All Chapters of 非モテ大賢者は美少女になりたかった ~わたぐるみに転生した結果、美少女にこねくり回される日々がはじまりました~: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話 大賢者、バグる

 暴風がおさまった。 俺は壁の燭台に引っかかっていた。 じたばたしてそこから降りて、ローテーブルの上にぴょこたんと立った。「このように、メリスには膨大な魔力があります。ちなみに、昨晩放出したばかりにもかかわらず、先ほどの魔力量なのです。魔法の扱いをおぼえなければ、彼女自身の体を蝕みかねません」 俺は、メリスの才能――と同時に呪いでもある体質に気がついてから、数日おきにメリスの身体から魔力を放出させていた。 体内に過剰に魔力がたまると体調を崩すし、魔力を放出させるだけでも経絡を鍛える修行になる。 おかげでメリスは元気いっぱいだが……副作用として、魔力が溜まるペースも上がってしまった。 俺がついていられる間はいいが、手助けなしで過剰な魔力を放出できるようにならなければ、いずれ暴走してしまうだろう。「なるほどな、その少女の才能については理解した。たしかに助けが必要だろう。だが、貴様は何なのだ?」「ですから、《大賢者》セージだと言っているではないですか」「そんなペテンが通じるか! 私はかつて、セージと共に旅をした。セージは貴様のような男ではない!」「わ、私と旅を……ですか?」 俺は記憶をたどる。 基本メンバーはヒロト、イエロー、ミストで固定だったが、たまに違う人が加わることもあった。 どっかの騎士様だとか、ひげもじゃのドワーフとか、もふもふのコボルトとか……しかし、記憶を総ざらいしてもこんなお姉さんが仲間に加わったことはないと断言できる。 ひょっとしてこれは――「た、大変申し上げにくいのですが、あなたのおっしゃる『セージ』とは、あなたの想像上の存在なのではないでしょうか……?」「人を妄想狂扱いするなっ!」 怒られた。きれいなお姉さんに怒られてちょっとうれしい自分がいた。 なんだか開けてはいけない扉の前に立たされている気がする。「《大賢者》などという二つ名で誤解しているものは多いがな、あの男は根がバカだった」「ばっ、バカ!?」「魔法の腕は立ったが、人間性は堕落しきっていて最低のバカだった」「バカって繰り返さないで!?」「そしてあのバカは、命と引き換えに邪神を封印するなんてバカなことをして、誰にも相談せず、自分を犠牲にしたんだッ! これ以上あのバカの名を騙るのであれば、必ず本体まで辿って後悔をさせてやるからな!」 お姉さんがワ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第12話 大賢者、人とヒツジを行き来する

「ふっ、しかしセージにまた会えるとは……長命種は寂しいことばかりだと思っていたが、長く生きるとこんなこともあるんだな」「メェぇぇー」「しかし、どうしてそんな姿に……事情を詳しく話してみろ」「メェぇぇー、メェぇぇー」「人間の言葉で話せ、馬鹿者」 ミストにごつんと頭を叩かれて、俺は人間性を取り戻した。「うーんとねえ、まあさっきもちらっと話したけど、俺自身も詳しいことはわからんのよ。邪神の封印で死にそうなってるときにさあ、神様っぽいボイスが心の中に響いてきて? 転生させたげるよー、みたいな? それで俺はね、来世はびしょ……困っている人を助けたいなあってピュアな心で願ったわけ。そしたらね、このヒツジさんボディに入り込んでて、魔力過多で死にそうになってたメリスちゃんを助けたってわけ」「ふうむ……色々な意味で信じがたい現象だな……」 ミストが細い目で俺をじぃっと見てくる。 俺が美少女になりたいなんて願ったことはトップシークレットだ。 どんぐりの蹄をかちかちと鳴らしながらタップダンスを踊ってごまかす。 一通りステップを踏んでから、俺はまくし立てた。「っていうかさ、俺のことなんかより気になるのはお前のことなんだけど? ねえねえ、性転換とかしちゃったの? そういうポーションができたとか? 