All Chapters of 嫌いだった女が死んだ夜、元夫の愛が怖くなった ――もう一度、あなたを愛せるまで――: Chapter 11 - Chapter 12

12 Chapters

第11話 何をしたか、全部見せて

 景都は私の向かいへ座った。「取引先の件は、もう動かさない」「もう、って」 私は灯のメッセージを開いたまま、スマートフォンをテーブルの中央へ滑らせた。 〈深見さん側から取引先リストについて確認された〉「ここまでやっておいて?」 景都は画面へ目を落とした。「広報同士をつないだ。取引先にも説明を入れた」「何社?」「今、まとめている」「誰が、何を言ったの」「真帆」 名前を呼ばれただけで、また待てと言われた気がした。「それ、うちにも送って」 景都の眉が寄る。「mellow noteには共有する」「会社だけじゃなくて」 喉まで出た言葉が、一度止まった。「……私にも。先に」 景都は答えなかった。 止めると言われても、どこまで進んでいるのか、私はまだ何も知らない。「見せて。全部」 景都の指が、伏せていた端末の縁へ触れた。「まだ整理できていない」「整理してからじゃなくていい」 声が少し大きくなる。「景都が何をしたのか、また後から知るのは……もう嫌」 キッチンでは、瀬名がカップを洗い続けていた。 水音が止まるまで、景都の返事はなかった。 昼前には、検索結果の一ページ目が別の景色になっていた。 昨日までの見出しが消え、番組公式と芸能事務所の告知が上へ上がっていた。記事を残した媒体も、見出しだけは穏当な言葉へ変えている。 灯が私の机へスマートフォンを置いた。媒体から届いた訂正通知が開かれている。送信時刻は午前二時四十八分だった。「これ、深見さん側が動かした訂正だよ」「見れば分かる」「分かってる顔じゃない。怒ってるのに助かってるから困ってる顔」 私は画面を伏せた。 企画室の電話は朝から減っていた。取引を保留した小売店からも〈予定どおり展開します〉と届き、後輩たちはサンプル棚の前で通常の打ち合わせへ戻ってい
last updateLast Updated : 2026-08-05
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第12話 助かった。でも嫌

「時間がなかった。放置すれば、もっと広がってた」 窓の外で、撤収中の照明が一つずつ落ちた。景都の説明だけが明るい場所に残る。「うん」 景都が顔を上げた。「分かってる。だから、余計に嫌」 私は資料を指先で押し返した。紙は滑らず、テーブルの中央に残った。「何が」 一枚目の冒頭にある〈本人への事前確認を欠いた〉へ目を落とす。「この紙、今日初めて見た」「途中で伝えた」「景都の途中って、私にはもう終わった後だよ」 景都の口が開きかける。「次はどこまで――」「今、それを決めないで」 私は資料の端を押さえた。「今日は、新しく動かさないで。この報告は私にも送って」「会社への説明は」「私からする」 景都はタブレットを開いた。 タブレットの共有欄へ私のアドレスが加わった。数秒後、膝の上のスマートフォンが震え、同じ資料が届いた。 進行中の削除は止められない、と景都は言った。それでも新規の依頼は止めると続け、ボールペンを取った。 資料の余白へ、几帳面な字で〈新規停止〉と書き込む。 その上には、すでに〈完了〉と印字された媒体が並んでいた。消えた記事は戻らない。助かった結果も消えない。 私は資料を畳まず、そのまま席を立った。 ドアを開けた時、背後で紙を揃える音がした。景都は追ってこなかった。 炎上記事は、一つ消えると別の形で増えた。『水城真帆の元夫は、深見財閥の御曹司だった!?』 灯が見出しを読み上げ、露骨に顔をしかめる。「財閥って言い方、まだ使うんだ」 深見ホールディングスは上場していないため、外から全体像が見えにくい。その分、記事は古い言葉を好んで使った。 深見家。 結婚していた頃、その名前を意識しない日はなかった。金融、不動産、物流、医療関連。街で見かける会社名のどこかに、深見の資本が入っている。景都の祖父が広げ、父の代で持株会社へまとめた。 けれど景都自身は、大学を出ると家を離れた。家名で仕事を取ったと
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