All Chapters of 僕のお母さんは△▽女優: Chapter 271 - Chapter 280

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直輝と別れと小さな夢 11話

あれから一週間は経った。地震は起こるどころか前兆すら見えることはなかった。でも分かる。今周りにある歴史のある住居は未来にはない。いつか瓦礫と共に流されてしまうからだ。沖縄の独特なゴーヤの入り交じった料理や、酒に酔う人、家族の団欒……それら全てがたった一瞬で無くなるのだ。でも、俺には勝算があった。かつて日本で起きた東日本大震災、その津波が10mを超えていたらしい。そして、今いる位置は海抜4メートル程度……今は亡き光景だ。つまりこの地震は少なくとも6メートル以上の津波があって、両親を早めに誘導すれば良い。「おーい、直輝?」問題は……母ちゃんだ。普段は決まったルートを行き来するのだが、若さゆえか突発性がある。母ちゃんの実家が厳しすぎる所以かもしれない。直人は基本一緒にいればいいけど、どうしても母ちゃんだけはコントロールできなかった。「聞いてる?難しい顔してるね。」俺は神様から両親を救えと神隠しを請け負ったとすっかり使命に燃えていてとにかく当日を静かに待っていた。でも、下手すれば母ちゃんどころかまだ受精卵の俺ですら殺しかねないと考えるとプレッシャーが凄かった。「直輝!」「はっ、すまん……直人。」「……大丈夫?」ずっと直人に呼ばれていたことに気がつく。彼はすっかり俺に興味津々だった。「良かったら、散歩しない?」「お前……学校には行かなくていいのか?」「大丈夫、僕ね……1人で勉強してる方が理解が楽なんだよね。」どうやら俺とはまた違ったタイプの不登校らしい。直人は我が父ながら本当に変人である。俺が首を縦に振るとウキウキとしながら家を出ていく。「何見るんだ?」「海だよ!沖縄の海……ちゃんと見たのかい?」「……見てないけど、やめた方が。」あろう事かこの父は海が好きだった。ことある事に海沿いを歩きたがる。「1回だけ!君にも見てほしいんだ!」「ったく……しょうがないな。」俺は今日だけ地震が絶対来ないことを祈りつつマンションを出て海辺を歩いていく。砂浜の海岸を進んでいくと、その光景に言葉を失ってしまった。「なんて……綺麗なんだ……。」砂浜が白く太陽を乱反射している。そしてコバルトブルーの海はそこがはっきりと見えて静かに波打つのが心地よかった。地震が来たら、即死だと言うのはわかっていつつも……その美しさに呆気
last updateLast Updated : 2026-09-05
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直輝と別れと小さな夢 12話

突然の事だった。分かっていても、やはり天変地異が自分の身に降りかかると本能的に身震いするものだ。俺がこの時代に来て9日後に、それは来たのだ。大地は大きく揺れて、ビルは少しだけ傾いてしまう。人々の悲鳴があるのだが、まだ危機感がわかってなかった。いつもの日常がまた帰ってくると思ってやり過ごすのだが、震度は大きくなりちょっとずつ異変だということに気がついて不穏な空気になる。2009年8月19日、南海トラフ地震は発生した。「はぁ…はぁ…直人!こっちだ!」「随分と…冷静だね。」「そんな訳あるか!こっちも内心ヒヤヒヤしている。」「どこに向かってるんだい?」「母ちゃ……天野遥香さんを探すんだよ!」俺は未来を変えるために今日を待っていた。ハザードマップは何回も見返したし、母ちゃんの動きも探っていた。直人にも、生きてもらう約束をした。だからこそ、今この瞬間を全力で頑張るんだ。「もしかして、この日をずっと……待っていたのかい?」「ああ!訳あって俺はこの日を知っていた!」くそ!人が多すぎてどこにいるか分からない!母ちゃんの実家の付近を探しても見つかることはなかった。母ちゃんの実家には、俺のおばあちゃんやおじいちゃんにあたる人が家の中で静かに待っていた。母ちゃんの姿は…どこにもなかった。まだ早朝で登校には少し早いはずなのに…!この時の母ちゃんは妊娠して7~8ヶ月、少しお腹が目立ち始めた時期だった。その中で走るのはどれだけリスクで大変なのだろう。「直輝。」すると、直人が俺の肩をポンポンと叩く。母ちゃんの家とは別の方向に母ちゃんがゆっくりと避難してる姿があった。でも、やはり動きは鈍い……。走るのが辛いんだ。母ちゃんの後を追おうとすると、海辺には地獄のような光景が拡がっていた。「おいおい……まじかよ。」津波が、恐ろしいほどの速さで母ちゃんを追いつこうとしていた。津波と言われたら水の波だと考えるかもしれないけど、瓦礫の塊が一気に街まで遡上している。あれに巻き込まれたら一溜りもないだろう。俺は母ちゃんを助けるべく塀の近くまでなるべく自分の安全を確保しながら走ると、直人は俺を信用し着いてくる。もう少しだ、もう少しで未来は変えられるかもしれない。既に心拍数は限界を迎えて横っ腹が痛い。多分後で具合悪くなりそうなほど、俺はアドレナリ
last updateLast Updated : 2026-09-05
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直輝と別れと小さな夢 13話

