All Chapters of 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜: Chapter 41 - Chapter 48

48 Chapters

第41話 一時間半のデート・後編

 料理を待つ間、帝人さんは仕事の話をしなかった。 何度か口を開きかけては、何も言わずに閉じている。「話したいことがあるんですか?」「ある」「どうぞ」「何を話せば、仕事ではない俺を知ったことになる」 どうやら、私に言われた言葉を思った以上に真剣に考えていたらしい。「決まった答えはありませんよ」「それでは判断できない」「では私が質問します」「何でも聞け」「お休みの日は何をしているんですか?」「仕事だ」「休日ではありません」「予定がなければ仕事をする」「趣味は?」「ない」「好きな場所は?」「小春がいる場所だ」「私に関係しない答えをお願いします」「なぜだ」「帝人さん自身のことを知りたいからです」「俺自身が小春を優先している。それも俺を知るための情報だろう」 反論できない。 ただ何を尋ねても私へ戻ってきてしまうと、帝人さん自身が見えない気もする。「では、苦手なものは?」「無能、責任逃れ、時間の浪費」「人ではなく、食べ物や動物でお願いします」「ない」「怖いものは?」「ない」「本当に?」「小春に嫌われること以外はない」 あまりにも即答だった。 店内の穏やかなざわめきが、急に遠くなったように感じる。「そういうことを、簡単に言わないでください」「簡単ではない。事実だ」「言われた方は困ります」「なぜ困る」「まだ返せる気持ちがないからです」 帝人さんの表情から、わずかに熱が引いた。 傷つけてしまったかもしれない。 そう思った瞬間、昔の癖で言葉を取り繕いそうになる。 けれどそれを止めた。 今の
last updateLast Updated : 2026-07-31
Read more

第42話 次もあると思うな・前編

 車へ乗り込んでからも、右手には帝人さんのぬくもりが残っていた。 ほんの数分、車まで手をつないだだけだ。 恋人同士なら特別でもないことなのだろう。けれど私たちは恋人ではなく、今夜が初めての仕事ではない外出だった。 隣に座る帝人さんも、いつもより静かだった。「何か話さないんですか?」「考えている」「何をですか?」「今日、お前が俺について何を知ったのか」 どうやら夕食を、きちんと成果の出る時間にしたいらしい。「プリンが好きです」「ほかには」「休日も仕事をしていること。趣味がないこと。私に嫌われるのが怖いこと」「最後は言わなくていい」「帝人さんが自分で言ったんですよ」「忘れろ」「俺の言葉を忘れないとおっしゃっていた方が、私には忘れろと言うんですか?」「都合の悪いことは別だ」「勝手ですね」 車内の薄暗さに隠れて、笑みがこぼれる。 総帥室で見る帝人さんは、何を尋ねられても迷わない。誰かに弱みを見せることもなかった。 けれど今夜は、好きな食べ物を答えるだけで悩み、手をつなぐことに緊張していた。 少なくとも、再会した夜よりは彼を知ることができたと思う。「それで」「はい?」「今日の俺は何点だ」「採点するんですか?」「次に改善すべき点があるなら知りたい」「仕事の評価ではありませんよ」「評価せずに、どうやって次の成功率を上げる」 帝人さんにとっては恋愛も、問題点を洗い出して改善するものらしい。「点数はつけません」「なぜだ」「人と過ごした時間に点数をつけるのは、あまり好きではないからです」「では、成功か失敗か」「二択にしないでください」「分かりにくい」 不満そうな声に、少しだけ考える。「楽しかったです
last updateLast Updated : 2026-07-31
Read more

第43話 次もあると思うな・後編

 翌朝、帝人さんはいつもより早く総帥室へ来た。「おはようございます」「ああ。昨日は二十二時十三分に帰宅した」「きちんと連絡をくださいましたね」「お前が心配すると言ったからな」「心配するとまでは言っていません」「帰宅を確認したいと思ったのなら同じだ」 本人の中では、すでに私が帝人さんの帰りを待っていたことになっているらしい。「それより、本日の予定を確認します」 午前は部門会議が二件。午後は正臣様との経営方針会議と、海外企業とのオンライン会談が入っている。 普段なら私が説明する途中でも資料をめくり、必要な部分だけを拾っていく帝人さんが、今日は妙に素直に最後まで聞いていた。「以上です。何か変更はありますか?」「ない」「昨日の会議の追加資料は十一時までに届く予定です」「ああ」「午後の会談は先方の都合で十分ほど延びる可能性があります」「分かった」 命令も、予定の強引な変更もない。 あまりに従順なので、かえって怪しかった。「帝人さん」「何だ」「何か企んでいますか?」「企んでいない」「本当に?」「俺は今日も約束を守っているだけだ」「昨日の約束ですか?」「お前がまた俺と出かけたいと思うようにする」 やはり目的があった。「普段から守るべきことを、次の外出のための点数にしないでください」「点数はつけないと言ったのは小春だ」「そういう問題ではありません」「では、どうすれば次がある」 真剣に尋ねられ、答えに困る。 約束を守ることは大切だ。 けれど私の望む行動だけを並べても、それでは帝人さんを知る時間にならない。「帝人さんは、次に何をしたいんですか?」「小春と出かけたい」「どこへですか?」
last updateLast Updated : 2026-07-31
Read more

