All Chapters of 娘の命日に離婚宣告。クズ夫が土下座で大後悔: Chapter 141 - Chapter 150

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第141話

――そうだったのか……おばあさんはとうに気づいていて、一度だって私を疑ってなどいなかったのだ。遥の涙はさらに激しくあふれた。「でも……おばあさんはショックを受けて倒れてしまったじゃない」「そうだね」貴子の目にも涙が滲んだ。「嘘だと分かっていても、希ちゃんのことを聞かされたら、やっぱり私は……」言葉が続かなくなった彼女を、遥はきつく抱きしめた。「ごめんなさい、全部私のせいなの。もっと早く気づいていれば……」「ううん、おばあさんのせいじゃないよ」貴子は彼女の背をそっと撫でた。「この間、辛かったね」この子はきっと、希がもう亡くなっていることをとうに知っていながら、ずっと自分の前では隠し通していたのだろう。希が海外で治療を受けていて、まだ希望があるかのように装って、それは彼女にとって、どれほど辛いことだったか。「辛かったね」――その言葉を、遥はようやく聞くことができた。その瞬間、彼女は震えが止まらなくなった。ずっと自分ひとりで重荷を背負い込み、心から休まる時など一度もなかった。貴子のそばにいる時だけ、自分は肩の力を抜くことができた。「私は平気。おばあさんさえ元気でいてくれれば」貴子は手を離し、遥の顔をまじまじと見つめた。「痩せたねえ……」彼女は愛おしそうに遥の頬を撫でると、ふと戸口に立ったままの怜司へと目を向ける。その声が急に冷たくなる。「怜司、こっちに来なさい」怜司は黙ったままベッドのそばへ歩み寄った。「この間、遥ちゃんをどういう扱いをしてたんだい」相手が答えないのを見て、貴子の目つきはさらに鋭くなった。「こんなに痩せてしまって、お前は気づきもしなかったのかい」怜司は俯いたまま、何も言わなかった。「それに、私が倒れたこと。あなたはまた遥ちゃんを責めたんじゃないのかい。また信じてやらなかったんだろう」立て続けの問いに、怜司は言葉を失った。最後に、ようやくひとことだけ絞り出す。「……はい」「やっぱりね!」貴子はベッドを叩いて怒った。「あなたという子は、どうしてこうも分からず屋なんだい!遥ちゃんみたいなできた嫁を、どうして大事にできないのよ!」遥は慌てて貴子の手を取った。「おばあさん、怒らないで。体に障るから」「怒らずにいられるもん
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第142話

「何、この匂いは?」貴子は突然眉をひそめ、手で鼻先を扇いだ。「どこの羽虫が紛れ込んだんだい?さっさと追い出しとくれ。でないと体に障るよ」花梨の泣き声がぴたりと止まり、顔からすっと血の気が引いた。怜司が一歩前に出て、壁にぶつかろうとする花梨を抱き止める。「馬鹿な真似はよせ」「怜司……」花梨は涙に濡れた目で彼を見つめた。「私……本当にもう生きていけない」いきなり「生きていけない」とまで言うのは大げさだったが、服の破れや全身の傷を見れば、何かあったことだけは明らかだった。怜司は眉を寄せた。「一体何があったんだ」花梨が答える間もなく、貴子が先に切り返し、冷たい一瞥を向けた。「生きていけないなら、死ねばいいでしょう」花梨はすすり泣きながら、震える声で言った。「私、莉奈と普通に過ごしていただけなのに、呼び出されたんです。遥さんに用があるって言われて、それで行ったら……」そう言うなり、彼女は不意に怜司に取りすがり、その袖をきつく握りしめた。「外に出たら、大勢の男たちに囲まれていて、あの人たちに……あの人たちに、私が……」花梨はますます悲痛に泣き崩れた。「昔の恐ろしい出来事を思い出して、本当に怖くて……っ」彼女は体ごと怜司に寄りかかった。「いい加減にしなさい!」貴子が突然厳しい声を上げた。「芝居がしたいなら外でやりな。私の病室を汚さないでおくれ」花梨は呆気に取られた。涙はまだ頬に残っている。「私は……本当のことを言っているんです」「何が本当だっていうんだい」この女狐は、相変わらず芝居がうまい。貴子は冷ややかに花梨を見据えた。「遥ちゃんが人を雇ってあんたを襲わせたって?証拠はあるのかしら」「私……証拠なんてありません。でも防犯カメラを調べれば分かります!」花梨は一瞬言葉に詰まった。「証拠もないのに、ここでよくもそんなでたらめを!」貴子の声がさらに冷たくなる。「私がもうろくして、あんたの芝居を見抜けないとでも思ってるのかい!」花梨の顔はますます青ざめた。「本当です!信じられないなら防犯カメラを調べればいいじゃないですか」「防犯カメラだって?」貴子は冷笑した。「ふん。それなら聞くけどね、遥ちゃんがあんたを呼んだと言ったのは誰?その連中はどんな
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第143話

