その日の仕事が終わりかけた頃。 私は翌日の予定を整理しながら、帝人さんへ最後の確認をしていた。「明日は九時から役員会です。資料は全部揃ってます。午後の予定も変更ありませんから、今日はこれ以上増やさないでくださいね」「増やすつもりはない」「最近は信用できるようになってきました」「最初から信用しろ」「実績が必要です」 帝人さんが何か言いたそうな顔をしたけれど、反論はしなかった。 その代わり。「小春。このあと時間はあるか?」「ありますけど、何か仕事ですか?」「違う。買い物に付き合ってほしい」 珍しい言葉だった。 帝人さんと買い物へ行ったこと自体はある。 でも、「付き合ってほしい」と向こうから頼まれるのは珍しい。「何を買うんです?」「母上への贈り物だ」「ああ」 それなら納得だ。「お誕生日ですか?」「いや。少し前に母上が欲しいと言っていたものがあった気がするんだが、何だったか思い出せない」「それ、私が行っても分からなくないですか?」「小春なら母上が好きそうなものを選べるだろう」「息子が考えてくださいよ」「だから考えている。その補助を頼んでいる」 仕事みたいに言わないでほしい。 ◇◇◇◇ 会社を出たあと、私たちは百貨店へ向かった。 帝人さんは最初から迷いなく婦人雑貨のフロアへ行く。「何か候補はあるんですか?」「スカーフかバッグか、アクセサリー」「幅広いですね」「母上は大抵のものを自分で買う。だから必要なものを贈ろうとすると、ほぼ全部持っている」「御曹司のお母様らしい悩みですね」「俺もそう思う」 帝人さんは真面目な顔で店内を見る。 ただ。 五分経っても何も手に取らない。「帝人
Last Updated : 2026-10-10 Read more