All Chapters of 非モテ大賢者は美少女になりたかった ~わたぐるみに転生した結果、美少女にこねくり回される日々がはじまりました~: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話 大賢者、吠える

 様々な工夫がこらされた黒竜邸とは違い、師匠の料理は至ってシンプルなものだった。 色の薄いスープに大ぶりに切られた野菜がごろごろ入っているだけの煮込み料理だ。見た目は質素だが、これが案外美味かったんだよな。いまの俺には食えないから、食事中はタンタカタンとタップを刻むだけだが。「それでセージよ。どういう経緯でそんな身体になったのじゃ?」「えーと、それはねえ――」 俺がヒツジさんボディになった事情を端的に説明する。 美少女になりたいと願ったことは当然秘密である。「ほうほう、《神》と思わしき存在の介入があったのか。それは興味深いのじゃ。しかしセージ、その身体では魔力の生成が――「ウィ、ウィズ殿! この要塞のような住居はウィズ殿が作られたのか? 凄まじい技術ですな。後学のために色々伺いたいのだが」 師匠の質問が俺の余命に関わる話になったので、ミストが慌ててさえぎった。 俺は目配せをして師匠に「察しろー!」という念を送る。具体的にはメリスと師匠を交互にしゅばばばばっとものすごい首振りで見た。俺はおそらく、ヒツジさんの首振り速度世界記録を記録したと思う。 師匠とミストからはものすごい目で見られた気がするが、それはそれとして意図はなんとか伝わったようだ。「うむ、なるほどな……。まあ先ほどの話はまたあとで聞くとして、いまは錬金術師殿の質問に答えよう。この甲虫を模した移動要塞はわしが手掛けたものではない」「すると、遺跡ですか?」「うむ、おそらく降魔災害の真っ只中に作られたものではないかと推測しておる」「降魔災害以前ではなく?」「人間同士の戦でここまで大仰なものを作る意味が感じられんからのう。虚無の谷を渡ってくる《悪魔》や強力な魔物に対抗するための兵器なんじゃないかの」「なるほど。やはり兵器でしたか。しかし降魔災害を経た人類にここまでのものを作り上げる余力があったとは――」 師匠とミストがなにやら難しい話で盛り上がり始めたので、メリスちゃんやシロちゃん、ピュイたちが退屈そうにしている。 俺にとっても修行時代に聞かされていた話なので退屈だ。とりあえず、俺たちは河岸を変えさせてもらおう。「師匠ー。娯楽室使わせてもらってもいいか?」「ああ、かまわんぞ。それでだな、錬金術師殿、この要塞の機構でとくに面白いところが――」 一応の許可を得たのでメリスちゃん
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第32話 大賢者、進化する

「さてセージよ。ロケットパンチとパイルバンカーと機銃、どれがよいか決まったかの?」「いや、そういう物騒なのはちょっと……」「ウィズ殿、オプションは外付けの方が換装できて汎用性が高いのでは?」「うむ、たしかに内蔵にこだわる必要はなかったの」「あのう、俺の希望も聞いてくれないっすかねえ……」 ミストにむんずと運ばれた先は師匠の研究室だった。 機械油や燃料の臭いが入り混じったものが漂っており、工作機械と作りかけの何かでごちゃごちゃしている。なんとなく、ミストの研究室を思い出した。「ともあれ、まずは魔導線とやらか。先ほど見せてもらったが、なかなか面白い性質じゃの。応用範囲が広そうじゃ」「ウィズ殿ほどの方から称賛をいただけるとは光栄ですね。ミスリルを扱うのははじめてなので、基本的な性質などからご教示願えますか?」 ミストと師匠は短い時間ですっかり意気投合したようだ。 どっちも研究オタクだからなあ、話が合うんだろう。「ふむ、それではまず銅と水銀との合金から試してみますか」「割合を変えたものをいくつか作ってみるかの。鉄も加えたものも試してみたいのう」「ええ、それも作ってみましょう」 ミストと師匠が小型の錬金釜に材料を放り込んで炎魔法で加熱している。 うーん、俺抜きでどんどん話が進んでいるな。俺の来た意味ってあっただろうか?