第44話 青い水の向こう・前編

日曜日の午後。 待ち合わせ場所へ着くと、帝人さんはすでに駅前の広場に立っていた。 黒いシャツに濃紺のジャケット。仕事の時より襟元が柔らかく、前髪も少しだけ下ろしている。 スーツ姿ではない帝人さんを見るのは初めてだった。「早いですね」「十二分前だ」「私も五分前に着いていますよ」「小春を待たせる可能性をなくした」 待ち合わせ一つにも、ずいぶん大きな覚悟を持ち込んでいる。「その服、ご自分で選んだんですか?」「ああ」「榊原さんではなく?」「候補を出させただけだ。決めたのは俺だ」 洋食店を選んだ時と同じ主張だった。「似合っています」「そうか」 返事は平静だったけれど、口元からわずかに力が抜けた。 私に褒められたことを隠すのが、少しずつ下手になっている気がする。「小春も似合っている」「ありがとうございます」「俺が選んだ服ではないが」「私の服なので当然です」「次は俺が選ぶ」「次がある前提で話さないでください」「水族館の次ではない。服を選ぶ機会の話だ」「もっと先の話になっています」 水族館までの道は、休日の人で混み合っていた。 帝人さんは自然に私の外側を歩き、すれ違う人との間へ体を入れる。守ろうとしていることは分かるけれど、以前のように手首をつかんだり、進む方向を勝手に決めたりはしない。 入口が近づくと、建物の外まで入場待ちの列が伸びていた。「並ぶんですね」「ああ」「貸し切りにしているかと思いました」「最初はそのつもりだった」「やっぱり」「だが小春は、ほかの客を追い出す方法を嫌うと判断した」
last updateLast Updated : 2026-08-01
Read more

第45話 青い水の向こう・後編

大水槽の前には、階段状の座席が並んでいた。 泳ぐ魚の影が天井を渡り、青い光が人々の肩へ静かに降りている。 私たちは空いていた端の席へ座った。「昔も、こうして見ていたんですか?」「ああ。母上が隣にいた」「どんなお話をしたんです?」「ほとんど話していない。俺が疲れていたからな」 香澄様は、黙って息子の隣に座っていたのだろう。 励ますことも、元気に振る舞わせることもせず、ただ水槽を眺める時間を与えた。「その頃は、体が強くなると思っていた」「治療を続ければ、ですか?」「違う。強くなりたいと思えば、すぐに強くなれると思っていた」 大きな魚がゆっくりと頭上を通り過ぎる。「だが現実には、走れば倒れた。年下の子どもにも押され、玩具一つ取り返せなかった」 赤い車を奪われ、木の下で泣いていたみーくん。 私はその子へ、強くなれと言った。「私、ひどいことを言いましたね」「なぜだ」「体が弱くて困っていた子に、泣かずに強くなれなんて」「俺には必要だった」「でも――」「小春は、俺が弱いままでいいとは言わなかった」 帝人さんの声に責める響きはなかった。 むしろ昔から決めていた答えを、ようやく私へ渡しているようだった。「周囲の大人は、無理をするなと言った。休め。できなくても仕方がない。誰かに任せろと」 それは病弱な子どもを守るための、優しい言葉だったのだと思う。「だが小春だけは、強くなればできると言った」「そんな立派なことを考えていたわけではありませんよ。おもちゃを取られて泣いていたから、勢いで言っただけです」「言った側の意図は関係ない。俺がどう受け取ったかだ」 いかにも帝人さんらしい理屈だった。「それ
last updateLast Updated : 2026-08-01
Read more

