たい焼きを食べ終えたあとも、綾香と遥臣は商店街を歩いていた。 手はつないだままだ。 最初の頃なら、こんなふうに歩いているだけで意識してしまったはずなのに、今は離す方が不自然に思える。「あ、見て」 綾香が足を止めた。 店先に、小さなガラス細工が並んでいる。 花や動物をかたどったものから、色鮮やかな小瓶まである。「綺麗ね」「欲しいのか」「見てるだけよ」 そう言いながら、一つずつ眺める。 青い花をかたどった小さな置物が目に入った。 母の手帳から落ちた押し花を思い出す。「これ、お母様が好きそう」「青い花か」「ええ」 綾香が手に取ろうとすると、遥臣が先にそれを取った。「これでいいのか」「え?」 そのまま店の奥へ向かおうとする。「ちょっと待って。買ってくれるの?」「欲しいんだろ」「欲しいとは言ってないわ」「ずっと見てただろ」「それは……」 否定できない。「でも、自分で買えるわよ」「知ってる」「じゃあ、どうして」「買いたいから」 あまりにも当然のように言われて、綾香は黙ってしまった。 遥臣はそのまま会計を済ませる。 小さな箱に入ったガラスの花を渡され、綾香はそっと受け取った。「……ありがとう」「ああ」「大切にするわ」「そんな大げさなものじゃないだろ」「値段の話じゃないの」 綾香が言うと、遥臣は何も返さなかった。 ただ、少しだけ視線を逸らした。◇◆◇ 商店街を抜けた先に、小さな公園があった。 二人はベンチに座り、休憩することにした。 綾香は買ってもらった箱をバッグへしまう。「どこに飾ろうかしら」「好きなところに置け」「お母様の写真の近くにしようかな」「いいんじゃないか」「それとも、机の上もいいわね。毎日見えるし」 そこまで言って、綾香は笑った。「迷うわ」「二つ買えばよかったな」「そういう問題じゃないでしょう?」 遥臣もわずかに笑う。 穏やかな午後だった。 黒い車のことも。 父のタイヤのことも。 何も解決してはいない。 それでも、一日中そのことばかりを考えている必要はない。 綾香は隣に座る遥臣を見た。「ねえ」「何だ」「この前、日帰り温泉に行ったでしょう?」「ああ」「今度はもう少し遠くへ行ってみたいわ」「どこに」「まだ決めてないけど……海とか」「海?
Last Updated : 2026-09-24 Read more