたかった ~わたぐるみに転生した結果、美少女にこねくり回される日々がはじまりました~: Chapter 21 - Chapter 30

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第21話 大賢者、誘拐される

 俺とメリスちゃんは一体となって雪だるまを作っていた。 小さな雪玉をごろごろ、ごろごろ転がしてだんだん大きくしていく。 さらさらした粉雪だから、きれいに丸くなって気分がいいな。 べた雪だとゴツゴツした仕上がりになるんだよね。 メリスちゃんの腰のあたりまで雪玉が成長してくると、さすがに重たくなってくる。 そろそろ頭用の雪玉づくりに移ろうか?「もっとおっきくしたーい!」「そっかあ。じゃあもう少しだけがんばろっか」「……シロも、手伝う」「ありがとー!」 銀髪の少女が参戦したことで、雪玉づくりがはかどる。 メリスの胸くらいの高さになった胴体に頭部を載せたら素体の完成だ。「でも、お手々もお顔もないよ?」「……枝、拾う」「わかったー!」 銀髪の少女とともに、近くで雪をかぶっていた低木の枝を折る。 黒竜山脈ではしばしば強風が吹き荒れるため、樹木は折れないよう地を這うように成長するのだ。 雪だるまの胴体に枝の腕を差し、丸い石ころでお目々をつけたらひとまず完成だ。 さて、鼻と口がないのが少々さびしいが――「セージ、食事の準備ができたぞ。メリス君を連れて戻って……おい、その娘は何だ?」「一緒に雪だるまさんを作ったんだよっ」「見事な出来栄えだろ? あっ、そうだ。あの映魔機ってやつで撮ってくれよ」「うむ、たしかに見事だ。きれいな球形に仕上がっている。王都に降る雪ではこうはならんな。映魔機を持ってこよう……って、そうじゃない! その一緒に遊んでいる娘は誰だと聞いているんだ!」 改めて問われ、俺とメリスは首を傾げた。 きぐるみモードだから完全に一体の動きだ。心が通じ合っていることを感じるぜ。「お前は何者だ? このあたりに人族は住んでいないはずだ」「……はじめ、まして」 キョトンとしている俺とメリスを放置して、ミストが銀髪の少女を問いただしている。 そういえば、この子は誰なんだろう? 貧民窟じゃ知らないガキンチョがいつの間にか遊びに混じっているなんて普通のことだったから、まったく気にしてなかったぜ。「……シロ」「シロ? それが名前か?」 少女が細い首をこくりと曲げてうなずいた。かわいい。 メリスより、ちょっとお姉さんくらいの年頃かな。金髪のメリスと、銀髪のこの子を脳内で並べてみる。年の近い姉妹ってかんじで微笑ましいな。
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第22話 大賢者、火花を散らす

「わあー! ハーピーさんより、ずっとはやい!」 メリスと俺は白銀のドラゴンにむんずと掴まれて飛んでいた。 後方では、俺たちのキャンプがあっという間に豆粒のようになっている。 天幕からハーピーたちが飛び出して、こちらを追おうとしている様子が見て取れた。 俺は、ドラゴンに向けて話しかけた。「ちょいとちょいと、シロちゃんや」【……何?】「仲間が心配してるからさ、いったん戻ってもらってもいい?」【……嫌】「うーん、なんでかな? 別に逃げたりはしないよ、ほんとに」 そもそも、ドラゴンが本気で追ってきたら逃げ切ることなんて不可能だろう。 俺が残った魔力をぜんぶ使ってぶっ放せばワンチャンあるかもしれないが……そういうことはやめろってミストにも怒られたしなあ。それに、食事に招待されただけだ。逃げる必要がない。 やや間があって、シロちゃんが口を開いた。【……あのお姉さん、怖い】「……」 俺は返事に詰まってしまった。 そうだよなあ、ミストって怖いよなあ。俺も同意する。しかし、悪いやつではない。さっきのやり取りだって、パーティの安全のために警戒しただけなのだ。ミストに非はない。 一方で、シロちゃんの方はどうか。おそらくまだ幼く、他の種族と接した経験がほとんどないのだろう。ドラゴンが、ドラゴンというだけで畏怖される存在である自覚がない。無知は罪だと言う者もいるが、子どもにそれは当てはまらないだろう。というわけで、シロちゃんにも非はないのだ。「ミスト先生はねー、怖くないよー」【……そう、なの?】「ときどききびしいけど、やさしく魔法を教えてくれるの! きっといっしょにごはんを食べたら、たのしいよ!」【……わかった】 ナイスだ! メリスちゃん! 俺が理屈をこねくり回そうとしていたらメリスちゃんがストレートなプレゼンにより説得を成功させた。まったく、メリスちゃんは天才だぜ。 シロちゃんがくるっとUターンして、キャンプの方へ戻る。 すぐにハーピーに吊るされたミストたちと空中でかち合った。 ピュイをはじめとするハーピーたちは恐怖に顔を引きつらせており、ミストは冷や汗を流しながらワンドを構えていた。おおう、マズイ。当たり前だが一触即発だな。 というわけで、さっさとこちらから声をかける。「ミストー、俺たちドラゴンに招待されたからさー。一緒に来ないか
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第23話 大賢者、遺言をする

