All Chapters of 娘の命日に離婚宣告。クズ夫が土下座で大後悔: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話

事態がここまで大きくなることは、靖也も望んでいなかった。彼はただ、遥に怜司への未練を捨てさせたかっただけだ。それがうまくいけば、彼女の心を奪えるかもしれない。さらに……遥は花梨よりも怜司を深く知っている。それが、のちの権力争いでも有利に働くはずだと思ったのだ。彼は咳払いをすると、「怜司さん、見てくれ。遥さんがこんなに傷ついていて、莉奈ちゃんを傷つけられるわけがないだろ?とにかく莉奈ちゃんが目を覚ませばすべてはっきりすると思うよ」と言った。怜司は、その言葉を聞いて、しばしの沈黙のあと、確かに莉奈が目覚めれば、すべての真相が明らかになるだろうと思った。しかし、靖也の家にいる遥の姿を目にした途端、得体の知れない怒りがこみ上げてきた。「遥は俺が連れて帰る。でなければおばあさんに説明がつかない。遥の失踪を知られたら疑われるに決まってる」だが、靖也はどうでもよさそうに肩をすくめた。「そんなに焦る必要あるか?出張中とでも言っておけばいいだろ。おばあさんも四六時中遥さんに会いたいわけじゃない」しかし、怜司は納得できなかった。彼は遥と靖也が二人きりでいることが、我慢ならなかったからだ。だから、彼はベッドまで歩み寄り、問答無用で遥を抱き上げた。「離して!怜司、あなた最低!」遥は懸命に暴れ、両手で怜司の胸を叩いた。だが体力が落ちている彼女の抵抗は、何の役にも立たなかった。怜司は険しい表情のまま無言で、彼女を抱えて歩き出した。遥は振りほどけないと悟ると、うつむいて彼の腕に思い切り噛みついた。痛みはあったが、怜司は手を離さなかった。眉間に深いしわを寄せたまま、彼は足を止めることさえしなかった。「あなた、狂ってるわよ!離して!」遥は噛みつきながら、こもった声で泣き叫び、涙が次々と頬を伝った。それでも怜司は痛みをこらえ、遥を車の後部座席に放り込んだ。そして冷ややかに言い放った。「大人しくしてろ。余計な真似をするな」髪を乱したまま後部座席にうずくまり、遥は目に涙を溜めて彼を見つめた。「怜司、そんなの拉致よ!」だが、怜司は彼女を相手にせず、ドアを閉めて運転席に乗り込むと、そのまま車を走らせた。道中、後部座席で縮こまる遥は、もうそれ以上彼に目を向けることはなかった。一方、バックミラー越しに、冷や汗を流して顔
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第32話

遥は、目の前にいる怜司を見つめた。彼女は体を少し横に向け、顔をそらした。しかし怜司は無理やり彼女のあごをつかみ、自分の方を向かせた。「遥、俺の話を聞け」そう言われ、遥が再び怜司の目を直視してみると、そこには昔と変わらない、身勝手な強引さがあった。「怜司、本当に私がやったと決めつけるの?もし莉奈ちゃんが目を覚まして、私の仕業じゃないと分かったら、私に謝る?」しかし、怜司は迷わずあっさりと答え、遥に僅かな期待も残さなかった。「あり得ない。証拠は揃っている。言い逃れするな!」それを聞いて、彼女は苦笑しながら、震える体で言い返した。「だったら賭けよう。莉奈ちゃんが目覚めて私が無実だと分かったら、私に謝って。もし私が本当にやったのなら、どんな罰でも受ける。どう、賭ける勇気はある?」賭けをする?彼女に勝ち目などないと怜司は思った。「いいだろう、受けて立つ。もしお前が負けたら、罰を受けるだけじゃなく、俺をラインのブロックリストから外せ」ブロックリストから外せだと?遥は一瞬呆れ、怜司の意図が理解できなかった。ただ、怜司のプライドからして、逆らうのが許せなかったからそう言ったのだろうと思った。彼女は深く考えず、すぐに答えた。「分かったわ。私が勝ったら、みんなの前で私に謝って。あなたが私を疑ったのは間違いだったと認めること」怜司は迷わず頷いた。彼としては負けるとは微塵も思っていなかったから。