季節は静かに巡り、本格的な夏の訪れを告げる7月を迎えていた。 陽差しが日に日に強さを増す中、アパートのリビングのローテーブルには、美しく活けた白と薄紫のトルコキキョウが、涼しげな彩りを添えている。幾重にも重なるフリルのような花びらが、エアコンの風を受けて穏やかに揺れていた。 そのテーブルを囲むように並んだ三人分のグラスには、氷がからりと音を立てる冷たい緑茶が注がれている。 そして小皿の上には、笹の葉の上で涼しげに透き通るぷるぷるとした水まんじゅうが置かれていた。「んっ……すごく冷たくて美味しいです! 中のこし餡も上品な甘さで、いくらでも食べられそう。雄之助さん、わざわざ素敵な手土産をありがとうございます」 和花が幸せそうに頬を緩めると、向かいの座布団に腰を下ろしていた雄之助は、目を細めて嬉しそうに笑った。「喜んでもらえて何よりですよ! 駅前で見かけて、和花さんと若頭にちょうどいいかなって思ったんです」 「ええ。とても風味の良いお菓子ですね。いつも気を配ってくれて感謝しますよ、雄之助くん」 隣で同じように水まんじゅうを味わっていた理聖も、穏やかな笑みを浮かべて部下への謝意を口にする。 だが、冷たい緑茶で喉を潤した直後、雄之助の表情からいつものおちゃらけた空気がすっと消え去った。「――それで、今日お邪魔した本題なんですけど」 雄之助の真剣な声色に、和花と理聖も姿勢を正す。「以前の港での誘拐事件以来、榊原派の方に目立った動きは今のところありません。……というより、最近の裏社会は時代の流れもあって、昔みたいな派手なドンパチはそう簡単にはできないんですよ」 雄之助はグラスの表面についた水滴を指先で拭いながら、組織を取り巻く厳しい裏の現状を語り始めた。「警察の警戒がかなり強まってるんです。うちの組だけじゃなく抗争中の不破組の奴らも、殺人ですでに何人かパクられてる。組長も、いま表立って騒ぎを起こすのは得策じゃないと睨んでます」 「……つまり、相手もおいそれとは大きな襲撃を仕掛けられない状態、ということですか」 理聖の言葉に、雄之助は眉を寄せて首を横に振った。「逆です、若頭。……あいつが何も仕掛けてこないはずがない。榊原は、組の中でも誰より狡猾で底意地の悪い男です」 雄之助の言葉に、リビングの温度が少しだけ下がったような緊迫感
Last Updated : 2026-08-19 Read more