互いの銃口が、完全な闇夜の中で見えない直線を結ぶ。 張り詰めた冷気の中、雄之助は引き金に指をかけたまま、低く唸るような声で問いかけた。「……蘭華。お前、仕事以外でこんな真似する女じゃねぇだろ」「…………」「誰に雇われた?」 蘭華は答えず、暗闇の奥で薄く笑う気配だけを漂わせた。「さぁね。暗殺者に依頼人の名前を聞くなんて、ゆーのすけも野暮になったねぇ」 のらりくらりと躱す蘭華に、雄之助はさらに一歩、言葉で踏み込む。「じゃあ聞き方を変えるぞ。俺を殺して、誰が得する?」 ここでも蘭華は答えなかった。 沈黙の代わりに、彼女の手にあるライフルの銃口が微かに角度を変える。「おしゃべりしてる暇あったら、自分の心配した方がいいんじゃない?」 ダァンッ――! 警告すらない無慈悲な一発。 雄之助は反射的にアスファルトを蹴り、近くにあった資材の陰へと乱暴に飛び込んだ。 弾丸が彼の後を追うようにコンクリートを削り飛ばし、細かい破片が頬を叩く。 ここから先は、蘭華の遠距離優位が残酷なほど明白に出た。 雄之助は資材の陰からグレイヴC9を突き出し、牽制の銃弾を数発撃ち込む。 だが、純粋な銃撃戦で彼女に敵うはずがない。 蘭華は足音一つ立てず、暗闇を軽々と跳躍して位置を変えていく。「相変わらず、銃ヘタクソ〜」 離れた足場から、からかうような声が降ってくる。「うるせぇ! んなもん自覚してんだよ!」 雄之助が吠えた直後、蘭華の放った次の一発が、雄之助の分厚いコートの肩口を鋭く掠め飛んだ。 チリッとした熱と、布が焼ける嫌な匂い。 一気に空気が変わる。(……この距離じゃ、勝てねぇ) 雄之助は舌打ちをした。 銃の狙撃精度では勝ち目がない。だからこそ、狙うべきは命中ではない。 蘭華を意図的に移動させ、強引に距離を詰めることだ。 雄之助は資材を蹴り出し、自ら遮蔽物を飛び出した。 発砲しながら位置を変え、牽制として投擲ナイフを暗闇へ放つ。金属が弾ける音で蘭華の射線を乱しつつ、その合間にも雄之助は叫び続けた。「金か!?」「…………」「東川か!? それとも、榊原の残党か!」「さぁ?」 弾丸の雨を掻き潜りながら、雄之助の声が一段と低くなる。「蘭華」「…………」「俺ぁ、お前が金を積まれりゃ誰でも殺す女なのは知ってる。だがな――俺相手に、こんな回
Last Updated : 2026-09-28 Read more