All Chapters of 婚約者に売られ、親友に顔を奪われた私は、二度目の人生で全てを取り戻す: Chapter 211 - Chapter 220

278 Chapters

昔の写真と今の写真

 箱根から戻った翌日。 綾香は父と一緒に、屋根裏の部屋にいた。「確か、この辺りだったと思うんだが」 父が古いアルバムを一冊ずつ確認していく。 探しているのは、箱根で撮った昔の写真だ。「お父様、本当に橋で撮った写真があるの?」「あると思うよ」「昨日は『ある』って言ってたじゃない」「二十年以上前のことなんだから、多少は記憶も曖昧になるさ」「見つからなかったら、お父様の記憶違いね」「厳しいな」 二人で話しながらアルバムを開いていく。 幼い綾香の写真。 母と父が並んだ写真。 庭で撮ったものや、知らない場所で撮られたものまである。「あ、これ」 綾香の手が止まった。 母がしゃがみ込み、幼い綾香の靴を履かせている。 撮ったのは父だろう。「私、すごい顔してるわ」「靴を履きたくないって駄々をこねてたんだよ」「どうして?」「知らないよ。本人に聞いてくれ」「覚えてないもの」「お母さんも困ってたな。せっかく出かけるのに、玄関から動かないって」 写真の母は、困ったように笑っていた。 その表情が妙に生き生きして見える。「こういう写真、もっと見たいわ」「まだ山ほどあるぞ」「全部見る」「今日中には終わらないぞ」「別に今日全部見なくてもいいでしょう?」 綾香は笑った。「少しずつ見ればいいのよ」 最近、その言葉をよく使うようになった気がする。 急いで全部を知る必要はない。 母のことも。 過去に何があったのかも。 これからのことも。 そうして何冊目かのアルバムを開いた時だった。「あった!」 綾香は声を上げた。 小さな橋の前で、三人が並んで
last updateLast Updated : 2026-09-28
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聞き覚えのある名前

 箱根から戻って数日。 綾香は父の書斎で、借りていた昔のアルバムを返していた。「これで全部?」「ああ。まだ見たければ持っていってもいいぞ」「また今度にするわ。一気に見たらもったいないもの」「写真にそんな見方があるのか?」「あるのよ」 棚へアルバムを戻していると、父の机の上に置かれた書類が目に入った。 仕事のものだろう。 見るつもりはなかったが、表紙に書かれた会社名には覚えがあった。 ――東亜アセット。 綾香の手が止まる。 久世雅彦の経歴を調べた時に出てきた会社だ。「お父様」「何だ?」「東亜アセットって、今も御影と仕事をしているの?」 父は綾香の視線を追い、机の上の書類を見た。「ああ、これか。直接の取引というほどじゃないよ。今度の案件に向こうの人間も関わっているんだ」「そうなのね」「珍しい会社でもないだろう?」「ええ。名前を見たことがあったから」 それだけなら不自然ではない。 父も特に気にした様子はなかった。「昔からある会社だからな。うちとも何度か仕事をしているよ」「昔から?」「ああ。今とは組織もだいぶ変わってるだろうけどね」 綾香はそれ以上聞かなかった。 久世の名前を出す必要はない。 ただ、御影家と東亜アセットにも以前から接点があった。 それだけ覚えておけばいい。「そういえば、昔の取引先ってどのくらい残してあるの?」「記録なら会社にあるよ」「そうじゃなくて、お父様自身が覚えてる人」「それは相手によるな」 父は少し考え、それから書棚の下段へ目を向けた。「昔の名刺なら、まだ少し残ってたと思うぞ」「そんなものまで取ってあるの?」「全部じゃないよ。よく付き合いのあった相手だけだ」
last updateLast Updated : 2026-09-29
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理央が知っていること

