最後にもう一度聞く。 彼女は鏡越しに私を見た。 「景都さんから聞いたんじゃないって言ったら、真帆さんは信じます?」 答えられなかった。 瀬名はベージュの一本だけを持って部屋を出た。メイク台には赤いリップが残り、照明の下で、使われるのを待つように立っていた。 景都が、次の撮影予定を組み直していた。 正確には、制作側へ変更案を出している。夜間撮影を減らす。私が会社へ移動する時間を確保する。炎上対応の取材は一か所へまとめる。 柊から渡された修正版には、赤字が何か所も入っていた。私の名前の横には〈負荷軽減〉と書かれている。文字だけを見れば、配慮だった。 資料を持ったまま共同生活棟を探すと、景都はリビングで電話をしていた。 「広告枠はそのままでいい。出演者の拘束だけ減らす」 こちらに気づき、指で一分待てと示す。 その仕草まで腹が立った。私の予定を先に変えておきながら、話す順番まで彼が決める。 電話が終わるのを待たず、修正版をテーブルへ置いた。紙の角が炭酸水の瓶へ当たり、小さな音を立てる。 「これ、私に聞かずに出したの?」 景都は赤字へ目を落とした。 「撮影負荷が高い。体調も崩したし、指も治ってない」 仕事はできると返すと、彼は〈できるかどうか〉とは別だと言いかけた。 「それ、本当に真帆さんが欲しいもの?」 後ろから瀬名の声がした。 冷蔵庫の前で炭酸水の蓋を開けている。瓶の中で気泡が一斉に立ち上がり、静かな部屋へ細かな音が広がった。 景都は横から入るなと低く言ったが、瀬名は気にせず、撮影を減らしてほしいと私が頼んだのか尋ねた。 資料の上では、夜間撮影が三回から一回へ減り、会社へ行く時間が確保されている。正直に言えば助かる。 けれど、助かる予定を誰かに先に決められることと、自分が望んだことは同じではない。 「……まだ、自分でも分からない」 瀬名は「ほら」と言いかけ、景都に名前を呼ばれて口を閉じた。代わりに、自分は撮影が増えたので追加報酬を求めたとだけ話した。 「欲しいもの、言わないと分からないので」 私に言われたくないと返すと、彼女は素直に頷いた。 「ですよね」 炭酸水を持って部屋を出る。廊下へ消えるまで、瓶の中では気泡が上がり続けていた。 景都は資料へ目を落とした。 「この変
Last Updated : 2026-08-09 Read more