「魔力の伝導率を調べるには、お前の感覚で試すのが一番手っ取り早いからな。暇なら芯になる魔導線の設計図でも書いておけ」 ほう、俺の新型ヒツジさんボディの骨格設計か。 そういうことならちょっと試したいことがあったんだよね。 俺はミストから受け取った鉛筆を走らせ、紙の上にさらさらと設計図を書いていく。 魔道具づくりは専門じゃあないが、基本的なことは師匠から叩き込まれているのだ。「一通り試料ができたぞ。試してみろ……って、何をぐるぐると落書きしてるんだ?」「落書きじゃないって。これはだな――」 設計意図を説明すると、ミストと師匠がおかしげに笑った。「なるほどのう、人体を模す必要はそもそもないのじゃからな。面白い発想じゃ」「単純な直線の組み合わせより、耐久性も増しそうだ。セージにしてはいいアイデアじゃないか」 おお、好評だ。なんかひさびさに褒められた気がする。うれしい。 俺は喜びを表現するため、いつもよりも気合の入っ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第33話 大賢者、師匠の夢を知る

「まず、わしの専門は生命機械工学。生命と機械を融合させ、双方の利点を生かした新たな生命や機械を生み出すことを目指す学問なのじゃ」 白衣を着た師匠が青い長髪をふぁさっとかき上げ、ドヤ顔を決める。 ミスト以外のメンバーはぽかーんとした顔をしている。そりゃねえ、この説明でわかる人はそういないだろ。「むう、伝わらんか。では実際にできることを言おう。まずは半不老。わしの若々しい肌を見てみい。人間の普通種であったわしが何百年も若さを保ち続けられているのは生命機械工学の賜じゃ。メンテナンスは必要じゃがな」「それじゃ、ウィズ先生はおばあちゃんなの?」「ははは、ババアもババアじゃな。本来なら骨しか残っておらんようなババアじゃよ」「んで、本当は何歳なん?」「レーザーメスで刻むぞバカ弟子」 なんか前にもこんなやり取りがあった気がする。 俺はぼんやりと遠い記憶に思いを馳せた。「こほん、そして言うまでもないがこのメタリックな各部パーツも生命機械工学によって生み出された。人体よりも優れたパワー! 人体よりも精密な操作! 人体にはできない様々な機能! まさしくっ! ポストヒューマンと呼ぶべきにふさわしいスペックがこの身に詰まっておる!!」 師匠は全身からぷしゅーと蒸気を噴き出し、あちこちを無闇に点灯させた。 あー、演説しながら気持ちよくなっちゃってるな。 もしもーし、本題は俺がメシを食えるようになった理由の説明ですよー。 それもとくに説明する必要はないと思うんだけど、師匠がどうしてもって言うから時間を設けたんですよー。「むっ、話が逸れてしまったかの。ここにセージの体内に設置したものと同じものを用意したから見てほしい」 師匠は木箱から細長い袋状のものを取り出した。 先端には口を模した金属製の歯が並んでおり、袋の部分はところどころ銀色の配線が施されている。 師匠は俺をむんずとつかむと、両手で口をぐいっとこじ開けた。 ちょっとなんすかこれ、打ち合わせにはなかった流れなんですが。「この口から接種した食物は、体内の袋に溜められる。そこにはわしが創り出した特殊な半機械微生物が封入してある。食したものは速やかに分解され――」 師匠は俺の腹を左右にぐいっと引っ張ると、観音開きにがぱーんと開けた。 あっあっ、やめて。みんな見てるのに……そんな大胆な……。「このように
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第34話 大賢者、猫と張り合う

