少女は走っていた。 脇目も振らず、ただがむしゃらに、前だけを見て走り続けていた。 後ろを振り向けば、迫りくる恐怖と絶望に飲み込まれてしまいそうだったからだ。 息が切れても、足が痛くなっても、転んで血が出ても、涙が溢れて止まらなくても、少女は決して動きを止めなかった。 やがて目の前に、見渡すかぎりの草原が広がって。 立ち止まり空を見上げると、太陽が昇り、茜から水へと色が移り変わっていた。 その色彩が変化していく空の中に、一匹の鳥が羽ばたき徐々に小さくなっていくのを少女は見た。「まって……。いかないで……」 再び走ろうとしても、緊張の糸が切れてしまったのか、両足が言うことを聞かない。 酷使したこともあり、ガタガタと震え続けている。 やがて身体から急速に力が抜けた少女は、そのまま地面に倒れ込んでしまった。「……あぁ、だめ……。もう……動けない……。お父さま、お母さま……。……さま……」 少女の翠の瞳にジワリと涙が浮かんだとき、遠くから誰かの声が聞こえてきた。 その声は徐々に大きくなっていき、地面を駆ける足音が近付いてくる。「ねぇ、君! 大丈夫!? しっかりして!」 それは少年の声だった。 程なくして、少女は少年に抱き起こされる。 少女の目に、少年は〝天使〟の姿として映った。 絶望に飲まれた自分を助けてくれた、陽の光を受けて、キラキラと眩しく輝く天使のような男の子。 少女は、その少年の姿を、いつまでも忘れることがなかった――
最後更新 : 2026-07-27 閱讀更多