実験中の事故で女の子になっちゃったとか? ねえねえ、女の子になるってどんな気持ち? トイレとかどうするの? お、お風呂はどこから洗う? こう、身体に引っ張られて、男が好きになっちゃったりするの? ねえねえ、ねえねえ?」「……私は元から女だ」「メェぇぇーっ!?」「だからそれをやめろっ!」 またごつんと叩かれて、俺は人間性を取り戻した。 なんか癖になりそうな予感がある。 俺は内心で戦慄した。「つ、つまりミストさんは、お、私たちのパーティにいたときから、じょ、女性だったのでありましょうか?」「素と外面が混ざって挙動不審になってるぞ。昔の通りに接してくれればいい。そうだ、私は最初から女だ」「な、なぜ隠されていたのでありましょうか?」「だからいつも通り話せ!」 またごつんと叩かれた。いかん、これはたぶん癖になった。 俺は内心で恍惚とした。 気を取り直して質問し直す。「なんで男のふりをしてたんだよ」「お前たちのパーティに加わったのは私が最後だ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第13話 大賢者、マウントを取られる

 翌日。 俺とメリスは、ミストの研究室を再び訪れていた。「メリス君は、火打ち石を使ったことはあるかい?」「あるよー! かまどの火付けは得意だもん」 ミストは黒板を前にして、ワンドを指示棒代わりに教師気取りだ。 ときどき眼鏡をくいっとさせる仕草が堂に入っている。なんか悔しい。「ではそのイメージでやってみよう。まずは指を2本立ててくれ」「はーい!」 メリスは右手でVサインをする。「次に指先に魔力を集める。左手を胸に当てて、心臓から指先に血が集まっていく様子を想像するんだ。ほら、だんだん、だんだん指先が温かくなってきただろう?」「なんだかムズムズするー」「おお、それはすごいな。才能があるぞ。魔力が集まっている証拠だ。そうしたら次のイメージだ。人指し指をそうだな、打ち金に見立てよう。人差し指が、どんどん、どんどん硬くなるんだ」「カチカチになったー!」「ようし、順調だな。素晴らしい。次は中指だ。人差し指をカチカチにしたまま、中指を石にしてみよう。よく使っていた石を思い浮かべるんだ」「石になったー!」「そうしたら、2本の指を一気にぶつけるんだ。本物の火打ち石を使うときみたいにね。勢いをつけて、素早く、みっつ、ふたつ、ひとつ!」「火花出たー!」 まさかの一発成功……だと……? 指先から火花を散らすメリスがうれしそうに近づいてくる。おお、すごいねー、がんばったねー。やっぱりメリスちゃんは天才だね! でもね、火花を近づけるのはちょっとやめて? ちょっ、ほんとにやめて? このボディはわたぐるみですのでね、めっちゃ可燃性が高いんですよ。「セージの言う通り、メリス君には相当な魔法の才があるようだ。《発火》だけでも初心者は最短数ヶ月はかかるぞ。それを一回教えただけで身につけてしまうとはなー。どっかの誰かさんはこんな優秀な生徒に何日もついていたのに初歩魔法のひとつもおぼえさせられなかったそうだがなー」「ぐ……ぐぬう……メェぇぇーっ!」 ミストがここぞとばかりにマウントを取ってくる。 言い返せない俺はヒツジモードになって吠えた。「くくく、お前が魔法絡みで悔しがることなんてめったにないからな。よいものを見せてもらった」 ミストは端正な口元を歪ませて腹を押さえている。 昔、一緒に旅をしていたときにこんな砕けた表情を見たことがないので一瞬ドキッとして
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第14話 大賢者、ガン泣きされる

