All Chapters of 娘の命日に離婚宣告。クズ夫が土下座で大後悔: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

怜司は服を手に取って立ち上がった。出て行く前に、花梨をちらっと見た。「ちょっと出かけてくる。莉奈を頼むよ」花梨は莉奈の無邪気な様子を見て、ふとある考えが浮かんだ。しゃがみこみ、両手をそっと莉奈の肩にのせた。「莉奈、あの遥さんと希ちゃんも、パパの愛が必要なの。パパはね、本当は、ずっと莉奈と楽しく遊んで、お話もしてあげられるのに。でも今は希ちゃんに会いに行かなきゃいけなくて、ずっと莉奈のそばにはいられなくなっちゃうの」彼女はわざと一息おいて、こう続けた。「莉奈、これからはパパにばっかりくっつくのは、やめようね?」莉奈はママの言葉を聞いて、口をへの字に曲げた。「ママ、パパを取られたくないよ」花梨はその流れで莉奈を抱きしめ、そっと背中をたたいた。「莉奈、いい子ね。パパを取られたくないなら、これからがんばってパパを引き止めなきゃ。じゃないとパパは遥さんに取られて、もう帰ってこなくなっちゃうよ」莉奈の体は、かすかに震えた。目には涙がいっぱいたまった。パパを失うかもしれないと思って、ひどくうろたえた。莉奈は花梨の服の裾をぎゅっとつかんだ。泣き声まじりで言った。「ママ、パパを取られたくない。パパにずっとそばにいてほしいの」涙が頬を次々と伝い、莉奈はヒックヒックと肩を揺らして泣き続けた。花梨は娘の頬を拭い、さらに甘い声で言った。「莉奈、いい子だから。もっと可愛くて良い子にしていれば、パパはきっともっと莉奈が好きになるよ。そしたら遥さんに取られたりしないから」莉奈はしゃくり上げながら、うなずいた。あどけない顔は、悔しそうだった。絶対にがんばってパパを引き止めよう。遥さんにパパを取られちゃだめ。「でもママ、パパが私だけをかわいがったら、希ちゃんはどうなるの?希ちゃんもパパに会いたいよね」花梨は歯がゆそうに莉奈を見て、苛立ちを覚えた。どうしてこの子はこんな時まで他人の心配なんてできるのか。「莉奈は優しすぎるわ。遥さんは、莉奈を絞め殺そうとしたのよ。忘れたの?あの人たちは、莉奈を幸せにさせたくないの」……怜司は車の中に座り、イライラして車内の音楽をかけた。遥は本当にわがままだ。わざわざ貴子のところに告げ口しに行って、怒らせたのだ。遥に会ったら、きつく言い聞かせてやらないと。まもなく、車は藤井邸の前に止まった。
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第12話

怜司は遥の言葉を聞いて、ふんと鼻を鳴らし、見下すように彼女を見た。彼はわずかに顔を上げ、氷のような声で言った。「遥、もう芝居はやめろ。あれこれ手を尽くして希を俺に会わせないのは、俺を手玉に取って、そのついでに花梨を追い出そうって魂胆だろう?言っておくが、どんなに計算しても、そううまくはいかないぞ」彼は少し間を置き、声を強めた。「そんな夢みたいなこと、もう考えるな」遥は力なく笑い、冷たい目で彼を見た。「あなたって本当に自意識過剰ね。今の私が望んでいるのは、きっぱり縁を切って、二度と関わらないことよ」そうだ、強くならなければならない。この甘い夢を、自らの手で断ち切るのだ。怜司が口を開いて言い返そうとした瞬間、貴子にぴしゃりと遮られた。貴子は怜司をきつく睨みつけ、大声で叱りつけた。「怜司、いい加減にしなさい!早く遥ちゃんに謝りなさい!遥ちゃんの心をこんなに傷つけておいて、まだ口答えする気なの!?」自分がいつ遥の心を傷つけたというのか?そもそも冷たく薄情なのはこの女のほうだ。あの時は、絶対に希には会わせないと言い切って、希を取引の道具にしただけじゃないか?6年前と同じだ。遥が自分と結婚するために、彼女自身が薬まで盛った。目的のためなら手段を選ばない。こんな腹黒い女の、どこを傷つけたというのか?だが、言い返す言葉が口先で回っていたその時、貴子が真っ青な顔で胸を押さえ、全身を震わせていた。