All Chapters of 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜: Chapter 131 - Chapter 140

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第125話 近いです、帝人さん

 翌日の午前中。 私はいつものように帝人さんの執務室へ入り、会議前に確認してほしい資料を机へ置いた。「こちら、経営企画部からです。修正版が届いてます」「ああ」 帝人さんが資料を開く。 私はその横から、修正箇所を指した。「前回話してた人員配置のところ、ここです。夜間の負担試算も追加されてます」「見せろ」 帝人さんが少し身を乗り出した。 その瞬間。「……近いです」「何がだ」「帝人さんがです」 帝人さんが止まった。 私は自分でも何を言っているんだと思った。 距離なんて、たぶん昨日までと同じだ。 机の上の資料を二人で見る時は、いつもこれくらい近い。 なのに今日は、妙に気になる。「昨日までこの距離だっただろう」「今日は近いんです」「距離は変わっていない」「分かってます」「なら何が問題だ」「私の問題です」 勢いで答えると、帝人さんが黙った。 まずい。 余計に意味が分からない返事をした。「……体調が悪いのか」「違います」「頭痛?」「ありません」「熱は」「ないです」「なら、なぜ急に距離を気にする」 そこを聞かないでほしい。「今日はそういう日なんです」「昨日も聞いたな、それ」「便利なんです」「説明になっていない」 帝人さんは納得していない顔をしている。 でも、それ以上近づいてはこなかった。 むしろ少しだけ身体を引く。「これでいいか」「……はい」「本当に?」「大丈夫です」 何だろう。 その素直さまで気になる。 私は資料へ視線を
last updateLast Updated : 2026-09-20
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第126話 前は平気だったんです

 意識しない。 今日はそれを目標にしようと思った。 朝、出社して。 いつも通り帝人さんの予定を確認して。 いつも通り資料を整理して。 いつも通り仕事をする。 昨日まで普通にできていたことなのだから、できないはずがない。「小春」「はい」「十時の会議、資料が一部差し替わった」「もう届いてます。確認済みです」「早いな」「仕事なので」 大丈夫。 普通。 何も問題ない。 そう思ったのは、エレベーターへ乗るまでだった。「……」「小春」「はい」「なぜ端にいる」 私は壁際に立っていた。 帝人さんは反対側。 間には、大人二人くらい入りそうな空間がある。「空いてるので」「いつもそこじゃないだろう」「今日はここがいいんです」「また距離の話か」「違います」「昨日から明らかに違う」 帝人さんがこちらを見る。「やはり体調が悪いんじゃないのか」「元気です」「なら何だ」「なんでもありません」「それは昨日も聞いた」「今日も同じです」 扉が開いた。 私は逃げるように先へ出た。 後ろから帝人さんもついてくる。「小春」「会議始まりますよ」「分かっている」「では行きましょう」 どうして私は逃げているんだろう。 帝人さんは何もしていない。 本当に何も。 昨日だって、近いと言ったらすぐに離れてくれた。 なのに。 私の方だけがおかしい。 ◇◇◇◇ 午後。 今度は社用車だった。
last updateLast Updated : 2026-09-21
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第127話 帝人さんは平気なんですか

 翌日の夕方。 帝人さんと二人で資料を確認していた。 昨日までなら、それだけで妙に落ち着かなくなっていた。 今日は少し慣れた。 たぶん。「小春、ここ」「はい」 帝人さんが資料をこちらへ向ける。 近い。 でも今日は言わない。 大丈夫。 普通。「……」「小春」「はい」「また止まっている」「止まってません」「三秒くらい止まった」「細かいです」「数字を見ている時に止まるなら、何か引っかかったのかと思うだろう」 仕事の話なら本当に鋭い。 私は資料へ視線を戻した。「ここは問題ないです。ただ、来月の人員配置だけもう一回確認した方がいいと思います」「理由は」「繁忙期と重なります。人数だけ足りていても、経験者が偏ると現場が回らないかもしれません」「分かった。担当に出させる」 話は終わった。 帝人さんは資料を閉じる。 私は立ち上がろうとして、ふと止まった。「帝人さん」「何だ」 聞くなら今しかない気がした。「一つ聞いてもいいですか?」「ああ」「……帝人さんは平気なんですか?」「何がだ」 やっぱりそうなる。「その……私と近い時とか」 帝人さんがこちらを見る。「近い時?」「昨日から私が距離を気にしてるじゃないですか」「ああ」「帝人さんは何とも思わないんですか?」 聞いてから後悔した。 何を質問しているんだろう。「忘れてください」「なぜだ」「変なこと聞きました」
last updateLast Updated : 2026-09-21
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第128話 会議を半分にします(前編)