 ピーンポーン。 俺たちがヒツジさんボディのお披露目会でわちゃわちゃしていたら、玄関のチャイムが鳴った。『ちわーすにゃー! クロネコ商会ですにゃー!』「おお、いつもご苦労さま。いま開けるのじゃー」 師匠は壁のインターホンを操作し、玄関の門のロックを解除する。 そしてうぃーんがしょんと駆動音を立てながら門へと向かっていった。 俺たちもとくにやることがないので、なんとなくそれに着いていく。「いつもお世話になってますにゃー」「うむ、わざわざすまんの。こちらの品も用意するから中で茶でも飲んでいてくれ」「お気遣いありがとですにゃー」 門の向こうに立っていたのは、荷物を抱えて直立する黒猫だった。 漆黒の毛並みはつやつやと陽光を反射し、まるで王族が着るビロードのような美しさだ。それが半袖のチョッキを羽織り、肉球をぷにぷにさせながら歩いてくる。「すごーい! 猫さんが話してるー!」「……もふもふ」「にゃー!? 何するにゃー!?」 突如来訪した直立二足歩行のにゃんこにメリスちゃんとシロちゃんが飛びついた。 頭を撫でたり、顎下をくすぐったり、お腹の毛をもふもふしたりしている。 俺は心のどこかから湧き上がってきた対抗心に従って、バック宙からのヘッドスピンを決めた。へいへい、俺だってもふもふなんだぜ……!「や、やめるにゃー! そんなところを触られるとっ、にゃー! ごろごろ……うにゃー……」「かわいー!」「……もふもふ、もふもふ」 しかし、俺の渾身のヘッドスピンは無視をされ、少女連は新キャラのにゃんこに夢中だった。 にゃんこはにゃんこで腹を見せて床にでろーんと転がり、ごろごろと喉を慣らしている。ちっ、こやつ、なかなかできるな!「ごろごろ……うにゃー! 吾輩は仕事中ですにゃ! ちょっと離れてほしいですにゃ!」 にゃんこはひとしきりモフられたあとに、突然我に返ってにゅるんと立ち上がった。 その素早く柔らかい身のこなしはまさしく猫である。 にゃんこは荷物を抱え直すと、通路の奥へと進んでいった。 * * *「うにゃー! これが《黒鉄の魔女》の新作ですにゃ。先生のファンが喜びますにゃー」「うむ、今回は刃先の仕上げにこだわってのう。微細な刃が対象に食い込み、力を余さずに伝えられるようになっておるのじゃ」「これで斬りかかられたらひと
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第35話 大賢者、にゃんこを見直す

 ――魔石。 それはあるいは純粋魔結晶。賢者の石とも呼ばれることもある。 魔力が質量を得て物質と化したもので、理論上では存在するとされている。 だが、現物はどこにも存在しないはず。そういう幻の物質だ。「って師匠、なんでこんなもん持ってんだよ?」「若い頃に瘴気領域の外で拾ったのじゃ。じゃが、これなら取り込めるんじゃないかの?」「んぐっ!?」 師匠は金属の指でヒツジさんマウスをこじ開け、魔石をねじ込んできた。 魔石は腹の中に落ち、半機械微生物に反応して超濃厚な魔力を放出しはじめる。 なるほど、これなら……俺は魂の殻を開き、にじみ出た魔力を吸収した。「どうじゃ、上手くいったか?」「ああ、たぶん半年分ぐらいにはなった」「うむ、それは重畳じゃ。預けものを引き取った甲斐があったというものじゃ」「あ……ああ……ま、魔石が……一粒で豪邸がいくつも買える魔石がヒツジに食われてしまったにゃ……」 腕を組んで満足気にうなずく師匠の横で、にゃんこががっくりと膝をついている。 たぶん委託販売か何かを引き受けていたんだろう。 とはいえ、俺がもらったものなんだから諦めてほしい。そもそも少女連からもふもふされる権利を俺から奪ったのはにゃんこの方だ。いまは悔しさを噛みしめるがいい。ケケケッ! 俺は新品の歯をむき出しにし、カチカチと鳴らしてにゃんこを威嚇した。 にゃんこはビクッとなってメリスの後ろに隠れた。「こ、このヒツジ……吾輩も食べるつもりですにゃ!?」「ヒツジ先生ー、先生は猫ちゃん食べるの?」「食べないよー。ただ生き物としての格の違いを教えてあげていただけさ」「なんでそんなことするんにゃ!?」 俺はカチカチと歯を鳴らしながらにゃんこを追いかける。 楽しくなって追いかけ回していると、ミストに首を捕まれてぶら下げられた。「何を遊んでるんだ?」「い、いや、ちょっと楽しくなっちゃって……」「話が進まんだろう。ウィズ殿、どちらで魔石を入手したんですか?」「北東の瘴気領域を越えた先の遺跡じゃな」「北東……というとアキバ遺跡ですか?」「古地図の通りならそうじゃの。わしが行ったのも二百年くらい前じゃし、いまはどうなっておるかわからんが」 降魔災害以降、この地球の大地は脈動するかのように伸縮を繰り返しているという。 王国は地盤が安定しているが、瘴気