喉まで出かかった言葉を、怜司はぐっと飲み込んだ。貴子はしばらくして、ようやく息が少し落ち着いた。そして荒い息をつきながら口を開いた。「まだ私を怒らせる気なの?心臓が持たないわ。これ以上怒らせたら、本当に倒れてしまう」怜司は歯を食いしばった。貴子の病状を悪化させないため、仕方なく頭を下げ、歯の隙間から言葉を絞り出した。「遥、悪かった」少しも誠意がなかった。怜司にとって、自分に頭を下げさせられる人間など数えるほどしかいない。誠意がなくとも、これで十分だと思っていた。遥は、怜司のあからさまに嫌そうな様子を見て、皮肉な笑みを浮かべた。「謝罪なんていらないわ。私は今すぐ、あなたと役所に行って離婚したいだけ」離婚、また離婚だ。この女は、口を開けば離婚のことばかり。怜司の心は、また何かに殴られたような痛みを覚
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第13話

貴子は嬉しそうに笑った。心配そうだった顔も、いっきに晴れやかになった。そして、咳ばらいをしてから言った。「あらあら、若い夫婦が喧嘩したって、一晩寝れば忘れるものよ。もう夜も遅いんだから、二人ともいい加減にして、早く部屋に入って寝なさい」二人はほとんど同時に目を見開き、声をそろえて言い返した。「いやです!」同時に断られて、どちらも予想していなかった。とくに怜司は、不満そうに眉をひそめた。遥に断られたのは、これで二度目だった。この女!じらして落とすにも限度というものがある。貴子の顔が、みるみるうちに険しくなった。また胸を押さえ、眉をぎゅっと寄せる。息づかいも荒くなり、力なく言った。「あんたたちは、私を死なせるまで気が済まないの?この心臓は、あんたたちの勝手には耐えられないんだよ」貴子の具合が悪くなるのを避けるため、二人はしぶしぶ部屋へと向かうしかなかった。部屋に入るなり、遥は警戒しながら怜司と距離を取り、全身に隙のない構えを見せた。まるで怜司が、危険な見知らぬ他人であるかのように。遥は両腕を胸の前で組み、冷たく言った。「怜司、私から離れてなさいよ。触らないで」怜司は口元をかすかに上げ、見下すように言った。「安心しろよ。ちょっと触っただけで倒れそうな体、こっちだって触る気にもならないさ」遥は怜司の皮肉を聞き流し、まっすぐベッドへ向かった。ぎこちなく横になると、怜司に背を向け、布団を力いっぱい引き寄せて全身をきつくくるんだ。確かに夜も遅く、遥は心身ともに限界だった。このところ、ろくに眠れる夜などなかったのだ。部屋の中はしんと静まり返り、二人のかすかな息づかいだけが響いていた。どれくらいの時間が経ったのか。遥は急に体の中から湧き上がる得体の知れない熱さを感じた。顔が火照り、息遣いも荒くなってきた。怜司も同様だった。得体の知れない衝動に襲われ、意識が朦朧とする中、体は自らの意志を離れ、遥へと引き寄せられていく。彼の手が遥の体に触れた瞬間、遥はハッと目を覚ました。目を大きく見開き、力いっぱいもがいて、怜司の腕から逃れようとした。「怜司、離してよ!」遥の声は泣きそうだった。必死になって怜司を突き放そうとした。だが怜司は理性を見失ったのか、さらに強く彼女を抱きしめた。たまらなくなった遥は、
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第14話

遥は怜司を無視して、ベランダの手すりをぎゅっと握りしめた。落ち着こうとしたけれど、どうにもならなかった。遥はベランダで倒れそうになっていた。抑えきれない体の熱で力が抜け、足がずっと震えて、立っているのもやっとだった。そのとき、ベランダのドアが開いた。怜司が姿を現した。遥は、まるで傷ついた小動物のように鋭い目つきで彼を警戒した。「遥、そんなとこで無理するな。中に入ってこい」怜司の声はかすれていた。6年も怜司の妻でいた遥には、彼が必死に我慢しているのがすぐに分かった。遥は両手で手すりをぎゅっと握って、大声で叫んだ。「来ないで!