 その日の午前中、帝人さんの執務室には、各部署から提出された定例会議の一覧が並んでいた。 週次。 隔週。 月次。 部内だけで終わるものもあれば、複数部署から十人以上が集まるものもある。 資料を見ただけでも、かなりの数だった。「多いですね」「多すぎる」 帝人さんは一覧を眺めながら、容赦なく印をつけていく。「これと、これ。それからこれも廃止だ」「ちょっと待ってください」「何だ」「今、三つ連続で消しましたよね?」「ああ」「ちゃんと中身見ました?」「見たから消した」 帝人さんは一つ目の会議を指した。「毎週月曜、九十分。参加者十二人。直近三か月で議題の六割が前週の進捗確認だ。進捗だけなら共有資料で足りる」 次の資料へ指を移す。「これは月二回、一時間。議事録を見る限り、各部署が順番に報告して終わっている。質問もほとんどない。全員を集める意味がない」 さらに次。「こっちは毎週やる必要がない。月一回で十分だ」 理由はある。 しかも、かなり正しい。「帝人さん、今日これを全部整理するつもりですか?」「そのために出させた」「どれくらい減らす予定です?」「半分」「半分!?」 思った以上だった。「年間の会議時間を計算した。役職者だけでも相当な時間を使っている。その中には、集まる必要のない会議が多すぎる」「それはそうかもしれませんけど」「十二人が一時間集まれば、会社として十二時間を使っている」「一人一時間ですけどね」「その一時間を十二人分使っているんだから同じだ。移動や事前準備まで入れれば、実際の損失はさらに大きい」 帝人さんは手元の一覧を軽く叩いた。「意思決定もしない。意見交換もしない。資料に書いてある数字を順番に読み上
last updateLast Updated : 2026-09-22
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第129話 会議を半分にします(後編)

「何を確認する」 帝人さんが、私の指している資料を見る。「会議で何を決めているかじゃなくて、何のために集まっているのかです」「議事録に書いてある。各拠点の状況共有だ」「それだけかなって」「どういう意味だ」 自分でも、まだ上手く説明できなかった。 私は過去数回分の議事録を開く。 配送遅延。 店舗ごとの在庫状況。 設備故障。 人員の応援。 大きな問題は少ない。 重要な決定もほとんどない。 だから帝人さんが「資料だけで足りる」と判断したのも分かる。 でも。「ここです」 私は短い記述を指した。『最近、この時間帯だけ荷物が遅れることがある』 その下。『まだ問い合わせになるほどではないが、同じ商品の返品が少し増えている』 さらに別の回には、『新人が同じ場所で迷うことが多い』 とある。「これがどうした」「これって、たぶん資料を送るだけになったら書かれない気がします」「必要な情報なら書かせればいい」「何が必要なのか、話して初めて気づくこともありません?」 帝人さんが黙った。 私は考えながら続ける。「たとえば『最近ちょっと遅れることがある』くらいなら、正式な報告書を書くほどじゃないと思って黙る人もいると思うんです。でも会議で別の人が似た話をしたら、『うちもです』ってなるかもしれない」「複数拠点で起きていれば、そこで初めて共通の原因に気づく可能性がある、と」「はい。返品も同じです。一件ずつなら小さいけど、話してみたら同じ商品で増えていたとか」 帝人さんがもう一度議事録を見る。「新人が迷う、というのもか」「一人なら慣れてないだけで終わる。でも何人も同じところで迷うなら、案内や動線に問題があるのかもしれません」「&he
last updateLast Updated : 2026-09-22
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第130話 資料になる前の話があります(前編)

