夜の繁華街を見下ろす、古びた雑居ビルの屋上。 ネオンサインが毒々しい極彩色を放つ喧騒から遠く離れ、蘭華はコンクリートの縁へ小柄な身体を預けていた。 高性能の双眼鏡越しに、通りの向こう側をじっと眺める。 視線の先にあるのは、大翔の手によって粛清された元幹部・榊原の派閥が経営していた違法ヘルスだ。「……いたいた。榊原んとこの残りカス」 けばけばしい看板の下、店から出てきたガラの悪い男たちを見つけ、蘭華の赤い唇が楽しげに弧を描く。 暗殺者である彼女にとって、あんな下っ端の命を奪うことなど造作もない。殺すだけなら簡単だ。 けれど今夜、大翔から与えられた仕事は〝殺すこと〟ではない。残党を束ねる黒幕を炙り出すことだ。「さてさて。誰と会うつもりなのかなぁ〜?」 蘭華は雄之助から事前に共有されていた、榊原派の残党リストの画像と照らし合わせる。(あいつは山木と、新田ってやつだわ。どっちも頭を使って組織を動かすようなタイプじゃないわね) そのまま双眼鏡でじっと監視を続けていると、路地裏の暗がりから、ひょっこりと見知らぬ男が姿を現した。「……誰、あれ?」 ピントを合わせる。そこに映ったのは、極道とは似ても似つかない男だった。 根元が黒く伸びきった酷いプリン状態の色褪せたブロンド髪に、だるだるのTシャツ。 安っぽいアクセサリーをじゃらじゃらと鳴らし、ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべている。(売れないバンドとかやってそうな男ね……。チンピラにしても、貧弱そうだけど。まさか、あんなやつが残党を仕切ってんの?) 蘭華は首を傾げながらもスマートフォンを取り出し、その男の顔をズームで隠し撮りした。そして、すぐさま雄之助のメッセージアプリへと画像を送信する。 数秒後。マナーモードにしていた端末が、ブルブルと震えて着信を知らせた。「はいはーい、ゆーのすけ? アタシ、仕事が早いでしょ〜」『……蘭華。そいつ、和花さんの元旦那かもしれない』「は? 元旦那ぁ!?」 予想外すぎる単語に、蘭華は思わず素っ頓狂な声を上げた。 和花の元旦那といえば、借金まみれで浮気性のどうしようもない一般人だと聞いていた。『ああ、間違いない。高橋芽流ってクズ野郎だ』 電話越しの雄之助の声は、地を這うように低く怒りに震えていた。『以前、あいつは和花さんを九条たちへ引き渡して、まとまった大
Last Updated : 2026-09-08 Read more