もう一歩でも近づいたら、飛び降りるから!」怜司は、遥がここまで激しく反応するとは思わなかった。これも、じらして気を引く芝居なのか?「部屋のアロマはもう消した。もう何もしないから、まず入ってくれ。おばあさんを心配させるな」遥は怜司を見た。その言葉が本当かどうか、考えているようだった。しばらく睨み合いが続いたが、男のかすかな息遣いが、遥をさらに火照らせた。心と裏腹に、体は素直だった。彼を愛する気持ちを数日で消すことなどできないのだ。意地を張り続けた遥もついに力尽き、そっと手すりから指を離すと、足を引きずりながら部屋の中へ戻った。もう限界だった。この狭い空間で怜司と長く過ごしたら、もたない。情けない自分を心の中で罵りながら、遥はふらついた体で戻るしかなかった。部屋に入ると、遥はバスルームへと急ぎ、冷たいシャワーを浴びて熱を冷まそうとした。シャワーの栓をひねり、燃えるように熱い肌を冷たい水で洗い流した。冷たい水の刺激で少しずつ正気を取り戻し、体内の火照りも静まっていった。バスルームから出た時、遥はバスローブを纏っていた。髪はまだ濡れていて、しずくがぽたぽたと落ちていた。白い首すじを伝って、バスローブの襟もとを濡らした。怜司はベッドのそばに座っていた。両手をぎゅっと握りしめ、額に汗をびっしり浮かべ、顔を真っ赤にしていた。あの熱の苦しみに、必死に耐えているのがひと目で分かった。「あなたもシャワーを浴びてきたら」遥は少し迷ったけれど、そう口にした。わざわざそう言ったのは、目の前の男が理性を失って、自分に何かしてくるのが怖かったからだ。怜司は何も言わず、立ち上がってバス
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第15話

そう言うと、貴子は手を振り、そばにいた数人の使用人に向かって鋭い声で命じた。「あの子を取り上げなさい!さっさと病院へ連れて行くのよ。こんな女に付き合わせて、手遅れにでもなったらどうするの!」使用人たちは顔を見合わせ、一瞬ためらった。「私の言うことに逆らうつもり?」その怒鳴り声に、使用人たちはびくっと体を震わせた。仕方なく、覚悟を決めて前に出た。彼女たちは手を伸ばし、花梨から莉奈を奪い取った。莉奈はもともと病気で体調が悪かった。怯えて大声で泣き出し、小さな手を宙で振り回しながら、声をふりしぼって叫んだ。「ママ!ママ!」花梨はもがきながら莉奈を取り戻そうとした。でも使用人たちに、がっちりと押さえつけられた。花梨の爪が、使用人たちの腕に血の筋をつけたほどだった。「娘を奪わないでください!返してください!」泣き叫びすぎて、花梨の声はすっかりかすれ、ほとんど出なくなっていた。貴子は冷ややかにその様子を眺め、氷のような口調で言い放った。「花梨さん、よく聞きなさい。今日から二度と藤井家に足を踏み入れるんじゃないよ!また変なことを企んだら、容赦しないからね!」そう言うと、貴子は背を向けて立ち去ろうとした。この女一人、懲らしめることができないわけがない。何としても、この尻軽女に遥と怜司の結婚を壊させるわけにはいかなかった。花梨は泣き叫びながら、あちこちを見回して怜司の姿を探した。でも、怜司はいっこうに姿を見せなかった。しばらくして、階段を一人下りてきた。花梨は怜司が来たのかと思い、慌てて顔を上げた。でもその人は怜司ではなかった。それは、彼女が何よりも憎む、遥だった。遥は優雅な足取りで、階段を下りてきた。「少しは空気を読んで、さっさと帰ったら?ここで恥をさらすのはやめてよ」その言葉を聞いた花梨は、一瞬悔しさに眉をひそめた。でもすぐに気持ちを立て直し、いかにも哀れっぽい顔を作った。潤んだ瞳で顔を上げ、声の震えを隠しきれぬままに言った。「私は本当に怜司を奪おうなんて思ってない。ただ莉奈が心配なだけ。あの子は病気なの、早く手当てをしてあげたい、それだけなの。お願い、怜司に莉奈を見に行かせてあげてくれない?あの子には本当に父親が必要なの……」そう言ううちに、花梨の体が急にふらりと揺れ
