翌朝になっても、昨日の事実が頭から離れなかった。智臣と出会ってから、すべてが変わり始めている。 俺の身体は、智臣の匂いを覚えている。 自分のフェロモンが感じられるようになった。 熱に近い身体反応が出るようになった。 そして今度は、智臣の存在そのものが身体を落ち着かせている。 俺はそれを、「99.9%の適合率によるもの」と考えようとした。 適合率が高いから、身体が特別に反応する。そう説明すれば、すべてに理由がつくはずだった。 しかし――もしそうなら、智臣以外のアルファでも、同じ反応が起きるのではないか。 そんな疑問が、ふと頭の中に浮かんだ。 99.9%という数字が特別なのだとしたら、他のアルファではどうなるのか。 自分の身体は、本当に「適合率」だけで動いているのか。 それとも――。 智臣という、一人の人間に対して反応しているのか。 俺は朝の光が差し込む部屋で、静かに息を吐いた。 確かめたい。 自分の身体が、何を求めているのかを。 その小さな疑問が、今日という一日を静かに変え始めていた。 *** 一方、智臣も前日の観察結果を、改めて見直していた。 湊の反応は、単純な適合反応だけでは説明しきれない。 99.9%という数字によってオメガ機能が活性化している。それは、これまでの記録とも一致する。 だが湊に現れている変化には、それだけでは説明できないものがあった。 自分が近くにいると、緊張が和らぐ。 匂いを感じるだけでも、呼吸が深くなる。 離れると、再び落ち着かなくなる。 それは、明らかに「安心」に近い反応だった。 智臣は医療機関との相談を続ける中で、専門医から一つの可能性を示された。「特定のアルファに対するオメガの反応と比較できれば、より正確な判断につながるかもしれません」 他のアルファと接した場合に、湊の身体がどのような反応を示すのか。 確かに、それが分かれば一つの判断材料にはなる。 だが――。「……必要以上に負担をかけるつもりはない」 智臣はそう答えた。 検査のために、湊の身体を無理に変化させる必要はない。まして、湊を実験台のように扱うことはできない。 まずは、できる範囲で観察する。 身体に負担をかけず、日常の中で反応を確認していくことにした。 智臣はそう判断しながら、資料をゆっくり閉じる。
Last Updated : 2026-10-03 Read more