 相沢達也の名刺を見つけた翌日。 綾香は改めて自分の記録を読み返していた。 久世雅彦の元部下だった相沢。 理央の古い写真にも写っていた相沢。 そして、父とも仕事を通じて面識があった相沢。 ただし、それだけだ。 父が仕事関係の人間と知り合いだったこと自体は、何もおかしくない。「……今は、ここまでね」 綾香はノートを閉じた。 相沢へ連絡するつもりはなかった。 父がもう長く会っていない相手に、自分から接触する理由もない。 分からないものを、無理に動かす必要はない。 その時、部屋の外から声がした。「お嬢様」「何?」「旦那様がお呼びです」「今行くわ」 綾香はノートを引き出しへしまい、父の書斎へ向かった。◇◆◇「綾香、ちょうどよかった」 書斎へ入ると、父の向かいに理央が座っていた。「理央もいたのね」「うん。仕事の話を少しね」 理央がいつものように笑う。 父の机には何枚かの資料が広げられていた。「今度の案件で、理央にも少し手伝ってもらうことになってね」「そうなの」「昔の資料を確認したいんだが、綾香が昨日見ていただろう? どこへ置いたかと思って」「あのファイルなら、元の棚に戻したわよ」「そうか。ありがとう」 それだけの用だったらしい。 綾香が部屋を出ようとすると、理央が立ち上がった。「僕もそろそろ帰るよ」「もういいのか?」「はい。必要なことは聞けましたから」 父に頭を下げ、理央も書斎を出る。 廊下を歩いていると、自然に二人きりになった。「箱根、楽しかった?」 理央が尋ねた。「ええ」「よかったね」「昔の写真と同じ場所にも行ったの」「へえ」「お父様と同じ場所で写真も撮ったわ」「昔の写真って、家族三人の?」 綾香は理央を見る。「そうよ」「そっか。懐かしいね」「理央は見たことがあった?」「たぶんね。昔は御影の家で写真を見ることもあったから」 不自然な答えではなかった。 理央は幼い頃から、この家に出入りしていたのだから。 玄関近くまで来たところで、理央がふと振り返った。「最近、昔のものをよく見てるの?」 綾香の足が止まる。「どうして?」「この前も、お母さんのことを知りたいって言ってたでしょう?」「ああ、そのこと」 綾香は表情を変えなかった。「写真を見てるだけよ。知らないお母
last updateLast Updated : 2026-09-30
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親しいだけだから

 数日後。 綾香は父に頼まれ、ホテルで開かれている取引先のパーティーへ顔を出していた。 仕事そのものに関わる必要はない。 父の娘として挨拶をして、何人かと言葉を交わす。それだけの予定だった。「綾香」 聞き慣れた声に振り返る。 理央だった。「理央も来てたのね」「うん。おじさんに呼ばれて」 そう言って笑った理央の隣から、もう一人の女が顔を出した。「綾香!」 美月だった。 一瞬、綾香の表情が固まりそうになる。「……美月もいたのね」「うん。知り合いに誘われて」 美月は楽しそうに答えた。 そして、ごく自然な動作で理央の腕へ手を添えた。「ねえ理央、さっきの話なんだけど」「何?」「あのお店。今度連れていってくれるって言ったじゃない」「ああ」「忘れないでよ?」「分かってるよ」 美月が笑う。 理央も困ったように笑っている。 ただそれだけ。 他人から見れば、親しい男女の会話にしか見えないだろう。 けれど綾香は知っている。 前の人生でも、最初はこんなふうだった。 いつの間にか美月が理央の隣にいる。 理央に触れる。 理央だけが知っている話をする。 そして綾香が何か言えば――。「あ、ごめん」 美月が綾香を見た。「綾香の前でこういうの、嫌だった?」「こういうのって?」「理央と仲良くしてるの」 その言い方に、綾香は眉をわずかに上げた。「別に」「本当?」「どうして私が嫌がるの?」「だって……」 美月は少し困ったように笑った。「理央って、ずっと綾香
last updateLast Updated : 2026-09-30
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ほしかった反応

