All Chapters of 娘の命日に離婚宣告。クズ夫が土下座で大後悔: Chapter 21 - Chapter 30

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第21話

自分の推しを悪く言われて、薫は明らかに不満そうに言った。「安心してください。遥さんみたいに口が悪い人、藤井社長は好きになりませんから。まあ、美人ですけどね」薫の言う通り、怜司は自分を好きじゃない。駿の頼みに応じ、遥は星影荘へと向かった。遠くから、花梨が邸宅を飾り付けているのが見える。華やいだ雰囲気で、何かのパーティーをしているようだ。これは莉奈の退院祝いのパーティーだと、遥は知っていた。そして、怜司はちょうど邸宅のエントランスに立って、招待客たちと挨拶を交わしていた。彼は遥を見かけても、その存在を無視して、そばの人との会話を続けた。遥も怜司に構う気はなくて、まっすぐ駿の家へと向かった。駿の家に着くと、彼は遥を家の中へ迎え入れた。「遥さん、本当に来てくれてありがとうございます。祖母はずっと、自分だけのために作られた曲を聴きたいと願っています。遥さんの才能なら、きっと満足させられると思うんです」遥は軽くうなずいて、礼儀正しく答えた。「鈴木先生、そう言っていただけると嬉しいです。引き受けた以上、精一杯いい曲を書きますから。鈴木先生のおばあさんの好みや、特別な思い出を、詳しく教えてもらえますか?そのほうが、曲の雰囲気やそこに込めるべき思いをうまく掴めるので」「はい」遥が駿の家に入ったと知って、花梨は計画を前倒しできると分かった。こっそりスマホを取り出し、靖也にメッセージを送った。【遥が来たから、計画を早めよう。莉奈のお祝いパーティーで、直接仕掛けましょう】メッセージを送り終え、彼女は画面を見つめたまま、無意識のうちに拳を強く握りしめた。しばらくして、靖也から返信が来た。【そんなに早く?でも、これはだんだん面白くなってきたな。怜司さんの娘のお祝いに顔を出せば、おばあさんも喜ぶかもしれない。兄弟仲がいいって褒めてくれるかもな。いいよ、協力する】靖也が同意して、花梨はほっとして、満足げに微笑んだ。まるで、もう成功したかのように。「莉奈、もうすぐ遥さんが来るのよ。かくれんぼをしたいって言ってたから、先に裏庭に隠れてなさい」かくれんぼと聞いて、莉奈はうれしそうに跳ねながら行った。そして花梨は駿の家へ向かい、手をあげて軽くドアをノックした。ドアはすぐに開いた。駿は花梨を見て、淡く笑った。
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第22話

「わかった」遥が承諾したのを見て、駿もそれ以上何も言えなかった。「では、お誘い、ありがたく受けさせていただきます」とだけ答えた。花梨は内心得意げだったが、口では丁寧に言った。「とんでもないです。お二人をお招きできるなんて、こちらこそ光栄です。パーティーはもうすぐ始まります。どうぞこちらへ」花梨は少し体を横にして、どうぞと手で示した。……きらびやかな照明の下、招待客たちは華やかな装いで、手にしたグラスが澄んだ音を立てていた。遥の圧倒的な美しさに、会場の視線は釘付けになった。その中の一人、ぱりっとしたスーツを着た中年の男性が、笑いながら怜司を見て冗談めかした。「藤井社長、こちらの見慣れないお顔は、ご紹介いただけないのですか?」怜司が口を開く前に、遥が先手を打った。「はじめまして。鈴木先生のお仕事でお世話になっているものです。今回は鈴木先生のおかげで、このパーティーに参加させていただく機会を得ました」彼女はわざと、「鈴木先生のおかげ」という言葉に力を込めた。自分がここに来たのは怜司とは一切関係ないと示すためだった。怜司は元々冷たかった表情を一瞬にしてこわばらせ、不快そうに眉をひそめた。彼の指に無意識に力が入り、グラスを握る関節がかすかに白くなっていた。遥はれっきとした自分の妻だ。でも皆の前で、あえて駿の付き添いであるかのように振る舞った。まるで自分とは何のつながりもないかのように。怜司は言葉にできない苛立ちを感じていた。周りの招待客たちも、この微妙な空気に気づいた。一瞬、にぎやかだった話し声が少し低くなった。どうやら彼らは遥の正体に、単なる付き添い以上の何かを感じ取ったようだった。一人の外国人男性が自信ありげに歩み寄る。「美しいお嬢さん、少し話しませんか?最高の時間をお約束しますよ」「いいですよ」遥はあっさりと承諾した。手を差し出そうとして、怜司のほうには見向きもしなかった。……れっきとした夫の目の前で、人の妻を口説いているなんて。怜司は深く息を吸い込み、無理やり笑みを浮かべると、遥の手を引き寄せた。「駿の客なら、しっかりもてなさないとな。よかったら招いた側の務めとして、俺が案内しよう」怜司もまた「駿の客」という言葉を強めに言った。先ほどの外国人は決まり悪そうに身を引いた。
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第23話