「戻ったぞ。担当教諭には話はつけておいたから、心配しなくていい」「メェぇぇー」「だからそれやめろ」 ミストにごつんと頭を殴られ、俺は人間性を取り戻した。 ミストは真剣な目で俺を見つめて、口を開いた。「あと、どれくらいもつんだ?」「な、何の話かな?」「とぼけるな、その体じゃ魔力が生成できないだろ」「うっ」 なんとかごまかせないかと思っていたが……ミスト相手には無理だな。 仕方がない、メリスのことも頼まなきゃならんし、正直に話そう。「まあ、派手に魔法を使わなければざっくり1年ってとこかな。体感だけど」「その状態で1年もつのか……相変わらず反則だな」「へへっ、《大賢者》様の名は伊達じゃないぜ」「あと1年で死ぬっていうのに、どうしてお前はそんなに冷静でいられる……」「うーん? まあ、人間死ぬときゃ死ぬからなあ。せっかく転生したのにもったいないなあとは思うけど、一度死んだし、おまけみたいなもんだからな。メリスみたいないい子を助けられたんだから、差し引きで考えれば大黒字って――」「なんでお前はっ! いっつもそうなんだ!!」「ひっ、す、すみません」 俺がべらべらとしゃべっていたら遮られて胸ぐらを掴まれた。 胸ぐらっていうか、もう首を絞められてる。ぐえー。首絞めたまま前後に揺さぶらないでくださいぐえー。「自分を金か道具みたいに扱って! 天才だとか大賢者とか自慢するくせに実のところ自己評価が最低だ! 何が差し引きで考えたら黒字だ! あの旅で……お前は何度命を捨てようとした! 答えろ!」「い、命を捨てようとしたことなんて一回もないですよ。こう、命って大切じゃないですか。だからですね、有効活用をしなければならないわけです。俺ひとりの命でですね、大勢が助かれば、全体的にはプラスだよねえっていうか――」「だから! そういう考え方をやめろって言ってるんだ!」 俺はバシーンとテーブルに叩きつけられた。 その俺の腹に、ミストが顔を突っ込んでえぐえぐと泣きはじめる。 えっ、ナニコレ? 俺、何か地雷踏んじゃいましたか!?「お前が邪神との戦いで死んで、私が……私たちが、どれだけ悲しんだと思ってるんだ?」 えっ、えっ。「ヒロトが、1週間も何も話さずに壁を見つめていたぞ」 あの熱血バカが?「イエローは、何日も食事を受けつけなかった。カレーもだ」
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第15話 大賢者、干される

 すべてを吐かされた。 トップシークレットである「美少女になりたい」って願いについても漏れなくバレた。 死にたい。消えたい。夜空から女の子たちがわちゃわちゃしているのを心静かに見守っている、そんな星座に生まれ変わりたい、と俺は虚ろな心でかろうじて考えていた。「お前というやつは……呆れるほどにどうしようもないな……」「ごめんなさい……ごめんなさい……生まれてきてごめんなさい……」 俺は、存在しない涙腺から涙を流しながら土下座していた。「だって刑事さん、俺はねえ、俺は……美少女になりたかっただけなんだよ……あとカツ丼ください……」「誰が刑事か! カツ丼なんてあるかっ! あってもお前は食べられないだろ!」 たしかに食えない。このヒツジさんボディはわたぐるみなのだ。食事ができる構造になっていない。「刑事さん、刑事さん、俺が悪かったよう……。田舎のおふくろにだけは、黙っててくれないか?」「おい、この茶番はいつまで続けるつもりなんだ?」「申し訳ございませんでした」 俺はしゅびっと背筋を伸ばした。正座で。「問題を整理するぞ。まずひとつ目。魔力を生成する血肉がないこと」「代わりにもふもふボディを手に入れたぞ」「ふざけてると焼くぞ。次に、血肉に付随する経絡がないこと。というか、そもそもお前、どうやってその体を動かしているんだ?」「うーん、こう魂から魔力の線をこうにゅるにゅるっと伸ばしてね、綿をこう、ギュッと締めたり伸ばしたりするかんじ?」「経絡を魔力操作だけで再現してるのか……相変わらずわけのわからないことをするな」「俺からするとできない方がわからん」「黙れ、反則ヤロー。みっつ目、お前の体は常に魔力を消費しながら動いている。魔力が回復できない状況でそれだから、そのうち魔力切れになって死ぬ。これで合ってるか?」「合ってるよ。なるべく漏れないように気をつけてはいるが、じっとしてても徐々に垂れ流されていくしな」 ミストは顎をさすって何事か考える仕草をした。「なあ、お前、あのメリスって子に魔力を流し込んでるだろ? その逆はできないのか?」「魔力を吸う? うーん、殻を開けなきゃいけないからなあ。流出する魔力の方が十中八九デカくなる」「その『殻を開ける』という感覚はよくわからんが……そうだ、私がお前に魔力を注ぐことはできないか?」
