「うー、寒っ」 2月の冷たい風が頬を撫でる。吐く息は白く、冬の寒さはまだ厳しい。それでも、見上げる空は抜けるような青空だった。 高橋和花は、冷え切った手をこすり合わせながら自宅への道を急いでいた。 今日は2月13日。バレンタインデーの前日ということもあり、和花が働く花屋は朝から目の回るような忙しさだった。 早朝からのシフトに入っていた和花は、昼過ぎにはすべての業務を終えることができたのだ。 ふんわりと編み込まれたミルクティーベージュの三つ編みが、歩くたびに背中で小さく揺れる。セージグリーンのエプロンワンピースの下には温かい素材のブラウスを着込んでいるものの、冷え性の体には少しこたえる寒さだった。 夫である芽流は、今頃まだ寝ているだろうか。 芽流とは昨年入籍したばかりだった。 中学時代からの友人で、高校生の頃に交際をスタートさせた。同じ短大を卒業した後、和花は花屋の正社員として就職し、芽流はフリーターになった。 バンドでいつか成功する。そう熱く語る彼を支えたい一心で、和花は懸命に働いてきた。 しかし、二人の生活基盤が整ってくると、芽流は全く働かない日が増えていった。「曲作りに集中したい」と言われると、優しく穏やかな性格の和花は争いを避け、ただ黙ってうなずくことしかできなかったのだ。 自宅のアパートに到着し、ドアを開ける。「ただいま……」 無人の玄関に向かって呟いた和花の視線は、三和土に脱ぎ捨てられた見慣れない派手なハイヒールに釘付けになった。 嫌な予感が脳裏をよぎる。和花は音を立てないように靴を脱ぎ、寝室へと向かった。 ドアの隙間から、女の甲高い笑い声と芽流の声が漏れ聞こえる。震える手でゆっくりとドアを開けた。「……芽流くん、これ、どういうことかな……?」 絞り出すような声が響く。 和花が必死に働いて買ったキングサイズのベッドには、芽流と、見知らぬ褐色肌のブロンドギャルが身を寄せ合っていた。「ちょっとヤダ〜! 芽流、奥さん帰り遅いって言ってたのに〜!」 女は苛立ったように毛布を引き寄せる。「わ、和花、今日も遅くなるって言ってたよね……? バレンタイン前日で、繁忙期だって……」 血の気を失った芽流が見え透いた言い訳を口にする。「えっ、今日は早朝シフトだから、お昼すぎには帰るって……伝えて
Last Updated : 2026-07-30 Read more