「ほかに用がなければ、私はもう失礼するわ。私たちの関係なんて、おばあさんを納得させるためのただの芝居に過ぎない。そのことを、忘れないでくださいね」遥の言葉に、怜司は何も言い返せなかった。この女はいつから、こんなに冷たくなったんだ?二人の関係を、あっさり切り捨ててしまうなんて。莉奈は怜司の実の子ではない。貴子に追い出された花梨が、ひどい目に遭って産んだ子だった。ずっと怜司は、花梨を追い詰めたのは自分と遥のせいだと思い続けてきた。元凶は、遥だ。遥が薬を盛って、花梨との結婚をぶち壊したせいなのだ。怜司は誰にもそのことを話したことがなかった。話せば、莉奈にも花梨にも悪い影響が出るからだ。「遥、教えておくが、莉奈は実は……」なぜか、怜司は遥に罪悪感を抱かせたかった。彼が衝動的に真実を漏らそうとしたその時、耳をつんざくような悲鳴が響き渡った。「莉奈!莉奈!どこにいるの?怜司、莉奈がいなくなったの……莉奈が」花梨の声は泣き声まじりで、今にも倒れそうなほど弱々しかった。怜司の顔がさっと曇った。考えるまもなく、前庭へと駆け出した。取り残された遥は、ぼう然としていた。さっき怜司は、何を言おうとしたんだろう?まあいい、怜司のことは放っておこう。今は莉奈を見つけるのが先だ。前庭に着くと、花梨が地面に崩れ落ちていた。髪は乱れ、顔中を涙で濡らし、抜け殻のようになっている。「どういうこと、なんで莉奈がいなくなったのか?」怜司は足早に花梨のそばへ寄り、しゃがみこんで、両手で彼女の肩をつかんだ。花梨は顔を上げて、潤んだ目で怜司を見つめると、泣きすがるように言った。「怜司……莉奈が言うには、遥と『かくれんぼ』をしてたの。でも見に行ったら、もうどこにも……」そう言って花梨は遥のほうを向き、勢いよく近づいてきた。そしてそのまま、遥の足にすがりついた。その眼差しには哀願の色が満ち、声はますます悲痛なものになっていった。「遥、私があなたから怜司を奪ったと思ってるんでしょう。でも莉奈は怜司の娘なの。怜司は私のことは好きじゃないの。お願い、莉奈を返して。これから先、遥の前にも、怜司の前にも、二度と姿を見せないから」遥はあまりのことに混乱した。瞳を見開き、戸惑う。ここに着いてから、莉奈の顔なんて一度も見て
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第24話