とても長い時間を暗闇の中ですごしたような気がした。洞窟の中は狭いのだが水の滴る音や時折コウモリの声が聞こえたりとしている。それに加えて、まるで気圧が低い日に頭痛が起こるかのように常に耳のセンサーが安定せず頭がフラフラする感覚がしばらくあって、しばらくすると、一方通行の道は月明かりを差し込む。俺は、その光を見ると立つ気力もなくてグラッと崩れてしまった。地面が少しだけヒンヤリとしている。火照った体温を少しずつ下げてくれているので心地が良いと感じてしまった。俺は、それほどまでに疲れていたようだった。少し……寝よう。俺の精神はゆっくりとまるで底なし沼に浸かるかのように静かに静かに沈んで行った。☆☆太陽の光が目に差し込む。体は心地よく、ベッドのシーツが体を温めて心地よい。俺は瞼が重いながら目をゆっくり開ける。すると、目の前には俺の彼女の舞衣とクラスメイトの瑞希が座っていた。2人とも、俺の顔を見るなり目を見開き口が開いてしまうほど驚いていた。「……ここは?」「直輝くん!!!」舞衣に抱きしめられて、体に重みがかかるのを感じる。でも、それに抵抗できないほど俺の体は弱っていた。後ろをみると瑞希も泣いていた。「良かった……良かった……!ごめん、直輝……私が心霊スポットを行こうと言ったばかりに!」……見慣れた顔ですごく安心する。自分を知ってる人がいるって、すごく安心する。俺は元の時間に戻ってきたようだった。「いや、俺も少し気が大きくなってたから俺にも責任がある。」「直輝くん……あの洞窟に入ってから半日以上行方不明だったんだよ!」「ってことは……今は、修学旅行2日目……ってことか?」「うん!」どうやら向こうでの過ごした時間とこちらで流れた時間では多少のズレがあるらしい。なんにせよ、神隠しとはよく言ったものだ。「ねえ、どこ行ってたの?何を……みたの……?」舞衣と瑞希は真剣な眼差しでこちらを見ている。さて……どうしたものか。神隠しって正直に言った方がいいのかな。いや、俺に出来ることはせいぜい一つだろう。「俺もハッキリとはわからないけど、小さな夢を……見ていたようだったよ。」「夢?」「うん、ちょっと懐かしくて、切ない夢だった。」ぶっちゃけ、これだけでは伝わらないのは分かってるけど、ここまでしか言えなかった。そう、これ
last updateLast Updated : 2026-09-05
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直輝と別れと小さな夢 14話

