All Chapters of 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜: Chapter 91 - Chapter 100

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第90話 仕事の時間は少し休みです

 ラウンジを出たあと、私たちはいったんそれぞれの部屋へ戻った。 せっかく温泉宿へ来たのだから、大浴場にも入っておきたい。 もちろん視察という意味でも。 そう自分に言い聞かせながら温泉へ向かったけれど、広い湯船に浸かって山の夜景を眺めているうちに、仕事のことはかなり頭から抜けていた。 部屋へ戻り、用意されていた浴衣に着替える。 少し休んだところでスマホが震えた。『ラウンジ前にいる』 帝人さんだった。 何の用だろうと思いながら廊下へ出る。 階段を下りたところで、浴衣姿の帝人さんを見つけた。 私は思わず足を止めた。 普段のスーツ姿とも、休日の服装とも違う。 濃紺の浴衣を着て立っているだけなのに、妙に目立つ。「何だ」「……浴衣、着るんですね」「ホテルが用意しているんだから着るだろう」「なんとなく帝人さんは着ないのかと思ってました」「どういう人間だと思っている」「旅館でもスーツを着てそうな人です」「風呂上がりまで仕事着を着るほど非効率じゃない」 そこでも効率が出てくるらしい。 帝人さんの視線が、今度は私へ向いた。 そのまま数秒止まる。「どうしました?」「……似合っている」「あ、ありがとうございます」 あまりに真っ直ぐ言われて、今度は私が目を逸らした。「それで、どうしたんですか?」「外を歩く」「今からですか?」「ホテルの裏に川沿いの遊歩道がある。夜十時までは宿泊客が出られる」 いつの間に調べたのだろう。「それも視察?」「半分は」「残り半分は?」「小春と歩きたい」 また普通に言う。 こういうところは本当に強い。「……少しだけですよ」「十分だ」 ホ
last updateLast Updated : 2026-08-30
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第91話 現場の声はどこで止まっていますか

 翌朝。 目を覚ましてカーテンを開けると、昨日とはまるで違う景色が広がっていた。 山の間に薄い霧が残り、朝日に照らされた川が白く光っている。 しばらく窓辺に立っていたところで、スマホが震えた。『起きているか』『起きています』『七時半に朝食』『知ってます』 昨日、何度も確認した時間だ。 身支度を整えて部屋を出ると、帝人さんもほぼ同時に隣室から出てきた。「おはようございます」「おはよう」 今日はもうスーツではなく、昨日と同じ私服だった。 廊下を歩いている途中、清掃用のワゴンを押した若い従業員とすれ違う。「おはようございます」 彼女は一度通り過ぎかけてから、私の足元を見て立ち止まった。「水城様、昨日お渡しした館内履き、少し大きくございませんでしたか?」「え?」 言われてみれば、確かに少し余っていた。「昨日、廊下を歩かれている時に少し踵が浮いていたので。よろしければ小さいものをお持ちします」「あ、大丈夫です。ありがとうございます」「かしこまりました。もし気になるようでしたら、いつでもお申しつけください」 笑顔で頭を下げ、今度こそ去っていく。 私は思わず振り返った。「昨日のこと、覚えてたんですね」「見ていたんだろう」「でも、私自身は気にしてなかったですよ」「だから価値がある。苦情が出てから対応するより、本人が不便だと認識する前に拾った方がいい」 帝人さんはそう言ったあと、少しだけ眉を寄せた。「やはり現場の質は高いな」 朝食会場では、和食を中心とした料理が並んでいた。 昨日の夕食ほど華やかではない。 それでも焼き魚は温かく、野菜の煮物も一つずつ丁寧に盛りつけられている。「このお味噌汁、おいしいですね」「出汁が強いな」 食事
last updateLast Updated : 2026-08-31
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第92話 全部、別々のものですか

 朝食を終えたあと、私たちはもう一度館内を歩いた。 昨日ほど細かく見て回る必要はないらしく、帝人さんも今日は立ち止まる回数が少ない。 それでも、フロントを通れば端末を見るし、清掃中の廊下ではワゴンの配置を見る。「一般のお客さんですよね?」「今日は何も言っていない」「見るなとは言ってません」「なら問題ない」 昨日、従業員に声をかけられたことは一応覚えているらしい。 ロビーへ下りると、昨日玄関で荷物を預かってくれた男性従業員がいた。 年配の夫婦がチェックアウトをしている。「今年もありがとうございました」「こちらこそ。また来年ね」 奥さんが笑うと、男性も柔らかく笑った。「来年もお二人でお越しいただけるよう、お待ちしております」「その頃にはこの人の膝ももう少し良くなってるといいんだけど」「では次回は、エレベーターに近いお部屋をご用意いたしましょうか。今回のお部屋は少し歩きましたから」「あら、そんなことまで覚えてたの?」「昨日、少しお辛そうでしたので」 ご主人が苦笑する。「隠してたつもりだったんだけどな」「長くこちらでお迎えしておりますので」 押しつけがましくない。 でも、ちゃんと見ている。 二人が玄関を出るまで見送ったあと、男性は次の宿泊客へ向かった。「……またですね」「何がだ」「帝人さんが言う、従業員の価値です」「高いな。少なくとも接客部門は、簡単に手放すべき人材じゃない」 そこはもう迷っていないらしい。 けれど続く言葉も、やはり同じだった。「ただし、人材を残すこととホテルを残すことは別だ」 私はその言葉を聞きながら、ロビーを見回した。 磨かれた木の柱。 庭が見える大きな窓。 昨日お茶を出してくれた場所。 食事処へ続
last updateLast Updated : 2026-08-31
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第93話 ホテルは一つの商品です

