All Chapters of 婚約者に売られ、親友に顔を奪われた私は、二度目の人生で全てを取り戻す: Chapter 81 - Chapter 90

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見つかった?

 足音が、一段ずつ近づいてくる。 綾香は息を呑んだ。(どうしよう……) 理央が戻ってきたのだろうか。 こんなところで見つかったら、何をしていたのか聞かれる。 屋根裏部屋に来ること自体はおかしくない。 ここにあるのは母の遺品なのだから。 けれど、今は夜中だ。 しかも理央が出ていった直後に、自分までここにいる。 綾香は慌てて開いていた箱を閉じた。 その時、扉が開く。「……お嬢様?」 現れたのは橘だった。「橘……」 思わず安堵しかけて、綾香はすぐに表情を引き締めた。 橘は屋根裏部屋を見回し、それから綾香を見る。「こんな時間に、どうされたのですか?」「眠れなくて。お母様のものを少し見たくなったの」「そうでしたか」 橘はそれ以上追及しなかった。 けれど綾香には、別のことが気になった。「橘こそ、どうしてここに?」「先ほど、この辺りで物音がしましたので、念のため確認に参りました」「物音?」「ええ」 橘は辺りを見回す。「物音を立てていらしたのは、お嬢様ですか?」 綾香は一瞬、答えに迷った。「……そうかもしれないわ。さっき箱を動かしたから」「そうでしたか」 橘は静かに頷く。 それだけだった。 けれど綾香の胸はざわついていた。(橘が聞いたのは、本当に私の音?) 自分がここへ来る前。 理央も箱を動かしていた。 橘が聞いたのが、その時の音だった可能性もある。 それなら橘は、理央がここにいたことを知らないのだろうか。 それとも――。 知っていて、自分に確認している
last updateLast Updated : 2026-08-16
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もう一度、屋根裏へ

 翌朝。 綾香は朝食をとりながら、何度も理央のことを考えていた。 昨夜、理央は屋根裏部屋で何を探していたのだろう。 母の木箱。 隠されていた鍵。 中身だけなくなっていた封筒。 すべてが関係しているようにも思える。 けれど、今はまだ想像でしかない。「綾香?」 父に呼ばれ、綾香は顔を上げた。「どうした? ぼんやりして」「ごめんなさい。少し寝不足なの」「夜更かしでもしたのか?」「ちょっと考え事をしてたら眠れなくなっちゃって」 嘘ではない。 父は心配そうに綾香を見る。「今日は家でゆっくりしていなさい」「ええ、そうするわ」 ちょうどいい。 今日は会社へ行くつもりもなかった。 理央がいないうちに、もう一度屋根裏部屋を調べたかった。◇◆◇ 父を見送ってからしばらく待ち、綾香は屋根裏部屋へ向かった。 念のため、廊下に誰もいないことを確認する。 扉を開け、明かりをつけた。 昨夜と変わらない光景。 けれど今日は、目的がある。(理央が触っていたところから見てみよう) 棚の前へ向かう。 昨夜動かされていた箱を床へ下ろした。 中には母の小物や古い手帳が入っている。 一つずつ取り出していく。 けれど、木箱はない。 次の箱。 その隣。 棚の奥。 時間をかけて確認していく。「やっぱり、ない……」 家政婦の記憶違いなのだろうか。 それとも、母が生前に別の場所へ移したのか。 綾香は立ち上がろうとして、ふと棚の奥に目を留めた。「……何かしら」 箱をどけたことで、棚の背板が見えている。
last updateLast Updated : 2026-08-16
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九条先生へ