俺は特にこれといった外傷もなく、意識障害も無かったのでたった1日で退院した。これからバスで出発して、美ら海水族館を経てそこから飛行機で帰るスケジュールとなっている。ふと、帰り道を見渡してここ一週間の出来事を思い出す。直人と歩いた繁華街は、波によって瓦礫になり……そこから数十年の時を経てオフィス街へと変わっている。母ちゃんに金的を蹴られたムシキングのあるコンビニは今は事務所のようなところに変わってるから、俺が見ていた夢が明らかに過去のものだと理解する。そして、街の人たちは明るかった。あれだけの事があったのに、平和そのもので前を向いている。「改めて、人ってすごいな。」そんな事しか言えなかった。みんなはまだホテルから向かってる最中なので俺は少しカフェで時間を潰す。頼むのは軽食のホットサンドイッチと水出しのコーヒーだ。コーヒーを飲みながら、静かに心の整理をする。今、俺に必要なのは……父を救えなかった後悔じゃない。目の前の事に集中して、どれだけ前を向けるかだと思う。母ちゃんはまだ手術を終えてから連絡が来ていない。飛行機で戻ったら……まっさきに病院に行こう。「お待たせしました。ホットサンドです。」ふと、店員さんがテーブルにサンドイッチを持ってくる。俺は会釈をして受け取ると店員さんが不思議そうな顔をしていた。「ん?なにか……顔についてますか?」「いえ……なんというか、以前にお会いした事ありますか?」不思議な質問だった。はて?俺は直人とコンビニか散歩しかしてない。この女性は見たところ30半ばくらいの年齢をしている。そんな人に……会うなんて?「あ。」いや、俺はタイムリープしていたんだった。目の前の女性は、当時であれば女子高生だった。そして、数奇な事は起こるのだと思いつつ彼女の面影を思い出す。「すみません、16年前でしたね。」「びっくりです。あの頃と変わらないままなので羨ましいですよ。」彼女は、母ちゃんと3人組だった愛深ではない翔子という女の子だったはず。彼女は、確か愛深さんが亡くなった時に無反応だった母ちゃんに激昂して罵倒していた。つまり、あの日から母ちゃんとは絶縁状態なのかもしれない。「あれから……遥香さんとは?」「全く、今思えば彼女に酷いことを言ってしまったわ。親友の死体をみて、最愛の人を亡くしたばかりなのに
last updateLast Updated : 2026-09-05
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直輝と別れと小さな夢 15話

季節は12月だと言うのに太陽は強く照りつけ、やはり地球の位置によって温度は大きく左右されるのだと思い知らされる。ここは美ら海水族館。日本一の水族館と呼ばれるこの血の大きさと、ジンベエザメのモニュメントの迫力に俺たちは圧巻していた。「飯田くん!前方確認お願い!」「うん、車もないから行方不明にならないな!」「直輝くん!通っていいわよ!」「あ……あの、別にそんなに神経質にならないなくても……。」妙にみんなに気を使われてる感じがする。すると、2人とも目をぎらつかせてこちらを見ていた。「あのな〜直輝……反日とはいえ行方不明になったんだぞ!警察にだって捜索してもらってもどこにもいないからこちらも神経質になる!」「そうよ!直輝くん!私が一生守るからね!どんな怪異も蹂躙してみせるから!」「おおい!サラッと人前でくっつくな!」た……頼もしい仲間たちだ。このメンツで行けば……いや、この場においてifはタブーだ。さて、ここ美ら海水族館といえば見所はやっぱりジンベエザメ。ゆったりと泳ぐその様子は雄大ながら美しさも兼ね備えていた。それだけじゃない、4つの階層に分かれていてサンゴに関するコーナーもあるので見所満載だった。水槽がまるで水の中にいるようでもあり、ダイビングをしてるかのような美しさもあった。みんなと色とりどりの写真撮って初めて気がついた。そうだ、今は……修学旅行だった。途中直人の件でいっぱいいっぱいだったけど、俺は学校生活で唯一の思い出を作りに来たんだ。途中、瑞希も水槽の前でうっとりとしていた。「楽しいか?」「へ?ふ……ふん!まあまあだね!」「いやどういう強がりだよ。」でもそう言って、瑞希はサンゴの美しさでしっぽを振ってるようだった。思えば瑞希とは、夏期講習で出会って切磋琢磨して……それが楽しくて編入してくれていた。最近は生徒会とかそういう機会が多くて一緒にいれなかったけど、知らないところに来て心細くないのかなとか少し心配してしまう。「なあ。」「なによ、別に見とれてないから。」「知ってるって……あのさ、この学校に来て……楽しいか?」「……楽しい。」「そうか、学校にも慣れたか?」「慣れてるよ!なんせ私はコミュ強だからね!」「いや、コミュ強は多分修学旅行の班決めで戸惑ったりしないと思うんだけど。」「うるさい!なんてこと
last updateLast Updated : 2026-09-05
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直輝と別れと小さな夢 16話

