「理聖、見てみろ。大きなオバケがいるぞー!」 巨大な水槽のガラス越しに、頭上を悠然と横切っていくマンタを指差し、その男は子供のようにはしゃいだ声を上げた。 水族館の青い光に照らされたその背中は、見上げるほどに広く、そして恐ろしいほどの威圧感を隠そうともしない。 ――深凪組三代目組長・錦戸大翔。 彼が理聖を拾い、まだ数ヶ月しか経っていない頃。 初めて水族館に連れて行ってもらった日。「…………」 幼い理聖は、大翔の隣でただ無言のまま水槽を見つめていた。 初めて見る海の生き物たち。 しかし、感情の表現の仕方を知らない彼は、「すごい」や「楽しい」といった言葉をうまく口に出すことができない。無表情のまま立ち尽くす理聖を、大翔は少しも気に留めることなく、まるで普通の父親が息子を可愛がるように次々と水槽を巡って歩いた。「ほら、こっちにはウミガメだぞ」「…………」 やがて、野外のスタジアムでイルカショーが始まった。 水しぶきを上げて高くジャンプするイルカたちの見事な芸に、観客から大きな歓声が沸き起こる。そのダイナミックな動きに、理聖の小さな唇が、ほんのわずかだけ綻んだ。「……おっ。今、笑ったな」 その微かな変化を、大翔は見逃さなかった。「なんだ、お前もちゃんと子供らしい顔ができるじゃないか」 大翔は嬉しそうに目を細めると、大きな手のひらで理聖の頭をガシガシと少し乱暴に撫で回した。 温かな体温に包まれ、理聖は恥ずかしさから俯いて小さな身をすくませた。 ショーが終わった後、混雑する通路で大翔は突然しゃがみ込み、「ほら、乗れ」と背中を向けた。 恐る恐る肩にまたがると、大翔は軽々と立ち上がり、理聖を肩車した。今まで見たことのない高い視界から見下ろす世界は、幼い理聖にとって魔法のようだった。 帰り際、大翔は売店で一番大きなイルカのぬいぐるみを買い与えてくれた。「……ありがとうございます」 消え入りそうな小さな声でお礼を言い、理聖は自分よりも大きなイルカのぬいぐるみを、両腕でギュッと力強く抱きしめた。 帰りの車の中。 運転席に座る組員が気を使う静寂の中、後部座席で大翔が低く穏やかな声で問いかけた。「理聖。今日は楽しかったか?」「……はい」「そうか。なら、また行こうな」 大翔の大きく分厚い手が、再び幼い理聖の頭を優しく撫でる。その無償の
Last Updated : 2026-08-29 Read more