 帝人さんは、しばらくホテルを見ていた。 何かを考えている時の顔だった。 私も急かさず、その隣で待つ。 やがて帝人さんが口を開いた。「小春が言っているのは、個別の価値ではなく、組み合わせた時の価値を見ろということか」「……たぶん、そういうことです」「たぶん?」「私はそんなに経営っぽく考えてませんから」「だが意味は同じだ」 帝人さんはホテルへ視線を戻した。「接客だけを切り出せば人材価値。料理だけなら商品価値。景観は立地価値。建物は不動産価値として評価できる。俺はそれぞれを分解して、最も利益の出る形に再配置することを考えていた」「はい」「だが宿泊客が買っているものが、その一つずつとは限らない」 私は黙って聞いた。「昨日の夫婦は、料理が一割優れているから二十年以上通っているわけじゃない。客室設備だけなら他の宿の方がいいと言っていた。それでも戻ってくるなら、個別項目では説明できない価値がある」 帝人さんの目が少し鋭くなる。 会社で何かを組み立て直す時の目だ。「ホテルそのものを、一つの商品として評価し直す必要があるな」 その言葉に、私は少し嬉しくなった。「それなら、残しますか?」「まだ早い」 即答された。「そこはまだなんですね」「当たり前だ。価値があることと、再建可能であることは別だ」 帝人さんは続ける。「このホテル全体にブランド価値があるとしても、それを維持するために必要な改修費が回収できないなら残せない。常連客だけで今後十年の売上は作れないし、従業員の接客能力も属人的なままでは拡張できない。料理も地元との取引も、利益構造へ組み込めなければ単なる美点で終わる」 やっぱり厳しい。 でも昨日までとは少し違う。「ただ」 帝人さんがホテルを見る。「売却して価値のある部品だけ拾う案を、最初から最善と見るのも
last updateLast Updated : 2026-09-01
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第94話 残すなら、今のままでは残しません

 月曜日の午前十時。 翠嶺ホテルについての再検討会議が始まった。 会議室にはホテル事業の統括役員、財務、施設管理、企画部門の責任者が揃っている。 スクリーンには、先週まで検討されていた三つの案が並んでいた。 規模を縮小した再建。 売却。 別業態への転換。 帝人さんは資料を一通り見たあと、最初に口を開いた。「この再建案は作り直せ」 統括役員が顔を上げる。「現行案では不十分でしょうか」「不十分というより、前提が違う」 帝人さんは資料を机へ置いた。「現地へ行く前、俺は翠嶺ホテルを設備、人材、料理、立地に分け、それぞれの価値を最も利益が出る場所へ移せばいいと考えていた。今も、その考え方自体が間違っているとは思わない。事業を分解して価値を確認することは必要だ」 そこで一度、言葉を切る。「だが今回は、それだけでは足りない」 会議室の空気が変わった。「現地には、個別に切り離した時より、組み合わせた状態の方が価値を持つものがある。接客、料理、景観、建物、地元との関係、長年通っている顧客。その一つずつは他へ移せる。だが、それらが一つの場所に存在することで客が戻ってくるなら、翠嶺ホテル自体が商品だ」 企画部門の責任者が資料へ目を落とす。「ブランド価値として評価する、ということでしょうか」「それだけではない。ブランドという言葉で曖昧にまとめるな」 帝人さんの声が少し低くなる。「何十年続いているから価値がある、では金は出さない。客がなぜ戻ってくるのか。どの接客が評価され、どの料理が選ばれ、どの空間に滞在価値があるのか。それを分解した上で、今度は組み直せ」 私は少し離れた席で、その言葉を聞いていた。 ホテルで私が感じたことを、帝人さんはもう完全に仕事の言葉へ変えている。「再建する場合、客室数を減らす方針は維持する。稼働しない部屋を抱えて人員と修繕費を浪費する意味はない。だが、単純に高価格帯へ寄
last updateLast Updated : 2026-09-01
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第95話 役職ではなく、知っている人を呼んでください