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第16話 大賢者、癖になってる

「次に検討するのは、血肉のある肉体に乗り換えられないか、だな」「うーん、それ、気が進まないんだよねえ」 俺はカーテンレールでぶらぶらと揺れながら答える。「試したのか? どうなったんだ」「まず、何かの死体に乗り移っても意味がない。血肉が死んでいるから、結局このヒツジさんボディと変わりがない。だんだん劣化していく分、ヒツジさんボディより具合が悪いな」「なるほどな。生きているものならどうなんだ?」「そっちは試してないが、『魂の器』がぶっ壊れて乗り移った生き物が死ぬのはまず間違いない。んで、下手をすると俺も巻き込まれて共倒れになる」「そうか、すると実験してみるわけにもいかないな……」 ずっとヒツジさんボディのまま死を待つつもりは俺にもなかったのだ。 そのへんの昆虫の死骸に憑依してみたり、しゅおんしゅおんしているメリスから魔力を補給できないかなど、俺は俺であれこれ試してみた上で手詰まりだったのである。「魔力補給の方向は有効なアイデアが思いつかんな。この件はひとまず置いておこう。次、対症療法的ではあるが、魔力の流出を減らす手立てを考える」「先に言っておくけど、魔封陣の中でずっと暮らすなんてのは嫌だぜ。たしかに流出は減るだろうが、体も動かせなくなるし、そんなんじゃ死んでるのと変わらない」「お前を封じている間に、私が研究を進めればいいんじゃないか?」「勘弁してくれ。俺がじっとしてるのが苦手なのは知ってるだろ?」 俺はカーテンレールに吊るされながら、わちゃわちゃと手足を動かした。「それに、封印されてようが流出がゼロになるわけじゃない。時間を稼いでいる間に対策が見つけられなかったら最悪だ」「それもそうだな……」 ミストは形の良い唇に細い指先を当てて考え込む。「魔導線……魔導線が使えるかもしれないな」「魔導線? なんだそりゃ?」「説明するよりも見せた方が早い。試作品を持ってくるから少し待っててくれ」 俺が風に揺られていると、ミストが針金の束のようなものを持って戻ってきた。 それを30センチくらいで切ると、その端を持つ。「これは、こうして使う。《発火》」 針金の反対の端から火花が散った。「魔力を通す金属線だ。手もとで発現するはずの魔法を、こうして離れたところで発現できる」「へえ、面白いな。ちょっと貸してくれよ」 ミストから針金を受け取
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第17話 大賢者、もっと癖になってる

 ――虚無の谷 それは、白骨の森を越え、氷壁に覆われた山脈の先にある。 山脈には神話の時代から生きる黒竜が棲まう。 山脈の向こうには、深い深い谷がある。 伝説では、神々の争いによって大地が引き裂かれた跡なのだという。 底の見えぬ断崖の先には、瘴気に汚染された荒野が広がる。 人族はもちろん、魔物すら寄り付かない秘境である。「なんでお前の師匠はそんなところに住んでいるんだ……」「人間嫌いだったからなあ」「度を越しているぞ」「俺もそう思う」 師匠は色んな意味で頭がおかしかった。 貧民窟から俺を拾った理由もわからんし、その後の指導もおかしかった。 俺が天才でなければついていけなかっただろう。「つまり、俺が天才でよかったってことだ」「突然何を言い出している」 ミストがため息をついた。「それはともかく、虚無の谷だと? すぐにキャラバンを組んで出発したとしても、何ヶ月かかるかわからんぞ」「そうなんだよ。歩きや馬だと、行って帰ってくる間にメリスがパンクしかねない」「それ以前に、無事に行き来できるかが問題だろうが。白骨の森を抜けるだけでも大仕事だ」「あそこはねえ、スケルトンが無限湧きしてくるから鬱陶しいんだよね」「鬱陶しいで済ませるな。24時間、途切れることなく襲ってくるスケルトンの群れなど軍の精鋭でもそうそう対応しきれん。というか、お前はどうやって虚無の谷から出てきたんだ? なにか特別な方法があるんじゃないか?」「いや、根性で……」「根性?」「気合いと言い換えてもいい」「同じことだろうがっ!」 またしてもヒツジヘッドをごつんされた。 