景都は私の向かいへ座った。「取引先の件は、もう動かさない」「もう、って」 私は灯のメッセージを開いたまま、スマートフォンをテーブルの中央へ滑らせた。 〈深見さん側から取引先リストについて確認された〉「ここまでやっておいて?」 景都は画面へ目を落とした。「広報同士をつないだ。取引先にも説明を入れた」「何社?」「今、まとめている」「誰が、何を言ったの」「真帆」 名前を呼ばれただけで、また待てと言われた気がした。「それ、うちにも送って」 景都の眉が寄る。「mellow noteには共有する」「会社だけじゃなくて」 喉まで出た言葉が、一度止まった。「……私にも。先に」 景都は答えなかった。 止めると言われても、どこまで進んでいるのか、私はまだ何も知らない。「見せて。全部」 景都の指が、伏せていた端末の縁へ触れた。「まだ整理できていない」「整理してからじゃなくていい」 声が少し大きくなる。「景都が何をしたのか、また後から知るのは……もう嫌」 キッチンでは、瀬名がカップを洗い続けていた。 水音が止まるまで、景都の返事はなかった。 昼前には、検索結果の一ページ目が別の景色になっていた。 昨日までの見出しが消え、番組公式と芸能事務所の告知が上へ上がっていた。記事を残した媒体も、見出しだけは穏当な言葉へ変えている。 灯が私の机へスマートフォンを置いた。媒体から届いた訂正通知が開かれている。送信時刻は午前二時四十八分だった。「これ、深見さん側が動かした訂正だよ」「見れば分かる」「分かってる顔じゃない。怒ってるのに助かってるから困ってる顔」 私は画面を伏せた。 企画室の電話は朝から減っていた。取引を保留した小売店からも〈予定どおり展開します〉と届き、後輩たちはサンプル棚の前で通常の打ち合わせへ戻ってい
Last Updated : 2026-08-05 Read more