俺はしばらくして目が覚める。最近、無意識に疲れたのか夢を見ずにぐっすりと眠っていたみたいだ。辺りを見返すと、みんな寝ていた。各々修学旅行を楽しんだようで俺はくすりと笑ってしまう。俺も、色々あったけど楽しい修学旅行だった。ペットボトルのコーヒーを飲み感傷に浸っていると間もなく着陸のアナウンスが流れみんなが目を開ける。「もう東京……?速いね、本当に。」「おはよ、舞衣。」隣の席に座ってる彼女の舞衣も目が覚める。長いまつ毛を少し擦り大きなあくびをあげた。俺は少し考える。直人のことは割り切ったけど、どうにもまだ不安が残っていた。「また難しい顔してる〜。」「ああ、すまない。ちょっとね。」「もし、話せそうなら私に話してみたら?負担になるなら話した方がいいよ。別に私は直輝くんのことを言うつもりもないし。」……確かに、俺には今誰にも言えてない事ばかりだ。母ちゃんの事や、直人の事、そして……自分の夢のこと。最優先の事だけでも、話してもいいのかもしれない。「あのさ……今母ちゃん、手術して入院中なんだ。」「え。」「どうやら子宮頸がんらしい。修学旅行と被ってたけど俺は来ちまった。母ちゃんが今どんな状態なのか気になって仕方がない……そんなことを思ってる。」舞衣は少し考えて、ポッキーを1本カリカリと食べると整理がついたのか俺の方を見つめた。妙に静かな機体に緊張が走る気がする。「直輝くん、辛かったね。きっと直輝くんなりに色々あったんだけど、頑張って乗り越えてきたんだね。」その言葉に、全てが詰まってる気がした。何も知らないはずなのに、まるで全てを知ってるかのような言葉に俺は少しだけホッとしてしまった。「でも直輝くんは、いつも1人で背負いすぎちゃう癖があるよ。辛かったら、いつでも話してね。だって私は……直輝くんの彼女なんだもん。」「舞衣……いつも、ありがとう。」「ううん!あ、直輝くんもポッキー食べる?」「うん、頂くよ。」修学旅行では海鮮とか沖縄料理とか美味しいものを食べてきたけど、どうにも全てが軽くなった今食べたこのポッキーが1番美味しく感じてしまった。飛行機は、高度を徐々に下げて金属音を響かせて成田空港へと着陸をする。そこには1点の粗さもなく洗練されたマニュアルで運航されていたのか、綺麗に決まった位置で止まっていた。修学旅行は俺の神
last updateLast Updated : 2026-09-05
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完璧弟と白衣の姉と 1話

「……姉ちゃん!起きてる?」疲れたからだを誰かに揺さぶられる。若くて優しい声、最近メロいという言葉が流行っているのだが少し高く、それでいて色気のある奥ゆかしいこの声こそ、メロいの擬人化なのかもしれない。「……。」「おーい!姉ちゃん?」「……私は今、睡眠中。」「いや、睡眠中って答えられるほど起きてるじゃん。そろそろ起きた方がいいんじゃない?今日学校でしょ?」この男は佐々木凛、私の6個下の弟で今はデザイナーの仕事をしている。訳あって、私は今彼と一緒に暮らしている。「……ふっふっふ、考えが甘いな。私は今日は振替休日。」「いや、報告連絡相談してよ姉ちゃん。」この男は常識人である。身長は170cmあるし、家事もできる恐ろしく完璧……姉でなければ結婚しちゃうね。「ご飯作ってあるから!今日は在宅ワークしてるから部屋は入ってこないでね!」「……部屋にこもって、くしゃくしゃの紙を増やして、ナニしてるんだい?」そんな私の下ネタにすかさずチョップをする。とはいえ、あくまでツッコミなので痛覚はなかった。「……ごめん。」「分かればよろしい。」そう言うと、凛は自部屋に籠って作業に没頭して言った。☆☆高層マンションでコーヒーと2枚のトーストをもちゃもちゃと頬張る。私は佐々木結愛、現在28歳のしがない生物教諭をしている。元々は大学で博士号を取れる寸前まで研究していたのだが、クソ教授に勝手に論文を盗作されて手柄を横取りされてからは教授をぶん殴って今に至る。「……困った、支払いが沢山。」そして、私は何をトチ狂ったのか奨学金と借金でいっぱいになっていた。理由はわかる、奨学金は大学院も出るために高い金額がかけられている。研究員の時に少し研究費用が足りなかったから私的に消費者金融をつかってしまった。その後、私は博士号を逃してそこから1年はずっと働かずにパチプロをしていたのだが、やはりそこにも結果を出せず住んでたところを追い出されたのだ。途方にくれたところを凛に助けてもらい、今はちょっと安定して生活ができている。それが私こと……佐々木結愛だった。正直言って中々にクレイジーだと思う。一応凛に毎月3万円払って家事をして貰っていて、私はもう三十路になるのに自立できてない自分を心の底から嫌いになりそうだった。「お、姉ちゃんちゃんとトースト食べてる!偉い
last updateLast Updated : 2026-09-11
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完璧弟と白衣の姉と 2話

