All Chapters of 非モテ大賢者は美少女になりたかった ~わたぐるみに転生した結果、美少女にこねくり回される日々がはじまりました~: Chapter 51 - Chapter 60

71 Chapters

第51話 大賢者、発作を起こす

「ヒツジ先生ー、ジャーキー食べる?」「先生はだいじょうぶだよ。お腹が空いてるなら、メリスちゃんがお食べ」「……シロも、食べる」 ずっと歩いていてお腹が空いたのか、メリスちゃんとシロちゃんがポーチからジャーキーを取り出してあむあむとかじりはじめた。 探索中の栄養補給は重要だ。普通の食事以外にもちょくちょく軽食を摂って、スタミナ切れを起こさないようにしなければならない。メリスちゃんたちには積極的に間食を摂るようにあらかじめ教えていた。「そういえば、ツカサたちはメシはどうしてたんだ?」「メシ屋ならたくさんあるからなッ! そこで食ってたぜッ!」 ツカサに聞いたのに、ヒロトが要領の得ない返事をしてくる。「メシ屋なんてどこにあんだよ? だいたい、人間はいないんだろ?」「あーあ、せっかくならいきなり見せて驚かせたかったんだけどな。あっ、エレベーターに着いた。ごはん屋さんのところまで一気に移動するから、説明するより見てもらった方が早いかな」 なんとも形容しがたい配色と形状のメイドの群れはいつの間にか終わっており、目の前には金属製の引き戸らしきものがあった。 ツカサが壁のボタンを押すと、「ポーン」と軽い音がして戸が開く。中は小部屋になっていて、片面はガラス張りで外が見えた。なるほど、金属メイドたちを運んでいたチューブがこれだったんだな。「お客さん用と関係者用で分かれてるけどね。メイドを運んでたのは関係者用だよ」「扉が開いたらメイドの群れとご対面……って心配はないってことか」「そそ、そういうこと。んじゃ、ひとまず50階まで行っちゃうね」 ツカサが数字の書かれたボタンを押すと、扉がしまってすうっと身体が重くなる。 ガラス越しに外を見ると、みるみる地面が遠くなっていった。 そしてふっと身体が軽くなる感覚と共に、エレベーターが止まる。 再びポーンと音がして、扉が開いた。「ここがごはん屋さん。色んなものが食べられるよ」「これがメシ屋……?」「ひっろーい!」「……ごはんの匂い、しない」 扉の先に広がっていたのは、椅子とテーブルが見渡す限り続く空間だった。 テーブルの上にはそれぞれ四角い鏡のようなものがひとつずつ置かれており、人の気配はどこにもない。メリスちゃんは見通しのきく空間に出てテンションが上がっているが、どうもお腹が空いたらしいシロちゃんは
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第52話 大賢者、涙の味を知る

「それじゃヒロト、支払いよろしく」「おうッ!」 全員の注文が決まると、ヒロトがタブレットに手のひらをかざして何かをしている。お、右上にレンズみたいのが付いてるのか。これを通じて何かを読み取らせているのか?「静脈認証だね。血管の配置を読み取って、預金と照合してるんだ」「へえ、経絡に反応する封印術みたいなもんか」「セージは経絡を偽造するから、お前にかかるとまるっきり通じんがな……」 あっ、やべ。ミストがジト目で俺を見ている。 もうだいぶ前の話だが、学院の衛兵ゴーレムはミストの設計だったらしい。それを俺が強引に突破したことを根に持たれてしまっているのだ。いかん、話をそらさなければ。「つか、ヒロトの払いでいいのか? 前はずっと金欠だったと思うんだが……」「うん、ヒロトは人気配信者だからね。お金はいっぱいあるんだよ」「おうッ! なんだかわからないが金は稼げてるぜッ!」 細かいことはわからんが、ヒロトが戦っている映像をツカサが撮り、それを売って金にしてるんだそうだ。まあヒロトの戦いぶりはいちいち派手だからな。眺めて面白がる人はそれなりにいるんだろう。 そんなこんなでわちゃわちゃしていると、どこかからシャーッと何かが擦れるような音が近づいてきた。音源に目を向けると、天井にぶら下がった何かがいくつもこちらに向かってくる。 どうやらあらかじめ設置されていたレールに沿って動いているらしい。車輪に紐がついただけといった外観のそれは、厚紙でできた平べったい箱を俺たちのテーブルに置いて走り去っていった。「……何、あれ?」「ウェイターみたいなものかな。ほら、料理が来たから食べようよ」「おうッ! すっかり腹が減っちまったぜッ!」 シロちゃんの疑問に、ツカサとヒロトは箱の蓋をばりばりと破いて応える。 箱の中にはツカサが頼んだカレーライスと、ヒロトが頼んだ焼肉定食が入っていた。ご丁寧なことに、箱の端にはスプーンや箸などの食器も同梱されている。「ふうむ、このグリーンカレーというものにはあまりとろみがないのだな」「わぁ、ホントに色んなお料理が入ってるー!」「……煮魚、ひさびさ」 他の面々も箱を破いて食事をはじめている。 ちなみにメリスちゃんが頼んだのはお子様ランチ、シロちゃんが頼んだのは煮魚定食だ。ニホン料理はチョーダの伝統だが、子どもにはあまり人気がない
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第53話 大賢者、怪人に遭う