 おっさんがデカい鍋をふたつ、ワゴンに載せて戻ってきた。 ミストが目を丸くして固まっている。「こ、黒竜公が自ら配膳をされるのか……」「ハッハッハッ! 料理をしたのも、野菜を育てたのも吾輩なのである。今日は腕によりをかけたからな。ぜひ満足するまで味わってほしいのである!」「……父上、いつも作りすぎ。みんなで食べるの、助かる」 貴族が自分で配膳したり、料理をするなどミストの常識にはなかったのだろう。 ハーピーの面々もがちがちになって目の前に皿が置かれるのを待っている。 皿の上には高く盛られた白いごはんと茶色のスープが半々になっている。 スープには強いとろみがついており、大きく切られた具材がごろごろ入っていた。「名付けて、黒竜ダムカレーである。お代わりもあるので遠慮なく食べて欲しいのである!」 黒竜山脈にダムなんかないだろ、と内心で突っ込むが、それは野暮ってもんだろう。 たしかに、このビジュアルは大量の水をせき止めるダムのようである。「うわぁ、おいしい! こんなおいしいカレー食べたの。メリスはじめて!」「ハッハッハッ! そうであるか。そのように言われると吾輩も鼻が高いのである」「……父上、ニンジン、入ってる」「シロよ、好き嫌いは卒業するのである。もう巣立ちをしてもおかしくない年頃なのであるぞ」「……はい」 メリスが先陣を切ったことで、他のメンツもスプーンを動かしはじめた。 ミストが一口ほおばってから真剣な顔つきになる。「このスパイスの配合は……クミン、コリアンダー、ターメリックといった基本のものだけではないな。何か果実のような香りがある。クロネコ商会の直営店でも味わったことがないな……」「ハッハッハッ! ダークエルフのお嬢さんは舌が鋭いようである。左様、隠し味に陳皮――みかんの皮を干して細かくおろしたものを加えているのである」 錬金術師の習性なのか、ミストは食べたものの原材料をいちいち分析する癖がある。いつだったか、材料さえあれば一度食べたものはほとんど再現できると豪語していた。 たしかに、ミストが当番のときに作る野営メシは美味かった。「うめぇ! うめぇ! おっさん、お代わり!」「うむ、見事な食べっぷりであるな! 良い卵を生みそうなお嬢さん方なのである」「へへっ、褒めたって何も出ねえぜ」 カレーに夢中になって緊張が溶け
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第24話 大賢者、過去改変される