花梨はすかさず、いっそう悲しげに泣き崩れた。「怜司、お願い、私のために何とかして!」怜司が眉をひそめ、何か言おうとしたその時、「うぇーん、ママぁ」と幼い泣き声が聞こえた。莉奈もその場で花梨の足にしがみつき、泣きじゃくり始める。「あらま、莉奈ちゃん!こっちへおいで」莉奈はすすり泣きながら、おずおずと貴子を見つめ、それから花梨を見て、結局貴子の懐に飛び込んだ。「ひいおばあちゃん!」莉奈はますます悲しそうに泣いた。貴子は愛おしそうに莉奈を抱きしめた。「どうしたの、莉奈ちゃん。泣かなくていいのよ。ひいおばあちゃんがいるからね」貴子は莉奈の背を優しく撫でながら、慈しみに満ちた眼差しを向けた。一方、花梨がまだこの部屋から出て行かないことに、貴子は息が詰まるほど不快に感じていた。莉奈を抱いたまま、花梨を冷ややかに見据える。「怜司、何をぼんやりしてる!さっさとこの女を連れ出しな!」本当に1秒だってこの女の顔を見ていたくない。見れば見るほど腹が立つ。今の花梨の様子を見る限り、長居させるべきではないと判断し、怜司はちょうど彼女を連れて出ようとしていた。「行こう、まず傷の手当てをしてもらいに行くぞ」そこで貴子はふと違和感に気づき、慌てて止めた。「医者のところへ行かせればいいだろう。遥ちゃんの夫のくせに、他の女にそんなに親身になってどうするんだい!」遥はすでに、胸を抉られるような思いでその光景を見ていた。怜司が花梨を気にかけ、自分の上着を着せてやったあの仕草を。彼をもう愛さないと決めていたはずなのに、彼が無意識に花梨に優しくする様子を見ると、どうしても苦しくなってしまう。そこまで好きなら、いっそ自分と離婚して堂々と花梨と一緒になればいいものを。「やめて、私怖いの!あの時のことを思い出して……あなたがいないと私、だめなの」貴子の言葉を聞いて、花梨はさらに大げさに怯えてみせた。彼女の十八番だ。怜司の抱いている罪悪感を利用すれば、今回もきっとうまくいくと確信していた。実のところ、今回彼女は本気で遥を陥れるつもりはなかった。遥と怜司がすでに、誰かがずっと遥を陥れ続けていると気づいていることを、彼女自身も分かっていたからだ。だからこそ今回、あえてこんな稚拙な自作自演で遥に疑いが向くように仕向けたの
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第144話