 パーティーから数日後。 綾香が買い物を終えて店を出たところで、後ろから名前を呼ばれた。「綾香!」 振り返ると、美月が小走りで近づいてくる。「やっぱり綾香だ。偶然だね」「そうね」「今帰るところ?」「ええ」「じゃあ、少しお茶しない?」 断ってもよかった。 けれど、特に急ぐ用事もない。「少しだけなら」 二人で近くのカフェへ入った。 席に着いて注文を済ませると、美月はすぐにスマートフォンを取り出した。「そうだ、見て」 画面に映っていたのは料理の写真だった。「この前、理央と行ったお店」「そう」「この前のパーティーで話してたでしょう? 結局すぐ連れていってくれたの」「よかったわね」「すごく予約取りにくいところなんだよ。理央、前から知ってたみたい」「そうなのね」 綾香は運ばれてきた紅茶に口をつけた。 美月が少しだけ黙る。「理央って、意外とこういうお店詳しいよね」「そうかもしれないわね」「綾香も連れていってもらったことある?」「さあ。覚えてないわ」「覚えてないの?」「昔のことまで全部覚えてないもの」 美月の眉がわずかに動いた。「そっか」 それでもすぐに笑顔へ戻る。「理央って優しいんだよね。私がこれ食べたいって言ったの覚えててくれたみたい」「へえ」「それに帰りも送ってくれたの」「そう」「遅かったから危ないって」「親切ね」 返事をするたび、美月の声が少しずつ弾まなくなっていく。 綾香には、美月が何をしたいのか分かっていた。 食事に行った。 自分の好みを覚えていた。 帰りには送ってもらった。
last updateLast Updated : 2026-09-30
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次に欲しいもの

 美月とカフェで会ってから、三日が経った。 綾香が自室で週末の予定を確認していると、美月からメッセージが届いた。『ねえ、今度の土曜日って空いてる?』『予定があるわ』『もしかしてデート?』『ええ』 そう返信した途端、電話がかかってきた。「もしもし?」『綾香! デートって誰と?』「遥臣よ」『……九条先生?』「そうよ」『へえ! 最近、ずいぶん仲がいいんだね』 美月の声が少し変わった。『でも、まだ付き合ってるわけじゃないんでしょう?』「ええ」『そっか。そうなんだ』 妙に含みのある言い方だったが、綾香は気にしなかった。「それで、土曜日に何か用事だったの?」『ああ、そうそう。実はね、理央と食事に行くことになったんだ』「そうなのね」『この前のパーティーで話してたお店、覚えてる? あそこ、予約してくれたの』「よかったじゃない」『すごく予約が取りにくいところなんだよ。しかも個室!』「楽しんできてね」 美月が黙った。『……綾香って、本当に気にならないんだ』「何が?」『私と理央が二人きりで食事すること』「前にも言ったでしょう? 二人のことは二人で決めればいいわ」『でも、理央は綾香のことが好きなんでしょう?』「それがどうかしたの?」『普通、嫌じゃない? 自分のことを好きな男が、ほかの女とデートするなんて』「別に」 美月が小さく舌打ちしたような音が聞こえた。「美月?」『……何でもない!』 綾香はスマートフォンを耳に当てたまま、窓の外を眺めた。 前の人生でも、美月はこうして理央との親密さを見せつけてきた。 綾香の知らない店。 綾香の知らない約束。 二人だけの秘密。 あの頃は、そのたびに心を乱されていた。 けれど、今は違う。 何しろ綾香は、二人が単に恋愛関係になっただけではないことを知っている。 理央と美月は共謀し、御影家を陥れた。 そして美月は、綾香と同じ顔にまでなった。 あの女が欲しがっていたのは、理央だけではなかったのだ。『ねえ、綾香』「何?」『九条先生とは、どこまで進んでるの?』 突然話題が変わった。「どういう意味?」『だから、付き合ってないって言っても、デートはしてるんでしょう?』「ええ」『手とか繋いだ?』 綾香は眉をひそめた。「どうしてそんなことを聞くの?」『えー! 
last updateLast Updated : 2026-10-02
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偶然の再会

