十二月も半ばを迎え、珠希はデザイン部長の岸部とともに、銀座駅近くの店で開かれた小さな忘年会に出席した。 氷室百貨店の周年企画に携わる実務担当者たちが、年内の一区切りとして集まった会だ。百貨店の企画部や売場の担当者、HIMUROの販促担当に加え、デザイン部からは岸部と珠希が招かれていた。「では、皆さん。今年もお疲れさまでした!」 乾杯の音頭を取ったのは、あず実の部下にあたる、氷室百貨店の入社二年目の社員だった。あず実が料理を皿に取り分けようとすると、百貨店側の社員が手で制した。「火野部長、今日くらいは私たちに任せてくださいよ」「本当? すみません、お願いします」 あず実は笑ってグラスを手にした。隣にいた売場の担当者も、親しげに彼女へ声をかけている。 雪臣と長年仕事をしてきた人。それが、珠希の知るあず実だった。 珠希はグラスを口元へ運びながら、先日の打ち合わせを思い出していた。環愛の制作過程をパンフレットにまとめるという件だ。 ――そういえば、あのときも氷室社長とは、写真選びでずいぶん遅くまで……。 きっと、過去の仕事を振り返っていただけにすぎない。それでも、二人の会話が頭から離れなかった。「珠希さん、食事は進んでる?」 ぼんやりしていたところへ岸部に声をかけられ、珠希は慌てて箸を持った。「あ、はい。岸部部長、よかったら揚げ物、取りましょうか?」「ああ、気にしないで。妻と娘がね、生活習慣病に気をつけろって。肩身が狭くてね」 笑いながら言う岸部につられ、珠希も笑った。 そのとき、少し離れた席で、あず実が部下の話を聞きながら頷いているのが見えた。仕事の場だけでなく、こうした席でも一人ひとりの話に耳を傾ける姿から、彼女の人柄がこの場の空気の端々ににじんでいるように感じられた。+ + + 会がお開きになる頃には、二十一時を回っていた。店を出たあと、珠希は椅子の背にストールを掛けたままだったことに気づいた。「先に行っていてください。すぐ取ってきます」 HIMUROの社員に断りを入れ、店内へ引き返す。
Dernière mise à jour : 2026-10-16 Read More