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第36話 大賢者、悲しく鳴く

 師匠の家を去り、王都に戻って3ヶ月ほどが経った。 俺とメリスちゃん、シロちゃんで構成されるチーム《落ち着きがない》は冒険者ギルドに付設されている酒場にいる。ホットドッグなんかをもぐもぐやりながら、掲示板に張り出された依頼表を確認していた。「へへへ、お嬢ちゃんたち、冒険者ごっこかい? そんなに冒険がしたいなら、お兄さんが夜の冒険に――」「ほわちゃぁっ!」「ぶべらっ!?」 ガラの悪いモヒカンが不審な声掛け事案を発生させたので、俺は容赦なくどんぐりフィストで目潰しを行った。びょいんと伸びるこの攻撃に、初見で対応できるものはまずいない。「あーあ、あの新参、《落ち着きがない》に手を出しやがったぜ……」「身の程知らずがバカなことをしやがる」「でも俺も、メリスちゃんたちと冒険してみたい――」「ほわちゃぁっ!」「ぐああっ!?」 その様子を見ていたモブどもからまた事案が発生したので再び目潰しを敢行した。またつまらぬものを潰してしまったぜ……。俺はどんぐりの蹄を、体内で生成したアルコールをぷしゅっと吐いて消毒した。「ヒツジ先生ー! ヌルゴブリンの退治っていうのがあるよ?」「……ぬるぬる、近寄りたくない」「あたしの魔法でやっつけるからだいじょーぶ!」 メリスちゃんが目ざとくちょうどよい依頼を見つけてくれた。 王都の郊外にヌルゴブリンの群れが発見されたので、街道に近寄る前に駆除してほしいという依頼だ。報酬は相場通り。いまから出ても日が暮れる前に帰って来れそうだし、問題ないだろう。 俺は依頼表を掲示板からむしると、ギルドの受付嬢の元に持っていく。 カウンターに依頼表を差し出したら、タタタタターンとどんぐりタップを決めてかわいさアピールをするのも忘れない。ふふふ、どうだいお姉さん? この身体、もふってくれてもかまわないんだぜ?「きょ、《凶獣》のセージさんですね。《落ち着きがない》による依頼受諾、たしかに確認しました」 せっかくかわいさをアピールしているのに、お姉さんにはいつもドン引きされる。最初に十頭身モードで訪れ、歯をカチカチ言わせながらたむろしているモブ冒険者どもを威嚇したのが間違いだったのだろうか……。あのときは新種の魔物が出たとちょっとした騒ぎになってしまった。人間は初対面の印象を引きずるからね。悲しいけど、仕方がないね……。 俺は心でひと
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第37話 大賢者、決心する

「こちらの準備は整った。セージ、お前はどうするつもりだ?」「あー、どうするって言われてもなあ……」 俺はミストの研究室に呼び出されていた。 今日はメリスちゃんもシロちゃんもいない。二人きりの秘密の相談である。「すぐに出るんなら、メリスも連れてかなきゃなんないからな。できれば、メリスがひとりで魔力過多に対応できるようになるまでは待ちたい」「メリス君がほとんどの初級魔法を扱えるようになったのは知っている。見たこともない習得の早さだ。だが、魔力過多に対応できるだけの魔法が扱えるようになるのには何年かかる?」「そんなんわかんねえって」 メリスちゃんの魔法の習得速度はとんでもない。大賢者である俺と同じ年頃と比べても、倍以上の魔法を身につけている。 しかし、中位以上の魔法にはまだ達していないし、高位魔法に至っては見通しも立たない。魔法の習熟、そして肉体の成長によって魔力の生成量も増えているから、メリスがいま使える魔法だけでは魔力過多症を抑えるだけの魔力排出ができない。 結局、俺がついて数日に一度は魔力を吐き出してやらないと危険な状況に変わりはないのだ。「改めて確認するが、お前の身体はどれくらい持つ?」「ざっくり3年ってとこかな。ミストの魔導線と、師匠の魔石のおかげでだいぶ寿命が伸びたよ」 ミストは会うたびに俺の寿命を確認してくる。 変化があれば俺から言うからいちいち聞かなくても大丈夫なのだが……そんなことを言ってまたガン泣きされたらどう対応していいのかわからない。なので俺は毎回素直に答えている。