最初の説明を終えたあと、東栄都市開発の専務は追加資料を取り出した。「皇社長のお考えは理解いたしました。しかし、共同事業者を変更する場合の損失は、簡単に処理できるものではありません」 机の上へ置かれた資料には、契約解除後に想定される工程の遅延や、許認可の再確認に必要な期間が記載されていた。「新たな事業者の選定に三か月。業務の引き継ぎに二か月。周辺事業者との再調整まで含めれば、全体で八か月以上の遅延が見込まれます」「その数字は、現在の事業構造を維持したまま、東栄だけを別会社へ置き換えた場合のものだな」 帝人が尋ねると、専務は一瞬答えを詰まらせた。 代わりに直哉が口を開く。「現行計画を最も早く引き継ぐ方法として試算しています。設計や運営方針まで変更すれば、さらに時間が必要になる可能性もあります」「可能性ではなく根拠を話せ」「変更内容が示されていない以上、正確な期間は算出できません」「なら、八か月という数字も確定ではない。自分たちに都合のいい前提で作った試算を、避けられない損失のように扱うな」 直哉は表情を変えなかった。「御社が具体的な代替案を示されない以上、私どもは現行計画を基準に判断するしかありません」「お前たちが判断する必要はない」 東栄側の二人が眉をひそめる。 帝人は資料を指先で押さえた。「東栄には、皇グループが用意した代替案を評価する権限はない。必要なのは、自分たちが現在の契約を履行できるのか、できないのかを明らかにすることだ。こちらの代替案が不十分なら条件を受け入れてもらえる、と考えている時点で順序を間違えている」「ですが、共同事業である以上、御社の判断が東栄都市開発にも影響を与えます」「だから契約がある」 帝人は直哉を見る。「契約とは、互いの善意を期待するためのものではない。どちらが何を負担し、何が起きた時に誰が責任を負うかを、問題が起きる前に決めるためのものだ。東栄は資材費の上昇を理由に、自分たちが引き受けた負担を変更しようとしている。
Last Updated : 2026-08-14 Read more