「ふう、やっと300階に到着だ」「こんなダンジョンみたいな店、誰が買い物に来るんだよ……」「YADOBASHIに来るときはみんな泊りがけだね」「絶対おかしいだろ、それ」 食事を終え、ツカサの案内に従うこと数時間。俺たちはようやくツカサたちが探索済みだという300階まで到達した。そこは展望台らしく、巨大な柱をだだっ広い通路がぐるっと囲み、片側がすべてガラスになっている。 道中には見たこともない商品がいくつも並んでいるので飽きることはなかったが……入り組んだ通路をひたすら歩き、エレベータ-を何回も乗り継ぐのはさすがにうんざりしてくる。 っつうか、商業施設として利用客のことを考えてなさすぎではないだろうか?「ここは各メーカーの要塞的な意味も兼ねてるからね。防備を考えると複雑にせざるを得ないらしいよ」「店と要塞を兼ねるんじゃない」 ツカサたちのいた世界はよっぽど頭がおかしかったようだ。 要塞なんて物騒なところでお買い物が楽しめるわけないだろうに。「ふーむ、やはり視界はきかないな」「埃っぽーい」「……景色、悪い」「だろッ! ここまで登ったのにがっかりだったぜッ!」 他のみんなは窓を通じて外を眺めている。 外の景色は砂煙で霞んでおり、真下の地面すらまともに見通せない。砂漠から飛んできた砂が空気を濁らせているのだ。「それで、なんでこの階で探索を切り上げたんだ? 降りるのだって一苦労だろうに」「この上にちょっと面倒くさいのがいそうでね……。それの相手をするんだったら、先に外を調べてみようと思って」「金属メイドの上位個体でもいるのか?」「それならまだよかったんだけど。ま、見てみればわかるよ」 柱の中を通る螺旋階段を上っていくと、またしても広い空間に出た。 表面に歪んだ模様のある捻くれた柱がまばらに立っており、床も壁も天井も大蛇の背のようにうねっている。それらはぬめりのある液体で覆われていて、歩くたびにニチャニチャと嫌な音を立てた。「げえ、なんだこれ? まるっきり雰囲気変わってるじゃん」「建築様式がまるで違うな。それにあんな柱でこの建物を支えられるとは到底思えん」 俺の素朴な感想に、ミストが錬金術師らしい解説を加えてくれる。 たしかに、あんなにひん曲がった柱でこの巨大なビルが支えられるとは思えない。『くくく……よく来たなジャスティ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第54話 大賢者、コウモリ怪人に同情する