遥が犯人だという確信はあったし、自分が勝つという絶対的な自信があったのだ。だが、この謝罪が遥にとってどれほど大切なことか彼には想像もついていなかった。賭けの約束をすると、怜司は何かを思い出したように眉を寄せ、冷たく言い放った。「これから靖也には近づくな。あいつはろくな人間じゃない」その言葉に遥は冷めた笑いを浮かべた。「彼が助けてくれなかったら、私はとっくにあなたに捕まって、命を落とすところだったでしょうね」怜司は青ざめた顔のまま、声を荒らげた。「俺がそんな男に見えるのか?」遥は怜司の目をじっと見つめ、迷わず言い返した。「だってそうじゃない?あなたは冷酷で無慈悲で、他人の噂話だけを信じて、私を一度も信じてくれなかった」遥の言葉に怜司は言葉を詰まらせ、言い返そうとして、結局口を閉ざした。彼
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第33話

すると、怜司の顔に赤い手の跡が浮き出た。彼の表情は、たちまち険しくなる。何か言い返そうとしたが、震えている遥を見て、彼は深く息を吸い込んだ。怜司はもともと、彼女の体調を心配しているだけだと言いたかったのだ。なのに、彼女にとって自分は、時も場所も構わず欲情する人間にしか見えないのだろうか?「思い上がるなよ!」そう思うと、怜司は歯を食いしばって言った。「傷の具合を見たかっただけだ。お前が死んだら、誰が俺に金を返すんだ」遥はその言葉を聞いて、一瞬呆然とした後、ようやく状況を理解した。彼女はベッドのそばのバッグからカードを取り出し、怜司の目の前に放り投げ、冷たく言った。「ここには1000万円入っている。暗証番号は私の誕生日よ。お金が目的なら、もう心配いらないでしょう」床に落ちたカードを見つめながら、怜司は驚いた。遥がすぐに拾おうとしなかったからだ。彼女がこんなにもあっさりと金を渡したことに呆れ、彼は鼻で笑ってカードを拾い上げた。「これだけじゃ、まだまだ足りない」遥は苦笑した。その声には疲れがにじんでいる。「分かっている。残りの9000万円も、期限通りに返す。今は本当に疲れているの。これ以上、あなたと関わりたくないの。もうここから出ていって。一人にさせて」片や、怜司は、遥を見つめて思った。遥は以前の彼女とは、どこか違うようだ。彼女の瞳からは、自分への未練や愛がすっかり消え失せていた。怜司は手にしたカードを強く握りしめ、鼻で笑った。「そうしてくれると助かる」そう言いながらも、得体の知れない苛立ちを覚え、怜司はいたたまれず部屋を飛び出した。彼女が心配など望んでいないのなら、自分から情けをかける必要もない。……星影荘。怜司は鈴木邸へ向かった。ドアを開けて入ってきた時、彼の顔にはまだ怒りが残っていた。「駿、遥の傷を見に行ってやってくれ」駿は茶を淹れる手を止めた。莉奈を傷つけた犯人は遥だと確信しているのに、怜司はまだ遥を心配しているのかと、駿は戸惑った。怜司は、本当に花梨を愛しているのだろうか?そう思ったが、駿は深入りせず、往診の準備を整えて出かけようとした。「急がなくていい。ついでにおにぎりを届けてくれ。お前が作ったと言って渡すんだ」駿は眉をひそめ、怜司の言動に堪えきれず、聞き
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第34話

駿が去ったあと、怜司は一人鈴木邸に残った。しばらく立ち尽くしたあと怜司は、やがて書斎へ向かった。そして、引き出しを開けて、以前破り捨てられたはずの楽譜を取り出した。楽譜は丁寧につなぎ合わされていた。ひび割れははっきりと分かるが、全体の内容を読むには十分だった。彼はそのひび割れを指先でなぞり、眉間にしわを寄せた。膝の上に楽譜を広げてしばらく呆然としていたが、やがてそっと引き出しに戻した。荒いため息をつくと、怜司は鈴木邸を出た。ちょうどその時、病院から連絡が入った。「藤井社長、莉奈ちゃんが目を覚ましました」……数日前。