えへへ、ありがとうございます。「師匠がさ、虚無の谷から脱出できるまでが修行だって言ってたわけよ。それでね、少年時代の俺は哀れにも絶望的な脱出ゲームに挑戦してたわけ」「それで、脱出はできたのか? ……いや、脱出ができたから外の世界にいるのか」「まあ、何度も死にそうになったよ。んで、ある日、青空を見上げてね。きれいな鳥さんが大空を優雅に舞っていたんだ。それでね、俺も飛べばいいじゃんって思って。飛んじゃえば山も森も関係ないし、すいーっと通過できるなあと。んで、飛べる飛べる飛べる俺は飛べる飛ぶぞー! って気合い入れたら、飛べた」「は?」「それで、白骨の森を越えて人間界に帰ってきたわけよ」「はあ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第18話 大賢者、王都を出る

 俺たちは幌馬車に大量の食糧を積んで王都を出た。 御者が手綱を取り、お馬さんがぱっかぱっかと呑気に蹄を響かせている。 俺は対抗心を燃やしてカカカカカカッ! とどんぐりタップを決めた。「こうして旅をしていると、昔を思い出すな」「俺の感覚だと、せいぜい数週間前なんだよなあ」「私からすれば百年ぶりだ」「ミスト先生は、百年も生きてるの?」「ああ、私はダークエルフだからな。寿命はあってないようなものだ」「じゃあ、ミスト先生はおばあちゃんなの?」「ははは、おばあちゃんか。そんな風に言われることはなかったな」「具体的には何歳なん?」「焼くぞ、毛玉」 どんぐりタップをしながら質問したら、ミストから罵倒された。またしても新バージョンだ。ぞくぞくした。「ヒツジの旦那ァ! お目当てが来たようですぜ」 幌の外から御者の声が聞こえた。 冒険者ギルドで素性のしっかりしたやつを紹介してもらったが、やはりガラが悪い。百年経っても冒険者なんてのはこんなものだ。「10匹かそこらは来てますぜ。護衛は別料金になるけどよォ、どうしてもって言うなら――」「いらないいらない、チンピラは引っ込んでなさい」「チンピラっ!? これでも俺は銀等級の――」 余計な真似をしようとする冒険者を馬車の影に引っ込ませ、代わりに俺たちが外に出る。 そして俺はメリスにヒツジさんアームを掴まれてぶんぶんと振られた。「タマゴ、カエセ! ゲギャギャギャ! ……って、この前の子じゃないか」「メリスだよっ! ハーピーさん、こんにちはー!」「メェぇぇー!」「げっ、ヒツジ野郎までいんのかよ」 タマゴをぶつけてきたハーピーが馬車の幌の上にばっさばっさと降りてきた。 残りの6羽は上空を旋回しながらゲギャギャギャ鳴いている。「ろくに護衛もつけねえで、こんなとこをうろちょろしてると危ねえぞ」「ハーピー相手に護衛などいらん。チョーダー王立大学院魔術部第二席、このミストがいるのだからな」 ミストがワンドを構えて一歩前に出る。 いいねえ、イキってるねえ。こういうことをやるキャラじゃないから新鮮だねえ。「最初にはったりをきかせないとナメられると言ったのはお前だろうがッ!」「ええー、でもー、俺は別に演技指導まではしてないしー、お前が考えてやったやつだしー、『王立大学院魔術部第二席、このミストがいるの
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第19話 大賢者、空に舞う

「すごーい! 高ーい! 見てみて、あっちに王都が見えるよ!」「すごいねえ、王城がおもちゃのおうちみたいだねえ」 ハーピーの群れに吊り下げられて空を飛ぶ俺たちの眼下には、広大な景色が広がっている。 はじめての飛行体験に、メリスちゃんも大はしゃぎだ。 広い草原を貫く、細く頼りない街道の先には王都が見えた。 古代遺跡を流用して作られたと言われる王都は細長く切り出した石材をそのまま縦に並べたような姿で、こうして上空から眺めるとなんとも頼りないものに感じる。「ふむ、これがハーピーの固有魔法か。風を操ると言われていたが、それだけではないな。重力に干渉している? じつに興味深い」 メリスが地上に興味津々な一方で、ミストは間近に見るハーピーに興味があるようだ。 金属製の四角い箱に、レンズをはめ込んだ道具をハーピーに向けている。