Tous les chapitres de : Chapitre 21 - Chapitre 23

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第20話 弱い者から配る冬

 夜明け前、風が家々を揺さぶった。 黒森から押し寄せた吹雪は、眠りかけていたエルダ村を再び白い闇へ閉じ込めた。雨戸の隙間から細かな雪が吹き込み、集会所の床へ粉のように積もっている。屋根の上では重い雪がずり落ち、そのたびに梁が低く軋んだ。 見張りに出ていた兵が、扉を肩で押し開ける。「街道が埋まりました! 東の獣道も倒木で塞がれています」 外套へ張りついた雪が、暖炉の熱を受けて黒い水となって滴った。「王都へ出した伝令は」 カルネアが問う。「昨夜のうちに谷を抜けたはずです。ですが、救援隊が同じ道を戻れるかは…」 兵は言葉を濁し、背後の白い闇を振り返った。 風の咆哮が答えの代わりとなった。 リュシエナは長卓へ広げた紙の端を、燭台で押さえた。 無事だった穀物。王都から持参した保存食。村の各家庭が隠し持っていた豆と干し根菜。病人へ与えられる蜜と岩塩。 汚染された麦を除けば、村全体で食べられる量は予想より少なかった。「通常通り配れば、十日です」 集会所へ集まった村人たちの間に、冷たい沈黙が落ちる。「吹雪は三日で止むかもしれない」 村長が言った。「止まっても、道を掘り起こす時間が必要です」 リュシエナは窓の向こうへ目を向けた。枝が折れる鋭い音が、風に混じって聞こえる。「救援が到着する日を、食糧が尽きる日より早いと決めることはできません。最低でも十五日。可能なら二十日持たせます」「二十日だと?」 健康な男が声を上げた。「半分に減らせというのか。雪かきへ出る者まで食えなくなれば、道も開かんぞ」「全員を同じようには減らしません」 リュシエナは新しい紙を広げた。「年齢、体格、病状、身体を使う仕事によって必要量が違います。まず一人ずつ確認させてください」 銀嶺で備蓄を管理していた頃、配給表に記されるのは家名と人数だけだった。幼い子も、病で動けない者も、妊娠している女も、一つの口として同じ印をつけられた。足りなければ家の中で分けろと言われ、声の弱い者から椀が軽くなった。 それを繰り返してはならない。 集会所の壁際へ机を置き、村人を一世帯ずつ呼んだ。 名と年齢。狼へ変身できるか。熱や吐き気はあるか。妊娠している者、乳を与えている者、古傷や持病のある者。雪かき、屋根下ろし、見張り、狩猟へ出る予定。 リュシエナが尋ね、村の治療師が身体を確
last updateDernière mise à jour : 2026-07-27
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第21話 燃やされた黒霜花

