弦が弾けるより先に、リュシエナの胸の奥で銀色の狼が身を起こした。門塔の上、雪を被った胸壁の隙間から、ごく小さな金属の匂いが落ちてくる。これまでなら風と石の冷気へ紛れていたはずのものが、今は妙に鮮明だった。矢羽根が空気を裂く音も、ヴァルゼインの警告よりほんの僅かに早く耳へ届いた。リュシエナは考えるより先に身体を捻り、母の外套を大きく翻して横へ踏み込んだ。銀の矢が胸元を掠め、背後の門柱へ突き刺さった。硬い石へ矢尻が食い込む乾いた音が響き、遅れて外套の肩口へ細い裂け目が走る。皮膚までは届いていない。それでも銀の匂いに胸の内側が一瞬灼けるように疼き、銀狼が低い唸りを漏らした。「リュシエナ!」ヴァルゼインが一歩で距離を詰めた。腕を伸ばしかけたものの、彼女が自分の足で立っていることを確かめると、触れる寸前で止める。その間にも暗い金色の瞳は門塔へ向けられ、黒狼の獣魂が膨れ上がる気配が冷たい夜気を押しのけた。「怪我は」「ありません。肩を掠めただけです」リュシエナは息を整えながら門塔を見上げた。胸壁の陰から、一人の警備兵が弓を投げ捨てるのが見える。男は背を向け、塔内へ続く階段へ駆け込んだ。「上だ!」カルネアの声が門内から飛ぶ。待機していた兵士たちが一斉に塔へ向かい、女戦士自身も剣を抜いて石段へ消えた。セイグは反対側へ回り、逃走経路を塞ぐよう数人へ指示を出す。その直後だった。城門の外から、馬の嘶きと怒声が重なって聞こえた。リュシエナが振り向く。先ほどまで旅立ちのため静かに待機していた街道の向こう、黒い森との境界から複数の人影が現れていた。一人や二人ではない。雪を蹴り上げながら走る者、馬に乗る者、短槍を抱えた者。黒曜狼国の兵装に似せた者もいるが、胸元の留め具や外套の縫い方がわずかに違う。「襲撃!」門兵が叫ぶ。開かれた東門へ、武装した集団が一直線に押し寄せてくる。リュシエナの背中へ冷たいものが走った。東門は今夜だけ、彼女が自由に出ていくため開かれている。通常なら閉門している時刻。門内の警備配置も、平時とは異なる。誰かは知っていた。彼女が今夜ここへ来ることも。門が開くことも。「門を閉めろ!」一人の兵が命じる。「待て!」セイグの声がそれを遮った。門外には、リュシエナのために用意された護衛がいる。馬車の御者も、偶然街道を通っていた商人たちもい
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-24 อ่านเพิ่มเติม