遥はため息をついた。もうここまで来たからには、これ以上隠し続けるつもりはなかった。以前、彼女が離婚を切り出したときは、貴子が強く反対した。だが今回ばかりは、いくらおばあさんの頼みでも従うわけにはいかなかった。「おばあさん、この結婚は、もう終わらせなきゃいけないの」その言葉を聞いた途端、貴子の顔からさっと血の気が引いた。胸元を押さえながら、震える声で言う。「遥ちゃん、そんなこと言わないでおくれ。私が孫の嫁だと認めてるのは、あなただけなんだよ。ほかの誰だって認めるつもりはないからね」そして、きっぱりと言い切った。「どうしても別れるっていうなら、私が生きているうちは認めないよ!」言い切った途端、貴子の胸に痛みが走った。今は療養こそが大切な時期だ。遥は今この場で離婚話を進めるつもりはなかった。ただ、ああ言ったのは、この離婚への決意が生半可なものではないと、怜司にはっきり知らしめるためだった。振り返ると、怜司はまだ花梨を抱きかかえていた。なんとも皮肉な光景だった。「怜司、早く大事な花梨さんのところへ戻ったら?さっき「ひどい目」に遭ったばかりで、あなたの慰めが必要でしょうから」怜司は眉を強く寄せ、顔色を悪くしたが、貴子の手前、それ以上は何も言わなかった。花梨を抱えたまま貴子に一礼し、部屋を出ていく。貴子は焦って遥の手を掴んだ。「遥ちゃん、やめとくれ!もしあの女狐のせいだって言うなら、おばあさんが今すぐ遠くへ行かせてやる。二度とあなたたちの前に現れさせやしないから!勢いで離婚を決めちゃだめだよ。離婚なんて軽々しく決めることじゃないんだから!」遠くへ行かせる?まるでかつて、怜司を無理やり自分と結婚させた時と同じだ。けれど、たとえ花梨を遠くへ追いやったところで、彼の心はずっと花梨にあり続けるのではないか。そんなことをしても、もう何の意味もないと自分では分かっていた。「おばあさん、もう私のことで心配しなくていいよ。たとえ花梨さんがいなくても、私と怜司はもう元には戻れない。あの人は私を愛してないの。おばあさんが何をしてくれても、それだけは変わらないよ」その言葉を聞いた貴子は、胸を締めつけられるような思いで、ぽろぽろと涙をこぼした。「遥ちゃん……もう、可哀想に。だけどね、お願いだから、怜司とは離婚し
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第145話

遥が自分から会いに来たことに、怜司は驚きを隠せない様子だった。貴子に何かあったのかと思い、表情を険しくする。「おばあさんに何かあったのか」遥は怜司には取り合わず、まっすぐ花梨の前まで歩み寄ると、冷笑を浮かべた。「花梨、さっきのは楽しめた?」花梨は一瞬きょとんとしたが、すぐにしおらしい表情を作る。「遥さん、どういうつもり?私、さっきあんな恐ろしい目に遭ったばかりなのに、どうしてそんなことが言えるの?」恐ろしい目、ね……遥にはまるでそう見えなかった。むしろ花梨はそれを存分に楽しんでいるようにさえ見えた。「恐ろしい目?それって、あなたが自分で仕組んだあの芝居のこと?」図星を突かれ、花梨の顔がさっと青ざめ、声が震え、視線が泳いだ。「えっ……何を言ってるの?さっぱり分からないわ」遥の今日の目的は、花梨の嘘を暴くことではなかった。どうせ証拠などないのだ。証拠が見つからないなら、いっそ潔く認めてやればいい。認めようが認めまいが、どのみち怜司たちは自分が裏で手を回したと思うだろう。どうせ濡れ衣を着せられるなら、せいぜい存分に味わわせてやればいい。遥は身をかがめ、花梨に顔を近づけると、声を落として言った。「本当のことを教えてあげる。あの人たちは私が手配したの。あなたをひどい目に遭わせてやれって、私が指示したのよ。理由は単純、あなたが気に入らないから」これは花梨にとってまったく予想外だった。遥は頭がどうかしたのか、わざわざ自分がやってもいないことを認めるなんて。けれど、そんなことを花梨が気にするはずもない。自ら罠に飛び込んできたのなら、利用しない手はない。すぐさま驚いた表情を作ってみせる。「あなた……よくもそんなことを!怜司、聞いたんでしょう!遥さんどうしてこんなひどいことができるの?私、もう生きていけない……!」怜司の顔色が瞬時に険しくなり、奥歯を噛みしめながら冷たい声を発した。「遥、自分が何を言っているか分かっているのか」「もちろん分かってるわ。怜司、ずっと私のことを気弱で扱いやすいと思っていたでしょう。今、見せてあげる。私が本当はどんな人間か」花梨は怜司の袖をつかみ、ぼろぼろと涙をこぼした。得意げな表情を浮かべる遥を見て、怜司は胸が締めつけられるような痛みを覚えた。「お前がやっ
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第146話