第46話 二人だけの記念・前編

大水槽を離れた後も、帝人さんは私の手を離さなかった。 混雑しているからという理由は、もう必要ないはずだった。 それでも私が何も言わなかったせいか、つないだ指はそのまま館内を進んでいく。「次はクラゲでしたよね」「ああ」 薄暗い展示室には、丸い水槽がいくつも浮かんでいた。 淡い光の中を、透明なクラゲがゆっくりと漂っている。傘が開き、閉じるたび、水の中へ柔らかな波が生まれていた。「きれいですね」「そうだな」 帝人さんの返事は上の空だった。「見ていますか?」「見ている」「私をではなく?」「両方だ」「クラゲに集中してください」「小春より優先する理由がない」 青い展示室で言われると、普段より逃げ場がない。 私はクラゲへ視線を戻した。「帝人さんは、こういうゆっくりした生き物も好きなんですか?」「無駄に争わないところは評価できる」「また合理性で見ているんですね」「だが自力で進む方向を決められないのは困る」「クラゲに経営者の資質を求めないでください」 休日なのに、帝人さんの考え方はどこまでも帝人さんだった。 総帥室にいる時より表情が柔らかくても、別人になるわけではない。 それが少し嬉しい。 私の前だけで優しく見せようとするのではなく、強引で不器用な部分もそのまま見せてくれている。「小春」「はい」「笑っているな」「帝人さんが面白いので」「俺は面白くない」「私は面白いです」「ならいい」 褒められた時と同じように、少しだけ声が満足そうになる。 展示を見終えた頃には、館内へ入ってから二時間近く経っ
last updateLast Updated : 2026-08-01
Read more

第47話 二人だけの記念・後編

 会計を済ませると、私は黒い魚のキーホルダーを帝人さんへ渡した。「こちらが帝人さんです」「違う」「まだ言うんですか?」「俺が茶色を持つ」「自分に似た方を持つものでは?」「小春からもらった小春を、俺が持つ」 説明されるほど恥ずかしくなる。「では私は黒い方ですか?」「ああ。小春が俺を持て」「言い方が強いんですよ」「事実だ」 帝人さんは茶色い魚を大事そうに手のひらへ載せている。 数百円のキーホルダーを、重要な契約書より慎重に扱っているように見えた。「どこにつけるんですか?」「鍵だ」「ご自宅の?」「ああ」 毎日使うものを選んだらしい。「会社用の鞄ではないんですね」「人に見せるためにもらったのではない」 意外な返事だった。「小春が俺へ贈ったことを、俺が知っていればいい」 帝人さんなら、会社中へ知らせようとすると思っていた。 けれどこれは、誰かへ見せつけるための印ではないらしい。 二人だけが知っているもの。 その言葉を胸の中で繰り返すと、黒い魚のチャームが急に重く感じられた。「大切にしてくださいね」「当然だ。失くした場合に備えて、予備も買う」「買いません」「同じものが廃番になったらどうする」「失くさないでください」「盗まれる可能性はある」「誰が魚のキーホルダーを盗むんですか?」「小春からもらったと知れば価値が生じる」「誰にも言わないんですよね?」「……そうだったな」 心配の方向がおかしい。 けれど全種類買うと言い出した時よりは、かなり普通のお土産選びになったと思う。 水族館を出ると、空は夕方の色へ変わっていた。 海に近い風には、昼間より強い潮の
last updateLast Updated : 2026-08-02
Read more

第48話 魚を見つけた女帝・前編

 水族館へ行った翌朝。 家を出る前に、私は黒い魚のキーホルダーを手に取った。 鞄につければ会社の人にも見える。 恋人同士の品ではないし、隠す必要もない。それでも「二人だけの記念」と言った帝人さんの声を思い出すと、誰かの目に触れさせるのは少し違う気がした。 迷った末、自宅の鍵につけることにした。 黒い魚が鍵とぶつかり、小さな音を立てる。 たったそれだけで、昨日の青い水槽や、つないだ手のぬくもりが戻ってきた。 帝人さんも茶色い魚を鍵につけただろうか。 保護用の特注ケースを本当に注文していないといいけれど。◇◇◇◇「おはよう、小春」 総帥室へ入った私を迎えたのは、いつもより少し機嫌のいい帝人さんだった。「おはようございます」「連絡が遅かった」「何の連絡ですか?」「昨日、帰宅したという連絡だ。改札で別れてから四十七分かかった」「乗り換えもありますし、家まで歩きますから」「通常なら三十九分で着く」「どうして知っているんですか?」「調べた」「私の行動を追跡していませんよね?」「していない。経路を調べただけだ」 線の上を危うく歩いている。「八分の差が気になった」「途中で買い物をしました」「何を買った」「牛乳と卵です」「次から先に言え」「毎回の行動報告はしないと決めましたよね?」「……そうだった」 素直に引いたところを見ると、一応は覚えているらしい。「帝人さんは、キーホルダーをつけましたか?」「ああ」「ケースには入れていませんよね?」「入れていない」「よくできました」「小春が傷も思い出だと言ったからな」 大切にするあまり、金庫へ保管するのではないかと心配していた。「どこにつけたん
last updateLast Updated : 2026-08-02
Read more
PREV
12345
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status