星奈は暗闇が苦手だった。 ただ苦手という程度ではない。 暗く閉ざされた場所へ長くいると、ひどいパニックを起こすことがある。 そのことを、純希は昔から知っている。「……っ」 忘れたはずの感覚が、一瞬で胸の奥から込み上げた。 星奈を心配する気持ち。 何かあったのではないかという恐怖。 手遅れになっているかもしれないという、ぞっとするほどの焦り。 歩調は自然と速くなる。 やがて歩くだけでは足りず、ほとんど駆けるように階段下の物置へ向かった。 物置の扉には、外から鍵が掛けられていた。「星奈!」 鍵へ手を伸ばす。 急いで外そうとして、初めて自分の手が震えていることに気づいた。 焦りのせいか、扉を開ける手つきはどうしても乱暴になった。勢いよく開いた扉は大きな音を立て、しんと静まり返った深夜の屋敷に、その音だけがひどく耳障りなほど響き渡る。純希自身、さすがに力を入れすぎたかと思った。 それなのに、床へ小さく蹲っている星奈は、その音にもまったく反応しない。身体をぎゅっと丸めたまま、眠っているようにぴくりとも動かなかった。 その姿を目にした瞬間、純希の心臓が一拍止まったような気がした。 足元がわずかによろめく。 それでもすぐに星奈のもとへ駆け寄り、その場へ膝をついた。壊れ物でも扱うように慎重な手つきで星奈の身体を抱き上げ、そっと自分の腕の中へ収める。 星奈は固く目を閉じていた。顔色はぞっとするほど青白く、髪は汗ですっかり濡れて額や頬へ張りつき、服までじっとりと湿っている。 その姿はあまりにも痛々しかった。「星奈、起きろ。……星奈」 純希は声を抑えながら何度もその名を呼ぶ。普段の彼からは想像もつかないほど焦りを滲ませた表情に、後ろで見ていた純生は思わず眉を寄せた。「兄さん……」 不安そうに呼びかけても、純希の耳には届いていないようだった。「星奈。聞こえるか? 星奈……」 何度呼んでも、腕の中の星奈は目を開けない。 純希はとうとう彼女を抱いたまま立ち上がり、物置を出る際、そばにいた管理人へ短く指示を飛ばした。「こんな時間でも往診してくれる医者がいないか探してくれ。それから……玄関にいる女性は、適当に理由をつけて帰しておいてくれ」「かしこまりました」 管理人はすぐにスマートフォンを取り出し、足早に玄関へ向かっていく。 純希
最終更新日 : 2026-08-07 続きを読む