「黒竜公閣下、セージがシロ殿の命を救ったとは、どういうことでしょうか?」「うむ、説明するので少し待つのである」 おっさんはナプキンで口元を拭くと、席を立って食堂を出た。 そして何やら大きな箱を持って戻ってくる。 おっさんはごほんと咳払いをすると、荘厳な語り口で話しはじめた。「――いまを遡ること百と数年前。邪神復活の兆しをわずかな者だけが察知していたころ、白骨の森には邪悪なる魔導師が君臨していた……」 おっさんは箱から白骨の森の模型を取り出し、食卓の上に置く。 その森に、真っ黒なローブを身にまとい、両手をぐわっとした、いかにも魔王っぽいポーズの人形を設置する。「――かの者は不遜にも不死王を名乗り、白骨の森から湧き出るスケルトンどもを支配した。無限のスケルトンの軍勢を率い、人界を蹂躙せしめんと企んだのである」 おっさんは黒竜山脈の模型を取り出し、森の隣に置いた。 その上に、自分を模したのであろう黒い竜の人形を置く。何の見栄を張ったのか、本人よりもしゅっとした体型だ。「――その邪悪な企みを阻止せんと立ち上がったのが、かの名高き黒竜公シュバルツ・ヴラドクロウその人である。旧き盟約に従い、王国の西の安寧を保たんとしたのだ。不死王の軍勢は、お世辞にも精強とは言い難かった。吾輩のブレスによって薙ぎ払われ、打ち砕かれ、散々にされ、逃げ惑うばかりだったのである」 おーい、客観的な語り口だったのが、しれっと「吾輩」とか言っちゃってるぞー。「――しかし、奸智に長けた不死王は邪悪なる計略をもって黒竜公を罠にはめた。我が城に忍び込み、愛する末娘を人質に取ったのである! なんという卑劣! なんという悪辣! これを許せるものか! 怒り狂う黒竜公であったが、幼き娘を盾にされては手を出せぬ。歯ぎしりをして、無闇に羽ばたくばかりであった」 おっさんは箱から取り出したハリセンで食卓をばばんっと叩いた。「――そのとき、天の助けか神の計らいか、一人の少年が現れた。類まれなる長広舌で不死王に取り入ると、傷つき、囚われた幼竜をその魔法によって瞬く間に癒やし、ついでとばかりに不死王をも討ち取ってみせたのである! それは背後からの鮮やかなる奇襲! 猛毒の短剣によって不死王の心臓を背中から突き刺し、あまつさえ首をはね飛ばし、その頭を断崖から谷底へ蹴り飛ばしたっ!」 いや待てやおっさん
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第25話 錬金術師、風呂に入る

 ミストはじたばたと暴れるセージを燭台に吊るし、シロのあとについて廊下を歩いて行く。 黒竜公が突然人形劇をはじめたのには驚いたが、それ以前に想像の斜め上の事態が連続していてすっかり感覚が麻痺していた。この茶番はいつまで続くのか……と辟易していたところでの提案だったのだ。「なあ、あーしらもなんとなく流れでついてきちまったけど、オフロって何だ?」 ハーピーの総長、ピュイがミストに尋ねる。 その赤い髪はぼさぼさで、なるほど、風呂を知らないのも納得できるとミストは思った。「温かい水に浸かって、身体を洗う施設のことだな」「へえ、そんなのがあるのかよ。川で水浴びすりゃいいじゃねえか」「冷たい水ではいつまでも浸かれまい。湯であればじっくりと水浴びができる」「なるほど、そんなもんかあ」 ピュイを適当にあしらいながら進んでいくと、硫黄の臭いが漂いはじめた。 なるほど、温泉というわけか。温泉に入るのはひさびさだ。ミストの心が、少し浮き立つ。「……ここで、服、脱ぐ。向こう、お風呂場」 シロの案内に従い、ミストたちは服を脱いだ。 風呂場の前の部屋には大きな棚があり、着ていた服はそこにしまう。「……ここ、お風呂」 シロがガラス戸を引き開けると、もわっと湯気があふれてくる。 湯気の向こうには広々とした浴場があった。手前に洗い場があり、その奥にはなみなみとした湯で満たされた大きな湯船がある。数十人が一度に入れる大きさで、王都の共同浴場並みに広い。「へっへー、こいつが風呂ってやつか。一番乗りー! うぎゃっ」「湯に浸かる前に体を洗え」 湯船に向かって突進しようとするピュイの首根っこをつかんで止める。 ハーピーたちはピュイさえ抑えれば言うことを聞くから、思ったよりも扱いやすかった。少なくとも、あの自由極まりないわたぐるみよりは。「体を洗えって言われてもよう。水ん中に入らねえとはじまらねえだろうが」「……シャワー、ある」「シャワー? なんだそりゃ?」「こっちに来い。使い方を教えてやる」 洗い場に並ぶ椅子にハーピーたちを座らせ、蛇口をひねってみせる。 据付のシャワーヘッドから温かい湯が流れ出した。「おー、こりゃすげえな! 大雨みたいなのに、あったけえぞ!」「シャワー、すごーい!」「おっと、メリス君もシャワーははじめてか」 ミストは色めき立つハー
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第26話 大賢者、土下座する