東京駅は人が本当に多い。まるで周りだけ濁流が流れてるようで少し酔ってしまう。先日の修学旅行といい、ちょっと人混みが多くて私の頭はパンクしそうだった。「大丈夫?姉ちゃん。」「……り……リバース。」「絶対やめてね!?駅員さんに迷惑だから!」私は凛に手を引かれて新幹線に乗り込む。平日の新幹線は思ったより人が少ない。周りを見ると、サラリーマンなどのビジネスパーソンに溢れていた。「姉ちゃん!なんか飲む?」「……ふっ、私はビールにする。」「え?まだ午前九時なのに?」「……甘い、こういう日だからこそ朝から飲むもの。全く……仕事に追われてる男はこれだから。」「それ、俺のお金なんだけど……まあいいや!すみません!ビール二本ください!」「……え?」すると、サービスの人が私たちに缶ビールを渡して、凛が乾杯をする。それと同時に、新幹線は進んでいく。最初はこんなものかと思ったけど、徐々にスピードを上げてたった数分で新横浜まで着いてるのだから、文明の利器の恐ろしさを徐々に理解する。「ぷはー!やっぱビールって上手いなー!」「……凛、仕事中では?」「いいんだよ!この前も先方のところに行ったらお酒お世話になったし……世の中飲みニケーションって必要だよ。」いかん、こいつとは見ているものが全然違う。私なんて、ストレス発散に男にあっては食い散らかしてるだけが飲みニケーションだというのに、こいつは仕事のために人脈を広げたりとか、やっぱり要領がいい。「……ところで、どこに行くの?」「んー、三重だからね。伊勢神宮とかどう?」「……伊勢、神宮。」「外宮と内宮があるんだって!ちなみに外宮から行くのが良いらしいよ!その後は松阪牛でも食って……あー、なんか楽しみになってきた。」地面に足をつけてウキウキしている凛と、ぼーっとした表情でプラプラと足をバタつかせる私。外界では想像もつかない速さでまずは名古屋を目指す。しばらくすると、私たちは各々で自由に過ごし始める。凛は少し酒が入りながら、会社のチャットでやり取りをしながら、たまにペンタブをつかってデザインとかをしている。私は1冊の本を読みながら、また足をばたつかせていた。そういえば昔は私はこうして本をずっと読んでいた。家の中ではひたすらAVを眺めてるかしょーもない動画みてぼーっとしていたけど、私は本を読むのが
last updateLast Updated : 2026-09-11
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完璧弟と白衣の姉と 3話