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第16話

「おばあさん、莉奈は大丈夫なんですか?どこに連れて行ったんですか?」娘のことになると、怜司の表情が一変した。でも、仲を裂こうとするようなその言葉に、貴子はただ冷たく笑うだけだった。彼女からすれば、その手はまだまだ甘すぎた。「莉奈ちゃんが病気だから、病院に連れて行っただけよ。まさか私がわざわざ孫娘をいじめるとでも言うの?」そこで貴子は声を落ち着かせ、眉を上げて皮肉った。「それより、この女。藤井家で大騒ぎして、みっともないったらないわ。しかも呼んでもいないのに来て。花梨さん、藤井家はあなたを歓迎していないの。これ以上居座るつもりなら、この家のやり方で容赦なく罰を受けてもらう!」床にひざまずき、背中に竹刀の痕が痛々しく残っている怜司を見た花梨は、内心、少しばかり喜びを感じていた。怜司はきっと、自分のためにこんな罰を受けたのだ。花梨は貴子の脅しなど気にもとめず、泣きそうな声を出した。「怜司……私のために……」怜司は歯を食いしばり、体の痛みをこらえて、声を落とした。「俺に構うな。出て行ってくれ」「いや、怜司。莉奈がいる所に、私もいたいの。あの子から離れられない。私の娘なのよ。そばで守ってあげたいの」貴子は、これまで面の皮の厚い女を数え切れないほど見てきた。花梨も、そのうちの一人だった。居座って動かない気か?こんな女を懲らしめる手なら、いくらでもあった。貴子はそばのテーブルをバンと叩いた。「この女を捕まえて、藤井家のやり方で罰を与えなさい!」数人の使用人がすぐに駆けつけ、少しもためらわなかった。花梨は目を大きく見開き、今にも倒れそうだった。しかし、彼女はすぐに歯を食いしばり、この場を離れようとはしなかった。「私が悪かったのなら罰を受けます。でも、どうか莉奈を返してください」貴子は不機嫌そうに眉をひそめたが、何も言わず、手を振って合図した。激痛で全身をわなわなと震わせ、冷や汗を流しながらも、花梨は唇を噛み締めて、許しを乞おうとはしなかった。何度も竹刀で打たれ、花梨は息も絶え絶えになった。服はとっくに血で真っ赤に染まっていた。髪は乱れて顔に貼りつき、見るも無残な姿だった。使用人たちは容赦なく花梨を藤井邸の門の外へ引きずり出し、放り投げると、報告のために戻って行った。怜司は何も
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第17話

「パパが莉奈を捨てるわけないだろう?こうして会いに来たじゃないか?」そう言うと、何かに気づいたように、彼は冷徹な表情で遥に口を開いた。「莉奈に近づくな」「パパ、遥さんを責めないで。遥さん、とても優しいの」花梨は普段から、遥の悪口ばかり言っていた。それなのに莉奈がこう言うので、怜司は思わずクスッと笑った。遥はどうでもよさそうに肩をすくめた。病室に入ったばかりの頃、莉奈は警戒していた。花梨がさんざん悪口を吹き込んだのだろう。莉奈が怖がるのも無理はない。だが遥は、子供に罪はないという主義を貫いてきた。莉奈もまた、何も知らない子供なのだ。怜司はさっきの話を続けず、すぐに話題を変えた。「病気が治ったら、大好きなおもちゃを買いに行こう。どうだ?」莉奈はそれを聞くと、涙を拭いながら笑顔を見せ、嬉しそうにうなずいた。遥は仲むつまじい親子の会話を聞いて、胸がちくちくと痛んだ。これ以上ここにいられなくなり、遥は何も言わずに部屋を出た。怜司は莉奈を寝かしつけると、ベッドに戻して布団をかけた。それからそっと病室を出た。病室を出ると、やはり遥はまだ帰っていなかった。この女、やっぱり何か話したいことがあるんだな。今までのは、じらして気を引くための作戦だったのだ。怜司は近づき、咳払いして言った。「遥、俺に何の用だ?」きっと、全部自分が悪かったと言って、許しを乞うに違いない。怜司は、じっくりと楽しんでやろうと決めていた。そう簡単に遥を許すつもりはなかった。「おばあさんが私たちのこと、すごく気にかけてるの。