怜司はいつもそうだった。花梨のことになると、すっかり冷静さを失ってしまう。何も確かめず、ただ花梨の一方的な言い分だけを信じてしまうのだ。結果はもう分かっていた。でも遥は、悔しくて胸が激しく波打った。遥は感情を必死に抑えて、一語一句、はっきりと言った。「怜司、もう一度言うわ。この件は、私とは何の関係もない!莉奈ちゃんに会ったこともないし、そんなことするわけないでしょ!今いちばん大事なのは、私を責めることじゃない。早くあの子を探すことよ!あなたはあの子の父親でしょ?それくらい分かるはずよ」遥にとって、大人同士のもめごとに、罪のない子供を巻き込むなんて、絶対にあってはならないことだった。もし自分まで花梨みたいに、子供を冷酷に利用したなら……それじゃあ、花梨と何も変わらないじゃないか?遥は、莉奈のことが嫌いではなかった。怜司は冷たい眼差しで、怒りを殺して遥に言った。「遥、莉奈に何かが起きたら、お前を一生許さないと思え」この人には、話が通じないの?でも、もう彼と言い争う気にもなれなかった。「怜司、誰かに恨まれるようなことをした覚えはない?」恨まれるようなこと?怜司は鼻で笑った。この何年か、ビジネスの世界で戦い続けてきた。敵に回した相手なんて、数えきれないほどいる。ただ……怜司はふと靖也のことを思い浮かべた。何か言おうとしたその時、ゆっくりとした足音が近づいてきた。ポケットに手を突っ込み、どこか冷めた笑みを浮かべた靖也が、プレゼントの箱を手にのんびりと近づいてきた。「おや、ずいぶん賑やかだね。どうして俺が来たとたん、話をやめるんだ?歓迎してくれないのかな?」靖也は手にした箱を軽く持ち上げ、笑いながら言った。怜司は靖也をじっと見つめ、探るような口調で言った。「なんだ、靖也か。ずいぶんタイミングがいいな。莉奈がいなくなった。お前がこの件に関わってなきゃいいがな」靖也は大げさに目を見開き、両手を広げて、いかにも心外だという顔をした。「怜司さん、何を言うんだ?そんなことするわけないだろう?今日はわざわざ莉奈ちゃんのお祝いにプレゼントを持ってきたんだよ。そんなことするはずないさ。絶対に俺じゃないよ」そう言うと、靖也の視線がふと遥のほうへと向いた。その瞬間、彼の足がぴたりと止まった。喉が思わず、ごく
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第25話

「こんなところで時間を無駄にするな。手分けして莉奈を探すぞ」靖也と花梨は互いに目を見合わせ、暗黙のうちに視線を交わした。二人は何気なく方向を選んだように見せかけていたが、実際にはとっくに計画済みだった。邸宅の庭には、彼らが前もって仕込んでおいた手がかりがあった。それは、遥のために用意された罠だったのだ。そこには、遥しか行けないはずだった。しかしあいにく、怜司が庭の方へと歩いて行ってしまった。花梨は当然、前もって計画していた。彼女は突然体をふらつかせ、目を閉じた。そして、そのまま地面に倒れ込んだ。「花梨さん!」靖也は反応が早く、すぐさま花梨を支えると、大声で叫んだ。「怜司さん、花梨さんが倒れた!」それを聞いた怜司は顔色を変え、急いで花梨のそばへかけつけた。「早く、駿、こっちに来て花梨の様子を見てくれ!」駿はすぐそばにいて、しゃがみ込んで花梨を診察し始めた。特に大事はなく、ただ心配のしすぎで気を失っただけだった。一方、遥はすでに庭までたどり着いていた。そして、石の上にくっきりと目立つ一枚の紙を見つけた。紙にはこう書かれていた。【来るのは一人だけ。さもないと莉奈を殺す!】やはり誰かに連れ去られたのだ。たぶん、怜司を恨む相手のしわざだろう。本当は怜司が一人で行くべきだった。自分にできるのは、ここまでだ。遥は紙を読むとリビングへかけもどった。花梨もそのころには目をさましていた。「怜司、これを見つけたの。一人で来い、じゃないと莉奈ちゃんを殺すって書いてある。行って」彼女はただ一刻も早く自分の疑いを晴らし、同時に莉奈を救い出したかった。でも、怜司は紙を受け取ると、問いつめるような口ぶりで言った。「そんな作り話を信じるとでも思うのか!この紙は、お前が書いたに決まってる。わざとこんなしかけをして、花梨が倒れたのを見て、そのすきにみんなを引きはなして、莉奈を連れ去るつもりだろう?こんな都合のいいことがあるか?ちょうどお前が、この紙を見つけるなんてな!」人は呆れ果てると、もはや相手にする気すら失せるものだ。遥は怒りのあまり言葉が出なかった。彼女は目を赤く潤ませたが、涙をこぼすまいと必死にこらえた。今どんなに説明しても、怜司は信じてくれない。彼女は歯を食いしばり、紙を拾って背を向けた。
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第26話