怜司と駿は向き合って座っていた。テーブルの上では、お茶が湯気を立てていた。「駿、もう一度彼女に頼んで曲を作ってくれないか。お前の名義でいい、テーマも任せるから」そう言われた駿はカップを置くと、怜司を見つめながら堪えきれず尋ねた。「怜司、一体どうしたんだ?先日の莉奈ちゃんのパーティーでも、君は予定していた曲を使わずにわざわざ別の作曲家に頼んだだろう。なぜまた急に楽譜を僕に頼もうと思ったんだ?」怜司はしばらく沈黙し、直接答えずに淡々と口を開いた。「余計な詮索はいい。とにかく頼んだ通りにしてくれ」これ以上聞いても、本当の答えは返ってこないだろう。そう思って、駿は呆れたように首を振って、ため息をついた。「分かった。君の頼みなら引き受けよう。それで、いつまでに欲しいんだ?」「1ヶ月以内だ」駿はそれ以上何も言わなかった。遥さんのことが好きなのかという問いが喉まで出かかっていたが、飲み込んだ。……藤井家の別邸にて。おにぎりを持って藤井家の別邸を訪ねた駿は、軽くドアを叩いたが返事がなかった。ドアノブに触れると、鍵は掛かっていなかったから、彼はそのまま中へ入った。部屋に入ると、遥がベッドで横になっていた。顔は赤く、額にはびっしりと汗が浮かんでいる。駿は驚き、すぐにベッドへ駆け寄った。彼女の額に触れるとひどく熱く、高熱があるのは明らかだった。「遥さん、熱があります。点滴を打たないといけません」そう言って、駿は救急箱を開け、点滴の準備を整えた。一方、朦朧とした意識の中で遥は、彼を怜司だと勘違いしたようで、無意識に拒絶するように身をよじった。「やだ……触らないで
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第35話

「遥さん、実は怜司のことなのですが……」駿がそう言いかけると、ポケットのスマホが鳴り出した。彼がスマホを見ると、着信は怜司からだった。駿は遥に申し訳なさそうに視線を向け、電話に出た。「もしもし、怜司……」「駿、莉奈が目を覚ました。すぐ遥を病院へ連れてきてくれ」そう言われ、駿は一瞬ポカンとしてしまい、ぐったりしている遥の方を見た。「怜司、遥さんは今、熱があって体調がすごく悪いんだ。すぐに行かせるのは難しいかと……」すると、怜司は、しばし黙り込んだ。「そうか。なら、先に遥の看病を頼む。良くなったら連れてきてくれ」彼はそれだけ言うと、電話を切った。駿は困ったようにため息をつき、遥を見た。「怜司からの電話です。莉奈ちゃんが目を覚ましました。でも、無理はしないほうがいいので、あなたはまず、しっかり休んで、良くなってから病院へ行きましょう」一方、莉奈が目を覚ましたと聞いて、遥はホッと息を漏らした。だがすぐに、遥は毅然とした口調で言った。「鈴木先生、私、病院に行かないといけないんです。自分の体調はわかっています。大丈夫です」怜司が自分に行くなと言うのは、きっと後ろめたいに決まってる。自分に謝りたくないからだろう。せっかく無実を証明できる機会を、逃すわけにはいかない。遥には怜司が、自分の体を心配して止めているなんて、どうしても思えなかったから。彼女も自分でそれくらいの自覚を持っていた。しかし、彼女の必死な様子に、駿は困惑した。だって、今の彼女はとてもあちこち動き回れる状態ではないのだから。「遥さん、今も熱があるじゃないですか。病院に行って容態が悪化したら大変です。もう少し良くなるのを待ちましょう」それでも遥は首を振ると、よろよろと立ち上がり、外へ向かおうとした。「鈴木先生、止めないでください。連れて行ってくれないなら、一人で行きます」彼女の強い意志を感じて、駿も自分では止められないと思い、ため息をついた。「わかりました。無理はしないで、支えますから。もし途中で辛くなったら、必ず教えてください」こうして、駿に支えられ、遥は部屋を出て、車に乗り込んだ。病院にて。病室に入ると、怜司が莉奈のベッドのそばで、彼女をあやしていた。怜司が足音に気づいて振り返り、遥と駿を見て眉をひそめた