「えー、解説のミストさん。いまの試合、どのように見られますか?」「誰が解説だ。まあいい。本物のドラゴンの前でドラゴンを騙ったのがすべての敗因だな。シロ殿も、同族だと思ったからそこまで手加減をしなかったのだろう。それがなければ大怪我をせずに負けられただろうに」 ドラゴン男は完全に気を失っているようで、どこかから現れた黒タイツ軍団によって担架に乗せられて運ばれていった。六鬼将最強がうんぬんとか自慢してたし、きっと体力にも自信があるはずだ。命に別条はない……と信じたい。「……えー、あっ、はい。ルール変更? いや、それはジャークダーの理念に……あ、いえ、なんでもないっす。了解っす。ではその旨、先方に伝えるっす……」 最初に出てきた黒タイツの人が、耳に手を当てて何事かしゃべっている。 先ほどの事態を受けて、急な指令でも来たのだろうか。額の汗を拭うような仕草をしながら、こちらに向かってくる。「えー、初戦の見事な勝利、おめでとうございますっす。ちょっと急な展開でルール説明が遅れちゃったんすけど、一人一試合なんで、次の方を決めておいてほしいっす」「なにそれ? さっきのドラなんとかさんの口ぶりだと勝ち抜き戦っぽいかんじじゃなかった? 一人でぜんぶ片付けてやるー的なムーブだったし。おっかしいなあ、俺の聞き間違いだったかな? あっ、あれか。うちのシロちゃんの実力にビビっちゃった系? こんな女の子にビビってルールを曲げちゃうとか、悪の組織的に恥ずかしくないの? ああ、悪だから筋の通らないことも平気でやるのか。それはそれで筋が通っているって言えるのかな? いやあ、ジャークダーさん、かっけえっすね。手段を選ばず勝利を目指すその姿勢、まじシビれるっす!」 黒タイツが勝手なことを言い出したので、俺は十頭身モードを解放して歯をカチカチと鳴らしながら威嚇した。黒タイツはびくっとなって後ろに跳んだ。「ひっ、なんすかこのヒツジ!? 怪人っすか? 別組織の怪人なんすか!?」「誰が怪人だ。俺は人呼んで《大賢者》のセージ様だぞ」「あっ、自分は下級戦闘員のマサヨシっす。漢字で正義って書くっす。よろしくお願いするっす」「あ、うん。よろしくね」 マサヨシがぺこぺこしながら右手を出してきたので、俺はその手にどんぐりの蹄を当てて握手した。礼儀正しいやつは嫌いではない。「速攻で絆され
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第55話 大賢者、クモ怪人と戦う

「……えっ、あっ、はい。了解っす。第3試合からはそういう形で……でも、そういうのは……あっ、いえ、なんでもないっす。了解したっす!」 マサヨシ君がまた耳に手を当てて上司と相談をしている。 雰囲気から察するに、相談と言うか一方的な命令だな。上意下達は組織の常と言えど、さすがに可哀想になってくる。「ええー、すみませんっす。またちょっとルールの伝達ミスがありまして……。3回戦からは、こちらから対戦相手を指名してく形になるっす」「それはまたそちらに有利なルールだな」「すっ、すんませんっす。自分も上司に言われてるだけなんす! 理由とか聞かれてもわかんないっす!」「まあいい。危なければ棄権すればいい。まさか降参も認めないなどとは言わないだろうな?」「も、もちろん降参は認められると思うっす!」「思う?」「み、認められるっす!」 ミストがマサヨシ君に圧をかけて言質を取った。 こっちのチームの穴はメリスちゃんと……自分で言うのも情けないが、俺だ。俺たちを安全に戦わせるため、こんな交渉をしてくれたのだろう。俺が魔法を自由に使えれば余計な気を回させる必要もないんだが……まあ、いまはそれを考えても仕方がない。「クーモクモクモクモクモクモクモ! 俺様の名は蜘蛛怪人スパイディ・ダーマ! 俺の相手はそこのヒツジだクモ!」「……なんかもう形振りかまってないな、お前ら」「な、なんの話だクモ? ダーマはお前を好敵手と見込んだだけクモよー」 またしてもクセの強い笑い声とともに現れたのは、赤い全身タイツに蜘蛛の巣のような模様が入った怪人だった。どうせ糸を吐いたり、それを使って飛び回ったり、糸玉を飛ばしたりするんだろう。 あまりにも想像しやすいせいか、ミストもいまいち興味がそそられないようで、メリスちゃんと何やら雑談をしている。「おーい、ミスト。俺の装備頼むよ」「む、すまん。メリス君に作戦を伝えるのに集中していた。セージは別に降参してもかまわんのだぞ?」「そんな介護プレイは勘弁してくれ。やれることはやるよ」「まあかまわんが。魔法は禁止だぞ。それから、危ないと思ったらすぐに降参しろよ」「わかってるって」 ミストは俺のことになるとやたらに心配性になる。 ありがたいことなんだが、俺にだって男の意地がある。守られてばっかりじゃあ面白くない。 ミストが背嚢
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第56話 大賢者、イカ怪人にドン引きする

