榊原澄江の家は、楢守小学校から車で二十分ほど離れた古い住宅街にあった。 午後二時過ぎ。 低い塀の向こうに、小さな平屋が見える。庭には朝顔の支柱と植木鉢が並び、軒下では洗濯物が風に揺れていた。 閉鎖校舎の湿った空気とは正反対だった。 どこにでもある、老人の住む家。 鬼束美怜は門柱の表札を確認する。 榊原。「本当にここ?」 茅森イオが小声で訊いた。「住所は合ってる」 津守怜吾がスマートフォンを確認する。 二十三年前。 楢守小学校六年二組担任。 榊原澄江。 当時五十歳。 現在七十三歳。 学校広報や地域活動の古い資料を辿り、ようやく住所まで辿り着いた。「配信は?」 美怜が訊く。「しない」 怜吾は即答した。「何で」「元教員とはいえ一般人だ。まず取材だけ」「録画はするんでしょ」「許可が出れば」 轟木燈夜が門の外から家を眺めた。「七十三って、まともに覚えてんのかよ」「宇佐見さんは三十四でも忘れた」 斑鳩ちとせの言葉に、燈夜が顔を向ける。「それ本気で記憶消されたと思ってんの?」「今その話する?」「お前が振ったんだろ」 美怜は二人を無視し、呼び鈴を押した。 玄関の奥で音が鳴る。 一度。 二度。 しばらくして、室内から足音が近づいてきた。 ゆっくり。 すり足に近い。「どちらさま?」 扉越しの女性の声。 怜吾が名乗り、楢守小学校について話を聞きたいと告げた。 短い沈黙。「楢守?」 声の温度が僅かに変わった。「はい。六年二組についてです」 さらに長い間。 鍵が外れる。 扉が細く開いた。 榊原澄江は、小柄な女性だった。 白髪を耳の下で切り揃え、薄い灰色のカーディガンを羽織っている。背は少し曲がっていたが、目元には教職に長くいた人間らしい強さが残っていた。 五人を見る。 最初に美怜。 燈夜。 イオ。 怜吾。 最後にちとせ。 ちとせを見た瞬間だけ、澄江の目が止まった。「あなた……」 ちとせの肩が僅かに強張る。「はい?」 澄江は目を細めた。 何かを探すように、ちとせの顔を見つめる。 やがて首を横へ振った。「ごめんなさい。知っている方に似ていた気がして」「誰に?」 美怜がすぐ訊く。 澄江は答えなかった。「学校のことでしたね」 扉を開く。「長くは話せませんけど
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-25 อ่านเพิ่มเติม