『もしもの時は、九条先生に』 綾香は何度もその文字を読み返した。 間違いなく母の字だ。(九条先生って……誰のこと?) 九条家と御影家の付き合いは長い。 今は遥臣が父の主治医を務めているけれど、その前は遥臣の父が御影家を診ていたはずだ。 三年前なら、母が「九条先生」と呼んでいたのは遥臣の父かもしれない。 けれど、これだけでは分からない。 何より気になるのは、その前の言葉だった。『もしもの時』 母は、何を想定してこんな言葉を残したのだろう。 病気のこと? それとも――。 綾香は紙を裏返した。 何も書かれていない。「これだけ……?」 誰に何を頼めばいいのかすら分からない。 けれど、母がわざわざ隠していた以上、意味のない言葉とも思えなかった。(遥臣なら、何か知ってるかしら) 九条家に関することなら、尋ねる相手としては一番自然だ。 けれど。 綾香は昨夜の理央を思い出した。 誰かが木箱を探している。 もし、この紙の存在まで知られたら。(……持ち出そう) ここへ置いたままにはできない。 綾香は紙を丁寧に折り畳み、ポケットへしまった。 外した背板を元に戻し、箱もできるだけ以前と同じ位置へ戻す。 そして、何も見つけていないように屋根裏部屋をあとにした。◇◆◇ 自室へ戻った綾香は、スマートフォンを手に取った。 遥臣の名前を表示する。 電話をかけようとして、指が止まる。(何て聞けばいいの?) しばらく迷ってから、綾香は短いメッセージを送った。『少し聞きたいことがあるの。時間ある?』 送信。 数分もしないうちに返事が来た
last updateLast Updated : 2026-08-16
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今日の約束

 翌日の午後。 綾香は出かける支度を整え、玄関へ向かった。 遥臣から、父親の都合がついたと連絡があったのだ。 今日なら少し時間を取れるらしい。(ようやく、聞ける) 母が残した『もしもの時は、九条先生に』という言葉。 その意味が分かるかもしれない。 バッグを手に玄関へ向かった、その時だった。「綾香?」 聞き慣れた声に、足が止まる。 振り返ると、理央が立っていた。「出かけるの?」「ええ」「どこへ?」「ちょっと用事があるの」「そうなんだ」 理央は何気ない様子で答えた。「俺もちょうど出るところだから、送るよ」「いいわ。一人で行けるから」「遠慮しなくていいよ」「遠慮じゃないの」 綾香が断っても、理央は引かなかった。「電車で行くんだろ? 車の方が楽だよ」「でも――」「どこまで?」 綾香は答えに詰まった。 九条先生に会いに行く。 それだけは知られたくない。「……遥臣と約束してるの」 とっさに口から出た。 理央がわずかに目を見開く。「九条先生と?」「ええ」「二人で?」「そうよ」「何の約束?」 まただ。 ただの会話にも聞こえる。 けれど、以前ならこんなに細かく聞かれていただろうか。「ちょっとした用事よ」「じゃあ、待ち合わせ場所まで送るよ」「……」「いいだろ?」 ここで強く拒めば、かえって怪しまれるかもしれない。「分かったわ」 綾香は頷いた。「お願い」◇◆◇ 理央の車が走
last updateLast Updated : 2026-08-16
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約束だから

 遥臣のあとを追いながら、綾香は首を傾げた。「付き合うって、どこに?」「腹減ってないか」「え?」「昼、まだだろ」 言われて時計を見る。 理央のことばかり気にしていて、昼食のことなどすっかり忘れていた。「……食べてない」「じゃあ行くぞ」「九条先生、仕事は?」「休憩中だ」 遥臣はそれだけ言って歩いていく。 病院を出ると、向かったのはすぐ近くにある小さなカフェだった。 店内は昼の混雑が落ち着いた頃で、空席も多い。 二人は窓際の席へ案内された。「何にする」「ちょっと待って。まだ見てない」「遅い」「入ったばっかりでしょう?」 綾香が睨むと、遥臣は何も言わずメニューへ視線を戻した。(ほんと、昔からこうだった気がする) 少しだけ懐かしくなる。 料理を注文すると、綾香は水のグラスへ手を伸ばした。「でも、本当にごめんね」「何が」「今日のことよ。急に話を合わせてなんて頼んで」「ああ」「迷惑だったでしょう?」「別に」 遥臣は水を一口飲む。「困ってたんだろ」 綾香は指を止めた。「……どうして分かったの?」「普通は、約束してない相手に約束してたことにしてくれなんて言わない」「それはそうだけど」 思わず苦笑する。 遥臣はそれ以上、理由を尋ねなかった。 やがて料理が運ばれてくる。 綾香がフォークを手に取ったところで、遥臣がふと口を開いた。「送ってきたの、橘理央だろ」「ええ」「最近よく会うな」「同じ家にいるんだから、仕方ないでしょう」「まだいるのか」
last updateLast Updated : 2026-08-17
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嫌なら嫌でいい

