『実里さん』高橋誠の静かな声に、実里はハッとする。『私は、あなたが女性の件で怒ることは当然だと思います』「……はい」広海に対して、その浮気相手に、実里が怒りを感じることは当然だと言われているのに。なぜか、責められている気がした。確かにそうなのかもしれない。なぜならば。『美空ちゃんの治療のことを考えましょう。宗像先生との縁を繋いだのは東條広海です。今、彼に余計な疑念を抱かせれば、実里さんの身元や美空ちゃんのことを探られる可能性があります』「……分かっています」……その通りだ。あのとき宗像医師が実里の話を聞いて切れたのは、広海が間にいたからに他ならない。実里だけでは、まず話すことなどできなかった。だからこそ、実里は胸が痛んだ。「……分かっています」美空のことが最優先でなければいけない。美空のことだけを考えろと、高橋誠は言っている。でも……。「知りたいんです」何かしようとか思ってはいない。ただ、知りたいだけ。「私たちを捨ててまで選んだ人が、どんな人なのか。今どうしているのか」電話の向こうで。高橋誠は深く息を吐いた。『……分かりました』「高橋さん」『下手に探ると気取られてしまう可能性があるので、公に確認できることを中心に調べてみましょう。それでいいですか?』「ありがとうございます」実里は頭を下げた。◇◇◇高橋誠との通話を終えた実里は、スマートフォンをじっと見て苦笑した。「よく言ったものね」広海の『愛する女』をただ知りたいだけ。高橋誠にはそう言った。でも、自分の性格を実里はよく分かっている。そう。知ったあと、なにもしない保証はない。広海の『愛する女』。(……もし)広海から何かを奪うことができるのならば、その女だけ。その女を排除する。5年前、自分が全てを奪われたように。広海から『愛する女』を奪ってやりたい。妻よりも、子よりも勝る存在。恐らく、広海にとって『全て』と思える存在。それを広海から奪ってやりたい。(……馬鹿みたい)そんなことを考える自分が嫌だった。けれど、考えるのをやめられない。もしそれを広海から奪うとしたら?広海は、台北のホテルで実里を抱き締めた。東條実里だと思って。西村美晴という別人だと説明したあとも、そばを離れようとしなかった。仕事まで紹介してきた。その理由は
Last Updated : 2026-10-24 Read more