第20話 骨が一本足りない 医師は、モニターに映った白い影を三度見直した。 燈夜の右腕を写した画像には、橈骨と尺骨の間へ細い指骨が絡みつき、関節を曲げた小さな指のように前腕を掴んでいる。さらに手首の内側からは、肉へ繋がっていない六本目の指が伸びていた。 それでも診察室にいた医師は、燈夜の顔より先に機械を疑った。「画像の重なりか、検出器の不具合でしょう」「骨が一本増えてんのに、故障で済ませるのかよ」 燈夜は丸椅子から立ち上がった。右腕を庇うように胸へ寄せている。包帯の下で、爪のない小指が脈打っていた。「通常、こういう形で異物が入り込めば、腫れや発熱だけでは済みません。血管や神経にも影響が出るはずです」「痛えって言ってんだろ」「ですから、再撮影します」 医師の声は冷静だったが、モニターへ向けた指先がわずかに震えていた。 深夜の救急外来は静かだった。廊下を運ばれるワゴンの車輪と、遠くで鳴る呼び出し音だけが薄い壁を越えて響いてくる。消毒液の匂いが鼻の奥へ張りつき、燈夜の苛立ちをさらに尖らせていた。 再び撮影室へ入る。 技師が腕の位置を直し、冷たい板の上へ右腕を置かせる。燈夜は肩を強張らせたまま、機械の四角い影を睨んだ。「動かないでください」「分かってる」 照射を知らせる音が鳴る。 その一瞬、燈夜の皮膚の下で何かが動いた。 肘の内側から手首へ。 細い節を折り曲げながら、肉の中を這う。「待て」 燈夜が腕を引こうとする。「動かさないで!」 技師の声と同時に、白い光が落ちた。 動きは消えた。 再撮影された画像には、異物は何も映っていなかった。 二本の前腕骨。手首。五本の指。 先ほどまで絡みついていた指骨も、六本目の指もない。 医師は安堵したように息を吐いた。「やはり機器側の問題です。最初の画像は破棄して、点検へ回します」「じゃあ、この痛みは何だ」「打撲と爪の損傷でしょう。鎮痛薬を出しますので――」 燈夜は右袖を肘まで捲り上げた。 言葉が止まった。 前腕の内側へ、青黒い痣が浮かんでいる。 一本ではない。 親指を含む五本の指跡が、内側から腕を掴んだ形で残っていた。皮膚の表面を押さえられた痣ではない。肉の奥から外へ向かって指を立て、そのまま強く握り込んだような跡だった。 手首に近い部分には、小さな爪先の形まで浮い
最後更新 : 2026-07-27 閱讀更多