 午後三時。 帝人さんの執務室に、三人が集まった。 物流部の課長。 現場担当の若手社員。 店舗運営部の主任。 全員、なぜ呼ばれたのか分からない顔をしている。「座れ」 帝人さんが言うと、三人が少し緊張した様子で席についた。 私はその横で資料を開く。「今日聞きたいのは、物流部と店舗運営部で毎週やっている情報共有会についてだ」 帝人さんがいきなり本題へ入った。「廃止を検討している」 三人の表情が固まった。「ただし、決定ではない」 帝人さんは続ける。「会議自体に価値があるのか。それとも、そこでしか拾えていない情報に価値があるのかを確認したい」 物流部の課長が慎重に口を開いた。「確かに、報告だけで終わる週もあります」「なら、なくなって困ることは何だ」 単純な質問だった。 でも三人はすぐに答えなかった。「何もないならそれでいい。無理に残す理由を作るな」「……一つ、あります」 口を開いたのは、現場担当の若い男性だった。「正式に報告するほどではないことを聞けなくなるのは、少し困ります」 帝人さんが私を見る。 私は何も言わなかった。「具体的に」「先月、店舗側から『夕方だけ配送が遅れることがある』って話が出たんです」 議事録にあったものだ。「最初は一店舗だけだったので、交通状況かなと思ってました。でも別の店舗からも同じ話が出て。それで調べたら、夕方の積み込み順が変更されていたんです」「問題になっていたのか」「その時点では遅延と呼ぶほどではありませんでした。十分とか十五分くらいで」 店舗運営部の主任が引き取る。「ただ、そのまま荷物量が増える時期に入ったら、もっと遅れていた可能性があります。共有会で話が出たので、その前に修
last updateLast Updated : 2026-09-23
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第131話 資料になる前の話があります(後編)

 帝人さんが、もう一度三人へ向き直る。「では、この会議をそのまま残す必要はあるか」 今度は物流部の課長がすぐに答えた。「毎週一時間は長いと思っています」「そこは思っていたのか」「……はい」 現場担当の若い男性が少しだけ笑った。「報告資料を読み上げる時間は、正直いらないです」「なら最初から言え」 三人が黙る。「帝人さん」 私が横から声をかける。「社長に『会議いらないです』って言うの、結構勇気いりますよ」「なぜだ。無駄なら言えばいい」「その感覚が帝人さんなんです」「分からない」 やっぱり分からないらしい。 私は三人へ聞いた。「もし報告の読み上げをなくして、気になることだけ短く話す形ならどうですか?」「それなら助かります」「毎週三十分でも十分だと思います」「参加者も全員でなくていいかもしれません」 次々に意見が出る。 帝人さんがそれを整理していく。「定例報告は事前共有。会議では読み上げ禁止。議題は『正式報告にはなっていないが気になること』を優先する」「それなら意味がありそうですね」「ああ」「じゃあ、この会議は残します?」「今の形では残さない」 そこは変わらない。「三十分に短縮する。参加者も減らす。ただし、現場から最低一人ずつ入れろ。管理職だけ集めても意味がない」 物流部の課長が頷いた。「承知しました」「一か月試せ。必要な情報が拾えているか確認して、その後また見直す」「分かりました」 三人が退出する。 扉が閉まったあと、私は帝人さんを見る。「どうでした?」「会議自体はやはり無駄が多い」「そこは譲らないんですね」「
last updateLast Updated : 2026-09-23
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第132話 なくすなら、代わりを作れ

 それから数日。 帝人さんの執務室には、見直しを終えた定例会議の一覧が並んでいた。 廃止。 頻度変更。 時間短縮。 参加者削減。 継続。 最初は単純に「半分消す」と言っていた一覧が、ずいぶん細かく分類されている。「結局、半分なくなりました?」「会議数だけなら四割弱だ」「届かなかったんですね」「時間で見ろ」 帝人さんが別の資料をこちらへ寄せる。 年間会議時間。 見直し前と見直し後。「……半分近く減ってる」「ああ。会議そのものを残しても、一時間を三十分にしたものが多いからな」「じゃあ、目標達成?」「まだだ」 帝人さんは次のページを開いた。「会議を減らした結果、情報が落ちたら失敗だ」 そこには、新しく作られた仕組みが並んでいた。 部署横断の短時間共有。 現場から直接上げられる簡易報告。 正式な報告書にするほどではない違和感を残せる共有欄。 重大度を判断できない段階でも、一度記録できる仕組み。「これ、全部作るんですか?」「必要なものだけ試す」「帝人さんにしては慎重ですね」「何だその言い方は」「もっと一気に全部変えるかと思ってました」「一気に変えて何が悪い」「ほら」「ただし、仕組みが増えすぎれば今度は入力作業が無駄になる」 帝人さんは真顔で続ける。「会議を減らして、その代わりに報告フォームを十個増やしました、では意味がない。現場の時間を奪う場所が変わるだけだ」「そこまで考えてるなら安心しました」「俺を何だと思っている」「仕事を減らすために、新しい仕事を増やしそうな人」「そんな非効率なことはしない」「帝人さん自身の仕事は増やしますけどね」
last updateLast Updated : 2026-09-24
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第133話 私に見せるための資料ですか(前編)