「イーカッカッカッカッカッカッ! どいつもこいつも、六鬼将の面汚しイカ!」 クモ男の次は、三角頭で何本もの触手が生えた怪人が現れた。 なんか全身からぬるぬると生臭い粘液を分泌させている。 あー、もう説明されなくてもわかるわ。「俺様は深海怪人ダイオウ・テンタクルス! いままでの六鬼将は言わば前座! 箸休めの塩辛みたいなものイカよ!」 一人目が思いっきり「我こそは六鬼将最強……」みたいなことを言ってたけどな。まあ、ツッコむのも面倒だしスルーしておこう。「えーっと、それじゃテンタさん、指名相手は誰にするっすか?」「そんなのは決まっているイカ!」 イカ男が、腕のような触腕をびしっとこちらに向けてくる。 その指し示す先にいたのは――「あの金髪幼女しかありえないイカよ!」 メリスちゃんだった。 なんだこのイカ野郎、うちのメリスちゃんに何か用かっ!「あ、そうすか……。すんません、そういうことなんですけどいいっすか?」 マサヨシ君が申し訳なさそうに確認してくる。 あれだけ自信たっぷりに登場しておいてメリスちゃんを指名するとは、身内のマサヨシ君でも予想できなかったらしい。「こいつマジかよ」って心の声が態度ににじみ出ていた。「メリス君、準備は大丈夫かい?」「うん、ばっちりー!」「よし、学院の模擬戦のつもりで気楽に戦ってきなさい。作戦通りにやれば問題ないはずだ」「はーい!」 おや、この手のことには真っ先にキレそうなミストが素直にメリスちゃんを送り出している。まあ、降参も認められてるしな。いざとなれば反則負けを承知で割って入ったってかまわない。「イーカッカッカッカッカッカッ! き、金髪幼女……お、俺様の触手が金髪幼女に……ああ、こんな日が来るなんて夢にも思わなかったイカ! メリスちゃんって言ったイカな? お、おじさんが触手の良さをたっぷりわからせてあげるイカよぉ~」 イカ野郎が触手をぬっちゃぬっちゃと蠢かせながらメリスちゃんににじり寄っていく。やべえ、卑怯なだけかと思ったら真性のロリコンじゃねえかっ!? ダメだ、こんなやつをメリスちゃんに近づけるわけにはいかない。同じ空気を吸わせるわけにもいかない。先手を打ってヒツジさんファイヤーでイカ焼きにしてやるべきか……。 だが、俺が動き出すよりもミストの方が早かった。「メリス君。前言撤回だ。ああいう
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第57話 大賢者、大相撲を楽しむ

「えっと、これでボクらの4連勝。勝ち越し確定だから、通してくれるんだよね?」「ちょ、ちょっと待って欲しいっす。念のため上司に確認を……」「なんだ? ジャークダーというのは一度取り交わした約束事さえ守れないのか?」「ひぃ……か、確認するだけっす。ほ、ホウレンソウは悪の組織の基本なんす……」 マサヨシ君がツカサとミストに詰められている。 なぜだかわからないが、ちょっと羨ましく感じている自分がいる。巨乳ボクっ娘と知的クール美女によるダブルアタック。人生でそんな経験を味わう機会などないのではないか――ハッ!? 俺はいま何を考えていた!? 俺は慌てて頭を振って、異次元から侵食してきた瑪瑙色の煩悩を振り払った。 「確認など要らんたい。おいの宿命の対決がまだ済んでいないでごわす!」 俺が名状しがたい煩悩と戦っていたら、ずしーんずしーんとひどく重たい足音が近づいてきた。 音のした方に目を向けると、そこには隆々たる体躯の大男が、巨大な何かを肩に担いで歩いてくるところだった。身長2メートルを優に超える巨体にゆったりとした浴衣を身にまとっており、髪は大銀杏に結われている。 大男は、ずどーんと担いでいたものを地面に下ろした。 正方形の土台の上に、円形のリングが描かれたそれは――まさしく土俵であった。「おいは関取怪人オーゼキング! ジャスティスイエロー、おんしと決着をつけにきたでごわす!」「うげぇ、やっぱり出てきた……」 ツカサがげっそりした表情でため息を洩らした。 何か面倒な因縁のある相手なのか? ツカサが300階で一旦探索を切り上げたのも、あの大男と遭遇するのが嫌だったせいなんだろうか。「一度戦ってからね、ずっとつきまとってくるんだよ……」「まだ戦いの決着はついておらん! 神聖な土俵の上でない限り、力士同士の決着は決してつかないのでごわす!」「ほら、こんな調子でね……」 大男は、浴衣を脱ぎ捨てると土俵に上った。 一見して肥満体型だが、その一挙手一投足から厚い脂肪の下に高密度の筋肉が詰まっていることが伝わってくる。肩甲骨のあたりから、左右に3本ずつ金属製の管が伸びており、そこから蒸気がぶしゅーと吹き出していた。よくよく見れば、大銀杏に見えた髷もヘルメットのようだ。まわしには幾何学的なラインが幾本も通り、青い光で明滅していた。 って、完全に人外やんけ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第58話 大賢者、実況する