「安全マージンは十分に取っている……が、それでは納得しないんだろうな」「危ないことには変わりがねえんだから。自分のために、子どもを危ない目に合わせるのはそりゃ違うだろう?」 ミストができたという準備は、瘴気領域外の探索の話だ。 王都に帰ってきてから、ミストは師匠が魔石を拾ったというアキバ遺跡への遠征に向けた準備をずっと進めていたのである。「それに、俺が必須ってわけじゃないんだろ?」「必須ではないが、魔石探しの効率が格段に高まるのは間違いない」「むぅ……そりゃあそうなんだろうが……」 ミストと比べると、魔力探知の感覚は俺の方が段違いに優れている。 集中すれば、俺なら数百メートル先から魔石のある場所を察知できるだろう。本物の魔石に触れたことで、そ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第38話 大賢者、衝撃の事実を知る

「というわけで、メリス君の村へはこれに乗っていく」「へえ、なんかすごいもん作ったんだなあ」 王都の門を出た俺たちの目の前には、巨大な船のような物体があった。 船のようなといってもマストはなく、船底には車輪がつけられている。船を連想するのは全体が流線型だからだろう。大部分が木製で、一部が金属板で補強されていた。船の腹には丸い窓がいくつも並んでいる。「名付けて『地上帆船イ号』。内部には瘴気の影響がなく、そのまま移動ができる優れものだ」「なるほど、慣らし運転をついでにやっちまおうってことか」「そういうことだ。それに馬車で行くよりも早いはずだからな」 この地上帆船とやらは、ミストが師匠と技術交換をする中で思いついたらしい。 もともとはテントの開発をしていたミストだが、いっそ居住空間ごと移動させてしまってはどうか――という思想から生まれた。「へへっ、すげえだろ。あーしらも手伝ったんだぜ」「ああ、ピュイたちの風魔法がなければ動力の目処が立たなかった。協力に感謝する」「ま、美味いもんさんざん食わせてもらったからな! 貸し借りはねえぜ」 ミストの横ではピュイたち魔土怒羅権の面々が得意げに胸をそらしている。 そう、地上帆船はハーピーの風魔法によって走るのだ。船の後部には吹き出し口がついており、そこから風を吹き出せるようになっている。その風を生み出すのがピュイたちというわけだ。 固有の風魔法を持つハーピーは、人間の魔法使いなんかよりずっと効率よく風を生み出せる。「でっかくて、かっこいー!」「……ロマン」 メリスちゃんとシロちゃんは甲板から身を乗り出してこちらに手を振っている。こらこら、落っこちたら危ないよ。あんまりはしゃぎすぎないようにね。「ねえねえ、これがうごくの?」「ああ、楽しみにしていてくれ。それではそろそろ出発しよう」 俺たちもメリスちゃんたちに続いて地上帆船へ乗り込んでいく。 機関室に入ったピュイたちが風魔法を使うと、地上帆船は砂塵を巻き上げながらその巨体を進めはじめた。 * * * メリスちゃんの足で7日かかった村への道のりは、わずか半日強に縮まった。 街道を進む威容に放牧中の羊たちが驚いて熱視線を向けている。くくく、これが文明の利器というものだ。リアル羊どもには到底真似できまい! 俺は甲板のへりでタタタ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第39話 大賢者、アツくなる

「メリスは、村の教会の前に捨てられていたのです」「私たち夫婦はずっと子どもが授かりませんでしたから……神からの授かりものと思って我が子として育てることにしました」 おじさんとおばさんが訥々と話しているのを俺は黙って聞いていた。 田舎の平和な仲良し親子だと思っていたのに、じつは血の繋がりがなかったのか。言われてみれば、おじさんとおばさんの髪と目は栗色で、金髪で青い目のメリスとは似ても似つかない。「メリス君の本当の両親を示すような持ち物はなかったのですか?」「それは何も。ごく普通のおくるみに包まれて、どこにでもあるような竹籠に入れられていました」 ミストの問いに、おじさんがまるでつい昨日のことのように語る。 おじさんにとって、その日の記憶はずっと引っかかり続けてきたことなのだろう。