病室を出てから病院の玄関を通り抜けるまで、星奈は一度も恵子の姿を見つけることができなかった。 何度も辺りを見回してみても、どこにもいない。 このまま東京へ連れていかれる前に、せめて一言だけでも、きちんと別れを告げたかった。 星奈は歩きながら恵子へ連絡しようとスマートフォンを取り出す。 けれど、画面を開くより早く、隣を歩いていた純生の手が伸びてきた。 あっという間にスマートフォンを奪い取られ、星奈は驚いて純生を見上げる。「か、返して……」 小さな声で懇願しても、純生は聞こえなかったかのように何も答えなかった。 そのままスマートフォンを返そうともせず、今度は星奈の腕を強く掴み、病院の前に停められていた車まで半ば引きずるように連れていく。 星奈が抵抗する暇もないまま後部座席の扉を開けると、決して優しいとはいえない力で、その身体を車内へ押し込んだ。「……っ」 押された勢いのまま座席へ身体を預けた星奈は、そこでようやく、後部座席に純希がすでに座って待っていたことに気づいた。 思わず身体が強張る。 星奈が車へ乗せられると、純生もすぐに後へ続いて隣へ滑り込み、彼女を自分と純希の間へ閉じ込めるように腰を下ろした。 本来なら十分な広さがあるはずの後部座席も、三人が並んで座ると、急にひどく狭く感じられる。 右には純生がいる。 反対側には純希がいる。 どちらへ身体を寄せても、逃げたい相手に近づくことになる。 左右を二人に挟まれた星奈はできるだけ身体を小さく縮こまらせ、胸を強く圧迫されているような息苦しさに耐えるしかなかった。 やがて車の扉が閉まる。 運転席の男は何も尋ねず、そのまま静かに車を発進させた。 星奈はすぐに窓の外へ顔を向けた。 病院の建物が少しずつ遠ざかっていく。 車の速度が上がるにつれ、見慣れた町の景色も次々と後方へ流れ去り、自分が恵子のいる場所からどんどん引き離されていくような気がした。 このままでは、本当に何も告げられないまま、恵子の前から消えてしまう。 昨日、必ずまた会いに来ると約束したのに、最後にきちんと別れを告げることさえできない。 焦りに耐えきれなくなった星奈は、しばらく迷った末、隣に座る純希へ顔を向けた。 怒らせてしまわないようにそっと表情を窺いながら、おそるおそる小さな声で頼む。「あの……恵子さんに電
Last Updated : 2026-09-06 Read more