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第36話

遥は莉奈の背中を優しくさすりながら、静かに尋ねた。「莉奈ちゃん、よく思い出して。あの時、あなたを連れ去ったのは誰?」莉奈は首をかしげて眉間にしわを寄せた。しばらく考えてから、泣き声混じりで答えた。「遥さん、思い出せないの。最初、遥さんがかくれんぼしようって言ったから隠れたんだけど、ずっと待っても遥さんが来なくて……そのあとに誰かに連れて行かれたの」その言葉を聞くや否や、花梨はすぐさまチャンスだとばかりに目元を潤ませ、か弱く涙を流し、訴えるように言った。「遥、どうして莉奈にこんなひどいことをするの?この子はまだ無邪気な子供よ。もし私に不満があるなら、私一人を責めればいいでしょ……」彼女はそう言いながらハンカチを取り出し、あふれる涙を拭った。その泣き顔の美しさは、誰が見ても哀れみを誘うようなものだった。「全部私が悪いの。きっと私が何かしたせいで、あなたの気分を害したのね。遥、どうか許してちょうだい……」それはなんとも見事な演技だった。遥は冷めた笑みを浮かべ、そのまま優しく莉奈に尋ねた。「莉奈ちゃん、もう一回聞くね。誰に私とかくれんぼしようって言われた?」莉奈は顔を上げ、潤んだ大きな目で花梨を見つめた。小さな手を伸ばして花梨を指さし、愛らしい声で言った。「ママがそう言ったの。『遥さんがかくれんぼしたいから隠れてて』って言われて」それを聞いて、か弱さを演じていた花梨の顔から血の気がサーッと引いた。先ほどの健気な姿は一気に消え失せた。普段は言いなりだったはずの莉奈が、よりによってこんな肝心な時に自分の意志に反して、遥の肩を持つなんて花梨は考えもしなかったからだ。「莉奈、思い違いしているんじゃない。だって、それは前に病院で遥さんがあなたにそう言ったはずよ」花梨はそう言って、努めて冷静を装ったが、口元がひきつり、手が震えていた。大人たちが争う様子を見て、莉奈の瞳から再び涙がこぼれ、体が震え始めた。彼女は怖くてたまらなかった。「そこまでだ。莉奈は頭に怪我をしていて、体も心もひどく衰弱している。これ以上追い詰めるな」怜司の声を聞くと、莉奈は恐怖で泣き出し、しゃくり上げながらこう言った。「パパ、思い違いなんてしてない。遥さんがかばってくれたの。悪い人たちは遥さんを死ぬまで殴るって言ってたの……で
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第37話

遥はさっきの会話を踏まえ、花梨を冷ややかに見つめた。この騒動の裏で糸を引いているのは花梨に違いない。遥はそう確信していた。だが今は、怜司に賭けの約束を守らせることの方が重要だ。「怜司。これで白黒はっきりしたでしょう?あなたの負けよ。約束を果たすべきじゃない?」「遥……その、なんだ……」怜司の声は少し掠れていた。「すまない。断片的な証拠だけでお前を犯人と決めつけて、ひどいことを言った。本当にすまない」その謝罪を聞いた花梨の表情は、一気に険しくなった。一方、遥は彼の言葉を聞き、思わず目頭を潤ませた。だが、その感情をぐっと堪えて、遥は淡々と言った。「今の言葉、忘れないでね」そう言い捨て、彼女は背を向けて病室を去った。怜司が思わず追いかけようとしたその時、背後で重たい音が響いた。振り返ると、花梨が真っ青な顔で倒れ込んでいた。彼は急いで駆け寄り、彼女の体を抱きかかえて名を呼ぶ。「花梨!おい、どうしたんだ!」花梨はうっすらと目を開け、力なく怜司を見つめた。そして再び虚ろに目を閉じ、小さく何かをつぶやいた。「怜司……すごく、苦しいわ……」……片やその頃、遥は病院の隅に来ていた。彼女の足取りは次第に重くなり、ついに壁に背を預けて、そのまま座り込んでしまった。両膝を抱え込むと、堰を切ったように涙があふれてきた。この「すまない」を聞くために、どれほど待っただろうか。希望さえ忘れかけるほどの長い時間だった。それから暫くしたあと、視界に見慣れた靴が入ってきた。