カレンダーが10月へとめくられ、街を吹き抜ける風に心地よい涼しさが混じり始めた頃。 フルリールの店内は、色鮮やかな秋の花々と、かつてないほどの活気に満ち溢れていた。 「へい、いらっしゃいませぇ! 奥さん、今日は上物……いや、綺麗な鉢植えが入ってやすぜ!」 「お兄さん、今日も威勢がいいわねぇ!」 「へへっ。この深紅の秋バラなんか、まるで……その、返り血みたいに鮮やかで最高ッスよ!」 野太い声で接客をしているのは、深凪組の武闘派である雄之助だった。 どう見てもそのスジの男が、可愛らしいピンクのフリルエプロンを身に纏い、一生懸命に花を勧めている。 そのあまりにも強烈なギャップがなぜか近所の奥様方の間で大ウケしており、フルリールの客足は目に見えて増加していた。「もう、雄之助くんったら。お花の色をそんな物騒な例え方しないでください」 そこへ、深いグリーンのエプロンを纏った理聖が、柔らかな微笑みを浮かべてすかさずフォローに入る。「お客様、申し訳ありません。彼は少々言葉のチョイスが個性的でして……。ですが彼の言う通り、こちらの秋バラは香りも深く、とても長持ちしますよ。ご自宅のリビングにいかがですか?」 「あら、素敵。それじゃあ、このバラをいただくわ。理聖くんのお見立ても、雄之助くんの元気な接客も大好きよ!」 理聖のスマートで洗練された接客と、雄之助の極道感溢れるコメディタッチなやり取り。 二人の見事な連携プレイにより、店内は絶えず和やかな笑い声に包まれていた。 一方、その様子を奥のバックヤードから眺めていた和花は、手元にある花々の水揚げ作業をしながら、ふと微笑みをこぼした。「ふふっ。雄之助くん、すっかりお店の人気者ですね」 「ええ、本当に助かってるわ。……あのエプロン、私が選んだんだけど、すっごく似合ってると思わない?」 和花の隣でハサミを動かしている梓が、嬉しそうに声を弾ませた。 梓の表情は、恋する乙女そのものだ。雄之助との交際がよほど順調なのだろう。 ずっと素敵な恋愛をしたがっていた梓の幸せそうな様子を見て、和花も自分のことのように嬉しくなる。 ――けれど。 その笑顔の裏で、和花の胸の奥には、鉛のように重く冷たい塊が沈んでいた。(梓さんたちは、あんなに幸せそうなのに……) 夜な夜なうなされる
Last Updated : 2026-09-03 Read more