遥は朦朧とする意識の中で、あの男たちが大声で話し始めたのを聞いた気がした。「奥さん、藤井社長がもうすぐ来ます。これくらいで勘弁してあげますよ。もう奥さんを殴るのは忍びないんです。藤井社長が見たら、きっと奥さんを不憫に思うでしょうから」そんなの、自分に何の関係があるの……警察が来るんじゃなかったの?どうして怜司が来るの?怜司は自分のことを信じてなかったんじゃないの?体の痛みで、頭がうまく働かなかった。まだ状況がのみこめないうちに、足音が近づいてきた。怜司は鉄の扉を蹴り開けた。傷だらけの莉奈を見た瞬間、その目は怒りで真っ赤に染まっていた。さっき男たちが遥に言った言葉は、全部聞こえていた。もし先にあれを聞いていなかったら、本当に遥に騙されていただろう。なにしろ遥は今も体を丸め、痛みで息もできないような様子だったのだから。たいした演技だ。そして、さっきの言葉は、彼にとってまさに動かぬ証拠だった。すべては遥の自作自演だという証拠だ。どうしてこんなにひどいことができるんだ?莉奈に対して、こんなに冷酷になれるなんて。自分自身に対しても残酷だ。まるであの日、薬を盛った時のように。「遥、本当に人の心がないのか」怜司の声は冷徹で、抑えきれない怒りに震えていた。「お前が危ない目にあうんじゃないかと、心配してやったのに。まさか全部お前が仕組んだ芝居だったとはな!どうしてここまで残酷になれる?子供にまで手をかけるなんて!」遥は怜司の責める声を聞いて、口を開いて説明しようとした。でも喉がからからで、声一つ出せなかった。痛い。全身が、針で刺されているみたいだ。怜司は遥に弁解のすきも与えなかった。大股で莉奈のそばへ歩み寄り、彼女を抱き上げた。莉奈は固く目を閉じ、すでに気を失っていた。小さな顔には、まだ恐怖の色が残っていた。その体に残る痛々しい傷を見て、怜司は胸が締めつけられて息もできなかった。「莉奈、こわがらないで。パパがいるよ。パパがこんな怖いところから連れ出してあげるからね」怜司はそっと莉奈をなだめると、身をひるがえして立ち去ろうとした。「藤井社長、誤解です。奥さんは本当に、この子を助けに来たんですよ!」さっき暴力をふるった男が、また余計な口をはさんできた。「黙れ!」怜司は怒鳴った。「お前らはみんな
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第27話

靖也は平然と肩をすくめ、まるで意に介していなかった。「失敗は仕方ないよ。他の手を考えればいい。それに遥さんなんて大した脅威じゃない。生きていたところで、何もできないさ。気にするなよ、体を壊したら損だぞ」花梨は怒りのあまり、危うくスマホを叩きつけるところだった。「よく聞きなさい!今度また私の計画を邪魔したら、ただじゃおかないから!」そう言い放って通話を切り、勢いよくスマホをソファに放り投げた。一方の靖也は、相変わらず気にもとめない様子でライターを脇に放った。そして立ち上がり、大きく伸びをしながら、独り言のように呟いた。「女ってのは、まったく面倒なもんだ」そう言うと、彼は口角をわずかに吊り上げ、寝室の方へと視線を向けた。遥が目を覚ますと、自分がやわらかい大きなベッドに横たわっていることに気づいた。ここはどこだろう。彼女はベッドから起き上がろうとしたが、全身が傷だらけで、まったく身動きが取れなかった。そのとき、部屋のドアがそっと開いた。靖也は例のスーツを身にまとい、髪をきちんと整え、あの人を食ったような笑みを浮かべていた。その手にコップを持っていた。遥は靖也を見て、体をびくっとこわばらせた。彼女は無意識のうちに後ずさりし、ヘッドボードに身を寄せ、震える声で言った。「な……何をするつもりですか?」警戒しきった遥の様子を見て、靖也はコップをベッドサイドテーブルの上に置き、それから両手を上げて、敵意がないという素振りを見せ、静かに言った。「遥さん、怖がらなくていい。俺に悪気はない。ただ、あなたを助けたかっただけなんだ」「助ける?どうしてあなたを信じられるのですか?」靖也はベッドのそばまで来て、ゆっくり腰をおろした。そして、優しい口調で言った。「誤解しないでほしい。俺は怜司とは別だ。遥さんが彼に濡れ衣を着せられたことは分かっている。あいつはあなたのことを何も分かっていないし、信じてもいないんだ。遥さんがあいつにあんなふうに扱われるのを、どうしても見ていられなかった。だから、なんとかあいつの手からあなたを助け出したんだ」遥は前に、貴子から靖也のことを聞いたことがあった。この人の言うことは、そう簡単に信じてはいけないと。遥が相手にしないのを見ても、靖也は一向に気にする様子もなく、話を続けた。
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第28話