彼女が顔を上げると、涙に濡れた瞳の中に怜司が映った。「何しに来たの?花梨の看病はどうしたのよ」遥は冷笑を浮かべた。だが、怜司は静かに歩み寄って腰を下ろして言った。「遥、お前、まだ熱があるんだろ。放っておいたら体がもたない。病室に戻って点滴を打とうか」しかし、遥は首を振り、頑なに拒んだ。「関わらないで。自分のことは自分でどうにかできるわ」その意固地な姿は、どこか子供の頃を思い出させる。怜司は何も言わず、そのまま遥を軽々と抱き上げた。突然の出来事に驚き、遥は身をよじって抵抗したが、どうしても振りほどけなかった。「怜司、離してよ!」「遥、やめろ。今のお前には体調を整えることが先決だ」どうしようもなくなり、遥は抵
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第38話

「遥。今までは俺が悪かった。でも、希は俺の実の娘だ。娘に会う権利を奪わないでくれ」怜司の声はかすれ、その口調も少し和らいでいた。でも、怜司の言葉を聞いて、遥の怒りが頂点に達した。彼女は勢いよく目を開いた。「今さら希があなたの娘だって?」本当に皮肉な話だ。希が病気で苦しんでいたとき。自分は何度も頭を下げ、娘を救ってほしいと頼み込んだ。それなのに、彼は花梨とその娘のために誕生会を開いていた。莉奈の治療の負担を減らすため、彼はためらわずに肝臓を提供しようとした。それなのに、自分の娘である希には、骨髄さえ渡そうとしなかった。そんな男が希の父親面をしてくるなんて、当時のことを思い出すと、自分は今も夜も眠れなくなるほどの苦しみを感じているのに。「出てって!」遥は思い返すだけで心臓が締め付けられる思いで、もう何も話したくなかった。そして、あふれる涙で彼女の視界は再びゆがんだ。一方、怜司は怒りを必死に抑え込もうとした。彼は口を開こうとしたが、言葉がうまく出てこなかった。「遥。俺はあきらめない。ずっと待つよ。お前が許してくれるその日まで」ついに、怜司は小さくそう言った。そう言うと、彼はそっと病室のドアを閉めた。室内は再び静寂に包まれた。辺りにはただ、遥の断続的な嗚咽だけが響いた。もう、そんな日は来ないわ。怜司。娘は、もう死んだのよ。……星影荘。花梨はソファに座り、次なる策を練っていた。そして、気が乗らないまま、テーブルに置かれたスマホを手にすると、画面に映った「藤井靖也」の名前を見て、思わず顔をしかめた。少し迷ってから彼女はそれでも電話に出た。だが、その声は苛立ちに満ちていた。「もしもし?」「花梨さん。約束を忘れたんじゃないだろうな」電話の向こうから、靖也のだらけた声が響く。「企画書の約束、果たしてもらうぞ。さっさと怜司さんのオフィスから持ち出せ」花梨は冷たく笑った。「靖也さん、よくも約束なんて言葉を出せるわね。あなたのせいで莉奈があんなことを口走り、私の計画が台無しになるところだったのよ!今さら私に約束を果たすように求めるなんて、私をコケにしているわけ?」だが、靖也は全く意に介さない様子で、嘲るように言った。「協力しないなら、こっちだって手加減はしないから。忘れる
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第39話

「ははっ、花梨さん。口先だけで俺を言いくるめるなんてやめなよ」靖也はそう言って鼻で笑った。「言った通りにして企画書を盗み出せば、昔のことは秘密にしてやる。お互い得する話だろ?断る理由なんてないじゃないか」花梨は眉をひそめた。手伝いたくないわけではなかった。けれど、ファイルを盗んで怜司が会社の主導権を失ったら困る。そんなことになれば、自分の未来も危うくなるからだ。「盗むのはいいわ。でも、怜司を完全に追い詰めないって約束して。彼がお金も地位も失ったら、私も路頭に迷うことになっちゃうもの」「分かってるよ。痛手を負わせるだけで、破滅させるつもりはないからさ」靖也は笑って言った。「これで成功すれば、お互いにおいしい思いができるんだし」花梨はしばらく考えてから口を開いた。