これ以上怒らせないように、仲良くしてるフリをしてくれない?おばあさんの前だけでいいから」ふん、貴子のために仲直りのフリだと。そんな言い訳、あまりにも見え透いている。「俺に許してほしいなら、その一言だけじゃ足りないだろう?」怜司は彼女を見下し、面白そうにニヤついた。遥は額を押さえ、深呼吸をした。「怜司。許してなんて頼んでないわ。フリをしてって言ってるの。分かる?人の話が理解できないの?」この言葉が怜司を怒らせた。彼は皮肉っぽく笑った。「いい加減にしろ。芝居も度が過ぎると、つまらないぞ」遥は悲しそうに笑った。「おばあさんの前でうまくフリをすれば、そっちも花梨と仲良くできるでしょ?」こ
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第18話

でも、やっぱり画面には既読がつかない。怜司は不機嫌そうに眉をひそめた。そして、別のアカウントから遥にメッセージを送った。【お前の言う通りにする】送り終えると、怜司はじっとスマホの画面を見つめた。でも、やっぱりいくら待っても既読はつかなかった。「まったく、話にならない!」怜司は低く毒づき、怒りに任せてスマホをそばの椅子へ放り投げた。それから、すぐさま秘書に電話をかけて指示を出した。「今すぐ君のスマホから妻にメッセージを送れ。『お前の言う通りにする』とだけ、一字も間違えるな」ちょうどその頃、遥は知らない番号からのメッセージを受け取った。内容を見て、怜司が秘書に送らせたものだとすぐに分かった。内容が分かればそれでいい。彼女は怜司に返信するつもりなど、さらさらなかった。それから、遥はスマホを近くに放り出し、それ以上目もくれなかった。その後、怜司はずっと彼女からの返信を待ち続けたが、一晩経っても返事は来なかった。おかげで彼は、腹立ちのあまり一睡もできなかった。それからというもの、怜司と遥の二人は、貴子の前では仲むつまじいふりをした。貴子は二人がこんなに仲良くしているのを見て、とても安心した。だんだん、二人のことには口を出さなくなった。……その日、藤井グループの会議室は、重苦しい空気に包まれていた。怜司は険しい顔で各部署の報告を聞き、ペンで書類を淡々とチェックしていく。営業部長の番になり、最新の市場開拓計画を報告した。説明の途中で、怜司が営業部長の話をさえぎった。「この計画はリスクの見積もりが甘く、ライバル会社への対策も保守的すぎる。案を練り直す必要があると思うが」ところが、会議テーブルの隅に座っていた怜司の従弟・藤井靖也(ふじい せいや)が、突然鼻で笑った。「怜司さん、この計画、結構いいと思うけどな。そんなにあら探しする必要ある?市場なんて何が起こるか分からないよ。攻めすぎたら、逆に痛い目を見るかもしれないぞ」それを聞いて、怜司の目つきが一瞬で冷たくなった。彼は不機嫌そうにテーブルを指で叩いた。「会社では社長と呼べ。それに、会社の発展には先を見据えた判断がいる。前例にしがみついていたら、市場から取り残されるだけだ」しかし靖也は、まったく引き下がる気配を見せず、身を乗り出した。「怜司さん
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第19話

怜司は深く息を吸って、気持ちを整えてから電話に出た。「おばあさん、どうしたんですか?」「怜司、靖也と会社でもめてるって聞いたわ。二人とも藤井家の人間なんだから、話し合えないことなんてないはず。他人に笑われるようなことはやめてちょうだい」告げ口だけは早いものだ。「おばあさん、それは誤解です。あいつは実権を奪おうとしてるんです。会社をつぶされるのを、黙って見てるわけにはいきません」貴子はしばらく黙り込んだ。「怜司、あなたが会社のためにどれだけ尽くしてきたかは分かっているよ。近いうちに、二人でよく話し合って、問題を解決しなさい。藤井家が身内の争いでバラバラになるなんて、あってはならないことだからね」怜司はこめかみをもみながら言った。「わかりました。