「たしかに、メリス君の突出した魔力量は――」「おい、ミスト」 ミストの言葉を発作的にさえぎる。「血の繋がりなんてのはどうでもいいんだよ。メリスはおじさん、おばさんと十年以上の時を一緒に過ごした。おじさん、おばさんは実の子だと思って愛情を注いだ。メリスは幸せに育った。それならメリスはおじさん、おばさんの本当の子どもだ。そのことには嘘もごまかしもない。ただちょっと、親子になったきっかけが変わってただけだ。引け目に感じることなんて一切ないし、遠慮することも一切ない。これまでもずっと親子だったし、これからもすっと親子だ。余計なことを考える必要はない」「だ、大賢者様……?」 あ、いかん。つい素になってぺらぺらしゃべってしまった。 おじさん、おばさんの前ではずっとヒツジならぬ猫をかぶっていたのでびっくりされてもしかたがない。こりゃドン引きされてるだろうなあ……。生涯独身だった非モテのヒツジさんに急に親子とは……みたいな説教をかまされても何なんだよって思うだろう。「大賢者様……ありがとうございます! おかげで悩みが吹き飛びました……」「ありがとうございます……! 私たちが、私たち自身の愛を疑っているなんて情けなさすぎましたね……」 しかし、予想と違っておじさんとおばさんはぼろぼろと涙を流している。なんだこれは、俺が発作的に話したことが妙に心に刺さってる……!?「はは、《大賢者》の面目躍如だな。いつもいい加減なことを言うくせに、たまに真剣になるとそれだ」 横ではミストが
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第40話 大賢者、にゃんこを追う

「ちわーす。クロネコ商会ですにゃー。今日の分のお届けですにゃー」「メェぇぇぇ~~~~」「みぎゃー! また出たなヒツジ男っ!?」 俺は地上帆船の倉庫に現れる直立にゃんこを待ち構えていた。 歯をカチカチと鳴らしながら荷物を抱えたにゃんこを追いかけ回す。「なんでそんなに目の敵にするにゃっ!?」「お前がいると、俺のもふもふの価値が下がるっ!」「言いがかりにゃー!」「おい、遊んでるんじゃない。荷物の受け取りができないだろ」 俺とにゃんこが倉庫で戯れていると、倉庫にやってきたミストに首根っこをつかまれてぶらぶらされた。俺は手足を伸ばして抜け出そうとするが、最近では十頭身モードに慣れられたようで、絶妙にぶらぶらされて床に足がつかない。「た、助かりましたにゃー。このヒツジ、本当にあの《大賢者》セージ様なんですかにゃ?」「……残念ながら本当だ。これがほとんどで、極めてまれに低確率で賢くなることがある。賢さの振れ幅が大きいという意味で大賢者なんだ」「そう、そうなんですにゃ……」 直立にゃんこが残念そうな視線を俺に向けてくる。 やめろっ! 俺を生物として格下に見る目で見てくるんじゃないっ!!「食料その他、必要物資の補給。いつも助かっている。このバカのことは気にしないでもらえるとありがたい」「できれば檻にでも閉じ込めておいてもらえると助かるにゃ……」「その気持ちは痛いほどわかるがな。いつの間にか抜け出ているから拘束不能なんだ」「や、やっかいですにゃ……!」 俺のヒツジさんボディは変幻自在だ。 どんぐりひとつが通る隙間があれば抜けられるのである。頭が通れば隙間を抜けられるというにゃんこよりも上位互換なのだ。「それじゃ、受け取りにサインをお願いしたいんですにゃー。念のための確認にゃんだけど、回収物はありますかにゃ?」「すまんが、今日も収穫はないな」「謝ることはないですにゃー。今回の取引は投資の意味合いが大きいですにゃ」「そう言ってもらえると助かるな。アキバ遺跡にたどり着いたなら、必ずや有益な何かを見つけ出してこよう」「《濡羽髪》のミスト様にそうおっしゃっていただけるのは心強いですにゃー。それでは、これにて失礼しますにゃ」 直立にゃんこの足元に魔法陣が浮かび上がると、一瞬の間をおいてにゃんこが姿を消した。「あのなあ、セージ。
last updateLast Updated : 2026-07-13
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