翌日の午後六時。俺は仕事を一旦抜け出し、一人で九条家の屋敷の前に立っていた。 重厚な門構えと手入れの行き届いた庭。幼い頃から見慣れたはずの景色が、今は異様に遠く感じる。 結婚式の日に、ここから逃げ出した記憶が鮮やかに蘇った。「欠陥オメガ」と呼ばれ続けた日々。 家族から切り捨てられた瞬間、すべてが胸に込み上げてきて、足が止まりそうになる。 それでも俺は奥歯を噛みしめながら、門をくぐった。自分の身体について知るために。 出迎えたのは、兄の蓮だった。「本当に来たんだな」 冷たい声と値踏みするような視線を注がれる。 俺は警戒しながら、父・怜司のいる書斎へ通された。父は、以前と変わらない態度で待っていた。「久しぶりだな、湊」 穏やかな笑顔を浮かべる。しかし、その奥には計算高い光が宿っているのが分かった。 俺は余計な話をせず、単刀直入に切り出した。「俺がなぜ欠陥オメガになったのか、教えてください」 父はすぐには答えなかった。 先に俺が九条家を捨てたこと、勘当されたこと、一ノ瀬智臣の秘書になったことを話題にする。「お前は、自分が九条家から完全に自由になったと思っているのか?」 それは、意味深な言葉だった。「どういう意味ですか?」 「そのままの意味だ」 父は椅子に深く腰掛け、俺を見つめた。「お前が『欠陥オメガ』だと思っているものは、そう単純な話ではない」 「……どういうことでしょうか?」 父は少し間を置いてから、静かに口を開いた。「幼い頃からフェロモンがほとんど出なかったことも、ヒートが極端に軽かったことも、九条家ではすべて『欠陥』と判断していた」「……それは知ってます」 「だが――お前の身体には、九条家ですら完全には把握していない特殊な性質がある」 息が止まりそうになった。「特殊な……性質?」 「そうだ」 父の声には、妙な確信があった。「そして近年になって、お前の身体には明らかな変化が現れ始めた」 俺は眉を寄せた。「……ヒートのこと?」 「それだけではない」 怜司は俺の反応を観察するように続けた。「そのきっかけになったのが、一ノ瀬智臣だ」 「……社長?」 「99.9%という極めて高い相性によって、これまで抑え込まれていたお前のオメガとしての性質が刺激された」 俺は愕然とした。「じゃあ……俺が変わっ
최신 업데이트 : 2026-09-23 더 보기