 帰宅してからも、遥臣の言葉が頭に残っていた。『嫌なら嫌でいいだろ』『理由がいるのか』 綾香は自室の椅子に腰を下ろし、小さく息を吐いた。(理由……) これまで、そんなふうに考えたことがなかった。 理央が心配してくれる。 理央が自分のためにしてくれる。 だから、それを嫌がってはいけないと思っていた。 前世でも。 きっと、ずっと。 綾香は机の引き出しを開ける。 中には、母の机から見つけた古い鍵。 そして『もしもの時は、九条先生に』と書かれた紙。 今日は結局、九条先生に会わなかった。 けれど、それでよかったと思う。 理央に病院まで送られた直後に会うのは、どうしても気になった。(次は、一人で行こう) 綾香は紙を封筒へ戻し、引き出しにしまった。◇◆◇ 夕食を終え、部屋へ戻ろうとした時だった。「綾香」 後ろから呼ばれ、足を止める。 理央だった。「何?」「今日、九条先生と何してたの?」 綾香は眉を寄せた。「どうして?」「いや、ちょっと気になって」「食事しただけよ」「食事?」「ええ」 嘘ではない。「二人で?」「そうだけど」 理央の表情がわずかに曇った。「ずいぶん仲いいんだね」「昔から知ってるもの」「それは知ってるけど」 理央は少し黙った。「最近、よく会ってない?」 まただ。 どこへ行ったのか。 何をしたのか。 誰と会ったのか。 綾香は昼間の遥臣の言葉を思い出す。「理央」「何?」「私が誰と会って、
last updateLast Updated : 2026-08-17
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変わったのは

 翌朝。 綾香が食堂へ入ると、すでに父が席についていた。「おはよう、綾香」「おはよう、お父様」 いつものように向かいへ座る。 けれど、もう一つの席は空いていた。 普段なら、この時間には理央もいることが多い。「理央なら、もう会社へ行ったよ」 視線に気づいたのか、父が言った。「そうなの?」「ああ。急ぎの仕事があるそうだ」「……そう」 綾香はそれ以上聞かず、朝食へ手を伸ばした。 昨夜のことを思い出す。『俺に何か隠してない?』 理央は明らかに自分を疑い始めている。 会社のこと。 遥臣のこと。 そして、自分が以前とは違うこと。(少し距離を置いた方がいいかもしれない) そう思った時だった。「そういえば」 父が新聞から顔を上げる。「理央と何かあったのか?」「え?」「今朝、少し様子がおかしかったからね」 綾香は迷った。 父にどこまで話すべきだろう。 理央を疑っている理由は説明できない。 けれど、昨日のことなら。「……最近、理央にいろいろ聞かれるのが嫌なの」「いろいろ?」「どこへ行くのかとか、誰と会うのかとか」 父がわずかに眉を寄せた。「昨日も出かけようとしたら、送るって言われて。断ったんだけど、結局送ってもらうことになって」「そうだったのか」「前は気にならなかったんだけど……今は少し嫌で」 父はすぐには答えなかった。 やがて静かに口を開く。「なら、無理に答える必要はないよ」 綾香は目を瞬いた。「いいの?」「もちろんだ」
last updateLast Updated : 2026-08-17
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今度こそ