怜司って、本当にどうかしてるんじゃない?こんな男と関わりたがる人の気が知れない。平然と二人の女の間を行き来する、典型的な最低男だ。遥は嫌悪もあらわに彼を押しのけた。「結構よ、汚らわしい。花梨のところへ行けば?もしかしたら、今頃彼女、あなたにあの男たちに残された『痕跡』を消してもらうのを、心待ちにしてるんじゃない?」そう言いながら、彼女は花梨を見下すような目で眺め回した。あまりに侮辱的なその言葉に、花梨は怒りで我を忘れるほどだった。一体、今日の遥はどうしてしまったのか。捨て台詞を残すと、遥はさっさとその場を後にした。言いたいことを言い切り、胸がすっとした。怜司と花梨の顔を振り返って見る気にもならなかったが、きっとどちらも見るに堪えない表情をしているに違いない。まだ浮かれた気分に浸りながら歩いていると、不意に靖也にぶつかった。「まだ帰ってなかったの?」靖也はいかにも不服そうな顔をした。「怜司さんに大事な話があるんですよ。これも遥さんのためなんです」――彼が私を助ける?遥が疑わしげな目を向けると、靖也は軽く咳払いをした。「信じてください。一緒に入ってくれれば、いい見世物が見られるはずです」さっき見世物はたっぷり見せてやったのに、今度は見る側に回るというのか。人生、まるで芝居のようなものだ。靖也は遥の肩を抱くようにして病室へと入っていくと、挑発的な視線を怜司に向けた。遥は靖也の馴れ馴れしい仕草に内心少し戸惑いを覚えたが、怒りで顔を強張らせる怜司を見ると、たまらなく痛快な気分になった。そこで彼女はわざと靖也の手に自分の手を重ね、見せつけるように笑った。「やっぱりあなたは分かってくれるのね、私が何を望んでいるかを」怜司の顔色が瞬く間に暗く沈んだ。花梨を支えていた手を離すと、遥の前まで歩み寄り、怒りを押し殺しながら言った。「遥、どういうつもりだ!」遥は顎をわずかに上げ、臆することなくその視線を正面から受け止め、軽い口調で答えた。「どういうつもりって?見れば分かるでしょう。靖也が私に言い寄ってくれているの。あなたよりずっと面白い人だわ」怜司の拳が握りしめられ、こめかみの青筋がかすかに脈打った。彼は遥を凝視し、その表情から何か綻びを見つけ出そうとしたが、彼女はあまりにも自然に、どこ
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第147話

その言葉を聞いて、花梨は甘えるような声を出した。「靖也さんったら、何言ってるんですか。私と怜司は、ただの友達ですよ」ただの友達同士で子供までいるとは、ずいぶん都合のいい話だ。冗談にしたって、スケールがでかすぎる。遥は思わず声を立てて笑ってしまった。「友達、ですね」靖也が片眉を上げ、面白そうに花梨を見る。「花梨さん、それで押し通すつもりです?さっきだって、怜司にあんなふうに抱き寄せられて慰めてもらってたじゃないですか。あれもただの友達同士ってことですか?」花梨は唇を噛み、気まずそうに俯いた。目の縁がうっすら赤くなっている。遥はそんな彼女を横目に見た。そもそも自分がここまで来たのは、靖也が「いい見世物を見せる」と言ったからだ。「それで、さっき言ってた見世物って何?早くして。何もないなら帰るけど」靖也は肩をすくめ、何でもないことのように言った。「そう急かさないでくださいよ。実はさ、花梨さん、前から俺にしつこく近づいてきてたんですよ。俺が好きなのは遥さんだけだって何度も言ったんだけど、なかなか分かってくれなくてね。だから今日は怜司を探しに来ました。自分の『友達』くらい、ちゃんと面倒を見てもらおうと思って」花梨の顔から、さっと血の気が引いた。靖也は何を考えているのだ。自分たちは同じ目的で動いていたはずなのに、どうして今さら遥の味方をするような真似をするのか。まさか本当にあのしつこい遥に、心まで持っていかれたとでもいうのか。「靖也さん!何言ってるんですか?私がいつあなたにつきまとったっていうんですよ!根も葉もないことを、よくそんな口から出せるものね!」靖也は冷たく笑うと、ポケットからスマホを取り出し、録音を再生した。すぐに、花梨の甘ったるい声が流れた。「靖也、そんなに私のこと避けないでよ。あなたと遥さんが何でもないのは分かってる。私たち、同じ目的で動いてる仲間でしょ?」録音が終わる前に、花梨の顔は真っ青になっていた。怪我のことも忘れたように勢いよく飛び出し、靖也のスマホを奪おうとする。だが靖也は、軽く身を引いただけでかわした。「花梨さん、何してるんですか?図星でも突かれました?」靖也は片眉を上げ、何も恐れていないような顔をしている。花梨は怒りで全身を震わせながら、靖也の鼻先に
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第148話