「助けていただいて、本当にありがとうございます。でも、家に帰りたいんです。自分の体のことは自分が一番わかっていますから」でも靖也は、遥がちゃんと自分の怪我が分かっているとは思わなかった。部下の手荒さは、彼が一番よく知っている。加減というものを知らない連中なのだ。しかも、命令を出すのが遅すぎた。もう少し止めるのが遅ければ、遥は殺されていたかもしれない。こんなに可愛い美人が殺されるなんて、忍びないな。靖也の口元が、少し上がった。彼は遥に近づき、二人の距離はぐっと縮まった。お互いの息づかいまで感じられるほどだった。遥は思わず避けようとしたが、体の痛みで、身動きが取れなかった。靖也は静かに言った。「おとなしくしていた方がいいよ。ここでちゃんと療養してくれれば、何もしないと約束する……」すると、彼の口調が一変した。「でも、言うことを聞かずに出ていくなら、何が起きるか保証はできないよ」遥は途端に困り果てた。しかし、今の彼女には靖也と言い争う気力など残っていなかった。心も体も疲れ切っていた彼女は、ひとまず折れることにして、医師の診察を受け入れるほかなかった。医師はさっそく取りかかり、遥に対して全身の細かい検査を行った。一方の靖也は、そばで腕を組み、興味深そうにその様子を眺めていた。検査が終わると、医師はマスクを外し、眉をひそめて言った。「この方は、とても体が弱っています。長い間、無理をされてきたんでしょう。それに今回の外傷もあって、しばらくしっかり療養しないと、後遺症まで残ってしまうかもしれません」それを聞いて、靖也は怒ったふりをして毒づいた。「怜司さんは、本当に酷いよな。こんな美人をこんな目に遭わせて。遥さん、俺が思うに、あんな男とは離婚して、俺と一緒になった方がいい。絶対に大事にして、甘やかすから」それを聞いて、遥は思わず呆れたように言った。「離婚はします。でも、あなたと一緒になることは絶対にないです。もう、そんな変な考えはやめてください」しかし靖也は、まったく気にしなかった。むしろ笑って言った。「そう言い切らない方がいいよ。怪我が治ったら、気が変わるかもしれないからね」遥はもう靖也を相手にしなかった。目を閉じて、この嫌な男を見たくなかった。靖也はこれ以上は何も言わず、医師にだけ指
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第29話

