箱根から戻った翌日。 綾香は父と一緒に、屋根裏の部屋にいた。「確か、この辺りだったと思うんだが」 父が古いアルバムを一冊ずつ確認していく。 探しているのは、箱根で撮った昔の写真だ。「お父様、本当に橋で撮った写真があるの?」「あると思うよ」「昨日は『ある』って言ってたじゃない」「二十年以上前のことなんだから、多少は記憶も曖昧になるさ」「見つからなかったら、お父様の記憶違いね」「厳しいな」 二人で話しながらアルバムを開いていく。 幼い綾香の写真。 母と父が並んだ写真。 庭で撮ったものや、知らない場所で撮られたものまである。「あ、これ」 綾香の手が止まった。 母がしゃがみ込み、幼い綾香の靴を履かせている。 撮ったのは父だろう。「私、すごい顔してるわ」「靴を履きたくないって駄々をこねてたんだよ」「どうして?」「知らないよ。本人に聞いてくれ」「覚えてないもの」「お母さんも困ってたな。せっかく出かけるのに、玄関から動かないって」 写真の母は、困ったように笑っていた。 その表情が妙に生き生きして見える。「こういう写真、もっと見たいわ」「まだ山ほどあるぞ」「全部見る」「今日中には終わらないぞ」「別に今日全部見なくてもいいでしょう?」 綾香は笑った。「少しずつ見ればいいのよ」 最近、その言葉をよく使うようになった気がする。 急いで全部を知る必要はない。 母のことも。 過去に何があったのかも。 これからのことも。 そうして何冊目かのアルバムを開いた時だった。「あった!」 綾香は声を上げた。 小さな橋の前で、三人が並んで
Last Updated : 2026-09-28 Read more