落下の感覚が消えたとき、祐真は湿った土の上に横たわっていた。 鼻を突くのは、焦げた木と血のような鉄のにおい。 耳の奥で、笛や太鼓の音が混じった不気味な旋律が響いている。 ──秋祭りの音だ。 ゆっくりと顔を上げると、そこには夜の村が広がっていた。 空には赤い月。 周囲には、提灯の灯がゆらゆらと揺れている。 だがその灯は、温かみを持たず、まるで魂の炎のように青白かった。 「ここは……?」 春香の声が震える。 隣には、美奈が顔をこわばらせながら立っていた。 「まさか……20年前の秋祭り……?」 視線を巡らせると、祐真は自分たちが“境界層”にいることを直感した。 記録──つまり、過去の“断片”が具現化した場所。 それは映像でも夢でもない。 過去の記憶そのものが、彼らを呑み込んでいる。 村人たちが、境内の中央に集まっていた。 提灯の列の向こう、神楽殿の前に小さな祭壇があり、その上には──。 「……子ども……?」 美奈が声を漏らした。 3歳ほどの少女が、白い着物を着せられて祭壇に立っている。 その頬には朱の印が描かれ、手には鈴。 少女の名を、祐真は知っていた。 ──橘美桜。 胸の奥に冷たい痛みが走る。 「やめろ……そんなことをさせるな……!」 祐真が叫んだ。だが声は誰にも届かない。 村人たちは無表情で、ゆっくりと祈りの詞を唱え続けている。 春香が唇を震わせ、涙をこらえた。 「こんな……こんなことが本当に……
Last Updated : 2026-09-11 Read more