時間を作って話してみます」この前、花梨は貴子に打たれて怪我をしてから、ずっと星影荘で療養していた。莉奈の熱が下がったあと、怜司は彼女を花梨のもとへ送り返した。怜司はこの前のことがあってから、あまり星影荘に行かなくなっていた。駿はすぐ隣にいるのに、花梨はわざわざ遠回りしてまで藤井邸に乗り込んで騒ぎを起こした。その意図を、怜司が理解していないはずがなかった。莉奈の命を取引の材料にされて、怜司はやはり腹を立てていた。花梨はそんなことは何も知らず、今はソファにけだるそうにもたれ、指先でそっとスマホの画面をなぞっていた。体は、この間の療養でほぼ回復していた。だが、遥への憎しみはますます強くなった。花梨は下唇を軽く噛んで、靖也に電話をかけた。電話の向こうから、すぐに靖也のからかうような声が聞こえてきた。「おや、急にどうして電話なんて?」花梨は胸の中の嫌悪を押し殺し、わざと甘えた弱々しい声を出した。「ちょっとお願いがあるの……遥がひどすぎるから」花梨は、これまでにあったことを一通り話した。靖也はあざけるように笑った。「君のそんな手口なんて、おばあさんの前じゃ通用しないだろうね」「冗談はやめてよ」花梨は歯を食いしばった。「莉奈を拉致してほしいの。できればあの子をボロボロにしてから、全て遥のせいにするのよ。怜司は莉奈のことが一番大事なの。そうすれば、きっと遥に完全に失望するわ。あなたはその隙をついて、会社でもっと権力を得られる。私も遥を始末できるってわけ」
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第20話

怜司と仲のいいふりをする日々の中でも、遥はいつものように、薫から楽譜の仕事をもらっていた。でも今回は、必ず相手が誰なのか先に聞いておこうと思った。じゃないと、この前みたいなことになる。この前の楽譜でもめてしまったから、今回もきっと薫に頭ごなしに怒られるだろう。それでも遥は、薫に電話をかけた。指先が無意識に、机をトントンと叩いていた。電話がつながると、薫の声は受話器を突き破りそうなほど大きかった。「やっと連絡くれたんですね!この前遥さんが書いた楽譜、お客さんすごく気に入ってましたよ。また遥さんにお願いしたいって、ずっとせっつかれてたんです!遥さん、ほんと腕を上げましたね!」遥はぽかんとした。この前の仕事を、相手が気に入った?満足なんてするはずがない。だって楽譜を破り捨てられて、そのうえ1億円もの借金まで背負わされたのだ。どこからどう見ても、相手が満足しているようには思えなかった。「それ本当ですか?何かの間違いじゃ……」薫の下で仕事をしているのは自分だけじゃない。だから、間違いの可能性のほうが高い気がした。薫は明るく笑った。「あら、間違いなんかじゃないですよ。そんなこと気にしないで、お客さんが満足してくれたのが一番の証拠ですよ。これからもしっかり頑張ってください。仕事はいくらでも回してあげますから!」本当に間違いじゃなかったなんて。怜司はまた、何を企んでいるんだろう?「一之瀬さん、お客さんと直接お話ししてもいいですか?」「もちろんいいですよ、ちょっと待ってくださいね」薫から相手の連絡先を聞き出して、遥はすぐに電話をかけた。電話がつながると、向こうから駿の淡々とした声が聞こえてきた。「もしもし、どちら様ですか」「私です。鈴木先生、一之瀬さんから、この前の楽譜をすごく気に入ってくださったって聞きました。それで今回は、怜司が、それとも鈴木先生が私に楽譜を……」遥だと分かると、駿の声は明らかにやわらかくなった。「実はですね、これは僕個人からのお願いなんです。数日後に祖母の誕生日がありまして、祖母は昔から音楽が大好きなんです。あなたが作曲の才能に恵まれているのは知っていますので、祖母への誕生日プレゼントとして、一曲書いていただけないかと思いまして。これは怜司とは一切関係ないから、安心してください」
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