少女の声が、暗闇の奥でもう一度した。「今度は、来てくれる?」 鬼束美怜は返事をしなかった。 返事をしてはいけないからではない。 喉が動かなかった。 体育館の照明はすべて落ちている。非常灯さえ消え、五人のスマートフォンと撮影機材の液晶だけが青白く浮いていた。 どの端末にも、時刻は同じ数字で止まっている。 18:06。 秒は進まない。 だが、体育館の外から聞こえてくるものだけは確かに近づいていた。 ドン。 体育倉庫の扉を叩く音。 ドン。 もう一度。「せんせい」 幼い声。「ここ」 ドン。「暗い」 美怜は握っていたスマートフォンを持ち直した。 手のひらが汗で滑る。 これまでなら、カメラへ向かって笑っていた。 怖いなら壊せ。 そう言って、供え物を蹴り、人形を燃やし、扉を壊した。 今は違った。 扉の向こうにいるものが何なのか。 幽霊なのか。 誰かが仕掛けた人間なのか。 それより先に、胸へ張りついて離れない言葉がある。 返事を聞いたのに、帰りました。 榊原澄江の泣き声。 二十三年前。 十二歳の少女が、誰かへ自分の居場所を伝えた。 ここにいます。 けれど、大人は振り返らなかった。「行く」 美怜が言った。 自分でも驚くほど低い声だった。 轟木燈夜が彼女を見る。「倉庫?」「うん」「また扉閉まってたら壊すぞ」「今日は壊す前に呼ぶ」「誰を」 美怜は答えなかった。 斑鳩ちとせだけが、その意味を理解したように顔を上げた。「美怜」「何」「名前を呼んだら」 ちとせは言葉を止めた。「何?」「……最後まで聞いて」 美怜は眉を寄せた。「何を」「返ってきた声を」 妙に具体的だった。 津守怜吾がちとせを見る。 まただ。 そういう目だった。 それでも今は問いたださない。「録音は全部回す」 怜吾が言う。「胸元、固定、空間音。切らない」「配信は?」 茅森イオが訊いた。 右手首には赤白の組紐。 そのおかげで戻った顔は、今も美怜にははっきり見えている。 ただしスマートフォン越しでは、時折目元が霞んだ。「切る」 怜吾が答える。「何で?」 美怜が振り返る。「外へ見せる前に、俺たちが何を見たのか確定させる」「でも――」「美怜」 怜吾の声は強かった。「今は再生数より記録だ
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-03 อ่านเพิ่มเติม