 遥臣とのデートを翌日に控えた金曜日。 綾香は買い物のため、駅前の百貨店を訪れていた。 海へ行くのだから、少し明るい色の服がいい。そう思って選んだのは、淡い水色のワンピースだった。 試着を終え、鏡の前で確認する。「……これならいいかしら」「綾香!」 突然名前を呼ばれ、振り返った。 美月が立っていた。「あら、美月」「偶然! 買い物?」「ええ」「そのワンピース、可愛い! もしかして明日のデート用?」 綾香は美月を見た。 先日の電話で、土曜日に遥臣と出かけることは話している。「そうよ」「やっぱり! 九条先生、喜ぶんじゃない?」「どうかしら」「絶対喜ぶって。ねえ、どこに行くの?」「まだ内緒よ」「えー! 何で?」 美月は笑いながら、綾香の腕に触れようとした。 綾香が商品を戻すために身を動かすと、その手は空を切った。「別に隠すほどのことじゃないでしょう?」「そうね。でも、わざわざ話すことでもないわ」「最近、綾香って秘密が多いよね」 美月は不満そうに唇を尖らせた。「前は何でも話してくれたのに」「そうだったかしら」「そうだよ! 理央のことだって、昔はよく相談してくれたじゃない」 綾香は黙ってワンピースを店員に渡した。 前の人生で、美月に何を話していたのか。 思い返すだけでも腹立たしい。 理央との約束も、喧嘩も、将来の話も。親友だからと信じて打ち明けたことが、どれほど二人に利用されたのだろう。「そういえば、理央と日曜日に食事するの」 美月が唐突に話題を変えた。「この前も話したでしょう? すごくいいお店なんだって」「楽しんできてね」「理央って本当に優しいよね。私が行きたい
last updateLast Updated : 2026-10-02
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親友の特権

 翌朝、綾香が出かける準備をしていると、スマートフォンが鳴った。 美月からだった。『おはよう! 今日、デートだよね?』 綾香は鏡の前でイヤリングをつけながら、短く返信した。『そうよ』『いいなあ。楽しんできてね!』 昨日の態度とは打って変わって、ずいぶん機嫌がよさそうだった。 もっとも、綾香にはその理由を考えるつもりもなかった。 スマートフォンをバッグへしまい、玄関へ向かう。◇◆◇ 待ち合わせ場所へ着くと、遥臣はすでに車のそばで待っていた。「おはよう」「ああ。乗れ」 助手席へ乗り込もうとすると、遥臣が綾香を見た。「何?」「……いや」「何よ。気になるじゃない」「その服、似合ってる」 綾香は思わず笑顔になった。「ありがとう。今日のために買ったのよ」「そうか」「もっと褒めてくれてもいいのに」「十分褒めただろ」「一言だけじゃない」 遥臣は呆れたように息を吐いたが、その口元は少し緩んでいた。 車が走り出し、二人は海へ向かった。 途中で休憩に立ち寄った時、綾香のスマートフォンに再び通知が届いた。『今どの辺?』 美月だった。 綾香は画面を見つめた。 朝の挨拶だけならともかく、現在地まで尋ねてくるとは。『出かけてるわ』『それは知ってるよ! どこ行ってるの?』 返信せずに画面を閉じる。「どうした?」 飲み物を買って戻ってきた遥臣が尋ねた。「何でもないわ」「そうか」 遥臣はそれ以上聞かなかった。 綾香は彼からペットボトルを受け取り、車へ戻った。◇◆◇ 海沿いのレストランへ着いたのは、昼前だった。
last updateLast Updated : 2026-10-02
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親友の特権

