あれから私は、直人君の隣で読書をしている。同じ空の下でそれぞれの本を読んでいた。ルールがある、読書中は話しかけないことである。そして、私は授業を受けるのだが、次第にノートを取るよりも自分で教科書を読みといた方が実は効率的なんだと言うことに気がついた。参考書も決まった1冊を完璧に覚えればいいとなったので、どうやら直人君に会ってから私は変わったみたいだった。今、私は彼に勧められた「老人と海」を読んでいる。この作品は表現が細かく最初は読むのに抵抗を覚えたのだが、作者の表現がとても美しく海を母親のような、女性のようなものと捉える老人を……気がついたら愛おしいとさえ感じていた。たとえ、苦労した巨大なカジキを仕留める時も最早魚ではなく兄弟のように愛していたし、帰り道に沢山のサメに襲われても諦めないという……エピソードとしてはとてもシンプルなストーリーなのだが、これを見たあとの海は一際、美しく感じた。「読み終えたね、どうだった?」珍しく、笑顔だが無表情で何考えてるか分からない直人君は、ウキウキしてるように感じた。彼もまた、この作品の海のような人間のように感じた。「すっごく!面白かった!」そんな彼に小学生以下の感想を述べてしまう自分がいる。そうだ、私はこうやって素直で明るい人間だったというのも感じた。「でしょう、短くて読みやすいからねえ……これが読書の楽しささ。」「あなた、いつもこんなのばかり読んでるの?」「そうだね、小説も好きだし、自己啓発の本も読んだりする。」「あなた、いくつよ!あはは。」彼は16だと言うのに異様に大人びている。目が何かを見すえてるかのように、少し霞みがかっているのだ。そして、彼と空と海をみるのが……今の私にとって必要な時間だ。ふと、彼を意識してしまう。いつもは男なんてガキっぽいと思っていたのだが、彼は安心感があり、おおらかで、私では到底叶わない……そんな彼に惹かれて行ったのかもしれない。「ねえ、直人くん?」「どうしたんだい?」「……名前、呼んで欲しいな。」私は、いつも君と言われていたことにふと不満を感じていた。人ってきっと名前で呼ばれるのが好きなのかもしれない。犬だって自分の名前の時はピンと耳を立てるのだから、人間だって名前で呼ばれてみたいものだった。「……天野さん?」「えー!なんか、よそよそしい!」「
Last Updated : 2026-08-07 Read more