夜、桐ヶ丘レジデンスに戻ると、瑛司がリビングのソファに座っていた。天音は、それだけで自分が帰ってくるのを待っていたのだと分かった。家はかなり広いが、瑛司が普段いるのは書斎か寝室、それにトレーニングルームくらいだ。天音は何も見なかったようにそのまま中へ入り、着替えるため寝室へ向かった。すると瑛司に呼び止められた。「君、SNSで何やってるんだ」「別に何もしてないよ」天音は自然に笑った。「こんなにかっこいい夫がいるんだから、みんなにも見せてあげたほうがいいかなって。きっとみんな私に感謝するよ」瑛司は眉をひそめ、瞳を暗くした。「消せ」「嫌」天音はスマホをひらひらと振った。「私のスマホなんだから、何を投稿しようと私の勝手でしょ」「他に誰に送った?」「聞いてきた人にはみんな送ったよ」天音はにっこり笑うと、そのまま振り返って行ってしまった。瑛司はその笑顔を見つめ、しばらく呆然としたあと、黙り込んだ。スマホには友人からメッセージが届いていた。【瑛司、天音がどんどんやりたい放題になってるじゃん。いったいいつ離婚するんだよ。晴加がずっと待ってるんだぞ】瑛司はきっちり閉じられた寝室のドアを見つめ、低い声で答えた。「もうすぐだ」科学技術展示会の日がやってきた。天音は朝早く起き、アイボリーのカジュアルなスーツを選んだ。ゆったりとしたシルエットはすっきりしていながらも程よくラフで、インナーにはシンプルな白Tシャツ。ボトムスはハイウエストのストレートパンツにして、髪は無造作にまとめた。頬には何本か後れ毛がかかり、初春の陽だまりのように、彼女の姿はぱっと明るく映えた。天音は、SNSの投稿を見た真恵子に削除するよう言われるのではないかと心配していた。ところが、真恵子は投稿を見たあと、一瞬表情を曇らせただけで、何も言わなかった。おそらく、晴加を少しくらい懲らしめてやってほしいと思っているのだろう。展示会には、天音の知り合いも大勢来ていた。彼女の姿を見ると、周囲の人たちは皆、驚いたような顔をした。カジュアルなスーツがすらりとしたスタイルを際立たせ、肩の力が抜けた自然体の雰囲気を醸し出している。周囲の視線は自然と彼女に引き寄せられた。まるで、以前の天音が戻ってきたようだ。自ら光を放ち、自由で華やかで、ひときわ明るく輝いている。それでも
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