 ミストたちが風呂に行っている間、俺と黒竜のおっさんはかつての決着をつけようとしていた。 一瞬たりとも気を抜くことはできない。油断をすれば一瞬で食われる。へへっ、この感覚、ひさびさにひりつくぜ……。まるで、深海で息を止め続けているような気分だ。ふふふ、俺も末期だな。魂が悦びに震えているのを感じるぜ。「……お風呂、出た」 俺とおっさんが盤面を挟んで対峙していると、シロちゃんがお風呂から上がってきた。白い肌が赤みがかってほかほかしている。花柄の寝間着を着て、頭には三角帽子が載っている。うふふ、かわいいね。「ヒツジ先生ー! シャワーすごかった!」 ああ、メリスちゃんはシャワー初体験だったんだね。王都の銭湯に行けばよかったね。そういえば、王都は特急で通過してしまってろくに観光もしていない。帰ったらあちこち見て回ろうね。 メリスちゃんの服装はシロちゃんとお揃いだ。 寝間着の柄だけが違い、ヒツジさんが並んだデザインになっている。先生をリスペクトしてくれたのかな? うふふ、かわいいね。「風呂ってのも気持ちいいもんだな。水浴びとはぜんぜんちげぇ!」「そっすね、姐御。うちらの巣にも作れねえっすかねえ」 続いて、真紅の長髪を艶やかにきらめかせる知らないお姉さんたちがやってきた。やや険のある鋭い瞳を、長いまつげが覆っている。いかにも強気そうだが、それがかえって媚びない美しさとなっていた。肌は健康的に日に焼けており、ゆったりとしたバスローブの胸元には黄金比を思わせる絶妙な谷間が、主張しすぎず、かといって遠慮しすぎず、存在感を放っていた。 俺は電光石火の速度でテーブルからぴょこたんと飛び降り、知らないお姉様方に深々と一礼した。「こ、これはこれは美しいお嬢様方。黒竜公にお仕えされている皆様でございましょうか。ゆったりとしたお召し物が大変お似合いで。私の名はセージ。恥ずかしながら《大賢者》の二つ名で通っておりまして、かつての友誼を頼り黒竜公の客人として――」「あ゛? 何言ってんだ、ヒツジ野郎」「姐御ぉ、やっぱこいつキモいっすよ」 知らないお姉さんたちからいきなり罵倒された。俺は胸がときめいた。 しかし、キモいと言われるのは本意ではない。俺はヒツジさんボディの可愛さをアピールするために、しゅばばばばっとどんぐりタップを決めた。「あー、セージ。なにやらはしゃいでい
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第27話 大賢者、ごねる

 第一回、黒竜公記念! リバーシ大会結果発表ー!!(SE:どんどんぱふぱふー)■最終順位・優勝:チーム魔土怒羅権・2位:シロ・3位:メリス・4位:ミスト・同率最下位:おっさん、俺「っしゃあ! あーしらの優勝だねっ!」「ハーピーさん、すごーい!」「……メリスも、がんばった」「ははは、なかなか白熱した戦いになったな」 待て、どうしてこうなった? どう考えてもおかしいだろ? 俺とおっさんはガチ勢だぞ……? シロちゃんは経験者だからいいとして、リバーシのルールさえ知らなかったハーピーたちが1位で、メリスちゃんが3位……? ミストはね、わかるよ。俺とおっさん以外には明らかに接待プレイしてたもん。そうだ、不正だ。これにはどう考えても不正がある。イカサマだ。勝負事への冒涜だ。そして犯人は――「犯人は、ミスト、お前だッ!」「は? 何を言っている?」「だってお前、俺とおっさん以外にはわざと負けに行ってたもん! ぜんぶ1枚差で決着とかどういう神業!? 俺とおっさんに対しては盤面真っ黒に染め上げたくせに! ぜぇーったいズルい! なんかズルした! おかしい! ありえん! 俺はこんな結果は認めない!!」「あのなあ、初めての者にはまず楽しさを伝えなければならんだろう。それに対し、熟練者に対しての手加減は失礼だ。全力で相手をするべきだろうが」「むきぃー! 正論パンチー! 言い返せないー! メェぇぇー! でもでもー、ハーピーたちが7人で1チームってのはどうなんすかね!? 卑怯! 卑怯としか言いようがない! 1対1なら絶対俺が勝ってたもんね!」「し、死ぬほどめんどくさいな……」「あー、あーしとサシでやりたいってんなら付き合うけど……」「やるぅー! フルボッコにするぅー!」「お、おう。がんばってくれな」 フルボッコにされた。 俺は心の瞳から涙を流した。「ヒツジ先生、元気だしてねー」「……リバーシで、人間の価値が、決まるわけじゃない」 幼女連からなぐさめられた。 俺は心で号泣した。「吾輩は、決めた」 俺がヒツジさんボディをじたばたさせていると、黒竜のおっさんがゆらりと立ち上がった。 その表情は真剣で、途方もない迫力がその身からにじみ出している。 部屋の気温がすっと下がり、空気が重くなったような錯覚に陥る。 濃密な空気を引
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第28話 大賢者、旅を再開する