 翠嶺ホテルの再建案を作り直すことが決まってから三日後。 私が昼休みにスマホを見ると、帝人さんから一件のメッセージが届いていた。『あの男が来た』 それだけだった。 何のことか分からない。『誰ですか?』 すぐに返事が来る。『朝食券の男だ』 そこでようやく思い出した。 翠嶺ホテルで、紙の朝食券をやめた方がいいと話していた若い従業員。『名前、覚えてなかったんですね』『あの時は知らなかった』 それもそうだった。『今は?』『佐野拓海。二十七歳。宿泊部フロント担当。入社五年目』 急に詳しい。『調べたんですか?』『会議に呼んだ』 相変わらず話が早かった。 午後。 私は仕事を終えてから皇グループ本社へ寄ることになっていた。 ホテル視察について、私が客として感じたことも再建チームへ共有してほしいと頼まれていたからだ。 会議室へ入ると、すでに十人ほどが集まっていた。 本社側からはホテル事業部、企画、財務、施設管理。 そして現地から三人。 支配人。 接客部門をまとめる女性。 もう一人が、見覚えのある若い男性だった。 ホテルで朝食券の話をしていた人だ。 向こうは当然、私たちがお忍びで泊まっていたことなど知らない。 帝人さん――久世直人ではなく、今日は皇帝人として正面に座っている。 佐野さんはさっきから明らかに緊張していた。 無理もないと思う。 数日前まで一般客だと思っていた人が、自分の会社の頂点に座っている。「始めるぞ」 帝人さんが口を開いた。「今日は完成した案を持ってこいとは言っていない。現場で何が起きているか確認する。そのために呼んだ」 支配人が頭を下げる。「承知しております」
last updateLast Updated : 2026-09-02
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第96話 却下した理由まで出してください

 翌日の午前九時。 帝人の執務室には、翠嶺ホテルから過去三年間に提出された改善提案が並んでいた。 紙にすれば、かなりの量になる。 榊原がタブレットを操作しながら説明する。「現地から本社へ正式に上がったものが四十三件。現地内部で提出され、支配人判断で止まったものが二十七件。口頭提案まで含めると、正確な数は把握できません」「採用されたのは」「十九件です。ただし、備品変更や館内掲示の修正など、小規模なものが大半です」 帝人は最初の資料を開いた。 朝食券の電子化。 却下。 館内案内のデジタル化。 保留後、見送り。 チェックイン時の説明項目削減。 一部のみ採用。 自社予約客限定の地元体験プラン。 試算前に見送り。 連泊客向け清掃選択制。 却下。「……却下理由が雑だな」 帝人の声が低くなる。 榊原も同じ箇所を見た。「『従来運用との整合性が取れないため』」「何と何の整合性だ」「記載はありません」「次」「『費用対効果が不透明』」「費用はいくらで、効果をいくらと想定した」「試算資料は添付されておりません」「なら不透明なのは提案じゃない。却下した側の判断だ」 帝人は次々と資料を開いた。 似た言葉が続く。 前例がない。 現行体制で対応可能。 繁忙期の運用が困難。 慎重な検討が必要。 そのまま一年、二年と止まっているものもある。「榊原」「はい」「これは却下ではない。考えることをやめただけだ」 帝人は一件の提案で手を止めた。 若手従業員三名の連名だった。 自社予約比率を上げるため、公式サイト限定で地元の店や施設と組んだ小規模な宿泊プランを作る
last updateLast Updated : 2026-09-02
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第97話 何を残すか、先に決めます

 翠嶺ホテルの再建チームが正式に動き始めたのは、その翌週だった。 会議室には本社側の企画、財務、施設管理、ホテル事業部に加えて、現地から支配人、接客部門の責任者、料理長、そして佐野さんが参加している。 スクリーンには改修案のたたき台が映されていた。 客室の全面改装。 フロント設備の刷新。 予約システムの更新。 大浴場の補修。 食事処の改装。 項目だけを見ると、ずいぶん立派だ。 けれど、帝人さんは資料を最後まで見る前に言った。「一度止めろ」 説明していた企画担当者が口を閉じる。「これは古くなったところを新しくする計画だ。再建案じゃない」「設備更新を優先してまとめたものですが……」「だから何のために更新するのかが抜けている。金をかければ建物は新しくなる。だが、それで翠嶺ホテルを選ぶ客が増える根拠はどこにある」 帝人さんはスクリーンへ視線を向けた。「俺は、古いものを全部新しくしろとは言っていない。先に決めるべきなのは、何を捨てるかでも、何を買い替えるかでもない。このホテルに何を残すかだ」 会議室が静かになる。「支配人。翠嶺ホテルの強みは何だ」「六十年以上続く歴史と、温泉、それから地元食材を使った料理かと」「弱い」 即座だった。「その三つを掲げる温泉宿が、この国に何軒あると思っている」 支配人が言葉に詰まる。 帝人さんは今度は料理長を見る。「料理長はどう思う」 六十歳前後の料理長は少し考えてから答えた。「料理だけなら、うちより豪華な宿はいくらでもあります。ただ、昔から来てくださる方には、変えないでほしい味があります」「具体的には」「出汁ですね。それから春の山菜や川魚。派手ではありませんが、毎年同じ時期に同じものを楽しみに来てくださる方がいます」「それを全部変えて、高級食材を増やしたらどうなる」
last updateLast Updated : 2026-09-03
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第98話 残したいものには理由が必要です