焦げた黒霜花からは、翌朝になっても煤の匂いが消えなかった。リュシエナは集会所の卓上に置いた一本を指先で持ち上げ、焼けた茎の根元を確かめた。黒霜花は寒冷地の岩場に根を張り、雪の下で冬を越す強い植物である。花と葉は失われても、球根さえ残っていれば春を待たずに再び芽を伸ばす。それだけが救いだった。「地上だけなら、まだ間に合います」地図を広げながら告げると、カルネアが眉間へ深い皺を刻んだ。猟師の証言では、群生地は村から北東へ半日ほど登った断崖にある。夏でも足を滑らせれば命を落とす場所で、この吹雪の中では雪崩の危険まで加わる。「却下だ」即答だった。「天候が戻るまで待つ」「いつ戻りますか」「それが分かれば苦労しない」「三日かもしれません。十日かもしれません」「だからといって死にに行く理由にはならない」カルネアの声には苛立ちがあった。それが自分を心配してのものだと、今のリュシエナには少しだけ分かる。以前なら命令へ従っただろう。迷惑をかけたくない。反対されたくない。そう考えて口を閉ざした。だが卓上には、毒入りの薬が流れた経路を記した紙が置かれている。「他の村にも月毒が入っている可能性があります」リュシエナは黒霜花を置いた。「患者が出てからでは遅いのです。待っている間に患者が出れば、解毒薬がありません」「お前自身にもまだ毒が残っている」「だからこそ必要です」カルネアが何かを言い返そうとした時、入口の近くから低い声が落ちた。「行くつもりか」ヴァルゼインだった。リュシエナは彼を見る。暗い金色の瞳は、こちらを止めたいと明らかに告げていた。唇も僅かに動いた。残れ。おそらく、その言葉が出かかったのだと思う。けれどヴァルゼインは言わなかった。一度呼吸を整えるように鼻から息を吐き、問い直す。「行くのか」リュシエナは頷いた。「行きます」短い沈黙が落ちた。「なら、俺も行く」それ以上の説得はなかった。断崖へ向かったのは、ヴァルゼイン、リュシエナ、カルネア、そして山に慣れた兵士四人だった。吹雪は前日より幾分弱まっていたものの、山へ入れば風の音が途端に変わった。黒い針葉樹の枝が唸るように揺れ、雪が顔へ叩きつけられる。足元の雪は深い。一歩進むたび膝近くまで沈み、引き抜けば脚へ重い抵抗がかかる。ヴァルゼインは何度も歩調を
last updateDernière mise à jour : 2026-08-17
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第22話 王が命じなかったこと

黒曜城へ戻った時には夜が深くなっていた。城門の松明が風に煽られ、黒い石壁へ揺れる影を落としている。国境へ銀嶺狼群の兵が集まり始めたという報告はすでに届いており、廊下を行き交う兵士たちの足音には普段にはない張り詰めた速さがあった。その騒ぎの中で、ヴァルゼインは自分の傷について何も言わなかった。リュシエナが気づいたのは、城内へ入ってからだった。黒い上衣の脇腹へ、乾いた血とは異なる新しい赤が広がっている。「待ってください」ヴァルゼインが振り向く。「何だ」「傷が開いています」「この程度なら――」「その言葉は聞きません」思ったより強い声が出た。自分でも驚いた。周囲にいた兵士たちも一瞬こちらを見る。ヴァルゼインは何も言わず、暗い金の瞳だけを細めた。「……ネルーヴァのところへ行ってください」「今は負傷者を診ている」「だからといって、放っておいていい理由にはなりません」「誰が治療する」リュシエナは口を閉じた。薬草と簡単な処置ならできる。銀嶺でルナ候補として学ばされた知識の中には、戦傷の手当ても含まれていた。「私がします」言ってから、胸が強く鳴った。相手は黒狼王。それ以前に。運命の番だと言われた男。肌へ触れることになる。獣魂がどう反応するか分からない。けれど、傷を放置する方が嫌だった。「……簡単な処置ならできます」ヴァルゼインは数秒黙った後、頷いた。彼の私室へ入るのは初めてだった。思っていたより質素で、寝台と机、武器掛け、大きな暖炉しかない。豪華な装飾も、王の権威を誇示する品もなかった。ヴァルゼインが上衣を脱ぐ。布が擦れる音が妙に大きく聞こえた。その下の肌に、赤黒い傷が走っている。断崖へ身体を打ちつけた傷だけではない。脇腹へ、小さな銀の破片が深く刺さっていた。リュシエナの息が止まる。「これ……」「岩に仕込まれていたらしい」「分かっていたのですか」「戻る途中でな」「なぜ言わなかったのです」思わず問い詰めるような声になる。ヴァルゼインは椅子へ腰を下ろした。「歩けたからだ」「歩ければ傷ではないのですか」「そうは言っていない」「同じです」言いながら、胸の奥が妙に熱くなる。腹が立っていた。誰に対してなのかも分からない。傷を仕込んだ者。黙っていたヴァルゼイン。そして、誰かが自分を救う
last updateDernière mise à jour : 2026-08-17
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