「そんなに話を聞かない方なんですか?」 私が尋ねると、三人は顔を見合わせた。「必要な話は聞かれます」 吉岡さんが慎重に答える。「ただし、帝人様の中で結論が出た後に覆すのは困難です」「理由を説明しても?」「帝人様は、こちらの説明より先に解決策を出されます」「その解決策が正しいことも多いんです」 相馬さんが続ける。「正しいので、誰もそれ以上言えなくなるんですよね」 先日の経営会議を思い出した。 危険な物流センターを停止し、雇用も給与も守る。必要な費用は自分が引き受ける。 帝人さんの判断は正しかった。 だからこそ、その方法に不安が残っていても、役員たちは従うしかなかったのだろう。「以前、海外出張の日程を前倒しすると、前日の夜に言われましてね」 吉岡さんが蕎麦を食べ終え、箸を置いた。「前日の夜にですか?」「現地法人、航空会社、同行する部署へ連絡し、何とか変更しました」「できたんですか?」「できました」「では問題ないと言われそうですね」「そのとおりです」 帝人さんの顔まで浮かぶ。「必要ならできるだろう。実際にできた。なら問題はない、と」「皆さんは大変だったでしょうに」「帝人様ご自身も、こちら以上に働かれますからね。自分ができることを、周囲にも求めてしまわれるんです」 できない人へ押しつけ、自分だけ楽をする人ではない。 むしろ誰よりも働くからこそ、他人にも同じ強さを求める。 それが帝人さんの厳しさなのだろう。「ただ、今朝は少し違いました」 吉岡さんが声を落とした。「会議時間を変更する前に、影響を受ける部署と人数を確認するよう命じられたんです。日程を動かす理由と、追加で発生する費用まで先にまとめろと」「帝人様がですか?」「ええ。以前なら、変更を決めた後で私たちへ調整を命じていました」「今朝も、出席者全員の予定を確認してから変更しろとおっしゃっていました」 相馬さんも続ける。「昨日までは説明より先に命令でしたから、秘書室でも少し驚いていたんです」「いいことですね」「いいことなんですけど……」 三人の視線が、そろって私へ集まった。「なぜ私を見るんですか?」「昨日、倉橋さんが入社したばかりですよね」「はい」「その日のうちに帝人様の予定が三件減り、物流センターへの通達方法まで変わりました。そして今朝は
Last Updated : 2026-07-27 Read more