真恵子は天音の手を引いた。「天音ちゃん、ほら見てごらん。この子、とってもかわいいでしょう?由奈ちゃんの同級生で、靖紀くんっていうの。ご両親が誰かは知らないけれど、こんなに整った顔をしているんだもの。きっとご両親も美男美女ね」真恵子は天音の手を靖紀のほうへ押し出した。「ほら、ちょっと触ってごらん。あやかれば、かわいい赤ちゃんが授かるかもしれないわよ」天音はその場で固まって、無理に笑みを浮かべたが、靖紀に手を伸ばすことはなく、話題を変えた。「おばあ様、先に着替えてくるの」「ええ、行ってらっしゃい」真恵子は靖紀に夢中で、天音の様子がおかしいことには気づかなかった。天音はほっとしてその場を離れ、二階へ上がった。寝室はがらんとしている。天音と瑛司は、ほとんどここに泊まることがない。結婚したばかりの頃は、真恵子も二人の生活にあまり口出ししなかった。だが、二人にいつまで経っても子どもができないと、真恵子は次第に焦り始めた。二人を家に呼ぶ回数も増え、滋養のつく料理まで用意させるようになった。そうした料理を食べた夜は、瑛司がいつもより強く天音を求めてきた。ただ、彼が避妊を怠ることは決してなかった。天音は何度も子どもが欲しいと話したが、瑛司は彼女の気持ちなど、いつも気にも留めなかった。今となっては、子どもがいなくてもいいと思う。もし子どもがいたら、離婚はもっと難しくなるだろう。彼女は大きなベッドの横を通り過ぎ、ウォークインクローゼットに入って着替えを始めた。服を半分脱いだところで、カサカサという衣擦れの音が聞こえた。振り返ると、瑛司がスーツの上着を無造作に脱ぎ、シャツの襟元を緩め、ネクタイを引き抜きながらこちらへ歩いてくるところだった。天音を見た瞬間、瑛司の動きが止まった。その目には、まだ重苦しさが残っている。天音は慌てて背を向け、背後から、瑛司の低く冷たい声が聞こえた。「悠真に出資したのか」「私のこと、調べたの?」天音も冷たい声で返した。「どうせもうすぐ離婚するんだから、私が何をしようと、あなたに説明する必要はないでしょう」返事はなかった。振り返ると、瑛司の姿はすでに消えていた。床には彼が脱ぎ捨てたネクタイだけが落ちていた。天音はゆったりしたニットを手に取って、頭からかぶった。
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