「よーし! いよいよオレの出番だなッ!!」 オーゼキングが逆立ちして地面に突き刺さる前衛芸術になったのを尻目に、ヒロトが拳を打ち合わせながら土俵に上がった。 あー、その人、そのままだと息が詰まっちゃうだろうし、引っこ抜いてあげたら?「おうッ! 土に埋まるのは苦しいもんなッ!」「……かたじけない、でごわす」 ずぼっと引き抜かれたオーゼキングは、そのまま土俵脇に待機していた黒タイツ軍団の担架に乗せられて去っていった。つか、なぜヒロトは土に埋められる苦しさを知っているのだろうか?「海に遊びに行くと、砂浜によく埋められるからなッ! ピンクやターコイズがいつもオレを埋めてくるから困るんだぜッ!」「えっとね、ピンクもターコイズもうちの女性メンバー。ヒロトが絡むとめんどくさくなる娘たちだったんだよ」 変身を解除したツカサが補足してくれるが、そういうのは要らない。 他人のリア充エピソードなど、1ミリの関心もないのだ。いっそヒロトはそのまま砂浜でミイラになっていればよかったのではないだろうか。「あー、レッドさんは戦いたいかんじなんすか?」「大将戦だろ? オレの正義の魂が燃えるんだぜッ!」 うん、完全にルールを理解してないな、こいつ。 4勝でいいところを、なし崩しで5勝までしている。これ以上戦うことにまったく意味はないのだが、ヒロトがやりたいって言うなら好きにやらせよう。これまでの試合から察するに、何が出てきてもヒロトが苦戦することなんてないだろうし。「じゃ、じゃあ最後の選手、猛虎怪人ティガー・タイガーさんを呼んでくるっすね。――あ、すみません、ちょっと着信が」 マサヨシ君が土俵から離れ、片耳に手を当ててまた何か話している。「えっ、急におなかが痛くなった? それなら医務室に薬が……トイレから出られない? 膝に矢を受けた古傷も痛む? ええ、ああ、はい……はい……あー、それはお大事に……えっ!? 自分が代わりっすか? 代返とか、怪人大学の講義じゃないんすから。ええ、はい……はい……じゃあ、ひとつ貸しっすよ。あと、バレても責任は取らないっすからね」 マサヨシ君が戻ってきて、こほんと咳払いをした。「と、トーラトラトラトラトラ! よくぞここまで勝ち抜いたっす……トラにゃ! 戦闘員とは仮の姿っすにゃトラ! 自分こそが六鬼将最強、猛虎怪人ティガー・タイガーだトラ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第59話 マサヨシ君、奮戦する