「なあなあ、その道具なに?」「ん? ああ、百年前にはなかったな。これは映魔機という魔道具で、動く景色をそのまま記録できる優れものだ」「景色を記録?」「見せた方が早いな。ちょっと、いつものうっとうしい踊りをやってみろ」 ミストが映魔機なる道具のレンズを俺に向けてきた。 なんだかよくわからんが、俺はどんぐりタップダンスを決めた。 ふふ、きっと俺は、空でタップを刻んだ世界で最初のヒツジさんだぜ!「そもそもわたぐるみなんぞに憑依した人類はお前が初めてだ。何をやっても世界初になるから安心しろ。ほら、撮れたぞ。見てみろ」 映魔機の裏には鏡のようなものが付いていた。 そこに愛くるしくもキレのよい動きでタップを踏むヒツジさんの姿があった。「へえ、すげえな。こんな面白いものができたのか」「そのままではないが、発掘品を再現したものだ。まったく、古代文明とはどれほどのものだったのか……いまの我々は、どれだけ研究を重ねても降魔災害以前の文明にまるで追いつけていない」「降魔の前は魔法がなかったんだろ? いまの方が勝ってることもあるんじゃないかと俺は思うけどなあ」「さて、どうだかな」「ゴーマサイガイってなあに?」 俺とミストが映魔機をいじりながら話していたら、メリスちゃんが右手を挙げて質問してきた。 手を挙げるのは学院の授業の時に習ったのかな? えらいねえ。「降魔災害というのはな、数百年から千数百年前――ずうっと大昔に起きた大災害のこ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第20話 大賢者、黒竜山脈へ至る

 白く枯れた森を飛び越え、俺たちは黒竜山脈へと向かっている。 骨のような木立を縫って、スケルトンの大群がガシャガシャと手を振りながら追いかけてくるので振り返してあげた。 やーいやーい、悔しかったらここまでおいでー。「おい、ヒツジ野郎。お前だけ落っことしてやろうか?」「えっ、なんで?」「こっちが必死に飛んでんのにのんきに遊んでっからイラつくんだよっ!」「自分が苦労してるからって他人にも同じ苦労をさせようって発想はよくないよ? 先輩による後輩イジメが伝統として肯定されちゃってる組織なんかによくあることだ。自分が大変だったんだから、後輩も大変な目に合わないと先輩的には不公平に感じちゃうんだね。理不尽な通過儀礼なんかがあったりする。おたくのチーム、魔土怒羅権だっけ? メンバーのみなさんは大丈夫? ピュイさんから理不尽なパワハラとか受けてない? 悩み事があったら相談に乗るよ? とりあえず、現状で不満な点から――」「こいつマジで何なんだよ……」「すまん、こういうやつとしか言いようがない。雑音だと思って聞き流してくれ」「お、おう」 ハーピーたちの疲労を少しでも紛らわせようと、一生懸命しゃべったり踊ったりしている俺の努力は雑音の一言で片付けられてしまった。真心が伝わらないって、悲しいね。 退屈だからメリスちゃんに相手をしてもらおうと思ったら、すやすやと眠っている。この絶妙な浮遊感、眠くなるのもよくわかる。俺もいっそ眠れたらいいんだが、ヒツジさんボディでは睡眠が必要ない――というか、そもそも眠れない。 仕方がないから、俺はカゴの縁に立って眼下のスケルトンをどんぐりタップを刻みつつ数えはじめる。目算だが、2万も数える頃には黒竜山脈にたどり着くだろう。 いくら身体を動かしても、肉体的な疲労を感じないのも良いんだか悪いんだか。息が上がることもなければ、汗をかくこともない。前世じゃ運動は嫌いだったのに、いざ失ってみると疲労感さえ惜しく感じてくるのだから人間とはわからないもんだ。 そんなこんなで適当に時間をつぶすこと数時間。 千メートルを越える氷の絶壁が間近に迫ってきた。白骨の森に続き、黒竜山脈が難所と呼ばれる由縁である。 通常の冒険者であれば、氷壁に走るひび割れを伝いながら地道に登っていくことになる。 しかし、俺たちには空飛ぶヤンキーチ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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