靖也が動画を再生すると、スマホの画面に突然、妙なアニメ調の猫が飛び出し、大げさな効果音とともにぐにゃぐにゃと踊り始めた。「ハハっ!」靖也は自分が先に吹き出した。「見てよ。この猫、めちゃくちゃ面白いでしょ!」病室の空気が一瞬で凍りついた。花梨の顔は青ざめたかと思えば、白くなり、今度は真っ赤に染まった。花梨は心の中で悪態をついた。さっきまで本気で肝を冷やしていたというのに、この頭のおかしな男め、よくもこんな悪ふざけを。遥は呆れたように目を剥くと、背を向けて立ち去ろうとした。「……くだらない」「待って!」靖也が彼女の手首をつかんだ。「遥さん、そんなに急いで帰るなよ。お楽しみはこれからだよ」彼は遥の耳元に顔を寄せ、声を落として言った。「見ろよ、花梨のあの顔。傑作だろ」遥が彼の視線を追うと、確かに花梨は今にも噛みつきそうな形相をしていた。思わず口の端が上がる。「あなたも相当腹黒いわね」ようやく分かった。靖也はただ花梨をからかっているだけなのだ。ただし、からかいながらも、本気で彼女を追い詰めるつもりまではない。その匙加減は心得ているらしい。巻き添えを食ったのは怜司も同じで、彼は乱暴に靖也の襟首をつかみ、冷え切った目つきで睨みつけた。「お前、一体何の真似だ」靖也は両手を上げ、降参するふりをした。「おいおい、本気になるなよ。ほんの冗談だろ。ただ……」彼は意味ありげに花梨を一瞥した。「やましいことがある人間の顔ってのは、見ていてなかなか面白いなってね」花梨は全身をびくりと震わせながらも、無理やり笑みを作った。「靖也、どういうつもり!?さっきから私のこと陥れてばっかり……私、あなたに何をしたっていうのよ!」「別に」靖也は乱れた襟元を整えながら言った。「ただ、誰かさんに『やりすぎは禁物だ』って教えてやってるだけさ。あまり調子に乗るなよ」彼は言葉を切ると、花梨の耳元で、ふたりにしか聞こえない声で囁いた。「いつまでも誤魔化せると思うなよ」このふたりの間には、絶対に何か秘密がある。遥は青ざめた花梨の顔を見やりながら、この見世物がますます面白くなってきた。「靖也」彼女は彼の袖を引いた。「行きましょ」靖也が片眉を上げた。「もう帰るのか?」「ええ」
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第149話