 海へ出かけた翌々日。 綾香が百貨店のカフェで休んでいると、美月から電話がかかってきた。『綾香! この前の写真、結局送ってくれなかったね』「そうだったわね」『ふふ、そんなにデートが楽しかった?』「ええ。とても」『いいなあ。九条先生って、そんなに素敵な人なんだ』 美月の声は明るかった。『ねえ、私も一度会ってみたいな』「どうして?」『だって、綾香の好きな人でしょう? どんな人なのか気になるじゃない』「そうね。でも、今は二人で過ごしたいの」『あ、そっか。そうだよね』 美月は小さく笑った。『ごめんね。ちょっと浮かれちゃった。綾香が幸せそうだから、私まで嬉しくなっちゃって』「ありがとう」『今度、三人でお茶くらいできたらいいな』「機会があればね」『うん。無理にとは言わないから』 電話は穏やかに終わった。 けれど、綾香はスマートフォンを置いてから、わずかに眉を寄せた。 先日から、美月は何度も遥臣に会いたがっている。 昔の綾香なら、親友に恋人を紹介することなど当然だと思っていただろう。 だが、今は違う。 美月が前の人生で何をしたのか、忘れたわけではなかった。◇◆◇ 夕方、帰宅した綾香は、玄関で橘に声をかけられた。「お嬢様、美月様がお見えになっております」「美月が?」「はい。旦那様にご挨拶をとのことで」 応接室へ向かうと、美月は父と楽しそうに話していた。「あっ、綾香! お邪魔してるわ」「いらっしゃい。今日はどうしたの?」「近くまで来たから、おじさまにご挨拶しようと思って」 美月はにこやかに答えた。「箱根のお話も聞かせていただいたの。素敵な旅行だったみたいね」「ああ。久しぶりに綾香とゆっくり過ごせてね」 父は嬉しそうだった。「美月さんも、今度は綾香と旅行でもどうかな?」「ぜひ! でも、最近は綾香も忙しそうですから」 美月は綾香に微笑みかけた。「九条先生とも、よくお出かけしてるみたいですし」「そうなのか?」「ええ。先日も海へ行ってきたの」 綾香が答えると、父は目を細めた。「それはよかった。九条君なら安心だな」「おじさまも九条先生をご存じなんですね」「ああ。立派な青年だよ」「そうなんですね。私も一度お会いしてみたいな」 美月は少し羨ましそうに笑った。「綾香に紹介してってお願いしたんですけど
last updateLast Updated : 2026-10-03
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親友だから

 美月が訪ねてきた翌日、綾香は自室で遥臣からのメッセージを読んでいた。『今度の日曜、午後なら空いている』 綾香は思わず頬を緩めた。『私も空いているわ。今度は美術館なんてどうかしら?』『いいな。調べておく』 返事を送ったところで、別の通知が届いた。 美月だった。『昨日はありがとう! おじさまにもよろしくね』 綾香は短く返信した。 すると、すぐに次のメッセージが届いた。『そういえば、今度の日曜って空いてる? 久しぶりに二人で遊びたいな』 綾香は画面を見つめた。『ごめんなさい。予定があるの』『そっか! もしかして九条先生?』『ええ』『仲よしだね。羨ましい!』 それで会話は終わった。 少なくとも、その時は。◇◆◇ 翌日の午後、綾香は母が好きだった花屋を訪れていた。 店先に並ぶ季節の花を眺め、淡い桃色のバラを数本選ぶ。「綾香?」 聞き覚えのある声に振り返ると、美月が立っていた。「あら、美月」「こんなところで会うなんて! お花を買いに来たの?」「ええ。母が好きだったお店なの」「そうだったんだ。素敵ね」 美月は綾香が選んだバラを覗き込んだ。「可愛い色。九条先生へのプレゼント?」「家に飾るつもりよ」「そっか。私、てっきりデートの準備かと思っちゃった」 美月は楽しそうに笑った。「日曜日、どこへ行くの?」「まだ決めていないわ」「そうなんだ。九条先生って美術館とか好きそうだよね」 綾香は思わず美月を見た。 偶然だろうか。 遥臣との予定を知っているのは、今のところ二人だけのはずだった。「どうして美術館?」「え? 何となく。落ち着いてそうな人だし」「そうね」
last updateLast Updated : 2026-10-03
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