 会議削減の見直しが一段落した翌週。 午後の予定を確認していると、受付から内線が入った。『倉橋さんにご面会希望の方がいらっしゃっています』「私にですか?」『はい。東央ソリューションズの営業企画部長、相馬様です』 名前に聞き覚えがあった。 来月、皇グループへ新しい業務支援システムを提案する予定の会社だ。「アポイントは?」『ございません。ただ、十分ほどで結構なので倉橋さんに直接ご相談したいとのことです』「分かりました。応接スペースへお願いします」 帝人さんではなく、私。 少し珍しい。「誰だ」 執務室から声がした。 聞こえていたらしい。「東央ソリューションズの相馬さんです。私に少し相談があるそうです」「俺ではなく?」「はい」「何の相談だ」「まだ聞いてません」 帝人さんは少しだけ考えた。「そうか」 それだけ言って資料へ戻る。「気にならないんですか?」「小春への客だろう」「そうですけど」「なら小春が話を聞けばいい」 あっさりしている。 私が何かあれば自分で対応できると思っているのだろう。 そう考えると、少しだけ嬉しい。 ……最近、こういうことまで意識してしまうのは困るけれど。 私は応接スペースへ向かった。 ◇◇◇◇「突然申し訳ありません」 相馬さんは四十代くらいの、柔らかい印象の男性だった。「いえ。今日はどのようなご相談でしょうか」「来月、御社へご提案する予定の案件について、少し現場寄りの意見をいただければと思いまして」「現場寄り?」「倉橋さんは、数字だけではなく実際に使う人のこともよく見ていらっしゃると伺いました」 どこから聞い
last updateLast Updated : 2026-09-24
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第134話 私に見せるための資料ですか(後編)

「倉橋さん向けに整理した資料ではあります」 相馬さんは慎重に答えた。「私が気にしそうなところだけを?」「そういう言い方をされると少し違います」「じゃあ、費用も見せてください」「それは正式提案の際に――」「移行リスクも。既存システムとの比較も。導入後に想定される問題も全部です」 私は閉じた資料へ手を置いた。「良いところだけ見せられても、私は判断できません」「判断をお願いしているわけではありません」「でも、私が帝人さんに何か言うことは期待してますよね」 相馬さんはしばらく黙っていた。 やがて、小さく息を吐く。「……倉橋さんから一言、興味を持っていただければ、正式提案も進めやすくなるとは考えていました」 やっぱり。 少し前にも似たことがあった。 社内で。 あの時は、私から帝人さんへ話を通してほしいと直接頼まれた。 今回は違う。 私が気に入りそうなものを先に見せて、自分から帝人さんへ話したくなるようにする。 やり方が少し巧妙になっただけだ。「それなら、やめた方がいいです」「なぜでしょう」「帝人さんは、私が良いと言ったから採用する人じゃありません」「ですが、倉橋さんの意見は聞かれる」「聞きます」 そこは否定しなかった。 帝人さんは私の言葉を聞く。 私が何かに引っかかれば、その理由を確認する。 でも。「だからこそ、こういう形では使いたくありません」 相馬さんが私を見る。「私が本当に良いと思ったなら、私から帝人さんに話すことはあります。でも、そのために私が良いと思いそうな情報だけ選ばれるのは違います」「意図的に隠したわけでは――」「なら全部ください」 私は穏やかに言った。「帝人さんに提出する予定の資料と同じも
last updateLast Updated : 2026-09-25
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