景都は私の向かいへ座った。 「取引先の件は、もう動かさない」 「もうって、どこまでやったの」 灯から届いたメッセージを開き、スマートフォンをテーブルへ置いた。 〈深見さん側から取引先リストについて確認された〉 景都の視線が画面へ落ちる。 「広報同士をつないだ。何社かには説明も入れた」 「何社かって?」 「今、一覧にしてる」 「誰が連絡したの。何を話したの」 「真帆、順番に――」 「またそれ」 景都の口が閉じた。 私は画面を指で押した。 「灯は知ってる。取引先も知ってる。なのに、私は知らなかった」 「説明するつもりではいた」 「いつ?」 答えは返らなかった。 キッチンでは、瀬名がカップを洗っている。水音だけがやけに近かった。 「一覧、できてなくてもいいから送って」 「mellow noteには共有する」 「そうじゃなくて」 言ったあとで、自分でも何が違うのか分からなくなった。 スマートフォンを引き寄せる。画面には、灯の名前が残っている。 「……私にも言ってよ。あとからじゃなくて」 景都の指が、伏せていた端末へ触れた。 「じゃあ、今ある分を送る」 すぐにスマートフォンが震えた。 画面にはファイル名が表示されている。私は開かずに、景都を見た。 景都は何か言おうとして、結局、端末へ目を落とした。 流しに置かれたカップ同士が触れ、小さく鳴った。◇ 昼前には、検索結果の一ページ目が別の景色になっていた。記事が消え、残った媒体も見出しを変えている。 灯が訂正通知を開いたスマートフォンを机へ置いた。送信時刻は午前二時四十八分。 「深見さん側が動かしたやつ」 「見れば分かるでしょ」 「分かってる顔じゃない」 画面を伏せた。 企画室の電話は減り、取引を保留した小売店からも〈予定どおり展開します〉と届いている。仕事だけを見れば、ありがたかった。 昨日まで止まっていたサンプル確認も再開し、後輩たちは通常の声で工場と話している。景都のしたことが、数字だけなら正しかったと分かる。 LATTICEの法務だけでなく、深見家の顧問や広告代理店まで動いているらしい。景都は家を頼らない。けれど一度使えば、私には見えないところで多くの扉が開く。 スマートフォンが震えた。 『今日十九
Last Updated : 2026-08-05 Read more