「わかった、乗るわ。その代わり、この件はすべて遥の仕業にしてね」「お安い御用だ。企画書さえ手に入れば、罪をなすりつけるくらい、どうにでもなる」だけど、今回ばかりは花梨も、靖也を信じ切れずにいたから、念を押すように言った。「今度こそ、遥に手加減しないでよね。どうせ彼女が殴られることはないんだから、もし計画を台無しにしたら、こっちだって遠慮しないからね」だが、そんな脅しは、靖也に効くはずもなかった。「大丈夫だよ。遥さんがまた誤解されて追い詰められる姿は見ものだからね。そうすれば彼女は俺に頼るしかなくなるから、きっと俺を愛するようになるさ」それを聞いて、花梨も返す言葉がなくなった。そして、通話は向こう側から切られた。それと同時に、病院。靖也は自信たっぷりの笑みを浮かべ、真っ赤なバラの花束を抱えて、遥の病室へとずかずか入り込んだ。「遥さん、あなたが無実だと信じていたよ。すべて明らかになったね。今までつらい思いをしてきただろう。ずっと心配していたんだ」靖也は芝居がかった調子で言い、バラの花束を差し出した。遥は目を閉じて休んでいた。気配を感じても目を開けず、冷ややかに言い放つ。「そんな花なんて要りません。帰ってください」靖也の顔が引きつったが、すぐに持ち直して厚かましく続けた。「そう冷たくするなよ。心からあなたを気遣っているんだ。体が万全じゃない今、世話が必要だろう?」その時、病室のドアが激しく押され、怜司が険しい顔で姿を見せた
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第40話

片や遥と怜司が藤井邸に戻ると、貴子が出迎えてくれた。貴子は遥の顔色が悪いのに気づき、ひどく心配そうに駆け寄った。「遥ちゃん、どうしたの?具合でも悪いの?」貴子は不安そうな表情で、視線を隣の怜司へと向けた。「一体何をやっているのよ?どうして遥ちゃんをこんな状態になるまで放っておいたの?」怜司は俯いたまま何も答えず、貴子の目を見ることができなかった。彼が日頃から身の周りの情報管理を徹底していたおかげで、これまでの騒ぎが漏れるようなことはなかった。一方、無言を貫く怜司に、貴子の怒りが爆発した。「私が何も知らないと思っているなんて大間違いだからね。また何か、遥ちゃんを悲しませることをしたんでしょう?早くきちんと謝りなさい!」そう言って貴子は厳しい口調で怒鳴った。怜司は少し躊躇いながらも遥の前に歩み寄り、「遥、ごめん。俺が至らなくて嫌な思いをさせた」と口にした。遥は「うん」とだけ言い、軽く微笑んで返した。「おばあさん、怜司のせいではありません。少し疲れているから、部屋で休みますね」そう言って、部屋へ戻りドアを閉めると、遥はドアに寄りかかり、声も立てずに泣き崩れた。暫くして、怜司は部屋の前まで行き、恐る恐るドアを叩いた。「おい、もう休んでいるのか?」返事がないため、彼はドアノブを回そうとしたが、鍵をかけられてしまったことに気づいた。彼は眉をひそめ、少し強めにドアを叩き直した。「遥、ドアを開けてくれ」それでも室内からは何の反応もない。諦めきれない怜司は、しつこくドアを叩き続けた。「話だけでもしよう」すると、ドアの内側でそれを聞いている遥の目から、再び涙が溢れ出た。彼女は込み上げる感情を必死に抑え、「邪魔しないで!」と言った。その泣き声は少しくぐもっていた。そう言うと彼女は、そのまま床に座り込み、両膝をきつく抱え、泣き続けた。ドアの外側では怜司が静かに扉の前に立ち尽くし、その場を離れようとはしなかった。長い時間が過ぎ、ようやく怜司が再び口を開いた。「遥、俺が憎いのはわかる。でも希は俺たちの娘だ。こうして俺を避けて会わせないなんてひどすぎる。俺は……本当に彼女に会いたいと思っているんだ」娘の名前を聞いた遥は、胸が締め付けられるように苦しくなった。彼女は服の端を固く握り締め、
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