理聖は、大翔から差し出された苺のケーキに一切手をつけようとはしなかった。「……食べないのか?」「……結構です」「毒など入っていないよ。昔から、お前はそういう顔をするとわかりやすい」 大翔は微かに口角を上げると、自分の皿に乗ったケーキへ何の躊躇もなく銀色のフォークを入れ、ゆっくりと口に運んだ。 理聖はその優雅な所作を冷静に見つめながら、本題へと切り込むタイミングを図る。「……大翔さん。今日は、お願いがあって来ました。僕は深凪組を――」「私がお前を拾ったばかりの頃も、今と同じだった」 決定的な言葉を告げようとした理聖の声を、大翔が静かな圧をもって遮った。「……?」「誰も信用しない。誰かが近づけば身構える。食事を出しても、警戒してしばらくは手をつけない」 大翔は昔を懐かしむように、独眼を細める。「両親を失い、身内も見つからなかったのだ。無理もない。まだほんの小さな子供だったというのに、お前は私の前で決して泣きもしなかった」 助けを求めない。欲しいものを口にしない。痛くても我慢する。 眠る時ですら、いつでも逃げ出せるように部屋の隅で身体を丸めていた。「怯えた子犬のようだったよ。……もっとも、いつでも噛みつきそうな目だけは、あの頃から一人前だったがな」「……まったく覚えていません」 理聖が冷たく突き放すと、大翔は「だろうな」と短く返し、静かに言葉を紡ぎ始めた。 それは、大翔が幼い理聖を引き取ってから、まだ間もない頃の夜の話だった。 深夜、大翔が仕事から屋敷へ戻ると、青ざめた使用人から「理聖様の部屋から物音がする」と報告を受けた。 大翔がすぐさま部屋へ向かい、重い扉を開けると。 そこには、床の隅に蹲っている幼い理聖の姿があった。 全身汗びっしょりで、荒い呼吸を繰り返し、その小さな両手には身を守るために手当たり次第に掴んだのであろう、重い金属の置物が握られていた。 夢の中で両親を失った凄惨な夜の記憶を思い出し、錯乱していたのだ。 大翔が一歩近づく。「来ないで!」 怯えきった声。大翔はそこでピタリと足を止めた。 普通であれば、「もう大丈夫だ」と近づいて強く抱きしめ、安心させようとする場面だろう。だが、大翔はそうしなかった。 大翔は部屋の入り口付近の床に、そのまま静かに腰を下ろしたのだ。「……何してるの?」「ここにいるだ
Last Updated : 2026-10-08 Read more