王の杯は、その日のうちに西棟の治療室へ運び込まれた。祝宴用の食器を扱う部屋から離れた小さな石室には、薬草を煮るための炉と、壁一面を埋める薬瓶の棚がある。冬の午後の日差しは細長い窓からわずかに差し込み、銀製の杯を置いた白布の上へ青白い光を落としていた。ネルーヴァは誰にも触れさせなかった。革手袋を二重にはめ、細い硝子管で杯の内側を何度も拭い、その液を別々の薬液へ落としていく。リュシエナは作業台の向かい側から黙って見守っていた。傍らにはセイグとカルネアが立ち、さらに少し離れた壁際で、侍従長オルネスが両手を背へ回している。銀中毒。眠り薬。獣魂へ作用する薬。一般的な植物毒。どの検査液も、危険を示す色へは変わらなかった。「内側には何もないわ」ネルーヴァがようやく言った。カルネアが腕を組む。「なら、昨日の匂いは何だった」「それを見ているところ」ネルーヴァは杯を横倒しにし、底へ灯りを近づけた。黒曜狼国の王家を示す紋章が刻まれている。三本の爪を背負った黒狼と、その頭上に欠けた月。彫り込みは細く、布で拭くだけでは奥まで届かない。ネルーヴァは細い綿を金具の先へ巻きつけ、紋章の溝をゆっくりなぞった。綿の先が淡く黄褐色に染まる。リュシエナは身を乗り出した。「そこだけ……?」「そうね」抽出液を作り、別の試薬へ落とす。今度は薄い銀色が浮かんだ。ネルーヴァの顔から残っていた柔らかさが消える。「黒霜花よ。昨日嗅いだ匂いと同じ」「毒は?」セイグが問う。「検出されない」「黒霜花だけか」「少なくとも、ここから取れた成分はね」リュシエナは杯を見つめた。もし黒霜花を薬として塗ったなら、内側全体へ痕跡が残るはずだ。ところが成分が検出されたのは、底の紋章の細い溝だけだった。「杯を……洗ったのでしょうか」ネルーヴァが視線を向ける。「何で?」「黒霜花を使った解毒薬で」室内が静まる。黒霜花は月毒を身体から排出するために使われる。同時に、銀を含むいくつかの毒を弱める作用もあると、ネルーヴァから教えられていた。もし毒が付着した杯を解毒薬で洗ったなら、平らな部分は水で流されても、紋章の細い溝にだけ薬の成分が残ることはあり得る。「毒を消した後、ということですか」リュシエナが尋ねる。ネルーヴァはすぐには頷かなかった。「そう見える。でも、そう見せ
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-23 อ่านเพิ่มเติม