 次の再建会議では、前回より資料の量が増えていた。 各部門から提出された「残すもの」「変えるもの」「なくすもの」。 同じ設備が、別々の欄に入っているものまである。「宴会場は、現地側では『残す』。企画側では『縮小』。財務側では『一部廃止』か」 帝人さんが資料をめくる。 現地の支配人が説明した。「宴会利用は以前より減っています。ただ、地元企業の会合や法事などで一定の需要がありまして、地域とのつながりを考えますと完全になくすのは――」「地域とのつながり、だけでは残す理由にならない」 帝人さんは遮ったものの、すぐに廃止とは言わなかった。「年間の利用件数、曜日、客単価、そのうち宿泊へつながる比率を出せ。宴会単体で赤字でも、宿泊や再訪まで含めて利益が残るなら価値はある。逆に『昔から地元が使っている』だけなら、広い面積を維持する理由にはならない」 今度は財務担当を見る。「お前たちも、稼働率が低いから全部潰せでは雑だ。使っていない時間が長いなら、別用途と兼用できないかを先に考えろ」「ラウンジや小規模イベントへの転用も検討しています」「なら数字をつけろ。結論だけ持ってくるな」 次は客室だった。 現地側は、古い和室の一部を残したい。 本社企画は、全室を洋室寄りへ改装したい。「理由は?」 帝人さんに問われ、企画担当者が答える。「今後の若年層、訪日客まで考えますと、ベッド中心の方が利用しやすいかと。布団敷きの人員も削減できます」「それ自体は合理的だ。だが全室変える必要は?」「統一した方が運営効率は上がります」「運営効率だけで商品を同じ形にするな」 帝人さんは現地側の資料へ目を落とした。「和室を残したい理由は?」 接客部門の責任者が答えた。「長く来てくださっているお客様には、畳のお部屋を希望される方が多いです。それから小さなお子様連れですと、ベッドより和室の方が安心だという声も
last updateLast Updated : 2026-09-03
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第99話 翠嶺ホテルを再建します

 二週間後。 翠嶺ホテルの再建計画は、ようやく数字になった。 客室数は現在より三割削減。 使われていない一部客室を統合し、上位客室を増やす。 和室は需要に合わせて残し、設備だけを更新。 宴会場は一つを廃止し、もう一つを小規模宴会と地域イベントの兼用へ改装する。 予約管理、チェックイン、顧客情報共有のシステムは全面刷新。 料理部門は地元食材と既存の仕入れ先を中心に残しながら、宿泊プランそのものを整理する。 そして、公式サイトから直接予約する理由を作る。 会議室のスクリーンには、そのすべてを反映した五年間の収支予測が映されていた。「初期投資額は当初案より増えました」 財務責任者が説明する。「ただし客室数削減による人員再配置、仲介サイトへの手数料削減、客単価上昇を見込みますと、三年目で単年度黒字。投資回収は――」「その数字は標準ケースだな」「はい。こちらが下振れケースです」 画面が切り替わる。 稼働率が想定より低い場合。 客単価が計画まで上がらない場合。 改修費が追加で発生した場合。 帝人さんは、むしろこちらを長く見ていた。「最悪ケースでも、五年で撤退判断ができるようになっているな」「はい。段階的な投資に変更しましたので、第二期改修へ進む前に第一期の成果を確認できます」「ならいい」 支配人が少し緊張した顔で帝人さんを見る。 まだ誰も、「再建する」という言葉を聞いていない。 帝人さんは資料を最後まで確認してから、タブレットを置いた。「再建する」 短い一言だった。 それでも、会議室の空気がはっきり変わった。「翠嶺ホテルは売却しない。別業態にも変えない。ホテルとして残す」 現地側の人間たちが顔を見合わせる。 けれど帝人さんは、喜ぶ時間を長くは与えなかった。「ただし、勘違
last updateLast Updated : 2026-09-04
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