 連日続いた吹雪がおさまった。 少々後ろ髪を引かれる気持ちはあるが、黒竜のおっさんちは完全に寄り道だ。 本来の目的地である師匠の家、虚無の谷へ向かわなければならない。 それじゃあおっさん、そしてシロちゃん、バイバイね。 また遊びに来るからねー。「うむ、皆すでに吾輩の友人である。気軽に遊びに来て欲しいのである」「閣下にそのようにおっしゃっていただけるとは光栄です。容易く訪れられる場所ではありませんが、必ずやまた」「師匠! また指導をお願いしたいのである!」「わ、わかりました。お約束しましょう」 おっさんに師匠認定されてしまったミストは手を握られてたじろいでいる。 黒竜の師匠になった人族なんて、おそらく史上初だろう。「黒いおじちゃんも元気でね! お料理、ぜんぶおいしかったー!」「ははは! メリスの食べっぷりも素晴らしかったのである。好き嫌いがないのは実に立派なのである」「えへへー、メリスはなんでも食べれるよ!」「うむ、まだまだレパートリーはあるから、また食べに来るのである」「うんっ!」 メリスとやり取りするおっさんは、完全に親戚のおじさんムーブだ。 高い高いをしてくるくるしてたりする。メリスもキャッキャッとはしゃいで楽しそうだ。「おい、まだ決着はついてねえからな。またやろうぜ!」「次は絶対姐御が勝つっすよ!」「ふふふ、まさかハーピーのお嬢さんが我が好敵手となるとは想像もしなかったのである。吾輩はいつでも受けて立つのである」「なんでえ、偉そうに。いまんとこ引き分けじゃねえか」 おっさんと、ピュイたちハーピーはミストの薫陶を受けてリバーシの腕をめきめき上げたらしい。 らしい、というのは俺はもう対戦していないからだ。負けるのが怖いとかそういうわけではない。ほら、俺って大賢者だしさ。考えてみたらパンピーと知的遊戯をするのはさすがにね、ちょっと違うよねっていう。いやー、手加減するのもたいへんだったなー。俺が本気出したらみんな引いちゃうからね。マジで。負け惜しみとかじゃないからねっ! とりあえず、リバーシのことは忘れよう。 なんかおっさんが全員とお別れイベントしてるし、俺もシロちゃんとのイベントをこなしておこう。 俺はてけてけとどんぐりの蹄を響かせながら、シロちゃんの元へ駆ける。 シロちゃーん、さびしくなるけど、泣いちゃダメだ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第29話 大賢者、身分を詐称する