怜司は彼女の背を軽く叩いたが、その目は恐ろしいほど冷え切っていた。花梨が泣き疲れて眠りに落ちると、彼は足音を忍ばせて病室を出て、ある番号に電話をかけた。「白川花梨と藤井靖也の関係を調べてくれ」声を落として言う。「特にここ半年の動きをだ」電話を切ると、怜司は壁にもたれかかり、こめかみを揉んだ。花梨の世話を終えた怜司は仕事へと向かった。グループの仕事がここ最近、かなり溜まっていた。怜司が立ち去ってほどなく、花梨はぱっと目を見開いた。枕の下から素早く予備のスマホを取り出すと、足音を忍ばせて洗面所へ向かい、鍵をかけた。電話が繋がった瞬間、彼女は歯の間から絞り出すように言った。「藤井靖也、あなた、どうかしてるの!?」電話の向こうから、鼻で笑う声が聞こえた。「おや、もう悲劇のヒロインごっこはおしまいか?」「さっきのがどれだけ危なかったか分かってるの!?」花梨は声を落とした。「怜司がもう疑い始めてるのよ!」計画はあと一歩でうまくいくところだったのに、靖也のせいで台無しにされた。もし遥がちょうど誤解されていたあの一件がなければ、あの録音だけなら、怜司が花梨を信じることはなかっただろう。もっとも、あの録音自体は本物なのだが。「何を疑うって?」靖也は気のない口調で言った。「俺とお前が裏で肌を合わせてる仲だってことか?それとも……」彼は一拍置いた。「お前のお腹の子が、本当は怜司の子じゃないってことか?」花梨は全身を震わせ、危うくスマホを落としそうになった。「あなた……!」「俺がどうしたって?」靖也は冷笑した。「忘れたのか?俺たちは同じ穴のムジナだろ」「だったら、どうして遥の味方なんてするのよ!」花梨は歯を食いしばった。「私を助けるって約束したじゃない!」この男、仲間だということはまだ覚えているくせに、計画をぶち壊しておいて、よくもそんなことが言えたものだ。「助けるだと?」靖也が彼女の言葉を遮った。これこそが、今日の彼の本当の目的だった。「お前、俺の目の届かないところで随分と好き勝手やってくれたな。遥を襲わせたうえ、おばあさんまで傷つけて。一歩間違えば死人が出てたんだぞ」花梨は拳を握りしめた。「それがどうしたっていうのよ!あの女は当然の報いを受
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第150話

ここ数日、遥はずっと貴子のそばに付き添い、自分の身に起きた出来事を語って聞かせていた。一方、怜司は花梨と遥の間を行き来していたが、今や貴子も遥も、彼を歓迎しなくなっていた。以前であれば、貴子はきっと怜司を遥のそばに留まらせただろう。だが今は彼女も怒っていて、にべもなく彼を追い払うようになったのだ。貴子の回復は順調だった。幸い、善人には天の助けがあるというもので、心臓移植はせずに済みそうだという。とはいえ、まだ経過観察は必要で、ショックを受けさせるわけにはいかなかった。一方で遥にも、この先の計画があった。母方の祖母が昔住んでいた家へ行って、手がかりを調べるつもりだった。出かける際、彼女は怜司には何も告げなかった。あの男をこの件に関わらせたくなかったからだ。貴子を守る手配は、怜司がすでに整えていた。だからこそ、遥も安心して出かけられた。……母方の祖母の旧宅はそれほど遠くはなかったが、近くもなかった。人目を避けるため、遥は結局バスで向かうことにした。バスに乗るのは本当に久しぶりで、よく乗っていたのは幼い頃だった。ほどなく、目的地に着く。幼い頃、祖母がいつも玄関先の籐椅子に座り、物語を聞かせてくれたことを思い出す。祖母の話が大好きだった。軋む木の扉を押し開け、書斎へと足を踏み入れる。そこはかつて彼女が一番好きだった場所だった。本棚にはさまざまな本が並んでいて、遥はそっと指先でそれらをなぞる。どれも読んだことのある本ばかりで、目を落とした瞬間、記憶が次々と胸に蘇ってきた。ふと、一見何の変哲もないノートの前で手が止まった。表紙はすでに黄ばんでいるが、文字らしきものは何も書かれていない。「これは……」幼い頃に父から教わった方法を思い出し、心臓が急に高鳴り始めた。バッグから文字を浮かび上がらせるための試薬と綿棒を取り出し、白紙のページに少しずつ塗っていく。やがて、文字が浮かび上がってきた。書かれていたのは【菅原】の文字だった。「やっぱり!」あの時、父がこの方法を教えてくれたのは、半分は遊びのつもりだったはずだ。まさかこんな形で役に立つとは。そして何より重要なのは、相手がこのノートの存在に気づいていなかったということだ。遥は興奮のあまり手が震え、さらに調べを進めようとしたその時、鼻
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