 マサヨシ――多田野正義は、義務教育を終えてすぐにジャークダーに入社した。 何かの目的や目標があったわけではない。孤児院育ちの彼には進学できるだけの金もなかったし、学歴もない彼を雇ってくれる企業など、悪の組織くらいしかなかったのだ。 それでも、マサヨシには希望があった。 ジャークダーは実力主義だ。怪人化手術が成功し、変身さえ可能になれば、幹部になるのも夢ではない。そうなれば、孤児院で苦労をしている血のつながらない弟妹たちにも援助ができる。 訓練に汗を流し、日々の業務に邁進し、ついにマサヨシは怪人化手術を受ける権利を勝ち取った。 そしてその結果は――残酷なものだった。 術後に行われた検査によると、マサヨシの怪人因子適合率は1%未満。成人男性の平均が10%ほどであるとされているから、完全に水準を下回っていた。 マサヨシの出世の道は断たれたが、それでも彼は腐らなかった。下級怪人として幼稚園バスジャックや小学校の占拠、駄菓子屋での立てこもりなどの業務に真面目に取り組んだ。 採石場では先頭に立って正義のヒーローたちと戦った。 怪人がピンチになれば、身体を張って窮地を救った。 仲間たちは、そんな自分を認めてくれている。 マサヨシが悪の組織の戦闘員になったのは、ただ単純に食うためだった。 しかし、いまではもう違う。 マサヨシにとってジャークダーはもはや家族なのだ。 孤児院の弟妹たちと同じく、かけがえのない存在がたくさんいる、そんな居場所になったのだ。 ちなみに、マサヨシが育った孤児院はジャークダーの育成組織として組み入れられ、マサヨシのように金が理由で進学を諦めなければならない事態はなくなっている。 懇意の上級怪人による助力もあったが、マサヨシが何日も徹夜して書き上げた企画書が、ジャークダー上層部に認められたのだ。 そのジャークダーが、異世界に来ておかしなことになっている。 マサヨシには、それが許せなかった。 ジャークダーを何よりも愛している彼には、ジャークダーをめちゃくちゃにしている「何か」の存在が感じ取れた。 六鬼将の面々も、アキバ支部長である斬殺怪人キルレインも様子がおかしい。 なんとかしなければ――そう思っているところに、宿敵たるジャスティスイレブンが現れたのだった。 * * *「はぁっ、はぁっ……
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第60話 大賢者、ツッコミを飲み込む

 白熱した戦いが続いていると思ったら、唐突にお悩み相談がはじまった。 俺はどんぐりの蹄をカチカチと鳴らして、ヒロトの隣にしゅびっと座ってマサヨシ君のお悩みを聞くことにした。 ツカサとミストも続いて後ろに立ち、メリスちゃんとシロちゃんはお相撲ごっこで遊んでいる。「えーと、どこから話したらいいっすかね……。ちょっと込み入ってるし、自分も理解できてない部分があって……」「じゃあ、まずこのYADOBASHIビルを転移させたのはジャークダーの仕業なの?」 初っ端から話に詰まったマサヨシ君に、ツカサが話を振る。「うちの仕業とも言えるし、言えないかもしれないっす」「どういうこと?」「さっき話しかけましたけど、転移前からキルレインさんの様子がおかしかったって言ったっすよね。ジャークダー様の神像の隣に、真っ黒な石で彫られた像を置いて拝み出したんすよ。鬼気迫る感じっていうか何かに取り憑かれているというか……」「黒い石か。それはこういうものか?」「そう、それっす! その石の感じに似てるっす!」 ミストが取り出したのは、金属メイドから採取した魔石の欠片だ。 ということは、その謎の像は魔石を原料にして作ったのか?「なあなあ、ツカサ。そっちの世界には魔法はないって言ってたよな。魔法はなくて、魔石だけがあるの?」「絶対とは言えないけど、魔力は存在しない世界だったと思うよ。魔法使いとか超能力者とか名乗る人はいたけど、みんな詐欺師か頭のネジが外れてる人だし」「ええ……そっちの世界の魔法使いってそんなんなんだ……」 俺はツカサたちの世界に転生しなかったことを見知らぬ神に感謝した。 大賢者を名乗ったら頭のかわいそうな人だと思われる世界なんてつらすぎる……。「安心しろ、お前はいまでも頭がおかしい。それで、その神像はどんな意匠だった?」「うーん、それが奇妙で、思い出そうとすると頭に黒い靄がかかったみたいにはっきりしないんすよね。蛇っぽい何かだったって気はするんすけど」「記憶阻害系の魔法の症状に似ているな。セージ、何かわからないか?」 流れでしれっと罵倒されたことに仄暗い悦びをおぼえつつ、俺は魔力の触手を伸ばしてマサヨシ君の脳みそをにゅるにゅると調べてみる。「あっあっあっ」とか言っているが気にしない。魔法で精神を探るときには避けがたい副作用だ。あっ、白目になって泡吹
last updateLast Updated : 2026-07-13
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