名古屋駅から近鉄名古屋線に乗り換え、私たちは黙々と進む。時刻はお昼に差し掛かり、凛と私はとにかくお互い静かな時間を過ごしていた。研究を辞めてから、本なんて読む暇はなかった。とにかく時間がなくて仕方がなかった。たまに時間が空いても欲求が疼き男を招いては本能に身を任せるばかりだったのである意味新鮮だ。「姉ちゃん、ちょっといい?」パソコンで作業していた凛が急に私に聞き出す。「……どうしたの、難しい顔して。」「デザイン先方に出そうと思ってるのがあるんだけど……どうにも決まらなくてさ、どっちがいい?」いや大丈夫かこいつ。デザインなんて勉強したことがないから私に振られて困惑してしまう。溜息をつきながらふたつのデザインを眺めてみる。どうやら、飲食店の内装のイノベーションをやってるらしい。「左がA案で、右がB案ね!もし……若い女性をターゲットにするならどっちが刺さる?」「……私、アラサーなんだけど。」「いやいや!姉ちゃん……パッと見は若いからさ!」パッと見ってなんだと心の中で突っ込みながらふたつのカフェの内装を見つめる。A案は如何にも若い女性向きで可愛いインテリアを沢山揃えているのでごちゃごちゃしている。それに比べて、B案はシンプルで洗練されたインテリアを最小限に留め、観葉植物が映えるデザインだった。「……若いって、年代層は?どんなシチュエーションで楽しんで欲しい?」「んー、10代ではないんだよね。場所は二子玉川だからさ!」「……ってことは、私のように働いているOLとかその辺で、軽い女子会や若いママ友みたいな人を狙ってるってこと?」「そう!そうなんだよ!」凛のデザインと入る人物を当てはめる。そうなると、答えは一つだ。「……であればB案。その年齢の女性は同じ空間で楽しい話を分かち合えるかとか重要視する。A案だと可愛いけどごちゃごちゃして話に集中できないから、在り来りで印象が残りにくくなる……かな?」「おおー!さすが姉ちゃん!早速先方にメールだ!」「……え?」凛は私がとめるまでも無くすぐに私が良いと言ったデザインを私が言った通りに訴求文章にして取引先に送っていた。……おいおい、大丈夫か。しばらくすると、凛のパソコンがメッセージを受けたのか通知を鳴らすと凛はすぐに私に向けてグッドサインを送った。「へへん!採用!」「……いや
last updateLast Updated : 2026-09-11
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完璧弟と白衣の姉と 4話

凛は駅を降りると取引先の方へと進む。私は喫煙所でアイコスを吸っては煙の気持ちよさの余韻に浸っていた。なんというか、喫煙をしてると口が寂しくなるので完全に習慣になってしまっている。全く凛め……仕事とはいえこの私を1時間放置とは……。そう思いつつ、街並みをぼんやりと見つめる。ここら辺の地域になると妙に松阪牛の看板が沢山目に入るのだけど、金のない私にとっては圧にしか感じなかったのでその場をスルーする。お金が無いのは本当に惨めだ、好きなことに使えない。そんな私にとっては下心のある男ってお金をバンバン出してくれる貴重な存在だったりする。流石に、凛をほったらかしで男と遊ぶのは気が引けるから無いとして……あとはパチンコ?いやいや!流石に私脳内麻薬を欲しすぎている。私は少し悩んで、普段絡んでる同僚の宮島先生に電話をかけることにした。「もしもし?」「……あ、出た。」「何がよ!?珍しいわね!あんたから電話かけてくるなんて!」宮島先生は3コール目で出てくれた。この人はいい人だ。いつも私とくだらない時間を共有してくれている。ほかの先生とは馴染めない私にとっては宮島先生と松本先生は唯一の心の拠り所だった。「……今私はどこにいるでしょーか?」「急ね、んー女性向け風俗?」一体私をなんだと思ってるんだろう。「……ぶぶー。」「え?じゃあ……男とラブホとか?」「……宮島先生?普段私をどんな目で見てるの?」「いや、この間ランチ誘った時に男と遊んで遅刻したのはどこの誰だったかしら?」「……あの時はごめん。」この人もある意味私の理解者だった。私もそこそこ酷い扱いをしてるのに切ることなく接してくれるのはありがたかった。「いいわよ!そういえばクイズの途中だったわね!旅行とか行ってるの?」「……そう、三重県にいってこれから伊勢神宮行ってくる。」「あ!いいわね!私も誘ってくれたら行ったのに〜!」彼女は暇電にこんなにフランクに接してくれる。てっきり休みの日に電話なんかかけてくるなとか言いそうだったのに、こういう所が彼女のいい所でもある。「……ふっふっふ、先着がいてね。これからその人の金で松阪牛を食べるのだ。」「え?もしかして佐々木先生ついにパパ活に手を出したの?」「……いや、私よりも所得が高い弟に奢ってもらうの。」「恥を知りなさい!恥を!」その
last updateLast Updated : 2026-09-11
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