 明後日。 綾香は朝から、いつもと変わらないように過ごしていた。 父は会社へ行っている。 理央も朝から仕事のはずだ。 橘は屋敷にいるけれど、出かけること自体を隠す必要はない。 問題は、行き先だった。 午後になり、綾香は支度を整えて部屋を出た。 階段を下りたところで、橘と顔を合わせる。「お出かけですか?」「ええ。少し出てくるわ」「かしこまりました。お車をご用意いたしましょうか」「大丈夫。今日は電車で行くから」「承知いたしました」 それだけだった。 橘は行き先を聞かなかった。 綾香は少しだけ肩の力を抜き、そのまま玄関へ向かう。(これなら大丈夫) 靴を履き、外へ出る。 門を出たところで、思わず後ろを振り返った。 誰もいない。 綾香は小さく息を吐いた。「……何してるのかしら、私」 ただ出かけるだけなのに。 それでも、今日はどうしても誰にも知られたくなかった。◇◆◇ 病院へ着くと、遥臣からメッセージが届いた。『着いたか』『今着いたところ』『一階にいる』 顔を上げる。 ロビーの奥に遥臣がいた。 白衣姿で、こちらへ歩いてくる。「来たか」「うん」「親父はまだ診察中だ」「そうなの?」「少し押してる。待てるか」「もちろん」「じゃあ、こっち」 遥臣について、ロビーの端にある待合スペースへ向かう。 二人で腰を下ろすと、綾香はバッグを膝の上に置いた。 その中には、母が残した紙が入っている。「緊張してるな」 突然言われ、綾香は遥臣を見る。「してないわよ」
last updateLast Updated : 2026-08-18
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母の鍵

「……その鍵」 九条先生の表情が変わった。「どうして、あなたがそれを持っているんですか?」 綾香は驚いて、手元を見る。 バッグの中から取り出しかけていた古い鍵。「この鍵を知ってるんですか?」 九条先生はすぐには答えなかった。 綾香の手の中にある鍵を、じっと見つめている。「見せてもらえますか」「はい」 綾香は鍵を差し出した。 九条先生は受け取ると、表と裏を確かめる。「……間違いない」「何の鍵なんですか?」「どこで見つけました?」 質問に質問を返され、綾香は一瞬迷った。 遥臣を見る。 壁際に立っている遥臣は何も言わない。 ただ、話を聞いている。「家です」「どこに?」「お母様の部屋に隠してありました」 九条先生の眉がわずかに動いた。「そうですか……」「あの、この鍵は?」 九条先生は鍵を綾香へ返した。「小さな木箱の鍵です」 やっぱり。 綾香は思わず身を乗り出した。「その箱を知ってるんですか?」「ええ」「どこにあるかも?」「それは分かりません」 期待しかけた気持ちがしぼむ。「昔、あなたのお母様から見せてもらったことがあります」「お母様から?」「はい」 九条先生は少し考えてから、遥臣を見る。「遥臣」「何だ」「少し席を外してくれるか」 綾香は思わず顔を上げた。 遥臣も父親を見る。「俺が聞いたらまずい話か」「そういうわけではない。ただ、御影さんから預かった話だ」 九条先生の声は静かだった
last updateLast Updated : 2026-08-18
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母からの手紙

 九条先生が手にしていたのは、少し黄ばんだ白い封筒だった。 表には何も書かれていない。「これを、お母様が……?」「ええ」 九条先生は席へ戻ると、封筒を綾香の前に置いた。「亡くなる少し前に預かりました」 綾香はすぐには手を伸ばせなかった。 三年前。 母は何を思って、これを九条先生に預けたのだろう。「開けても?」「もちろんです。あなたのものですから」 綾香はようやく封筒を手に取った。 封はされている。 誰にも開けられていないのだ。 慎重に封を切り、中から折り畳まれた便箋を取り出す。 懐かしい母の字が目に飛び込んできた。『綾香へ』 その一行を見ただけで、胸が詰まった。 綾香は息を整えて、続きを読む。『あなたがこの手紙を読んでいるということは、自分で何かに気づいて、九条先生を訪ねたのでしょう』「……お母様」 思わず声が漏れた。 手紙は続いている。『今のあなたには、まだ話しても信じてもらえないと思っています。だから、何も知らないまま幸せに暮らせるのなら、それが一番だと思いました』 綾香の眉が寄る。 何も知らないまま。 母は何を知っていたのだろう。『でも、もし御影家で何かがおかしいと思う日が来たら、自分の感じたことを信じてください』 綾香の指先が震えた。 まるで今の自分へ向けられた言葉のようだった。『そして、私の木箱を探してください』「……!」 綾香は思わず顔を上げた。「九条先生」「はい」「木箱のことも知っていたんですよね?」「存在だけは」「中身は?」「知りません」 九条先生は
last updateLast Updated : 2026-08-18
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