 大地が、引き裂かれている。 そうとしか形容しようのない光景が眼下に広がっていた。 黒々とした黒竜山脈が唐突に終わった。 とても奥底まで見通せない深い谷が、向こうに見える黄褐色の荒野――瘴気領域とを隔てている。 降魔災害の時代に神々や悪魔の争いによって生まれた地形だと言われているが……それが本当なら、まさに人智の及ばない力を持っていたのだろう。「ヒツジ先生ー! シショーさんのおうちはどこなの?」「うーん、いまはどこだろうねえ。崖に張り付いてると思うから、メリスちゃんも一緒に探してくれるかな?」「わかったー!」 虚無の谷を緩やかに降りながら、俺たちは断崖に目を凝らす。 師匠は決まった場所に住んでいないから、虚無の谷に着いてもまた探す手間がかかるのだ。「……シロも、探してくる」「離れすぎて迷子にならないようにねぇー」【……わかった】 カゴから飛び降りたシロちゃんが、竜化して羽ばたいていく。 白銀の鱗をきらめかせながら断崖に挟まれた谷を飛んでいく姿は、ありきたりな例えだが教会の幻想画のようだった。「すでに虚無の谷を離れてしまった可能性はないのか?」「100パーないとは言い切れねえけど、まずこの辺にいると思うぜ。何百年も瘴気の研究をしてたそうだからな」「そういえば、お前の師匠も長命種なのか? 種族は何だ?」「あ、いや、人間なんだけど、うん? あれ? 人間なのか? ぎりぎり人間? 人間をやめちゃった人間みたいな?」「おい、ヒツジ野郎。あっちに何か見えっぞ」 師匠についてミストに説明しようとしていたら、頭上からピュイの声が降ってきた。 ピュイが示す方に視線を向ける。 するとそこには、断崖絶壁にへばり付く甲虫のようなものがあった。 距離と形のせいでサイズ感がバグるが、その大きさは王都の宮殿なみである。 全身が赤銅色の外皮に覆われており、数百年の時を経てきたことを伺わせる。 そのデカブツが、数十本の脚を岩にめり込ませ、角張った巨体の隙間からは明かりが漏れていた。「ああ、あれが師匠の家だな。寄せてくれ」「寄せろったってよ。どこにだ?」「角んところが玄関だからさ。あっちに向かってくれ」 甲虫の端から伸びる巨大な角を指差す。 ちょいっとした橋くらいの幅と長さがあるので、俺たちを乗せたカゴは難なくそこへ着陸できた。「……シロ、
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第30話 大賢者、師匠と再会する

「ふふふ、よく来たのう。お前たちが来ることはわかっていたのじゃ」 金属板で覆われた通路をカツンカツンと進んだ先に待っていたのは、玉座に座って足を組む女だった。 その青い髪の女は、半身が漆黒の金属鎧のようなもので覆われている。しかしそれは鎧ではなく、彼女の身体そのものなのだ。「おっす、師匠。百年とちょっとぶり。そのネタまだやってんの? 寒いからやめろって言ったじゃん」「その声とうっとうしい口調は……セージ? なんじゃお主、生きておったのか」「生きてたっていうか生き返ったっていうか転生したっていうか」「変わったこともあるんじゃのう」  俺はぴょこたんと前に進み出て、どんぐりタップを華麗に刻みながら挨拶をした。 師匠はヒツジさんボディと化した俺にまったく動じることもなく、せいぜい珍しいものを見る視線を向けてくるだけだった。「お初にお目にかかる。私はセージの旅の仲間で錬金術師のミストと申す者」「あたしはメリスだよっ!」「ん? あーしらも仁義切った方がいいのか?」「……ひさし、ぶり」 仁義は切らんでいい。ヤクザのカチコミじゃあるまいに。 シロちゃんはどうやら師匠と面識があるようだった。師匠が黒竜のおっさんのところに遊びにいったときにでも顔を合わせていたのだろう。「ひさしぶりに賑やかになるの。わしはウィズ。《黒鉄の魔女》などとも呼ばれておる。それで、わざわざこんなところまで何をしに来たのじゃ? ぶらりと立ち寄れる場所でもあるまいに」「話が早くて助かるぜ。倉庫にミスリルってあったじゃん? あれを分けてほしくって」「かまわんが、何に使うのじゃ?」「あー、えっとね……ヒツジさんボディの改造用?」 俺の余命の件はミストしか知らない。思わず言い淀んでしまったが、まあ、嘘はついてない。 師匠の反応を見てみると……あ、いかん。青い目がキラキラしてる。「ほほ、セージもついに身体改造の魅力に目覚めたか。試作パーツが山ほどあるからのう。何なら新しいものを作ってやってもよいぞ。どんな身体がよいのじゃ? 攻撃重視か? 機動力重視か? 腕はロケットパンチとパイルバンカーのどちらがいい? いや、機銃を仕込むのもロマンがあるのう……」 師匠が両手の指をわちゃわちゃさせながら、早口でまくし立ててくる。 いや、そんな物騒な改造は望んでないんだが。「
last updateLast Updated : 2026-07-13
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