でも次の瞬間、怜司の目はまた氷のように冷たくなった。遥はなんて酷いんだ。これじゃあ莉奈を殴り殺す気だ。「怜司、遥が私と莉奈を嫌ってるのは分かってるの。莉奈が怜司の希ちゃんへの愛を奪ったって思ってるのよ。でも、莉奈にあんな酷い仕打ちをするなんて。私たち、怖くて怜司に近づけないわ。もう耐えられないわ」花梨はハラハラと涙をこぼし、怜司の足元にすがりついて、声を震わせながら泣きじゃくった。怜司はゆっくりとしゃがみ、花梨を起こした。「花梨のせいじゃない。全部、遥が悪いんだ。あの女が莉奈にこんなことをしたんだ!」怜司は歯を食いしばって、低い声で罵った。そして、そばにいる部下に目をやり、冷たく尋ねた。「あの女は今、どこにいる?」部下は頭を下げ、おそるおそる答えた。「社長、遥様は姿を消しました。現場が大混乱で、気づいた時にはもういなかったんです」「姿を消した?」怜司は眉をひそめた。あれほどの重傷を負っていて、そう簡単に消えられるはずがない。治療を受けなければ長くは持たないはずだ。やはり冷酷な女は、自分に対しても容赦がない。だが、遥への憐れみもほんの一瞬のことだった。これは全部あの女が仕組んだこと。当然、逃げ道は用意しているはず。自分の命を賭けるわけがない。怜司の声はさらに冷たくなり、怒りを抑えながらすぐに命じた。「何としてもあいつを探し出せ!どこに隠れていようと、必ず見つけ出すんだ!自分のやったことの報いを、必ず受けさせてやる!」部下たちは命令を受け、慌ただしく駆け出していった。怜司は再び集中治療室の前に戻り、窓越しに病室のベッドに横たわる莉奈の姿を見つめた。胸が張り裂けそうだった。「莉奈、パパが必ず守るからな。もう誰にも莉奈を傷つけさせない。あの冷酷な女は、絶対に許さないぞ」その言葉を聞いた花梨は、明らかにやましそうにビクッとした。でもすぐに、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。遥、今回は運良く命拾いしたわね。でも、絶対にただじゃおかないから。……その頃、遥はまだ意識が朦朧としていた。靖也は遥のスマホを手に取って眺めていた。指紋認証のロックは、いとも簡単に解除できた。その間、知らない番号から何度も着信があった。間違いなく、怜司だろう。それと駿。怜司の家庭医だ。どちらも遥
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第30話

2日後。靖也は退屈そうにスマホをいじりながら、そろそろ頃合いだと思った。彼は使ったことのないスマホを取り出すと、口元に意地の悪い笑みを浮かべ、怜司にメッセージを送った。【遥さんは靖也の家にいるぞ】送り終えると、靖也はまだぐっすり眠っている遥を満足げに見て、面白がるように椅子に座った。見ものが始まるのを待っていた。莉奈の病室で看病していた怜司のスマホが震えた。知らない番号からのメッセージを見て、彼は一瞬固まり、すぐに顔が恐ろしく暗くなった。遥が靖也と一緒にいる?やっぱりあいつらはグルだ。二人で共謀して莉奈を拉致したに違いない。怜司は怒りを抑えきれず、勢いよく立ち上がると、そばの椅子を蹴り飛ばした。どうりで、遥という女はずっと離婚したいと言っていたわけだ。とっくに浮気相手がいたのだ。そのうえ今度は浮気相手と手を組んで、莉奈を殺そうとしている。それだけじゃない。あろうことか可哀想なふりをして、莉奈を救う人間を装おうとしていた。よくもそんな真似ができるものだ。……遥は騒がしい物音で目を覚ました。体はまだ回復しておらず、頭がぼんやりしていた。目を開けたとたん、怜司が目の前に立っているのが見えた。怜司の怒鳴り声が部屋中に響き渡り、遥は心臓がドキドキと激しく高鳴った。「遥、この根性悪な女!靖也と結託して、一体何がしたいんだ!」それを見た靖也は、すぐに前に出て遥をかばい、不満そうに言った。「怜司さん、何のつもりだ?うちに遊びに来たと思ったのに、なんで俺の客に手を出すんだ?ひどすぎるだろう」怜司は鼻で笑い、言った。「客だと?靖也、遥はお前と一緒に莉奈を拉致した犯人だ。裏で繋がってるのを知らないとでも思ったか。ただでは済ませないからな」だが靖也は意に介さず、振り返って遥をちらりと見ると、手を振って心外だという様子を見せた。「怜司さん、そんなことないよ。第一に犯人は俺じゃない。第二に、遥さんがそんなことするはずないよ。彼女と知り合ってまだ数日だけど、こんなことをする人じゃないって信じてるよ」靖也の言葉を聞いて、遥は少し予想外のことだと思った。彼女にとって、これほど皮肉なことはなかった。6年連れ添った夫が、自分をまるで信じてくれない。それなのに、知り合ったばかりの他人が、信じ
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